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二人目の主人公:訓練の時

 彼は傲慢であった。




 * * *




 朝食を食べ終え、彼は訓練室にいた。周りには同じように連れてこられた生徒が多数おり、朝礼台のようなものの上に立つ1人の人物がこちらを見下ろした状態が続いている。

 未だ話は始まらない。


 彼はそのこちらを見下ろしている人物へと視線を向けた。

 その人物は身長170cm後半程度のこちらの世界ではそこまで高くないくらいの身長に、短く刈り揃えられた金髪の男。銀色というよりは鉛色といったほうがしっくりとくるようなスケイル・アーマーと呼ばれる皮革に金属の鱗を縫い付けて作られた鎧を身につけ、バスタードソードを腰に下げ、こちらへ向けて呆れているとも見えるような表情を向けている。



 「【鑑定】」


 彼はその男を見て小声で【鑑定】を行う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:ガウスト・フェルメン

 種族:人間種

 性別:男

 年齢:32

 称号:水色の剣士

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 職業:騎士 レベル:43

               状態:通常

 筋力:68

 体力:123

 耐性:64

 敏捷:72

 魔力:112

 知力:46

 属性:水

 種族スキル:

 スキル:【剣術Lv.4】【馬術Lv.3】【指導術Lv.3】

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 彼はそのステータス値を見てそこそこの技術を持った者であるということを知った。

 それを踏まえて男を見れば、呆れた表情を向けているのではなく、こちらを観察していたということに気づく。

 そして、やっとの事で男は口を開いた。



 「…よし、ではこれから訓練を開始する。私はガウスト・フェルメンという。まず初めに知っていてもらいたいことが幾つかある。スキル…と言うものはすでに知っていると思う。【剣術】や【槍術】などの武術のスキル、これは技能を発揮するものではなくあくまでもその技術を補助するものだ。であるため、これから君たちには基礎の武器を扱いを覚えてもらう。おそらくこの中には【飛斬撃】などの技能を発揮するスキルを所得している者もいるだろう。だが、それらも戦闘中に必ずしも発動できる隙があるとは限らない。まずは何かしらの武器を扱え、己の身を守れるようになる。これを目標に頑張って欲しい」


 それだけ言うと、次に男…ガウストは訓練室内に待機している訓練を手伝わされる予定の兵士たちに声をかける。

 兵士は部屋の外に出て、大量に剣や槍や弓などの武器を訓練室へ運び入れてくる。



 「今、この部屋にいるのは25名だ。誰がどの武器をとっても有り余るほどの武器を用意した…とは言っても初心者用のおもちゃのようなものなのだが。まずは君たちのスキルやイメージにあう使いやすい武器を選んで持ってきてくれ。その後その武器によって異なる訓練を受けてもらう。さぁ、行ってくれ」


 彼はガウストのそう言うのを聞く前にすでに動き出していた。

 別に自分を抑えられなかったのではなく、自分以外に自分の好むものを奪われないようにするためだ。彼は自分の欲しいものが手に入れられないことをこの上なく嫌がる。

 彼がスキルで所得しているのは【剣術】で、その【剣術】というスキルはロングソードやバスターソードなどの長剣から大剣などに対応するスキルだ。ちなみにレイピアなどは【刺突剣術】で、刀などは【刀術】という少し異なる剣術スキルとして存在している。このスキル【剣術】は両手持ちまたは片手持ちの西洋剣の補正スキルだ。


 彼はラノベや漫画で読んだりするために剣については少し普通の人よりは詳しかった。彼は両手でも片手でも使えるような物であれば両方の訓練になると考えて、バスタードソードを選択してその剣の置かれている場所へ向かう。

 バスタードソードとは、全体が120cmほど3,4cmくらいの身幅の剣で、刃は両刃。柄の長さが片手でも両手でも扱える程度あって、見た目は一般的にイメージされる西洋剣だ。


 彼はその剣の置かれた場所である剣全てに触れて一番手に馴染む物を選ぶことにし、次々に手に持って見ていく。彼のようにほとんど迷わずに剣へ向かった生徒は少なかったため、彼が一通り全てを確かめ選んだところで他の生徒が来た。彼は1本の剣を手に持ち、次に別の剣を探しに行く。

 こうやって剣が配られるのは初めだけで後は自分で調達させられたり、他の場所もらえても1本に限られる可能性もゼロではないのでナイフや短剣などの手ごろな大きさの武器を手に入れておこうと思ったのであった。

 


 「お…あれなら」


 彼は短剣の置かれている場所へ歩いている最中にふと目に止まった物があった。

 それは魔物の革を編んで作られた1本の紐のような物。つまりは鞭だ。これなら持っていても見えずらい上に遠距離の攻撃もできて一石二鳥と考え、彼はその鞭の置いてある場所を眺める。



 「おや、鞭に興味があるの?」

 「え?あ、まぁ、ちょっと…」


 しゃがんでそれらを眺めていると、若く鋭い声が聞こえた。

 彼は顔を上げ声の主に目を向けるとそこには胸当て程度の軽い鎧のみを付けた蒼髪の男…いや、むしろ青年という方があっているような男がいた。



 「なんだ、そんな言いごもることもないじゃないか。ゆっくりと見ていきなよ」

 「あ、はい。あ〜…どういうのが使いやすいとかってあるんですか?」

 「まぁ、とりあえず硬くてしっかり編まれたやつがいいね。長さや重さなんかは自分で使いやすいのを選ぶしかないし」

 「は、はぁ…」

 「ま、君みたいな若い人が興味を持ってくれたことには感謝するね。僕はこの国一番の鞭使いだって言われてるんだけど、第一に比べる人が少ないのが原因だしね」

 「い、一番ですか…!」

 「ああ、君が鞭をやりたいなら教えることになるね。僕はリード。どうぞ宜しく」

 「俺は司です」

 「まぁ、教わりたかったら僕のところにおいで。なに、剣のついでにやるんでも構わないから」 


 そう言うと、リードは手をひらひらと振って何処かへ行ってしまった。

 彼は一応助言に従って180cmほどの青白い鞭を選んだ。それを腰につけ、今度こそ短剣を探す。

 

 近くで短剣が置いてあるのを見つけ、それを物色し始めたところで大半の生徒が戻ったのを確認したのかガウストが再び声をあげた。



 「大体は選び終わったようなので、次の行動について説明に入る。少しだけ私の話を聞いてくれるとありがたい。次はその武器を持ってその武器と同じ武器を持ったここにいる兵に教えてもらってくれ。大体はその置いてある場所の近くにいるからわかると思う。そこからはそれぞれの指示に従って訓練を始めろ。一対一で教われるように人数はいるから安心してくれ」


 彼はそれを聞くと、手元にあった短剣から適当に1つを選んでズボンのポケットにしまい、バスタードソードを持つ兵を探す。

 他の生徒がどんどんと兵士を捕まえて訓練を始めるのを見て、彼も同じように近くにいた兵士に教わろうと思い…やめた。彼はガウストに近づく。

 彼はガウストが同じようにバスタードソードを持っていたことを思い出したのだ。ああやってこの部屋の指揮を取っていることからガウストが一番この部屋で偉いと思い、彼はガウストに教わろうと思ったのだ。偉い…つまり強いには繋がるのは確実ではないかもしれないが、少なくとも兵士たちの表情に不満が見れなかったのでそれなりの強さは兼ね備えていると考えたのであった。



 「あの〜。ガウストさん、俺に教えてもらってもいいですか?」

 「ほう…私に教りに来る人がいるとは驚いた。どうして私に教わろうと思ったのだい?」


 彼が声をかけるとガウストは驚いたような表情を向け、登っていた台から降りて彼の前に立ってそう問いかけた。 



 「いや、剣下げてますし兵士ですよね…?」

 「ククク…そうか。確かに私もこの部屋にいる兵士には違いない。いいだろう」

 「本当ですか!ありがとうございます」

 「ところで君の名は?」

 「司です」

 「そうか。ではツカサ、君は剣術スキルは所得しているか?」

 「はい。Lv.5です」

 「よろしい。じゃあ、訓練を始めよう」


 彼は訓練を始めた。



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 午前110時を少し過ぎた頃。彼はガウストに見られながら素振りを終えた。

 汗を拭き、水分を取る。


 「よし。今日はここまでだ。休憩に入るといい。次は魔法の講義が待ってるからな」

 「はぁ…はぁ…はぁ…わ、わかりました。ありがとうございます…はぁ…明日も、教わっていいですか?」

 「もちろんだよ。君のような向上心の強い青年は大歓迎だ。それに君は筋もいい」

 「あ、ありがとう…ございます」


 彼は疲れ切った体から声を振り絞ってガウストに礼を言い、歩き出す。そして壁の近くまで行って寄り掛かろうとし…目に入った人物の方向へと目的地を変えた。



 「おや。随分とお疲れだね。ツカサくん」

 「はぁ…はぁ…リードさん、今日の訓練はなかったんですか?」


 リードは壁に寄りかかり、読書に勤しんでいるところだった。

 つまりどこからどう見ても暇を持て余していた。



 「ああ、鞭なんて武器を選ぶ人自体が少ないからね。勇者なら1人ぐらいって思ったけど、生憎いなかったよ。実に残念だ。君は結局何をやることにしたんだい?」

 「俺、今バスタードソードでガウストさんに教わってます」

 「ああ〜。君はいい教官を選んだようだね。ガウストは僕の同期なんだが、あいつは出世頭なんだよ。今じゃこの国で2,3番目に強い騎士なんじゃないかな?」

 「そ、そうなんですか…」

 「しかも教えるのもうまかっただろう?あいつの部隊は国一番だから」

 

 彼の目の前の男はガウストのことをまるで自分のことのように嬉しそうに話す。

 彼は自身の選んだ人物が正解だったことを知り、少し気分を良くする。

 …同期であるのに、リードがどう見てもガウストより年下に見えることに疑問を抱いたのは頭の片隅に寄せておく。



 「そうだったんですか。すごいですね」

 「ああ、そうなんだよ」

 「あ〜…ところでなんですけど、リードさん」

 「なんだい?何か聞きたいことでもあるのかい?」

 「えっと、自主練習の時間って暇してますか?できればでいいんですけど、俺に鞭の使い方を教えてくれませんか?」

 「ほ、本当かい⁉︎君は鞭がやりたいのかい?」

 「あ、はい。一応…」

 「そうかいそうかい。それは嬉しいね。構わないよ。大いに構わないよ。何かあってもなかったことにして教えてあげようじゃないのさ」

 「いや、何か用があるなら優先しても構わないですよ…」


 リードは心の底から喜んでいるようであった。手を叩き、跳ね回っている。

 彼はリードの喜びようを見て面白い人だと思いつつ、信用をしすぎないように注意しようと思うのであった。

 


 「じゃあ、お昼の後が自由時間のはずだからこの部屋に来てよ。もう講義も始まるみたいだから」

 「わかりました。よろしくお願いします」

 「ではまたあとで」

 「はい」


 彼はリードが外に出て行くのを見届けると、地面に座り込む。

 訓練は予想以上に大変だった。彼はもともと運動は得意な方であり、中学高校ともに運動部に所属していたこともあって体力はそこそこにあるのだがそれでも彼は非常に疲れていた。普段使わないような筋肉を使い、重いものを何度も振り上げては下ろすという行動を繰り返したため、腕が悲鳴を上げている。それにそれを支えるために使った腰や足にも。



 「筋肉痛確定だな。これ…」


 彼は翌日の筋肉痛を思って苦笑いを浮かべる。

 

 さらにいうと実は彼の訓練は人一倍厳しかったのだ。

 彼は意外に剣術の才能がある。スキルによる補正もあるが、それを差し引いても彼はガウストが目をみはるほどの才能があったのだ。ガウストは久しく見る逸材に歓喜し、彼は間違いなく自分より強くなると確信して彼の訓練を行っていたのであった。そのせいもあり、彼の訓練は他の生徒たちと比べると異様なまでに厳しいものだった。

 彼はそれは教官をガウストにした自分せいであり、これは自分を強くするために必要だと割り切ってやっていたので、まったく気に留めていなかったようだったが。


 そんなうちに再びガウストの声が訓練室に聞こえてきた。



 「全員が訓練を終了したようなので、次に魔法についての講義を行う。魔法の講義は彼に行ってもらう。上ってくれ」


 ガウストがそう言うと、彼の立つ台に1人の黒いローブを着た男が登ってきた。



 「初めまして。わたくし、レイヴィードと申します。今日から皆様の魔法やこの世界の常識などの講義を任されることになりました。どうぞよろしくお願いします」

 

 そういってレイヴィードが深々と頭を上げた。

 彼は座ったまま頭を少しだけ上げてその姿を確認する。【鑑定】をしようとも思ったが疲れ切っていてそんなことをする気力も起きなかった。


 

 「では、少しの休憩を挟んだ後講義を始める。15分したら始めるのでそれまで体を休めてくれ」


 そのガウストの声を聞くと、多くの生徒が寝転がったり座り込んだりして休憩を始めた。

 彼も同じように休憩を取ることにした。


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