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二人目の主人公:不審の時

 彼はまだ純粋な青年であった。




 * * *


 彼はあてがわれた部屋にいた。

 彼は部屋にいながらすでにこの国への不審を募らせていた。

 さっきの場所での話。彼は話半分に一応聞いてはいたのだが、それでもあの部屋で聞いてきた情報との食い違う部分が多すぎたのだ。

 さっきの話では、この国は以前から宗教上の問題で他の国と対立はしていたのだが、それでもうまくやっていた。しかし他国がこの国に対して突然態度を変え、戦争が起こる間際の状態に陥っている…という話であった。

 だがあの部屋での話では全く異なる。宗教上の問題なのは事実だが、この国が一方的に他の種族を迫害し、けなしている。そしてこの国には”ダンジョン”と呼ばれる日本にあったゲームによくあるような物が1つだけしか存在していなく、それを求めて他国と度々ちょっとしたいざこざを起こしている。さらに最近になってからは他国にも使者を送ったりする際に毎回失礼を働き、それ以外にももはや見逃せないような行動を始めたのが主な原因だという。


 さらに、彼の耳にはさっき強奪した【聴覚強化】によって自分の部屋の周りをコソコソと動き回っている1の音が聞こえていた。



 「何かあった時に見破られるとまずいよな。【偽装】のレベル上げとくかな…」


 これからメイドが来ると言っていた。そのメイドが【看破】などのスキルを所得していて、さらに高レベルであった場合に彼に疑いが生じる。なぜそうやって隠していたのか、などと間違いなく言われることだろう。そう思い、彼は【偽装】のスキルレベルを4まで上げる。同レベルであればばれない。この世界の人間のスキルレベルの平均は4程度であるとあの部屋で聞いていたのだ。Lv.5なんかを持ったレアな者を自分のところに送ってこないだろうと予測したのだった。


 スキルのレベルを上げたところで、彼は取得可能スキルが増えたというのを思い出し、ステータス画面からスキルの取得を呼び出す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

取得可能スキル:【統合】

既強奪スキル :【龍鱗】【魔眼:千里眼】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 「【統合】…ってまとめるって言う意味だよな?なんなんだ?…とりあえず【鑑定】」


 【鑑定】し、スキルの詳細を確認する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スキル名:【統合】         取得ポイント:200p

分類:任意技能操作系

効果:複数のスキルを1つに纏め、別をスキルを作り出す。使用し

たスキルは元に戻すことはできず、再取得する必要がある。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「今は必要ないな…あ〜、でもポイント残ってるんだよな」


 彼の今持っている振り分け値は1299p。このスキルを所得したとして、十二分に余裕があるのだ。この世界で【強奪】を使ってポイントを所得した場合、通常ならばそこまでのポイントを得ることはできない。だが、彼は勇者である者たちに向かって【強奪】を行ったため、【龍鱗Lv.6】と【魔眼:千里眼Lv.3】を強奪した際に得たポイントが1454pという通常では得られないような高ポイントを得ているのだ。今はポイントが有り余っているのであった。

 

 

 「使ってもいいか。別にまだ余裕はあるんだし」

 『【統合】ヲ取得シマシタ』


 彼は後のことを考えても、問題はなさそうだと判断して【統合】を取得する。 



 取得したところで足音が聞こえた。

 彼はメイドが来たのかと思い、少し身構えながら扉に近づく。どんな相手であろうとこの国で誰かを完全に味方だと思うのは危険だと考えたための行動だった。



 『ねぇ、どこに向かってるの〜?』

 『…あなたごときが、私に話しかけないでください』

 『うわぁ、こわ〜い。そんなのだとお嫁の貰い手がいなくなっちゃうよ〜』

 『………』

 『わ〜、無視はひどいよ〜』


 彼の予想を反して聞こえてきた声はフィリアと名乗った者の声と、初めて聞くがどう考えてもふざけているのか舐めているとしか考えようのない気の抜けた男の声だった。


 彼はその足音が扉の前を通過した後少しだけ扉を開けて廊下を覗く。



 「あ…」


 彼が廊下で見たのは騎士に連れられて歩いていくあの男だった。

 一体何をしたのだろうか?と疑問を抱きつつ、どうせ夕食の時にでも会えると思い扉を閉めた。


 彼はそれからしばらく【聴力強化】のおかげで自分の部屋の近くを嗅ぎ回る人の物音に悩まされつつメイドがやってくるのを待った。

 部屋を一通り歩き回って部屋にある物を確かめ、使い方を【鑑定】で調べたり、実際に使ってみたり、部屋の中の物を見ることで時間を潰した。


 

 コンコン…と、彼の部屋の扉を叩く音が聞こえた。それの少し前に大量の足音が聞こえたので、今度こそメイドであろうと思い、少し身構えながら扉に近づいた。



 『モトオリ様。入ってもよろしいでしょうか?』

 「…ああ、いいよ」

 『では、失礼します』


 彼は扉に近づいてより詳細な音を拾い、メイドの身につけている物に金属音がないかを確かめ手から入室を許可した。少なくとも今の自分の肉体なら武器さえなければ大抵の相手には抵抗ぐらいはできると踏んだためだ。

 扉から少し離れ、入ってくる人間に目を向けた。

 初めに目に付いたのは向こうの世界ではどう考えても浮くような色をした髪色だった。


 

 「へぇ…」


 少なくとも、彼は「悪くない」と思った。彼はラノベやアニメをよく見るが、そういったものに出ていたとしてもそれほどに違和感のない美人であると思った。

 入ってきたのは金髪ではなく黄色の髪色をした18,9歳程度に見える女性。顔は日本人というより外国人寄りではあるが、日本人と外国人のハーフのような顔であると彼は思った。身長は170cm前半程度の彼から見てそれほど小さくないので160cm後半といったところだろう。



 「初めまして。ティニャと申します。これからモトオリ様の身の回りのお世話をすることとなりました。どうぞよろしくお願いします」

 「あ、ああ。よろしく。俺は本居 司…あ〜、こっちだとどっちが先なんだ?司が名前なんだが」

 「この世界では名前が先、家名が後ですよ」

 「じゃあ司 本居だ。よろしく」


 彼はクラスでも男女共に誰とでも仲良くやっていたため相手が女性であることには緊張しなかったが、まるでアニメや漫画の世界の住人と話しているような感覚に陥り興奮していた。その女性の格好は機能美にあふれたメイド服ではなく、向こうの世界のアニメや漫画に出てくるようなメイド服だったのだ。彼はこういったことを夢見るごく一般的な青年だったこともあり、心の中で1人盛り上がっていた。

 さらに言えば、こうやって慣れないながらに丁寧な話し方をされていることで余計に喜んでいた。ティニャと名乗った女性はまだこのメイドという仕事に慣れていないようだった。


 「ではツカサ様、と呼んだほうがいいでしょうか?」

 「いや、どっちでもいいよ。好きに呼んでくれ」

 「わかりました。では、ツカサ様とお呼びいたしますね」

 「おう。ところで、この後ってどうなるんだ?」

 「この後は30分後に夕食のため集合してもらい、2時間ほど夕食に時間を取り、そののちこれからの勇者様方の予定を話す事となってます」

 「へぇ…じゃあ、30分は暇なのか」

 「そうなってしまいますね。そのお時間の間にこの部屋の設備についてご説明致しましょうか?」

 「あ〜。一応、わかってから大丈夫。さっきの時間のうちにいろいろやってさ」

 「そうですか…」


 メイド…ティニャが目に見えてションボリとする。彼は悪い事したかな?などと思いつつ、こんなどう見ても普通の人間が自分に危害を加える可能性があるのかに悩んでいた。

 そしてふと思いつく。



 「そうだよな。【鑑定】」

 「…?どうかされましたか?」

 「ああ。いや、なんでもない。ちょっと思い出した事があっただけだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:ティニャ

 種族:人間種

 性別:女

 年齢:17

 称号:メイド

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 職業:魔法使い レベル:32 

               状態:通常

 筋力:32

 体力:98

 耐性:56

 敏捷:45

 魔力:142

 知力:54

 属性:水 地

 種族スキル:

 スキル:【魔力操作Lv.2】【奉仕Lv.3】

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 どう見ても一般人だった。そして、自分と年齢が変わらない事に少し驚きを覚えた。

 彼はそれを見て少し安心し、それと同時に他の場所への警戒を強めた。【聴力強化】を手に入れた事を少し幸運に思うのであった。彼は周囲に耳をすませたが、ティニャが来ている間は物音がしなくなっていた。


 

 「あのぉ…私、何かする事はありますか?」

 「あ〜。暇だからさ、俺の話し相手になってくんね?」

 「え?あ、は、はい。そんな事で構わないならよろこんで」


 ティニャは自分に仕事ができた事を純粋に喜んでいるように見えた。どうやら、彼の役に立てず少し落ち込んでいたようだった。

 彼はそれを見て情報を得るのに使えると思った。おそらく、自分のために何かをしろと言われているのだろう。それを利用しない手はない。ついでにコミニュケーションもとって仲良くなれれば一石二鳥だ。



 「俺さ、こっちに来てまだ何もよくわからないから教えてくれないかな?」

 「ええと…何が知りたいですか?」

 「ん〜。あ、それじゃあ魔法について聞きたいかな。俺の住んでた世界にはさ、魔法がないんだ」

 「ええっ!じゃあ、どうやって魔物から身を守るんですか?」

 「あ〜…その魔物っていうのもいないんだよ。俺らの世界には”科学”っていう技術があってさ、それでいろんなことをしてるんだ。例えば…あ、こんなのどうだ?」


 彼は自分のポケットに入ったライトを取り出した。彼は家が学校から遠かったため、家に帰ると大抵辺りが暗くなってしまうので小さいソーラ充電可能なライトを常備していた。

 彼はそれの電源を入れる。



 「わぁ〜。なんです?これすごく綺麗ですね」

 「これは”科学”の1つだよ。これは太陽の光で電気をためて光るんだ」

 「電気…ですか?」

 「そう、電気。あ〜。電気ってわかる…よな?」

 「はい。あの…バチバチッってなるやつですよね?」

 「多分それだな。それを使って光ってるんだ」

 「へぇ〜。不思議ですね〜」


 彼からすればこんな物で驚かれるということの方が不思議であったのだが、それは放置して話を続けた。

 …彼の手元にあったライトを覗き込んで前のめりになったティニャから…というよりその胸元から彼が目を逸らしたのはなかったことにしておきたい。彼はむっつりなわけでも変態なわけでもないが、男の子なのだ。



 「で、魔法なんて物がないんだ。だから、ちょっと気になっててさ」

 「えっと、多分明日になれば教わると思いますよ?」

 「早く知りたいんだ。だって気になるだろう?俺の住んでた世界だと、魔法は…あ〜、なんていうのかな?物語とか空想の中だけの物だったんだよ」

 「そうなんですか。じゃあ、私の知ってることでいいなら教えますよ」

 「お、頼む…できれば簡単に優しくで」

 「はい。じゃあ説明しますね。魔法っていうのは、体の中にある魔力を空気中にある魔力に干渉させることによって現象を起こすことです。魔力っていうのは誰もが持っている力?みたいなもので、大体…お腹のあたりにあります。それをイメージと一緒に外に放出すると、空気中にある魔力にそのイメージが伝わってそのイメージが具現化?されるそうです」

 「そ、それって優しいのか?」


 ティニャは簡単に言おうと努力しているのだが、彼女はもともと頭がそこまで言い訳でもない上に魔法というものはこの世界において子供でも理解していて当然の現象。見たことのないものを説明するのは意外にも難しいものなのだ。



 「私は学校でこうやって習いました…学力不足で退学しましたけど」

 「あはは…よし、ちょっとやってみてもいいか?なんかすげえやってみたくなった」

 「ええっ⁉︎ちょっと…流石にそれは…」

 「治癒とかなら問題なくないか?」

 「いやぁ…それもちょっと危ないです。失敗して人が爆散したっていう話も聞いたことが…」

 「え?なにそれ、治す気ないじゃんねぇか」


 ちょっと彼はその瞬間を想像し、表情を歪める。

 


 「あ、でも魔力の探知ぐらいならいいかもです」

 「よし、じゃあそれ教えてくれ」

 「ええと…まずは」


 彼は暇を潰すついでに技能を覚えていくのであった。


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