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二人目の主人公:召喚の時

 彼は自己中心的であった。



 * * *


 『みなさんのステータス振り分けが今終わりました。これから、オービスへと転送します。今回はほぼ同時に二ヶ所で召喚魔法が発動されたため、王国または皇国のどちらかに転移されます。これは私の権限ではどうにもできずランダムになってしまっています。どうか、みなさんの無事を祈ります』


 結局、16時間ほどが経った。

 彼は女性から情報を得て向こうの世界についての知識を高めている途中ではあったが、必要であると思うことは聞き終わっていたので準備は万端だった。



 『では、ご幸運を』


 その声を最後に、再び視界が真っ白に塗りつぶされる。

 彼の心は不安ではなく、希望に満ち溢れていた。彼は向こうの世界の話を聞くうちに自分が向こうの世界へ生きるのが嬉しくてたまらなかった。だって、彼はそんなことがいつか起きるのを祈るような人間だったから。向こうの世界で絶対に手に入れることのできない欲望だったから。






 「うおっ…す、すげえ」


 視界が開けた瞬間、まず初めに目に入ったのは彼が家族と行ったヨーロッパ旅行で見た世界遺産よりも美しいと感じるほどの遺跡…否、教会だった。ステンドグラスがキラキラと七色に光る光を取り込み、壁には美術館に展示されるような宗教画が書かれている。翼の生えた女性が人を生み出した様子のようだった。そして、壁の両端のあたりで獣耳のついた人たちが跪いていた。

 それを十分に堪能してから彼は周りへと視線を向ける。

 周りの人たちはガヤガヤと話し合っている。近くに自分の知る人を探し、きっとどんな能力にしたのかとかを話し合っているのだろうと彼は思う。

 そこで彼はふと思い出してステータスを開く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:本居 司

 種族:人間種

 性別:男

 年齢:17

 称号:異界人 勇者の可能性 天使の加護

 (強欲の者)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 職業:隠密者(強欲の王) レベル:1 

              状態:通常

 筋力:60

 体力:100

 耐性:100

 敏捷:80

 魔力:200

 知力:60

 属性:闇 治癒

 種族スキル:

 スキル:【体術Lv.1】【鑑定Lv.1】

(【偽装Lv.1】【体術Lv.1】【スキル整理Lv.max】)

 振り分け可能値:0p

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「よし…うまくいってるな」 



 もし今この場所で鑑定でもかけられた場合に備え、ステータスを改竄をしているのだ。あんな職業やスキルがあったらよく思われない可能性もあると思い、隠すべきだと考えたものをすべて消したのだった。

 それを確認し終えたところで部屋の人混みに隠れてよく見えないが入り口の方で声が聞こえてきた。



 「突然呼び出してしまい申し訳ございません、勇者さま。まず、お話を聞いていただけないでしょうか?」


 彼は自分たちが勇者と言われたことで少し気をよくする。

 そして、周りがその声を聞いて静まったところで話が続くのかと思えば今度は違う声が聞こえてきた。聞き覚えのある彼の嫌いな声だ。自らのクラスの自分よりも人気のあると彼の認識する人物である。



 「ちょっと待ってくれ。まず、ここはどこなんだ?それに君は…?」

 「ここはオービスというあなた方のいた世界とは異なる異世界に存在する国、ゼノバルス皇国です。私はゼノバルス皇国第二皇女、フィリア・ゼノバルスと申します」

 「そうか。僕の名は葉山 美鶴だ」

 「そうですか。ではハヤマ様とお呼びしますね」

 「美鶴で構わないよ」

 「…では、ミツル様と」


 彼は美鶴が少し嫌そうな反応をされたことに口元を歪ませる。

 彼にとって美鶴はライバルであり、最も嫌悪する相手だった。彼の家は決して裕福ではない。彼は決してもともと才能があったわけでもない。それを振りかざすような美鶴がこの上なく嫌いだった。

 話は続く。



 「で、話って何なの?」

 「はい。現在、この皇国と他の国は戦争がいつ起きてもおかしくないような状態に瀕しております。私たち皇国はもとより大きい国ではなく、戦争に向いた地にあるわけでもなく、戦争をしても勝てる見込みはありません。ですから、こうして最後の希望として勇者召喚の義を行った次第なのです」

 「そうなんだ。じゃあ、僕たちはどうすればいい?」

 「私が説明するのは難しいので、まずは城へ向かいそこでお話を聞いていただけませんか?」

 「…みんな!聞いてるかい?僕はその話を聞くために城へ向かおうと思うのだけど、みんなはどうする?」


 彼の嫌いな声が部屋に響く。

 しかし、その声は周囲の人物たちの心を動かす。


 「俺…行こうかな」「…私もそうする」「行っとこうかな…」

 「…じゃ、じゃあ俺も」「なら俺も」「そうするか」

 「これ行ったほうがいいだよな?」「じゃね?」


 連鎖するように声が広がっていく。彼はそれに賛同しない人物を探そうとキョロキョロと視線を動かし、1人だけ何も反応していない人物を発見した。髪の長い線の細いイケメン…まではいかないかもしれないが、そこそこにかっこいいと思えるような外見の男。その男は何も言うわけでも何をするわけでもなくただぼーっと突っ立っているだけだった。

 


 「じゃあ、案内してくれますか?」

 「はい!」


 彼がその男に近づこうと動き始めた瞬間、周囲の人たちが動き始めた。

 そして彼は人の波に流され、その男を見失う。彼は小さく舌打ちをした。


 彼は人の波に流されながら、ふといいことを思いつく。彼は近くの人に手を触れた。

 


 「【強奪】」


 彼は小さく誰にも聞こえないような声で呟く。



 『知力20 【剣術Lv.5】ヲ強奪シマシタ』


 脳内に声が響いた。


 そしてステータスを開く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:本居 司

 種族:人間種

 性別:男

 年齢:17

 称号:異界人 勇者の可能性 天使の加護

 強欲の者

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 職業:強欲の王 レベル:1 

              状態:通常

 筋力:60

 体力:100

 耐性:100

 敏捷:80

 魔力:200

 知力:80

 属性:闇 治癒

 種族スキル:

 スキル:【強奪Lv.1】【偽装Lv.1】【体術Lv.1】

【スキル整理Lv.max】【鑑定Lv.1】

 強奪スキル:【剣術Lv.5】

 振り分け可能値:0p

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 知力が20増え、【剣術Lv.5】を強奪したのを確認した。

 彼は気ついたのだ。ここでスキルや能力値を奪っても誰も気がつかないことに。仮に珍しいと思われるスキルを手にしたとしても、偽装で隠してしまえばいいのだ。

 他の者がどうなろうと、自分に不都合がなければそれでいい。彼は身勝手にも他社のスキルを奪う。

 今日の使用可能数はあと9回。彼は2回分残して強奪を繰り返す。

 


 『筋力20 【並列思考Lv.2】ヲ強奪シマシタ』

 『体力20 耐性20 ヲ強奪シマシタ』

 『【魔力操作Lv.4】ヲ強奪シマシタ』

 『魔力20 火属性 ヲ強奪シマシタ』

 『【龍鱗Lv.6】ヲ強奪シマシタ』

 『水属性 【体術Lv.3】ヲ強奪シマシタ』

 『【魔眼:千里眼Lv.3】【聴力強化Lv.3】ヲ強奪シマシタ』


 脳内に声が鳴り響く。ちょうど7回ほど【強奪】を行ったところで人の列が立ち止まる。



 「この先に皇王がいらっしゃいます。くれぐれも失礼のないようお願いします」


 列の先頭にいると思われるフィリアが声を出した。

 そして、それを言い終わると少し間が空いて人混みでかなり遠くの方にいるにもかかわらず大きく見える扉が開く。生徒たちは中へと入っていった。

 しばらく集団が進み完全に中に入ったところで、彼らの目の前にその部屋にある段の上に乗っているかなり肥満気味な人物が声を上げる。王冠をかぶっていることから王であるということが想像できる。



 「よくぞ来てくれた。勇者たちよ」


 声は少し篭ったような音がしているようで、太っているがゆえであると思われる。

 彼はそれを見て少しバカにしたようなため息をついたあと、ステータスを開く。



 「では、少しは話をフィリアから聞いていると思うが、しっかりと話すことにしよう。教皇殿、頼む」

 「はい。承りましたよ。では、お話しいたしますね」


 話が進んで行くが、彼はそれほど気に留めなかった。

 彼はあの空間でほとんど現状についての情報は得ていた上に、どうせこの国に都合のいいように改竄されていると思ったからだ。

 …事実その通りであるのだが。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:本居 司

 種族:人間種

 性別:男

 年齢:17

 称号:異界人 勇者の可能性 天使の加護

 強欲の者

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 職業:強欲の王 レベル:1 

              状態:通常

 筋力:80

 体力:120

 耐性:120

 敏捷:180

 魔力:220

 知力:80

 属性:闇 治癒 火 水

 種族スキル:

 スキル:【強奪Lv.1】【偽装Lv.1】【体術Lv.1】

【スキル整理Lv.max】【鑑定Lv.1】

 強奪スキル:【剣術Lv.5】【並列思考Lv.2】

【魔力操作Lv.4】【龍鱗Lv.6】【体術Lv.3】

【魔眼:千里眼Lv.3】【聴力強化Lv.3】

 振り分け可能値:0p

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 彼は強奪したスキルを整理しようと思ったのだった。

 【強奪】によって奪ったスキルは、一度”強奪スキル”という枠に映される。それを【スキル整理】によって振り分け値に変更したり、使用可能な通常のスキル枠に移動するのである。



 「剣術…は必要になる可能性が高いな。そのままにしておこう。並列思考…ってなんだ?【鑑定】ああ、なるほど。これは絶対必要だな。ラッキー。魔力操作…は取るためのポイントが足りなかったからちょうどいい。龍鱗…またわけがわかんないものを。【鑑定】むむむ…一旦ポイント行きだな。必要になったら再取得しよう。体術…はすでに持ってるけどレベルは上げておきたいし、追加だな。魔眼…ねぇ。千里眼だろ?微妙なもんとったやつがいるんだな。いらん、ポイント行き。聴力強化…どうだろうか。一応とっておくか」


 あーでもない。こーでもない。と、しばらく画面をいじった後、彼は手元の画面を操作しスキルを通常のスキル枠とポイントへと変更していく。



 ”スキル整理”には主に3つの機能がある。

 1つは【強奪】によって得たスキルを振り分け値へと変換する。

 1つは【強奪】によって得たスキルを通常のスキル枠へ移動する。

 最後の1つが新たなスキルと一度取得したことのあるスキルを取得することだ。


 強奪によって得たスキルは一度”強奪スキル”枠へ映されそこに一度記載されたスキルは、振り分け値へと変換しても再取得することが可能になる。その再取得にかかるポイントは変換したポイントと同じであり、損することもないのだ。

 新たなスキル取得は今の時点の彼はできないのでまたの機会にするとしよう。



 「よし。こんなもんか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:本居 司

 種族:人間種

 性別:男

 年齢:17

 称号:異界人 勇者の可能性 天使の加護

 強欲の者

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 職業:強欲の王 レベル:1 

              状態:通常

 筋力:80

 体力:120

 耐性:120

 敏捷:180

 魔力:220

 知力:80

 属性:闇 治癒 火 水

 種族スキル:

 スキル:【強奪Lv.1】【偽装Lv.1】【体術Lv.3】

【スキルポイント割り振りLv.max】【鑑定Lv.1】

【剣術Lv.5】【並列思考Lv.2】【魔力操作Lv.4】

【聴力強化Lv.3】

 強奪スキル:

 振り分け可能値:1454p

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「にしても【龍鱗】以外と高ポイントだったな。ま、必要になったら後で再取得すればいいだろ。よし、とりあえず【強奪】のレベル上げに専念するか。一気に取れるのは今は2つまでみたいだし、能力値も20までみたいだからな。2まで上げて、とりあえずそこで保留だ」


 彼はポイントを使い【強奪】のレベルを2に上げる。



 『【強奪】ノLv上昇ヲ確認。取得可能スキルガ増加シマシタ』


 声が脳内に響く。

 それを確認しようと、再度ステータスを開こうとしたところで今まで聞こえ続けていた声が別のものへと変わったため彼は顔を上げる。

 「では、初めにやっていただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 「はい。僕たちにできることなら」


 そして件の葉山くんは自分が特別なのが嬉しいらしく、綺麗に騙されてうまく乗せられてる終いです。



 「ありがとうございます。まず、勇者さまがたにはステータスというものを確認していただきたいのです。ステータスは”ステータス”と唱えていただければ閲覧可能です」

 「それは僕たちも知っているのですが、どうしてですか?」

 「勇者さまがたの能力を知っておきたいのですよ。それを見て訓練なども考えなくてはいけませんからね」

 「なるほど…ステータス!」


 葉山くんが早速ステータスを出した。

 それにつられて他の生徒たちも出し始める。



 「では、初めにやっていただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 「はい。僕たちにできることなら」

 「ありがとうございます。まず、勇者さまがたにはステータスというものを確認していただきたいのです。ステータスは”ステータス”と唱えていただければ閲覧可能です」

 「それは僕たちも知っているのですが、どうしてですか?」

 「勇者さまがたの能力を知っておきたいのですよ。それを見て訓練なども考えなくてはいけませんからね」

 「なるほど…ステータス!」


 彼にはうまいこと乗せられているようにしか見えない…というよか事実であるのだが美鶴がステータスを出す。それにつられて他の生徒たちもステータスを出し始めた。

 彼はステータスを出そうとしたのを一旦止め、話を続きを待つ。



 「次になのですが、私の横にいる2人の前に並んでください。勇者さまがたの能力を確認して記録しますので」

 「わかった」


 そして、生徒たちがぞろぞろと動き出したところで彼は初めてステータス画面を出しなおした。

 見られるとまずいと思われるものだけを消し、彼は列に並ぶ。



 「あ、さっきのやつ」


 彼は自分の列の前方にさっきの男を発見した。早くこれを終わらせその男に近づこうと思い、なかなか列が進まないことにイラつく。



 「名前は?」

 「本居だ」

 「ふむ…頑張ってくれたまえ。これからの君たちには大いに期待している」 

 「あ〜。そうか。んじゃ」


 彼は手短に話を切り上げ、その男を探す。が、どちらへ視線を向けてもその男は見当たらない。



 「では、勇者さまがたのステータスの記録が終わりました。これから勇者さまがたのお部屋へ案内いたします。歓迎の準備を終えるまでそこでお待ちください。また、専属のメイドをご用意いたしましたので、何かご用がございましたらお申し付けください」

 「わかりました」

 「では、フィリア様。ご案内をお願いします」

 「はい。わかりました」


 そんなうちに再び生徒が動き始めた。

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