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23.登録しておきましょう

 「おはよう。マリー」


 僕は、目を覚ましぼんやりしてるマリーに声をかけた。

 


 「…う…んぅ」

 「ははは〜。顔を洗っておいで」

 「………どこ?」

 「洗面台。昨日シャワールームの横にあったでしょ?」

 「……」


 マリーは無言で頷き、シャワールーム横にある洗面台へと向かう。

 


 「あ、届かないよね〜」


 僕はそれを目で追ってて気がついた。

 そういえばシャワーの陣に手が届かなかったのに、洗面台に届くわけがない。

 僕は今座っている椅子を持って行き、その上に乗せて顔を洗わせる。持っていたタオルを渡して顔を拭かせて、元の部屋に戻る。

 顔を洗って目が覚めたのか、寝ぼけていた表情はすでにない。



 「おはよう。目は覚めた?」

 「…ぅん」

 「そか。じゃ、着替えて朝ごはんを食べに行こう」

 「…うん」

 「昨日体の大きさ測ったでしょ?それを元に服を作ったんだ〜。どう?」


 僕はテーブルの上に畳んで置いてある服を見せるため、マリーを椅子の上に乗せた。

 マリーは椅子の上に乗りそれらを見ると、不安そうに僕の表情を伺う。

 なんだろ?もらっていいのか的なやつかな?



 「…これ?」

 「うん。着物をモチーフに、この世界っぽくまとめてみた。どう?」

 「…どうやって着るの?」

 「普通に〜。作り自体はワンピースとかとほとんど同じだから」

 「…わかったの」


 マリーは近くにあったまとまりを1つ持つと、椅子から降りた。

 そして、ベッドの上で着替え始める。

 僕は椅子に座ってテーブルに置いてある服を作った布の余りを整理する。紫や白や黒や…と様々な布の切れ端が散乱している。幾つもの手を同時に動かしていたせいであっちこっちに散っていたのをかろうじて集めはしたのだが、結構な量があったせいで未だに片付けきっていなかったのだ。針やハサミをポーチにしまい、布切れをまだ使えるものもポーチに。で、使い道のなさそうなものは風魔法で切り刻んで人の目に映らないレベルまで小さくして外へポイ。



 「…おわったの。…おにぃちゃん?」

 「ん?あ、おお〜」


 僕が全部を片付け終わったところで、マリーが僕を呼ぶ。

 後ろを振り向いてマリーのほうを見れば、僕の作った服に身を包んだ美少女がいた。

 真っ白い髪と尾。それと反して黒を基調としたスカート、白いコートを着ている。そして、未だにベッドの上に布が一枚残っている。

 

 

 「…これは?」

 「それはねっ。よいしょ」


 僕は椅子から立ち上がり、マリーの横に置いてある紫の布…リボンを手に取り、マリーの腰のあたりで結ぶ。このリボンが一番重要なのである。このリボンは普通の布ではないのだ。魔石を粉末にしたものを混ぜて作ったソーイングスパイダーの糸を使って作った布をリボンに加工し、それに大量の陣を書き込んである物なのだから。これを結んで初めてこの服は完成するのだ。

 そして、脱いだ僕の服をポーチへしまいこむ。



 「大丈夫?苦しくない?」

 「…うん」

 「よし。じゃ、ちょっと待ってね〜」


 僕はポーチの中から、全身が写せるくらいの大きい鏡を取り出す。

 マリーの目の前にそれを置くと、マリーはその鏡の前に立ち、そして見入るように動かなくなった。



 「…わ、たし?」

 「うん。かわいいでしょ?よく似合ってるよ〜」

 「…う…ん。あ、りがと」

 「お?うん。気に入ってくれたようで何よりだよ。さ、朝ごはん食べに行こうか」

 

 マリーは僕が見た限りでは初めてであろう笑顔を僕に向け、僕のローブを掴む。



 「アルド。部屋をよろしくね」


 ガチャ…と音がした。

 僕はそれを聞くとマリーの手をローブから離させ、僕はマリーと手をつないで部屋を出て鍵を閉める。

 一瞬戸惑ったように手が震えたが、僕の手を恐る恐る握り返してきた。


 まだマリーには休息が必要だろう。朝食を食べたらギルドに行って何か仕事してお金稼いだほうがいいよね。まだまだお金はあるにしても、マリーがいるんだ。僕が娯楽に使う分がなくなるのはいささか困る。生活費ぐらいはちゃんと稼いでおこう。

 ああ、そうだ。マリーの登録もしないと。


 僕はマリーを連れて1階に降りると、宿の食堂に入る。

 もう朝になって結構な時間が経っているので、食堂には1人2人ぐらいしか人がいなかった。


 僕らは入り口から少しした場所の席に座り、朝食が運ばれてくるのを待つ。



 「お待たせしました。本日の朝食となります」

 「うん。ありがと」


 ここの宿は嫌いじゃない。マリーを見てちょっと嫌そうな顔を向けるが、ちゃんと朝食は運んでくるし、嫌がらせもしてこない。

 僕は運ばれてきたスープとパンとちょっとしたサラダを食べ始め、マリーも同じように食べ始めた。

 時折僕のほうを見るのは不安から来るものなのだろうか?



 「どう?美味しい?」

 「…うん」

 「そっか。よかった」


 僕とマリーはゆっくりと朝食を楽しむ。



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 朝食を食べ終わり、しばらく。

 僕は宿の受付で宿泊日数を1月分ほど伸ばし、ギルドへ向かった。


 まぁ、戦争が始まるまで…というか召喚した奴らが使い物になるまでは2,3ヶ月くらいはかかるだろうし、最悪はグリフォンとかでも呼び出していけばいいだろう。

 今はとりあえずマリーの体調が良くなるまではこの街で休むとしよう。


 マリーと手をつなぎ、ギルドに向かって歩く。



 「大丈夫?疲れてない?」

 「…うん」

 「そっか」


 できる限り、一般的な子供ぐらいまで体力をつけておきたい。今の状態じゃ、走ったら息切れするし、そこそこの距離を歩くだけでで疲れてしまうだろう。

 ステータスの体力値とこれは別問題なのだ。ステータスがいくら高くても、体がそれに追いつけていなければどうにもならない。マリーにはちょっと大変かもしれないが、できるだけ歩いたり走ったりしてもらう。まぁ、歩幅とかはちゃんと合わせるし、限界だったら僕がおぶって行くけどね。

 …これって過保護っていうのかな?でも鈴にも昔からこんな感じだったし…ま、いっか。僕が気に入った物を大切にするのはいつものことだし。

 

 しばらく歩き、ギルドに着く。

 今は9時過ぎであり、ほとんどの冒険者はすでに依頼や魔物狩りに出ているので、ギルドにはほぼ人がいない。

 僕はマリーを連れて受付に行く。受付を見る限りだと昨日アルドの登録に来た時の人は今はいないようだ。臨時でやってたりしたのかな?



 「ようこそ。冒険者ギルドへ」

 「うわぁ、棒読み。ま、いいや。冒険者が獣人連れてたりするのは普通だろうに」

 「奴隷印がありませんので、異教徒かと」

 「うん。異教徒だね。で、新規登録したいんだけど」


 僕がそれを肯定すると、受付嬢だけでなくカウンターの向こうにいたギルドの職員やまだギルドにいた冒険者がギョッとした目で僕を見る。

 何さ。他の国からすれば君らが異常なんだよ?

 マリーが僕の手を強く握ったのを感じる。手が震えている。



 「…これに」

 「はいはい〜。と、そんな目でマリーを見ないでくれる?ギルド沈めるよ?」

 

 僕は受付嬢から登録用紙をひったくり、マリーを連れて近くの椅子に座ってポーチからペンを取り出して登録用紙に記入を始める。

 周囲にいた人がさっきより強い目線をマリーにではなく、僕に向けてきたので良しとしよう。素行の悪い奴が入ってきたと思ったのかな?



 「マリー、戦ったりとかできる?」

 「…ううん」

 「だよね。ああ、別に責めてるわけじゃないから安心してね」

 「…うん」

 「じゃ、名前と職業と種族だけ埋めればいっか」


 さらさらと紙に記入を終え、その紙を受付に持っていく。

 さっきの受付に持っていくと、受付嬢は嫌々その紙を受け取る。なんか悔しそうな顔してるのは放置でいいよね。



 「…っ!それの登録ですか?」

 「うん。嫌とは言わせないよ?言ったら本当にギルド沈めるからね?」

 「登録料200Bです」

 「ん?登録は一律20Bだったはずだよ?あれ?僕は普通だったし…600年もあったら変わるかな?やっぱりギルドを潰した方が良かったのかな?ああ、パーティ登録もよろしくね〜。パーティ名は…”純白”で」


 僕はすっかり忘れていたので、ギルドカードを提出する。パーティ登録しないとマリーのランクが上がらないからね。



 「…20Bです」

 「そうだよね〜。うん。変わるわけないよね」


 僕は顔が完全に引き攣っている受付嬢に20Bを手渡すと、にっこりと微笑んでやった。

 ギルドランクBBとは、一級手前のランクではあるが絶対に一般人では対処できないレベルの戦闘技能を持つ者。パーティを連れていないことから、僕が1人でここまでランクを上げたと考えたのだろう。ま、普通に考えればに十分に異常なんだからしょうがないか。1人でランクを上げるのならそのランクより1つ上のランクの冒険者パーティの人と同じ、またはそれ以上の技能を持っているということに等しいのだから。



 「で、では、カードが出来ましたらお呼びします」

 「うん。早くね?」

 「は、はい」

 「ああ、説明はいらないからね」


 僕はマリーを連れて、近くの椅子に座る。

 マリーの手は相変わらず震え、さらに僕の手を強く握っているが、それをちょっと離させて僕の膝にマリーを乗せ、マリーの前に僕の手を回す。マリーはその手を握る。やっぱり怖いのかな?でも、【修正】が消えたら今までの記憶が一気に戻ってくるのだ。少しずつくらいは慣れてほしいかな。



 「大丈夫。ここにマリーに手を出す人はいないよ。大丈夫」

 「…ほんとう?」

 「うん。大丈夫。大丈夫だよ」


 膝に伝わり続けていた震えが少しマシになる。

 僕は空いている方の手でマリーの頭を優しく撫でる。

 僕のマリーに手を出させはしないよ。というか手を出そうとしたら魂ごと完全に消滅(・・)させるから。







 僕がしばらくそうしていると、受付から声が聞こえた。



 「ネロ様。マリー様のカードが出来ました」


 相変わらずの棒読みは気にしないであげよう。

 僕は受付に行く。



 「カードをお返しします」

 「うん。ちゃんとパーティ登録もしてあるみたいだね」

 「こちらがマリー様のカードです」

 「うん。じゃ、適当に依頼受けるかな〜」


 僕はカードをさっさと受け取ると、その内容にさっと目を通してポーチにしまった。

 マリーは僕の手を握ったまま不安げにこちらを見ているが、僕がマリーの方を見て微笑んであげると不安げな表情が少しマシになる。

 受付嬢がすごく不満げな表情を僕に向けているが、やっぱり放置でいいよね。


 僕は依頼の貼ってある板に向かう。

 いきなり外で魔物を狩りに行くのはマリーの体力的に辛いので、近場でできる依頼を探す。


 Fランク、街の掃除 Eランク、薬草収集 Fランク、雑草処理 Fランク、外壁の掃除 Eランク、職人街の外壁修理 Dランク、ホーンラビットの……


 うん。外壁の掃除だな。


 僕は外壁の掃除をボードから取り、受付に持っていく。


 

 「これお願い〜」

 「Fランク、外壁の掃除ですか…」


 さっきの受付嬢は嫌だったので、別の受付嬢のところへ行く。この時間でそんな時間のかかる依頼を受けたことに不審に思ったのだろう。ちょっと怪訝な目を僕に向けている。

 でもこっちの方がいいね。マリーに向けてそんなに嫌そうな目線を向けない。この国の人は過剰なまでに人間以外を嫌がるのと、そこそこ嫌な顔をするだけの人がいるけど、この人は後者のようだ。これからはこの人のところで依頼を受けることにしよう。



 「うん。別に時間はかからないから気にしなくていいよ」

 「は、はぁ…では、カードの提出をお願いします」

 「はいよ〜」

 「ありがとうございます。ではこちらを持って、外壁西側の管理棟ヘお願いします」

 

 僕はギルドカードと木の板に依頼とかが書かれたものを受け取ると、歩き出す。

 西側の管理棟ね。ギルドを出てからまっすぐに左側に向かえばいいかな。


 マリーに手を引かれる。



 「どうしたの?」

 「……うぅ」

 「あ、うん。わかったちょっとおいで」


 マリーが内股を擦っていたので、トイレに行きたいのであろう。

 まぁ、これから長いし今のうちに行っておいた方がいいよね。僕の体のそんな機能はとうの昔に無くなったものだったので、すっかり忘れてたよ。

 僕はマリーを連れて、受付に戻る。



 「ねぇ、トイレってどこ?」

 「え、ええとそちらの奥です」

 「ありがとね〜」


 僕は受付嬢が指差した階段の方へ歩いて行くと、その横にトイレを意味する看板が矢印とともに置いてあったので、その指示に従って地下に降りるとすぐ横にトイレがあった。



 「マリー。行っておいで」

 「…う、ん」

 「僕はここにいるからね」


 マリーは急いで扉の向こうへ入っていく。

 そういえばこの世界のトイレってどうなってるんだろう?僕が最後に使った時は洋式トイレとほぼ同じ作りだったけど、流れる先とかってどうなんだろう?昔のヨーロッパとかは地下が整備されてなくて町中が酷い匂いだったとか言われてるけど、この世界はそうでもないしな…

 

 僕が思考の海へ沈みかけたところでマリーが扉から出てきた。

 僕はマリーの服装を整えると、マリーの手を取って歩き出す。

 階段を上ってギルドを出て、西側の管理棟へ向かう…



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