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25.聞いてみましょう

 マリーを連れて、僕は裏通りを歩いている。

 昼食を取り、しばらく露店を回って買いものを楽しんだ後、アルドを宿へ”帰還(リターン)させた。

 マリーが露店を回るのに意外と積極的であったことにちょっと驚いた。多分、買いものとか自体はそんなに嫌いではないのだろう。ただ、人間が怖いだけで。

 …少なくとも、人間に迫害された記憶しかない今は。


 そして、裏通りに入って今に至る。


 で、夜の帳が降りる頃になっているのだが、未だに外にいるのは今頃になってふと思い出したのだ。

 そういえば昨日、布を買った店にマリーの服を店に行くって言ったなぁ〜、と。

 というわけで、裏通りを歩いている。マリーは1日中歩いて疲れているから、僕の背中だけどね。

 


 

 カラン…と扉についたベルが鳴る。


 中に入ると、やはり耳の辺りに魔力の溜まっているのが確認できる緑色の髪の女性が僕のほうを見て、目を輝かせる。



 「やっほ〜。来てあげたよ」

 「なんで上から目線なのかしら」

 「なんとなく?」

 「まぁいいわ。それがあなたが作ったものかしら?」

 「うん。マリー、ちょっと立てる?」

 「…ぅん」


 マリーは眠たげに目をこすりながら、僕の背中から降りて僕の横に立つ…というか、僕にもたれかかるようになる。

 やっぱり1日動いたから疲れているみたいだね。



 「マリーは疲れてるみたいだから早くしてね〜」

 「はいはい。へぇ…それ、本当にあなたが作ったの?」

 「うん。なんなら作るところでも見る?君なら見せてもいいよ…」

 「え?本当に?」

 「うん。ただし、その幻影解いてくれる?目にうるさくってたまらないんだ」


 耳の辺りの違和感はずっと見つめていると目にうるさい。鬱陶しくってしょうがない。実に目障りだ。



 「…あなたはあたしの敵かしら?」

 「時と場合による。今はマリーの敵じゃなければ僕は君の敵にはならないよ〜」

 「そう…わかったわ」


 そう言うと、緑色の髪の女性は幻影を解いた。

 そこにいるのはエルフではなく、アラクネ。耳を隠していると思っていたのは顔の横の近くにある目を隠すもので、今は額と目の横に目があり、合計で10の目がある。下半身にもかかっていたようだがカウンターに隠れて見えていなかったようだ。

 マリーが驚くかと思いきや、器用に僕に寄りかかって寝ていた。 



 「へぇ…アラクネか。赤糸族かな?」

 「え、ええ。よくわかったわね」

 「それはそうでしょ〜。だって、族なんて部類を作ったのは僕なん…おっと、なんでもない」


 元々、種族以外の部類は存在していなかったのだが、種族に加えて族という分類を作ったのは他でもない僕なのだ。作った種族の特徴とは特性はすべて記憶している。

 ちなみに赤糸族は尾から出る糸が赤く、火耐性の強いことが特性だよ。



 「で、どうやって作るのか見せてくれるのよね?」

 「うん。とりあえず、どこか部屋とかないの?」

 「こっちよ。ああ、その看板closeに変えてくれるかしら?」 

 「ほ〜い」

 

 僕はマリーを抱えて入り口まで歩いて看板を変え、そして緑色の女性の後を追いかける。

 カウンターとこちらを分けている上げ板をあげて向こうへ入り、布がしまってある場所と思われる場所に入る。そして、そこにある階段を登り、2階へ上がった。



 「ここなら大丈夫かしら?」

 「うん。大丈夫だよ」


 2回に上がると廊下があり、その一番奥にある部屋に案内された。その部屋は机とベッドとクローゼットのある部屋…宿屋の一室のようだった。おそらく客室として使っている部屋なのだろう。

 僕はマリーをそのベッドに寝かせ、着ているローブをかけてあげる。



 「『第一陣、起動』」


 魔力を少し通して、ローブのボタンの一つを起動した。今、内側…つまりマリーにかかっている側は程よく暖かくなっているはずだ。

 これは内部をちょうどいい温度にするもの。本来は極寒の地や灼熱の砂漠なんかで使うものだが、こうやって使えばいい掛け布団になる。



 「何をしたの?」

 「マリーが寒くないようにね〜」

 「…そう」

 「さて、じゃあ何を作ろうか?服?アクセサリー?靴?防具?武器?魔道具?」

 「あなた、いったいどれだけのものが作れるのよ…?」

 「ん〜。この世界に存在さえしてれば大体はできるよ。で、何がいい?指定しないなら、僕の好みで作るけど」

 「それより、あの腰のリボンもあなたが作ったのよね?」

 「うん、そうだよ〜。それがいい?残念ながら今はソーイングスパイダーの糸が残ってないんだけど」

 「いえ、そっちじゃないわ。そこに刻まれている魔法陣の方よ」

 「ああ〜。これはダメだよ?こんなものを僕の目につかないところで使われたら、ろくなことにならないからね。うっかり国が滅びましたなんて聞きたくないからね〜」


 ちょっと力を入れすぎた感はあるけど、僕のお気に入りの為だもの。しょうがない。



 「な、なんてもの作ってるのよ」

 「あ、口が滑った。いやぁ、忘れてくれる?」

 「無理に決まってるじゃないのよ」

 「だよね〜。ま、喋らなければいいよ〜。で、本当に何がいい?」

 「任せるわ。あなたが作っているものが見たいわ」

 「ふ〜ん。じゃあ、ちょっとこっちに来てくれる〜?」

 「何かしら?」


 シャカシャカと6本の足を動かして緑色の女性はこちらに近づく。

 僕はポーチからメジャーを取り出す。



 「君の服を作ってあげる。サイズ測るから動かないでね〜」

 「え?ちょっ…とっ…」

 

 まぁ、女性であるので色々と測るのに問題があるが、別に僕の本体が女の子である為そんなことで興奮するだとかは全くない。ああ、別に不能なわけではないからね。 



 「はい。いいよ」

 「はぁ…はぁ…ちょっと、あなた。いったい何を考えてるのよ。異性なのよ?少しぐらいは気を使いなさいよ」

 「うん、ごめんね〜。さて、じゃあ作るかな」

 「ちょっと!聞く気ないわよね?」

 「うん。ない」


 別にそんな些細なことに興味はない。

 この女性は僕のお気に入りであるわけでもなんでもないのだから、ね?



 「はぁ…で、何を作るのかしら?」

 「邪魔だから、端の方にいてね〜」

 「邪魔って…あなたねえ」

 「さて、始めようか」


 僕は椅子に腰掛け、テーブルに型紙用の紙とデザインを書き出すための紙を出す。

 シャーペンを取り出し、デザインを何ヶ所から細かに書き出す。

 今回作るのはフードスウェットだ。アラクネって通常の状態だと下半身…つまり蜘蛛の部分と、上半身の境目の部分がズボンとかがなくて寒いんじゃないかな〜?と思い、こんなものにしてみることにした。これならいつの時期でも着れるし、ワンピース丈なのでそんなに寒くないだろう。



 「さて。これでよし。『影人(シャドーマン)()多手(アームズ)』」


 僕の影から10本ほど腕が出てくる。

 ポーチから布などを取り出している間に、型紙用の紙を【念動力】で浮かせ、出していたペンを使ってその型紙に下書きをし、初めに出したハサミで型紙を切り始め、取り出した布を型紙に当てて【念動力】で固定する。型紙に固定した布を切り始め、切り終わった布をさらに取り出した針と糸を使って縫い始める。腕、前、後ろ、フード部分、ポケット部分…などなど、次々に腕がパーツを縫い合わせていき、それを【念動力】で繋ぎ合わせて固定する。

 1つ1つの工程を人が可能な速度を圧倒的に凌駕し行っているため、一般人からすればものすごい勢いで服が完成してゆく。僕はいつもこうやってるわけではないが、見せて欲しいのはきっとこういうことだろうと思い、技能を披露している。



 「はい。完成〜」

 「…す、すごい。すごいわ」

 「ははは〜。じゃ、ちょっと着てみてくれる〜?」

 「え、ええ。わかったわ」


 僕は出来上がったフードスウェットを緑の女性に渡す。

 女性はそれを着る。

 出来上がったそれは、全体は白い色の布、肩のあたりから上はライトグレーの布を使ったもの。その境目からは植物の蔦のような刺繍を施してある。

 ついでにせっかく作ったのが破れたりするのは癪なので、自動修復をつけてある。ただ、普通の素材に無理やり付与したので、余計なことをしたら陣は役割を果たさなくなる。


 

 「へぇ…これ、意外に着心地がいいわね」

 「以外にとは心外な。わざわざ肌に合わないと困ると思って、植物から作った布をチョイスしたんだ。着心地が悪いって言われたら僕しょげるよ〜?それ作るの結構大変だったんだからね」

 「そ、それはごめんなさい。でもすごいわね」

 「ふふん。で、サイズとかきついところとかはない〜?一応、伸び縮みしやすい布にしてあるんだけど」

 「ええ。大丈夫よ」

 「じゃあよかった〜。それはあげる。で、僕は帰っていい〜?あ、このまま泊まっていいならそうするけど。マリー寝ちゃったしさ」

 「構わないわよ。一晩ぐらい部屋を貸しても困りはしないわ」

 「ならよかった。じゃあお言葉に甘えとくね〜。『招集(コール)アルドグランテ』」


  僕の目の前にアルドが出てくる。



 「アルド。今日はここに泊まることになったからね」


 ガチャ…と頷く。



 「な、何⁉︎何が起きたの⁉︎」

 「ああ、ごめんね。これは僕の眷属、アルドグランテ。ほら、自己紹介」


 アルドは僕の前で緑の女性に恭しく跪いて一礼する。

 やっぱり根本的なところは騎士なのだろう。



 「そ、そう」

 「あ、そうそう。その服に付与魔法かけないでね?せっかくつけた付与が壊れるから」

 「付与?何よそれ…まさか、服に付与なんてしたっていうの?」

 「うん、そうだよ。無理やりにやったから変にいじると壊れるからやめてね?」

 「…もう何があっても驚かないわよ」

 「ははは〜。さて、今更なんだけど、君の名前は?」

 「え?ああ、名乗っていなかったかしら。あたしはテレーズよ。よろしく」

 「僕は…なんて名乗ればいいのかな?」


 僕はテレーズの伸ばした手を握り返そうと手を伸ばしかけてちょっと考える。

 ここでなんと名乗るべきだろうか?普通にシンと名乗っておけばいいのだろうか?それともネロと名乗るべきだろうか?



 「何を悩んでいるのかしら?」

 「いや、僕は色々と名前があるから、なんて名乗っておけばいいかな〜と」

 「よく使うものでよくないかしら?」

 「ま、そうだね。僕は今はネロだよ。よろしく」

 「ネロ、ね…」

 「あれ?何かに聞き覚えでもあった〜?それなら新しいのに変えておかないと」

 「いえ、そうじゃないわよ。普通に黒髪だったから勇者かと思ったのよ」

 「ああ〜。勇者の情報とかの収集のために潜伏してたのか〜。納得。一応勇者でもあるよ」

 「え?」


 テレーズがキョトン…とする。

 僕はアルドに部屋を守っておくように目線を送ると、テレーズを連れて部屋を出る。しばらくしゃべることになるだろう。うるさくしてマリーを起こしたくない。



 「いや、王城からは抜け出してきたけど、向こうの世界から来た人間っていうなら僕は一応そうだよ」

 「じゃあ、何か知ってたりは…?」

 「まずは君の方から話すべきだよね〜?何都合よく僕から情報だけ聞こうとしてるのさ〜」

 「そ、そうよね。ところで本当にあなたはあたしの敵じゃないのよね?」

 「今はね〜。僕のものに手を出すならその限りじゃないけど」

 「そう。とりあえず、あなたに敵対しなければいいのでしょ?」

 「うん。まぁそうだね〜」

 「ならいいわ。こっちで話しましょう」


 テレーズはシャカシャカと足を動かし、隣の部屋に入る。

 部屋の内装はさっきの部屋と全く同じのようだ。

 僕はベッドに腰掛ける。いまいちフカフカではないが、硬い椅子に長時間座るよりはマシだろう。

 きつくなったら、ポーチから何か取り出せばいい。



 「さ、どうぞ〜」

 「はいはい。まずはあたしが何者かよね?」

 「うん。ま、あらかた共和国のスパイでしょ?」

 「…あなた、本当に勇者なの?召喚されてそんなに時間は経っていないはずなのに」

 「はいはい〜。次に行こうね〜?」

 「え、ええ。それは後で話してもらうわ」


 そう言って、テレーズは話し始めた…


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