18.作りましょう
『では、最後の商品”魔号ガントレット”は203番の方が落札です』
係員が203番の席の人物に札を持ってくる。
この札を後で商品と交換してもらうのだ。
『これにて、バドプール・リバティー・オークションを終了させていただきます!どうでしょう、楽しんでいただけましたか?皆様のまたのお越しをお待ちしております!ああ、落札された方は入って北側出入口へお越しください。そこでお代金と商品を交換させていただきますので。では、失礼』
司会者はそれだけ言うと、ステージから退場していった。
そして、客たちもパラパラと会場から出て行き始める。僕も立ち上がって北側の出入り口へ向かう。
ここには出入り口が南側にしか存在しない。じゃあ北側はなんなのかというと、客用ではなく商品用だ。そこから商品を運び入れるのだ。そこで商品と代金とを交換するのだ。実に効率的なことである。
「落札なされた方ですね。番号札と通し札の提示をお願いします」
僕が北の出入口に着くとそこには数十人の客がいた。
パンフレットの情報によれば、それぞれに1人ずつ係員がついて部屋へ案内しているらしい。
僕は僕に話しかけてきた女性の係員に4枚の札を見せる。
「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」
僕は係員について歩いていく。北側の出入口から出ると、すぐ目の前にプレハブ小屋のような建物が大量に設置してあり、僕以外の客も案内されてそこへ入って行っている。その建物の近くには大量に警備員のように騎士が立っている。まぁ十中八九警備をしているのだろうが、異常なくらいまでに厳重だ。商品の値が値なだけあって、異様な数の騎士が北の出入り口の周囲に立っている。
僕は係員に案内されて、1つの部屋に入る。
部屋のなかは意外に綺麗だった。
結構高級な魔道具の光源、赤茶色に塗装された艶のある壁、その中で異質な存在感を醸し出している真っ白い机と椅子…バランス悪いね。もっとシックなカラーの机とか椅子はなかったのかな?それだけで部屋の空気を台無しにしてるよ。
そんなことを思いつつ僕は促されて椅子に腰掛けた。
「では、ただいま商品を運んで参りますので少々お待ちください」
「はいよ〜」
係員は気品ある歩き方で部屋を出て行く。
ああ、そういえばなんだけど、奴隷は奴隷契約魔法によって契約した場合、首元に印…奴隷印が出る。僕が作ったオリジナルはないんだけど、公の場で間違いが起こると面倒だから印が浮かび上がるように作った。ちなみにその印の模様は契約者によって異なり、同じ契約者の奴隷は全員同じ模様になるようになっている。
で、今の係員にもそれがあったので、係員は奴隷のようだ。
なんでそんなことを考えているのかというと、その印を持つ奴隷がこの会場内に大量にいたからだ。全く同じ奴隷印だったので、かなり大量の奴隷を召し使えるような人がこのオークションをやっていると思われる。いやぁ、すごいね。僕が貴族やってたときだって、そこまで多くの奴隷はいなかったよ。ちょっと驚愕だね。僕だってあの頃は国で一番多くの奴隷を持つ貴族だったのに、それよりも多いってことは公爵くらいの位を持ってるんじゃないかな?
「お待たせいたしました」
「お。早いね〜」
「いえ、お客様をお待たせするなんてとんでもないことですから」
「ははは〜。それもそっか」
「ええ」
いや、でも僕が落札した物をものの数分で準備するのはすごいと思うよ。なにせ係員の後ろから来ているかなり肉体の頑丈そうな奴隷が運ばないと、運べないような物を買っているのだからね。
そんな大男2人でやっと運んでいるほどに異様に巨大で重量のありそうなタワーシールド。巨人族サイズ…身長3m半くらいある全身鎧と2mちょっとある大剣のセット。AAランクの魔石2つ。
「失礼します」
大男6人が僕が落札した物を部屋に運びきると、そう言って持ってきた商品のすぐそばの壁の近くで跪いて待機する。
「では、確認いたします。”狂鳴の大盾”、”巨人アルドグランテの騎士鎧と剣”、”AAランク相当の魔石”を2つでよろしかったでしょうか?」
「うん。それであってるよ〜」
「では、代金46700Bとなります」
「はいよ〜。ちょっと待って〜」
僕はポーチに手を突っ込み、金貨4枚と銀貨67枚を取り出す。自分でわざわざ確認しなくていいのでとても楽だ。
僕はそれを机の上に乗せられたトレーの上に乗せる。係員の女性はそれをカチャカチャと数えていき、確かめ終わるとこちらに向き直った。
「確かに受け取りました。では、商品なのですが…どういたしましょうか?馬車などを控えさせていらっしゃるのでしたらそちらまでお運びいたしますが」
係員は商品を僕に受け取らせようとして、商品の大きさと重さを思い出してそう聞いてきた。
ちなみにどうしようかはもう決まっているのだ。
というより、魔石をセットで買ったあたり想像がつくだろう。
「ここでいいよ〜」
「え、ええと。迎えの方がいらっしゃるのしょうか?それならば、我々もここで待機しますので」
「いや、僕は1人だよ〜」
「ま、まさかこれをお独りで運ぶのですか⁉︎い、いくらなんでもそれは…」
「違うよ〜。ま、見てなって」
「は、はぁ」
僕は鎧に近づく。
大男たちが僕を奇妙なものを見るような目で見ている。
「あ、そこの魔石2つくれる〜?」
「は、はい!ただいま」
僕は魔石を持ってきた男に声をかけ、男は鎧の目の前に立つ僕に上質な袋に入れられたそれを差し出す。
「ありがとね〜」
「もったいないお言葉…」
「代わりに面白いもの見せてあげるよ」
「…へ?」
「さ、いくよ…まずは『風道」
僕は鎧のそばにに魔石を置き、そこを中心に風魔法を使って円を描く。
「お、お客様!ここで暴れるのは!」
「違うよ〜。別に持って帰るための準備なんだから、邪魔しないでくれる?」
「ですが!え…?あ、は、はい」
「さぁ、これでよし。『我、汝を呼び起こすもの。汝の全ての力は我がもの、汝の全ての魂は我がもの。即ち汝を生み出し、汝を創生しせし絶対的なる創造主なり。供物達よ、我が意志に従いて命を想像せよ。無から生まれ、眷属となり、我を守る鉄壁の騎士たれ。眷属化・魔物創造』」
僕は無駄に長い詠唱と共に過剰なくらいの魔力を鎧と魔石に流し込んでいく。
普通に魔物…眷属を生み出すだけなら、詠唱なんて必要ないし、第一【眷属化Lv.max】の状態なら生み出すのに素材も必要ない。
…が、今のこの体のスペックだと、大量の魔力を注ぐにはそれなりの詠唱をして魔力を注ぐ言霊を発しないといけないし、思った通りの魔物を生み出すのにイメージを言霊に込めないといけない。さらに、今回はわざわざ鎧を買ったので、鎧を魔力に馴染ませるために普通よりもさらに長い詠唱をしている。こうしないと、眷属化の際に鎧の形状が変化したりする可能性があるのだ。せっかく気にいったデザインなのに、それが変わっちゃったら僕結構落ち込むよ?
そんな間に鎧と魔石は光を帯びたあと光のチリとなって1つの球体を形作り、僕の魂と同じ燻んだ鉛色の光を発する。
僕の魔力…というか、神力を変質させて魔力を生み出している…に感化されて、僕の神力と同じ色へと変化している。
その光の球体は、少しずつ元の鎧の形に戻っていき、魔石と完全に一体化する。そして、その光が収まったあとには銀色の鎧の騎士が1人立っていた。
肩からは破れかぶれの蒼いマントを、頭頂からは何かの魔物の毛と思われるポニーテールのような白い飾り毛を吹いてもいない風になびかせている。フルフェイスのヘルムと首のすぐ下のラッパー部分には煌びやかに輝く彫刻。両腕にはプレートを重ねて作られた無骨なガントレットとクーターとカノン、そして昔の王国の紋章が描かれた肩甲。空がの前と後ろを守っている胸甲・前当て・背甲・尻当てには縦向きに鋭いラインが彫りこまれ、腰にはマントと同じ蒼の布を下地に鎖帷子のようなタセット。下半身はひし形に歪むパーツが何枚も重なってクゥイス・パウレイン・グリーヴ・サバトンを作っている。
その全てが白銀に輝き、蒼いマントや下地の布に反射して薄い水色を帯びている。
なんとも幻想的な美しい騎士。
…いや、ヘルムの本来目や口を覗かせるはずの隙間からは先ほどの光と同じように燻んだ鉛色の微細な粉が溢れている。これはどう見ても…
「ま、魔物だ…!魔物がでたァ!」
「全く。これだから無知は嫌いなんだよ。これは僕が生み出した眷属。わかる?僕が何かをさせようとしなければ安全なんだよ?」
「お、お客様…ここ、これは、一体…?」
「僕の眷属さ。僕の職業は”魔物使い”。その能力を使って眷属を作るためにこの鎧を買ったんだからさ〜」
「は、はぁ…お、落ち着きなさい!大馬鹿ども!これはお客様のものです。騒ぐことは許しません」
「へぇ〜。手馴れてるね」
「ええ。こういった場所である以上、騒ぎは日常茶飯事ですので。…さ、さすがにこのようなことは初めてですがね…」
係員は苦笑いを僕に向けながらそう言った。
さっき係員が大男たちを怒鳴りつけてくれたおかげで、部屋の中で騒いでた男たちは心がそこにないようなレベルで静まり返り、部屋の隅っこの方で抱き合っている。
…ちょっと気持ち悪いね。僕にそういう趣味はないから遠慮してほしいかな。
「ちょっとうるさくなっちゃったけど、外の騎士たちとかがやってきたりはしないみたいだね」
「ええ。騒ぎが発生した場合でも、他のお客様に迷惑がかからないよう、部屋は全て防音になっておりますから」
「ふ〜ん。あ、僕はもう帰ってもいい?会計も終わったしさ」
「ええ。またのお越しをお待ちしております」
「さ、行くよ。えっと…ああ、名前がまだだったね。そうだな…君の持ち主の名前を拝借することにしようかな。これから君の名は”アルドグランテ”だよ。よろしくね」
僕がそう言うと、鎧…アルドグランテはガチャっと音を立てて頷いた。
こういう全身鎧が礼儀正しく頷くのはとっても絵になるね。絵画の中にありそうだもん、こいつ。
…あ、そうだ。今度絵でも描こう。きっと背景もしっかりとした場所を探せばいい感じの絵が描けるはず。一応、僕は絵とかデザインとかそう言ったのは得意なんだからさ。
「じゃ、今度こそ失礼するね〜。アルド、その剣は君のものだよ。しっかり使ってね」
僕がアルドにそう言うと、アルドはその剣を背中に装備して僕の方へ向き直る。その姿はまるで僕にその姿を見せつけているかのようである。うん。似合ってるよ。
「さ、行くよ」
僕はアルドを連れて歩き出す。
アルドは僕の後ろを、騎士が主人に仕える様に付き従って歩いている。ちょっといい気分だね。
「あの…お客様、こちらは?」
「僕が持ってくよ?」
「え?これを?」
「うん。しまって行くから安心して」
僕はまだ何もしていなかった盾の方へ近づき、それに手を触れストレージポーチにしまうことを意識してしまい込む。
それを知らない人から見たら、突然盾が消えた様に見えるね。
係員は突然のことに何が起きたのかを全く理解できなかった様でポカーンと固まり、大男たちはすでに気を失っている。
「ははは〜。面白かったよ。じゃね〜」
僕は部屋の扉を開けて外へ出る。
アルドは身をかがめて、部屋から出てきた。
「あ、そういえば、まだアルドの確認をしてなかったね『眷属化・眷属情報」
僕はアルドのステータスを調べる。
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名前:アルドグランテ
種族:ナイト・リビングアーマー
性別:ー
年齢:ー
称号:神の眷属 忠誠を誓いしもの
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職業:騎士 レベル:1
ランク:BB
筋力:1234
体力:ー
耐性:793
敏捷:error
魔力:658
知力:180
属性:風 闇 水
種族スキル:【不眠】【無痛】【外装変化】
スキル:【魔力強化Lv.1】【魔力吸収Lv.1】
【再生Lv.1】【魔纏Lv.1】【騎士礼儀Lv.16】
【剣術Lv.14】【馬術Lv.13】【弓術Lv.10】
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ふむ。現在でのランクはBBのようだ。
眷属…というか、魔物全てに関して見ようと思えばしっかりとしたステータスを見ることができる。
魔物たちにも職業とレベルは存在していて、ステータスもある。
ただ、この世界の誰も見れないくらい、見るためにスキルのレベルを上げる必要がある。実際【鑑定】をレベルアップさせ、その次のスキルの【解析】のレベルをかなり高レベルまで上げる必要があるのだ。
で、生み出したばっかりの眷属や生まれたばかりの魔物はレベルが1だ。
まぁ、この時点でこのステータス値は結構悪くない。ランクはステータスの能力値の高さとかで決まるので、レベルを上げていけばその上がるし、スキルの熟練度もしかりだ。ちなみに、このスキルレベルに差があるのは、前にこの鎧を使っていた人が鎧を着た状態で上げたスキルとその熟練度がそのまま残っているものと、新しく発現したスキルがあるため。
あと、魔物に対しては年齢は存在しないね。
「アルド、さすがにその大きさだと動きづらいだろうから、僕と同じくらいかそれより少し大きいぐらいまでサイズ変えてくれる?」
僕がそう言うとアルドは頷き、風船がしぼむかのように体が縮んで身長180cmくらいに収まった。
これは【外装変化】の1つの使い方で、【外装変化】って言うのは体…つまり鎧の見た目とかパーツの形をかを変えるスキルなんだけど、それを使って全体的に小さくなってもらった。
「さ、もうこの街に用はないし、早く行くよ〜」
僕はアルドを連れて、オークション会場から、バドプールから出て行く…
意見、感想等あればお願いします。




