13.呼ばれましょう
『みなさんのステータス振り分けが今終わりました。これから、オービスへと転送します。今回はほぼ同時に二ヶ所で召喚魔法が発動されたため、王国または皇国のどちらかに転移されます。これは私の権限ではどうにもできずランダムになってしまっています。どうか、みなさんの無事を祈ります』
結局、16時間ほど経って全員がステータスの振り分けを終えた。
で、これから向こうへと転移することになっている。
『では、ご幸運を』
天使がそう言った瞬間、再び周囲が光を放ち、向こう側へ転移された…はずだ。
僕は未だに転移していない。
「さて、『再構築』」
僕が指をふるうと囲っていた白い壁が撤去されて、ただの真っ白い空間に戻る。そして、その中心に天使が1人ではなく29体ほど立っている。全く同じ外見、全く同じ声、全く同じ感性を持ったコピープログラム。それぞれが今回の転移の少しずつを担当している。
「どう?全員きちんと送れた?」
『はい。無事に転送が完了しました』
「ふ〜ん。じゃ、後のことは任せるよ。僕も準備が済んだら手にするから陣作っといて」
『了解しました』
2人の天使が陣を描き始める。
さて、僕はこれから準備をするのだ。一応、神野たちは全員同じ方に飛ばすように干渉したり、生徒会メンバーもある程度は同じにしてみたり、と色々と向こうに送る際にやったことは置いておくとして、僕も向こうに行く前にやるべきことがあるのだ。
「『招集:聖霊群』」
僕は召喚陣を描いて作った聖霊計200匹のうちの15匹を呼び出す。
火の聖霊、フレア。水の聖霊、アープ。風の聖霊、ノトス。地の聖霊、ノーム。雷の聖霊、イリヤ。光の聖霊、ルグ。闇の聖霊、シェイド。空間の聖霊、エール。時の聖霊、ホーラ。命の聖霊、イマ。死の聖霊、プタハ。災厄の聖霊、アンラ。幸福の聖霊、ブリズ。創造の聖霊、カング。破壊の聖霊、イシュ。
僕が描いた陣の中から光の塊が飛び出し、僕の体の中に入っていった。
『王様。おひさしぶりです。我等一同、ご帰還をお待ちしておりました』
僕の脳内に直接響くように綺麗な女性の声がした。
(この声はアープかな?元気にしてた?)
『はい。当然です』
(じゃ、これからしばらく楽しくやろうね)
『我等におまかせを』
さて、これで準備は整った。
僕も行くとしようか。
「陣はかけた?」
『いつでも』
「了解〜。じゃ、送って」
『了解しました』
僕が飛ぶのは完全にランダムだ。ま、どちらに行っても出て行くから構わないんだけど、皇国だったら別の国に入るのに手間がかかるから面倒だな…
…これってフラグに入るのかな?
『では、後は我々におま…せく…さい。世界…、我等の…加…護を…』
途切れ途切れの声がしたとともに、僕の視界も真っ白く染まる。
* * *
僕が再び目を開いた場所は、白塗りの壁に囲まれた神殿…あ、ハズレだ。こっちは皇国。
僕は立ったまま周りを見渡せば、天井や壁にシャルドネを描いた壁画がある。そして、壁の近くに白服の協会の人っぽい人間がいて、その真ん中に今回の召喚主っぽい少女がいる。
壁に描かれた文字を確認すれば、『人間種…神によって作られし唯一にして至高の種族』的なことが書かれてた。
…どう考えても皇国でしょ。
ハズレだ。
「突然呼び出してしまい申し訳ございません、勇者さま。まず、お話を聞いていただけないでしょうか?」
そんなことを思っていると、召喚主っぽい少女が声を張り上げた。
召喚された場所が場所なこともあり、ざわついていた生徒たちが一斉に静まりかえった。
あ、そういえば、こっちって誰かまとめ役になれそうな奴っているのかな?誰かがどうにかしないと話が進まないんだけど…
「ちょっと待ってくれ。まず、ここはどこなんだ?それに君は…?」
「ここはオービスというあなた方のいた世界とは異なる異世界に存在する国、ゼノバルス皇国です。私はゼノバルス皇国第二皇女、フィリア・ゼノバルスと申します」
ここがどこかについての説明を求めた奴誰?多分、僕が聞いたことある声だとは思うんだけど、どうにも思い出せない。
キョロキョロと見回してみると、ちょうどその召喚主っぽいの…フィリアの前に立つ生徒だった。
ああ、生徒会に立候補してた奴か。よく異世界に召喚された時に頑張っちゃうような正義感に溢れたような奴だった記憶がある。残念ながら、一般人なので魔術の使えないということから落ちてたけど。
「そうか。僕の名は葉山 美鶴だ」
「そうですか。ではハヤマ様とお呼びしますね」
「美鶴で構わないよ」
「…では、ミツル様と」
ああ、しかもちょっとナルシストだったっけ。フィリアに嫌そうな反応されてるよ。
立候補した時もいろいろ言ってた覚えがあるね。実に僕が嫌いなタイプ。
「で、話って何なの?」
「はい。現在、この皇国と他の国は戦争がいつ起きてもおかしくないような状態に瀕しております。私たち皇国はもとより大きい国ではなく、戦争に向いた地にあるわけでもなく、戦争をしても勝てる見込みはありません。ですから、こうして最後の希望として勇者召喚の義を行った次第なのです」
「そうなんだ。じゃあ、僕たちはどうすればいい?」
「私が説明するのは難しいので、まずは城へ向かいそこでお話を聞いていただけませんか?」
「…みんな!聞いてるかい?僕はその話を聞くために城へ向かおうと思うのだけど、みんなはどうする?」
葉山くんはそんなことを生徒たちに向かって叫ぶ。
生徒たちはその言葉を聞いて、ざわめき始めた。
まぁ、このままここに放置されてもどうにもならないし、ついていかないといけないのは必須だろうけど、ついていったら戦争に参加させられるのはほぼ確実。
…というか、葉山くんがリーダーってことでいいの?確かに、生徒会やるくらいだしクラスからの信頼だとかはあったんだろうけど、他のクラスの人たちはどうなのさ。
「俺…行こうかな」「…私もそうする」「行っとこうかな…」
「…じゃ、じゃあ俺も」「なら俺も」「そうするか」
「これ行ったほうがいいだよな?」「じゃね?」
そんなことを思っているうちに、1人がぽつりと呟いたのをきっかけにみんなが行くとか言いだした。
場の空気に任せる的な奴らが多かったのか、勢いに乗せられただけなのかしらんが、それで良いのだろうかな?
…ま、いっか。僕は関係ないし。
「じゃあ、案内してくれますか?」
「はい!」
そう返事をしてフィリアが歩き出し、その後ろを生徒たちがずらずらと続いて歩く。
やけに豪華に作られた扉を開いて神殿みたいな場所から出ると、赤い絨毯の敷かれた廊下がずっと遠くまで続いている。そこを生徒が歩いていく…なんか蟻の行列みたいだね。みんなちょうど黒髮で制服を着てて真っ黒だしさ。
僕はその最後尾につき、僕の後ろを聖騎士的な白銀の鎧を着た人たちが続いてくる。その人たちの視線が痛いよ。明らかに警戒してるオーラ出してるよ。面倒くさそうだから関わらないようにしよ。
そのまましばらく歩き続けること2分ぐらい。
多分、前の時と同じように謁見の間的な場所に連れてこられたっぽい。客人を迎えるために見え張って作ったような扉が僕らの前に佇んでいる。
「この先に皇王がいらっしゃいます。くれぐれも失礼のないようお願いします」
先頭に立ったフィリアがそう言うと、僕の後ろにいた騎士たちが前に行き扉を開いた。
中からむわっとした空気が溢れてきたのち、完全に扉が開ききる。
中はイギリスの国会のように左右に貴族や教会関係者たちが並び、その一番奥にデップリと太った王冠を頭に乗せ、えらく豪華な服を着た肉塊が座っている。
ふむ…すごく愚王臭がする。確かにこうなるように仕組んだのは他でもない僕なんだけど、ちょっとした愚王程度で収めるはずだったのにどうしてこんなことになってるんだろ?多分、これ横にいるニヤニヤしてるやつが王様を傀儡にしてるんでしょ?
…しっかり見張っておけばよかったよ。そうすれば、もうちょっとくらいましになってたかもしれないね。
その中へ僕らは歩いていく。
そして、愚王の前に立った。
「よくぞ来てくれた。勇者たちよ」
王の口からこもった声が聞こえる。太りすぎて声も出づらいと。
…もうどうしようもないんだけど。
「では、少しは話をフィリアから聞いていると思うが、しっかりと話すことにしよう。教皇殿、頼む」
「はい。承りましたよ。では、お話しいたしますね」
そんな感じに横にいたやつが話し始めた…
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え?話し?聞いてなかったよ。
どうせいろいろ言って、勇者を自分たちの陣営に引き込もうを必死だっただけだからね。
まぁでもうまくいったみたいで、一部のやつを除いたほとんどの生徒が納得して皇国に協力するつもりになったようだ。さすがに、今までにこういうやり取りをしてこなかった単なる一般人が、騙されるのはしょうがないことだと思うよ。
ま、教皇が詐欺師じみてたのもあったけどね。無駄に話し方が上手だったよ。
「では、初めにやっていただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。僕たちにできることなら」
そして件の葉山くんは自分が特別なのが嬉しいらしく、綺麗に騙されてうまく乗せられてる終いです。
「ありがとうございます。まず、勇者さまがたにはステータスというものを確認していただきたいのです。ステータスは”ステータス”と唱えていただければ閲覧可能です」
「それは僕たちも知っているのですが、どうしてですか?」
「勇者さまがたの能力を知っておきたいのですよ。それを見て訓練なども考えなくてはいけませんからね」
「なるほど…ステータス!」
葉山くんが早速ステータスを出した。
それにつられて他の生徒たちも出し始める。
「次になのですが、私の横にいる2人の前に並んでください。勇者さまがたの能力を確認して記録しますので」
「わかった」
葉山くんはその列の先頭に並び、その後ろに生徒が続いた。
…僕、行かなくていいかな?めんどくさいんだけど。
あ。でも、僕の分の部屋が用意されないとかはやめてほしいし、一応行っとこう。
僕の列に並ぶ。
ああ、ステータスは唱えると目の前に画面のように表示される。それは他人にも見ることが可能で、そのステータスの持ち主は見せる範囲が設定できるというおまけが付いているのだが、多分みんな全く知らずに全部見せてるんだろうね。
僕はLvと仮想技能の欄を消す。これがなければ、僕は単なる召喚失敗で呼ばれただけの一般人に見えるはずだ。魔物使いは70pの低いpの不遇職。ステータスも一般の成人男性程度であるうえに、勇者の称号を持っていない。完璧でしょ。ああ、一部の素質のある人は称号が勇者の可能性ではなくて勇者なんだけど、勇者の可能性すら持ってない僕はどう見ても単なる一般市民なわけだ。
そんなことを思ってニコニコしていると、僕の番になる。
「名前は?」
「松井だよ〜」
「ふむ…そうか。行っていいぞ」
その人は僕の顔を確認し、紙に僕のステータスを適当に書き写すと僕を追い払うかのように次の人を呼ぶ。
ちなみに次の人の対応を確認しておこう。
「名前は?」
「や、柳田です」
「そうか。これからよろしく頼むよ。君たちは我々の希望なのだから」
「は、はいっ」
はい、この対応の差です。
この国では人間以外を迫害してるだけでなく、ステータスの低いものなんかも見下される。
勇者の中に一般人が紛れ込めば、まぁこうなるよね。別の望んでやってるからいいんだけどさ。早く手切れ金とかよこして追い出してくれないかな〜。
僕は報告を終えると、生徒の中に紛れる。
「では、勇者さまがたのステータスの記録が終わりました。これから勇者さまがたのお部屋へ案内いたします。歓迎の準備を終えるまでそこでお待ちください。また、専属のメイドをご用意いたしましたので、何かご用がございましたらお申し付けください」
「わかりました」
「では、フィリア様。ご案内をお願いします」
「はい。わかりました」
そう返事したフィリアはその部屋を出る。生徒たちはそれに続く…
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