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24.働きましょう

 「お前!こんな時間に来て何を考えてんだ!」

 

 僕は管理棟へ行き、中に入ってそこにいたおじさんに板を手渡したところ、現在怒鳴られている。なんでだろう。前にもこんな風に怒られたような記憶があるね。

 外壁の掃除は、体に命綱をつけてちょうどビルの窓拭きのように人の手で行うのだが、これがまた結構な時間がかかる。昼食を挟んで、大体夕方の5時くらいに終わらせるのだ。

 現在は10時半で、マリーの歩幅に合わせて歩いていた結果、少し遅くなってしまったのはまぁ事実。

 でもさ、



 「うん。大丈夫だし、うるさいから怒鳴らないでくれる?マリーが怖がっちゃうじゃないか」

 「何が大丈夫だ!外壁の掃除舐めんなよ!」

 「いや、僕は魔法とかでやるから」


 僕はマリーの耳をふさぎながら、おじさんと会話する。



 「魔法だ?お前、剣持ってんだからそんなたいそうな魔法使えねぇんだろ?」

 「いや〜、僕はどっちかといえば魔法使いだよ。さ、僕の掃除する場所に案内よろしく」

 「チッ…早くきな」

 「はいよ〜」


 僕はマリーの耳を塞いでいたのをやめ、おじさんについてく。

 マリーに合わせて歩いていたので、おじさんにまた遅いと怒鳴られたけどね。


 管理棟の横の階段を登り、外壁の上に上がる。外壁は地上5mくらいの高さであり意外に高いのだが、マリーはあまり怖がっていない。どうやら高いところは大丈夫のようだ。



 「この印から、そっちの印までがお前の範囲だ。掃除用具はそこにしまってあるから勝手に使え。終わったら管理棟まで来い。いいな?」

 「はいはい〜。さ、始めようか」


 僕は指差された場所に向かい、外壁に埋め込まれたように作られたロッカーを開き、中を覗く。



 「ふむ。デッキブラシみたいな物かな?」


 そこに入っていたのは、船の甲板を掃除する時に使うような掃除用具と巻いてあるロープ。ロープの端はその中に固定されているようで、これをそのまま命綱にするようだ。


 僕はその掃除用具をそこに入っているだけ取り出し、外壁の僕の範囲に向かう。

 範囲は、外壁5mを幅4mくらいに渡っての内部だ。ランクが高いが、外側の仕事もある。

 普通にやればかなり疲れる仕事なので、こんな依頼を受ける冒険者なんてと思いはしない。すでに僕の指定された範囲の横には数名の冒険者が命綱を腰にしっかりと結びつけて掃除を開始している。この依頼は結構実入りがよく、辛いがそれに見合った報酬がしっかりと払われるいい依頼なのだ。

 ま、今までに受けたことはないが、昔王都のギルドで受付嬢が登録したてで体力がありそうな冒険者に勧めていたのを見たことがある。



 「…おにぃちゃん。どうするの?」

 「ははは〜。面白い物見せてあげるよ」

 

 僕は外壁のギリギリに立ち、地面に置いてある14個のデッキブラシのような掃除用具に手を触れていく。


 そして、僕は外へにの内側に向けて足を踏み出す。

 マリーが、あっ…と僕に手を伸ばすが、その時はすでに遅い。

 僕の足は空中にしっかりと立っている。



 「…うぅぅ」

 「ああ、大丈夫だから泣かないで?これは僕のスキルでね」

 「…ぅん」

 「ごめんね?驚かせて。大丈夫、僕はどう頑張っても死なないからさ〜」

 「…うん」

 「さて。マリーもおいで〜。マリーも立てるよ」


 マリーは僕の伸ばした手をとると、恐る恐る空中に足を踏み出す。

 …いや、よくやろうと思えたね。それほどに僕の信用してるのかな?それともそこで1人になるのが絶対に嫌だったとか?単純に楽しそうとか思ったの?


 マリーの足は宙を踏む。

 こっちは僕の魔法だ。【天歩】はスキル保持者にしか効果のないスキルだしね。普通に風魔法で人が踏んでも問題ない硬度まで空気を固めただだけ。



 「どう?」

 「…大丈夫、なの?」

 「うん。楽しい?」

 「…ちょっとこわいかも、なの」

 「そっか。じゃあ、やめて別の方法にしようか?」

 「…ううん。でもたのしいの」

 「ははは〜。じゃあよかった。さ、掃除を始めるよ」


 僕はマリーと繋いでいない方の手を顔の前まで上げ、指を指揮をするかのように動かす。

 掃除用具たちは僕が指を動かした瞬間に宙に浮き、僕の目の前まで飛んでくる。

 さっき手を触れたのは【念動力】を使用するための必要事項なのだ。一度触れたものであれば、いつでもいつまででも自由に動かせる。


 というか僕がこれを取ったのは、元々【武器創造】で作った武器を大量に使って戦えばいいと思ってのことだったんだけど、最近になって以外と使い勝手がいいということに気づいたのだ。

 夜中にマリーの服を作っていた時も、半分は影人(シャドーマン)でやってたけど、残りの半分はこっちでやってたぐらいだ。これには一応弱点があって、細かすぎるものはうごかせないので掃除とか裁縫自体を影人(シャドーマン)でやって、布を持ってきたり針や糸を切ったりするのをこっちでやってた。


 僕は階段のように空中を下へ降りながら、外壁を【念動力】で動かす掃除用具で掃除していく。

 マリーはそれに興味を持ったのか、それらをじっと眺めながら僕に手を引かれて下へ下へと降りていく。

 


 掃除用具たちは壁をすごいスピードで駆け回り、僕の範囲の苔むした外壁がどんどん元々の茶色に戻っていく。

 隣で掃除している冒険者たちがその異様な光景に呆然と僕の方を向いている。



 「マリー、見てよあれ。変な顔〜。ははは〜」

 「…うん。へんな顔、なの」


 マリーはそれを見て、ちょっぴり笑う。

 よかった。ちょっぴりとでも笑えて。このまま、普通に笑っていられるようになるまであとどれくらい時間がかかるのかな?


 うむ。苛立ちを八つ当たりできる対象がいない。


 マリーが一生懸命に掃除用具たちを目で追っているうちに、地面に到着した。

 経過時間、15分。


 いやぁ、楽な仕事っていいよね。これで銀貨2枚と銅貨50枚…つまり2万5千円だよ。

 とってもおいしい。


 【念動力】の操作にも慣れたので、掃除用具たちをさっきよりも早い速度で上に掃除させながら戻し、僕はマリーを連れ管理棟へ向かう。


 プレハブのような適当に建てられた感満載の建物…管理棟へ向かって歩くこと2分と少し。

 管理棟に入ると、依頼を受けに来た時と同じようにおじさんが椅子に座ってタバコのような物を吹かしている。



 「なんだ。もう諦めたのか?」

 「いや〜。終わったよ」

 「そうかい、じゃあさっさと…は?終わっただと?」

 「うん。なんなら見に行くかい?」

 「当然だ。んなふざけたことがあるわけねぇだろうが」


 おじさんはどたばたと椅子から立ち上がって、僕の範囲の真下に向かう。

 僕はマリーと一緒にゆっくりそのあとを追いかける。

 おじさんが上を向いてポカーンとしているのが遠くから見えている。



 「面白いおじさんだね〜」

 「…?」

 「ははは〜。感情豊かだと思ってね〜」

 「…うん」


 僕はちょっと微笑むと、向こうで何かを叫んでいるおじさんのところへ向かう。





 「おいおい…こりゃ、なんの冗談だ」

 「何が〜?」

 「だから、何があったらこんなに早く掃除が終わるのかを聞いてんだよ!」

 「普通に〜」

 「普通にやったらああなってるんだよ!」


 おじさんは未だせっせと掃除を続けている冒険者たちを指差す。それを見た後、マリーの手がそんなに強く僕の手を握っていなかったので気になってマリーを見てみると、マリーが僕の後ろに隠れているが、ちょっと興味ありげにおじさんを観察していたのが見えた。



 「はぁ…だから言ったじゃん。僕は魔法とかでやるって」

 「魔法とかだ?じゃあ今ここで見せて見やがれ!お前、幻影かなんかで終わったように見せてるだけじゃねぇだろうな?その狐でも使ってよぉ」

 「いや、当然違うよ〜。こうやってだよ」


 僕は地面にある石ころに触れ、動かす。

 石ころは宙に浮き、ヒュンヒュンとおじさんの目の前を飛び回り、僕の手に収まる。



 「な、なんだよ…そりゃあ」

 「【念動力】ってスキル。聞いたことない?」

 「あ、ある。前にたまたま手に入れたやつが使えねぇと愚痴ってた。だがそりゃあ、使い道のねぇ不遇スキルだったはずだろ?それを…」

 「うん。普通は…ね?」

 「そこから先は秘密だってか?」

 「そ。で、これでいい?」

 「…チッ。まぁいい。管理棟まで来な」

 「ほ〜い」


 僕はおじさんの後を追う。

 おじさんは、僕らがゆっくり歩いているのを全く気にせずさっさと歩いて行き、管理棟へ入った。

 僕はマリーと手をつないで、のろのろと歩いて行く。

 のろのろと歩いて行く。 

 のろのろと歩いて行く。

 のろのろと…「さっさと来ねぇか!」

 あ、怒られた。


 僕らがいつまでもこないので、おじさんが管理棟から出て僕らのほうを見て怒鳴るのが見える。

 仕方がないので僕はマリーをちょっと急かして管理棟に入る。



 「よし、やっと来たな」

 「やっと来たよ〜」

 「知ってるわ。で、依頼の確認書だ。もってけ」

 「うん。ありがと〜」

 「…はぁ。ま、また受けてくれることを期待しておく。お前がやったところは意外に綺麗になっていたしな」

 「じゃ、また機会があったらね〜」


 僕は管理棟でおじさんから封筒を受け取ると、それをポーチにしまってギルドへ帰る。



 「マリー。今日のお昼は何が食べたい?」

 「…わからない、の」

 「うん。じゃあ、また適当に探すよ」


 ギルドに向かいながら、通りの右左を眺めてマリーでも食べれそうな料理を出す店を探す。

 ”ビッキーズ亭””まんぷく食堂””アンクラント亭””フランスワンス洋食屋””ヘビーミート料理店”…その他いろいろ。料理屋はその店の店主とかの名前をつける所が多いようだ。


 中から匂ってくる食べ物の匂いを嗅ぎ分け、マリーが食べられそうな店を探す。

 僕の体は五感をいじるのは簡単なのだ。その気になれば世界の反対側の物の匂いも嗅ぎ分けられるよ。まぁ、途中のいろんな匂いを嗅ぎたくないからやらないけど。


 マリーを連れて僕はギルドへ帰る。






 カランカラン…と、扉を鳴らして僕はギルドへ入る。


 中には受付嬢が暇しているだけで、冒険者の姿はない。

 僕の姿を見るなり、ギルドが機能し直す。冒険者の前でそんなだらしのないのは許されないようだ。


 僕はマリーを連れ、受付に向かう。



 「ようこそ冒険者ギルドへ。追い返されてしまいましたか?」

 「いや〜。これ」


 僕は受付嬢におじさんにもらった紙とギルドカードを渡す。



 「えっ?完了したんですか?」

 「うん。だから貰ってきたんでしょ」

 「え、ええ。まぁ」

 「じゃ、早よ〜」

 「は、はい…ええ。はい」


 受付嬢は苦笑いをその顔に浮かべながら手続きを始めた。

 おじさんにもらった書類を読み、何かを書いて、ギルドカードを読み込ませる魔道具に通し、ギルドカードを取り出し、バル貨を数えてトレーに乗せて僕のほうへ差し出す。



 「依頼達成お疲れ様でした。報酬の260Bです」

 「ん?10B多くない?」

 「いえ、それであっていますよ」

 「ふ〜ん。ま、いいや。じゃ、ありがとね〜」

 「またのお越しを」


 受付嬢の声を聞くと、僕はマリーを連れて外へ出る。

 昼食を取りに行くのだ。今は11時を少し過ぎたくらい。今の内ならまだ冒険者とか商人とか住人とかが昼食をとるには少し早い時間帯だ。面倒なことにならないように今の内に昼食を取っておくのだ。



 「マリー、お腹は空いた?」

 「…ううん」

 「そっか。じゃあ、その辺の露店でも回って何か食べ物探そっか」


 そろそろ昼食に来る冒険者とかのために食べ物系の露店が仕事の準備を始めるだろう。

 何せ稼ぎどきなんだからね。

 

 僕はマリーを連れて大通りの方へ向かう。

 大通りは行き来する商人や住人でそこそこに混み合っている。マリーを連れている時は、人通りの少ない時か裏通りを通るようにしていたので、ちょっと面倒だ。これで何かがあったら…



 「マリー、ちょっとアルドを呼ぶから驚かないでね〜?」

 「…あるど?」

 「そ。部屋にいたでしょ?銀色の鎧の人」

 「…うん」

 「あれは僕の眷属なんだ。だから、驚かなくてもいいよ。マリーの味方だから」

 「…わかったの」

 「よし。いい子だね。『招集(コール)アルドグランテ』」


 僕の目の前に赤い魔法陣が浮かび、その中からアルドが出てくる。部屋にいたところを突然呼び寄せたせいか、ちょっと剣を構えて警戒していたが、僕を見て周りを見て剣を下ろして背中にしまう。



 「アルド。周りの警戒よろしくね〜」


 ガチャ…と音がする。

 マリーがじっと見つけているのをむず痒そうにしているしているのが、ちょっとほのぼのする。



 「さ、行こうか〜」


 僕は大通りを歩き出した…



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