14.追い出されましょう
で、僕らは部屋に案内された。
1人に1つずつ与えられた部屋はそこそこに豪華なもので、ふかふかのベットや大きいクローゼットや綺麗な白い木の机やら、地味に凝ってる部屋だ。
フィリアから「ご案内した後に、メイドを遣わします」と言われ、生徒たちは様々な表情を浮かべながらそれぞれ案内された部屋に入った。
後ろからついて来ていたさっきの記録していた人が、生徒が案内された部屋を記録していたので、それぞれに合わせてメイドや執事を送るつもりなのだろう。
合わせてとは、もちろんその者のステータスにだ。高い者から順番にいい者を遣わすはずだ。
こっちに来る前にちょっと確認はしたけど僕が一番ステータスとかが低いので、多分僕はかなり適当な者を送られるのだろう。
僕はそんなことを思いつつ、部屋周辺に風魔法で探知をかけながら人が来るのを待っていた。
「お。来たみたいだね」
そんなことを思っているうちに、メイドと思われる集団が歩いて近づいてくるのを探知した。
この国に召喚された人数…97名に対して96名。僕にはいらないってことなのかな?
その歩いて近づく者たちは、ノックをしてそれぞれ遣わされたと思われる部屋に入っていく。
僕の部屋にもノックをする者が。
…あれ?僕にもいるなら、誰が違うの?
とりあえず、開けてみるかな。
「はいはい〜」
『ええと、マツイ様ですね。ちょっとよろしいでしょうか?』
「あ、うん。今開けるね〜」
聞こえてきた声はすでに聞いたことのある声…フィリアの声だった。
僕はドアを開ける。
そこには騎士を連れ、有無を言わせず僕に命令しようとしている様子のフィリアがいる。
「マツイ様ですね。教皇様がお呼びですので、来てください」
「ふ〜ん。ま、いいよ〜」
「では、ついて来てください」
「ほ〜い」
さっき葉山くんと話していた時とは大違いな声色で、僕に命令するような口調で話してくる。
僕は騎士に睨まれならが、ここに案内される時の道のりを逆走する。行き先はさっきの場所なのかな?
「ねぇ、どこに向かってるの〜?」
「…あなたごときが、私に話しかけないでください」
「うわぁ、こわ〜い。そんなのだとお嫁の貰い手がいなくなっちゃうよ〜」
「………」
「わ〜、無視はひどいよ〜」
ちょっとムカつくので、反論してきたのを片っ端から揚げ足とって馬鹿にしてやろうと思ったんだけど、無視し続けてくるので諦めた。
その後は無言で歩く。
赤い絨毯の敷かれた廊下は、どうやら円状になっているようで少しずつ曲がっている。この城は上から見たら円になっているのだろう。
僕が無駄なことを考えながらついていくと、さっきの謁見の間的な場所の前で立ち止まった。
「入ってください」
「ほ〜い」
僕は仕方なく扉を開けて中に入ろうとするが、意外に重くて動かない。
…あれか、仕返しなのか。
「…くっくく」
後ろの騎士が僕のことを笑ってる。やっぱり嫌がらせかな?
…よし。
僕はスキルを意識し、”念動力”を発動させて扉を強引に開く。途中で魔法的な何かを引きちぎったような感覚があったけど無視だ無視。悪いのは僕を馬鹿にしたこいつらなんだからさ。
僕は無理矢理扉を開ききる。
「さて、入ればいいんだよね〜?」
「…は、はい」
僕が扉を開けてしまったことに呆然としている騎士とフィリアを放置して中に入り、扉を勝手にしまったように見える程度にちょっと”念動力”で引っ張って閉めた。ついでに蝶番を壊した。
中にはさっきの教皇と記録してた人が1人いる。
「君がマツイくんかな?」
「うん。そうだね〜」
「…貴様、失礼だとは思わないのかね?この私に対してそんな無礼な言葉遣いを」
「別に〜。君が僕より偉いなんて誰が決めたのさ」
「…ふん。まぁ私は心が広いのだ、許そうじゃないか」
「ふ〜ん。で?」
「くっ…まぁいい。貴様には出て行ってもらうことになったのだ。私自らそれを伝えてやったのだ、光栄に思うのだな」
「まぁ、出て行くのは全く構わないんだけど、手切れ金とかないの?」
「誰がそんなものを用意するか」
「ふ〜ん。じゃ、有る事無い事含めてその辺の民衆に言いふらすから」
「誰が貴様なんぞの言葉を信じるか」
「…どうだろうね?」
方法なんていくらでもあるんだよ?という意味を込めて、間をおいて言ってあげる。
教皇はちょっと苦い表情をした後、後ろに控えていた記録してた人に話しかける。
「チッ…おい、先のものを」
「はい」
「ここに金貨5枚が入っている。それを持ってさっさと王城から出て行け!」
「ふ〜ん…混ぜ物か。僕を舐めてるのかな?」
「そうだとしてどうする?」
「ねぇ、僕さぁ〜。侵入とか、暗殺とか、そういうの得意なんだよね〜」
「…貴様、何をするつもりだ?」
「さて…ね?」
「…クソッ。そちらではない方をよこせ」
「はい」
いやぁ〜。ハッタリってこういう奴には有効だよね〜。まぁ、実際にできないわけじゃないけどさ。
別世界の住人だとうこともあって、ちょっと警戒してくれてるし、幾らかはちゃんともらっておかないと。
「これでいいだろう。今度こそさっさと出て行け!」
「うん。これでいいよ。じゃね〜」
押し付けられた麻袋にはちゃんとした金貨が5枚ほど入っていた。種類は前にこの世界の時と同じで、バル貨のようだ。
僕はそれを確認すると、扉が外からしか開けられなさそうだったし、第一に僕がさっきので壊しちゃったから開けられないので、近くの窓に歩いて行き窓を開け放つ。開けられなくて困る顔が見れないのが残念だね。
どうやらここは3階だったようだ。下に見える庭園がそこそこ小さく見える。ジオラマみたいで可愛らしいね。
「じゃ、これにて失礼〜」
僕は窓に足をかけ、そのまま外へ一歩踏み出す。
”天歩”を使い空中を歩き始め、少しづつ高度を下げて地面に着地する。
着地してから上を見れば教皇が窓からこちらを見ている。表情がなかなかに面白くていいね。度肝を抜かれたような顔をしてるよ。
「さてと。まずは…街に出ようか」
僕は再び”天歩”て中へ浮かび、王城を囲う城壁へ近づいていき乗り越えて城壁の外に着地する。
王城は貴族街に囲まれているようで、豪華な屋敷や噴水のある広場なんかが目視出来た。今はちょうど夕方だった上に貴族は王城に呼ばれてたおかげで僕を見ている人間はいなかったようだ。
僕は着地すると、とりえず上に着ているブレザーを脱ぐ。この服装では目立ってしょうがないからね。こんな服を着た人はオービスには勇者以外はいないだろう。
で、ポケットからいつもの真っ白いローブを取り出し羽織る。
「うん。やっぱりこれが落ち着くや」
僕はローブを羽織ると、ポケットにブレザーをしまう。
他の服も十分に不自然だけど、ローブの前のダッフルボタン…よくダッフルコートとかに使われる角のボタンを閉めれば中は見えないから別に問題ないだろう。ちなみに素材はニーズの生え変わった時の角を使っている。素材としても最高級の物のため、ついている6つのボタン全てが魔法が込められてる物だったりするのだけど、とりあえずは置いておこう。
僕はそのまま歩き出す。まずは宿に行こう。他の服とかも着替えた方がいいし、今日の宿泊場所がないと困るし。
さすがの僕でも野宿は避けたい。
「まぁ、まずはこの貴族街から出ないとだよね〜」
こんなところに一般の宿があるわけもないので、冒険者とかがいそうな場所の方へ向かって歩き出す。
「う、う〜ん…な、なんか見覚えが」
僕が歩いてきて見つけたのは、えらく不気味な骸骨の看板の立った宿。
ルーとルディと一緒に泊まったのもこんな宿だった気が…
「よし。入ってみよう」
僕は宿の扉を開けて、中に入る。
その中は案の定、古臭く不気味な外観とは大違いで綺麗なものだ。やっぱり同じ宿なのかな?でもあの宿はルクシオにあったはずだし…ま、いっか。
僕は受付に向かった。
「ようこそいらっしゃいました。宿泊ですか?それともお夜食でしょうか?」
「一泊お願いできる?」
「かしこまりました。お夜食と明日の朝食がどういたしますか?」
「夕食だけお願い」
「かしこまりました。では、お夜食と一部屋一泊で30Bでございます」
「ほ〜い」
一泊で3000円…まぁ、この世界にしては安い方だね。
僕はそんなことを思いつつ、ポケットの中から銀貨を1枚取り出して渡す。
「では、お釣りの70Bです。では202号室をお使いください。シャワーの使用方法についての説明は入り用でしょうか?」
「いや〜。大丈夫だよ」
「失礼いたしました。では、お夜食のお時間は19時から24時となっておりますのでご注意ください」
「ほいよ〜。あ、夕食ってお金別?」
「食堂にてその鍵をお見せくだされば結構です。それで1食と飲み物は無料で楽しめますよ」
「なるほど。じゃ、ありがとね〜」
僕は鍵を持って2階に上がる。
部屋は202なので、階段から3つ目の部屋だった。
鍵を開け、中に入る。中は今までの宿と変わらず、ベットとクローゼットと机と椅子があるのみの簡素な部屋。別に僕が使うのはほとんどないからどうでもいいんだけど、王城のものとは大違いではあるね。
僕はとりあえずポケットから着替える服を取り出して、ベットの上に放る。
「さてと。とりあえずはお風呂かな〜」
僕は着ている服を脱ぎ、タオルとかシャンプーとかリンスとかの風呂に入るセットを取り出して風呂…というかシャワールームに向かう。
僕は脱衣所にタオルとかを置いて、シャワールームに入る。
シャワールームは昔来たのと変わらず、壁に魔法陣が埋め込まれ、上に水の出る場所が設置されているだけの簡単な作りのもの。第一、シャワールーム自体が1畳くらいしかない狭いスペースなので、そんなに大きい物が置けなかったのも理由の1つではあると思うけどね。
僕は体を戻し、シャワーを浴びる。
頭を洗い、顔を洗い、体を洗う。そして、体を拭いて魔法で髪を乾かして、体を元に戻す。
…結構僕も慣れてきてるよね。今じゃ全く違和感なくその一連の動作を行ってる気がする。
僕はシャワールームから出ると、下着を着てその上に灰色の開襟シャツを着る。黒いカーゴパンツを履き、革のベルトを腰に巻き、帰る前いろいろやってた時に趣味で作ってみたポーチを取り付け、上にいつものローブを羽織る。そして、今まで着ていた学校の制服を全部ポケットにしまいこむ。
「ふむ。これで冒険者っぽくなったでしょ」
鏡がなくて確認できないが、一般的な冒険者の魔法使いのような服装にはなっているはずだ。
…あ。
「足元が…これじゃダメだよね」
さすがにこんな服装で靴が上履きなのはカッコがつかない。
前は適当な運動靴を履いていたが、どうせならこれに合わせた物を作ろう。
まだいくらか余ってる龍革で編み上げブーツとかかな。
まぁ、とりあえずそれは夕食の後だ。
僕は適当な運動靴を取り出して履き替えると、食堂へ向かった。
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