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8.満喫しましょう

 『ありがとうございました〜!』


 パチパチと拍手が沸き起こる。

 結局、すべて見終わったのは65分後。

 さすがに高校生がシェイクスピア作品を演劇部でもないのにやり切るのは無理だったようで、本来の”ロミオとジュリエット”は2時間ちょっとかかるものだが、所々がカットされ、役者の数も少し減り、場面数も削って、1時間弱で終わった。

 ああ、石井と安井はちゃんとやり切ったよ。石井が詰まった時は安井がちゃんとフォローして、しっかり誤魔化せてたし。


 …さて、この動画は後でしっかりと音声とかをいじって編集して石井の家に送りつけよう。


 僕はビデオカメラをポケットにしまう。

 ああ、今更だけど、当然生徒のカメラとかの持ち込みは禁止だ。僕は生徒会に許可を取って来たわけで、問題はないが、他の生徒は没収されるよ。

 まぁ、許可といっても後で画像データとかを生徒会が文化祭の記念画像とかで使うのに協力、っていう形なんだけどね。


 そんなことを思いながら三脚もポケットにしまう。



 「じゃ、行きますかな〜」


 僕はさっき…とは言っても1時間くらい前になるけど、探知した時に見つけた場所に向かう。

 場所は本館4階中央階段付近。つまり、僕らが呼ばれた場所だ。

 ここで起きたことについて、僕が”魔力が見える”ということから、何かしら普通の人間に対し影響を及ぼすが、有益なものと判断されたようで解析が続けられている。魔法陣自体を紙に書き取って意味を解析しようとしているらしいけど、その辺は別にどうだっていい。

 で、その起こった場所自体も解析が続けられていたんだけど、その場所で僕が知らない魔力を探知した。今この学校にいる魔術にの魔力は一度見て覚えてるから、魔術師の中でも僕ら側の人間ではないと思う。

 ということで、確認に行くのだ。

 …まぁ、どうせ良からぬ輩がこっそり忍び込んでるんだろうけどさ。


 そんなことを思いながら、廊下を歩く。

 相変わらずこのお面は目立つみたいで、通りかかる人にギョッとされる。

 とても楽しいです。はい。


 


 少し歩いて階段を上って、目的の場所に着く。


 その場所では、僕ら側の魔術師が不可視系の魔術を使って作業を続けている。

 で、その横で堂々と不可視系の魔術を使って解析をしている人がいる。


 ああ、通常の不可視系の魔術って普通に魔術視同士では見えちゃうらしく、不可視系の部類の魔術で魔術の中の”魔力視”には引っかからないのはかなり高位の魔術らしいんだけど、僕にはサーモグラフィーみたいな感じに、魔力の人型が見えてる。


 どうやら、その人は不可視系の魔術を熟練でもしているのだか知らないけど、横で作業している僕ら側の魔術師には気付かれていないようだ。ああ、もしかしたら全く違う部類の魔術っていう可能性もあるね。


 まぁそんなことは置いといて、連絡してやろうか。関係者だったら僕が手を出す必要もないし。



 『あ〜あ〜…聞こえてます〜?』

 『あ、ああ。聞こえている。こちら李川だ。どうした?』

 『不審者?というか、解析してるとこに僕が知らない魔力を発見。作業の真横で普通にやってるけど、関係者?』

 『それは作業中の2人以外にか?』

 『そ。部外者?関係者?』

 『部外者だ。今結城と姫路を向かわせる』

 『了解〜』



 さて、部外者確定〜。見世物にしてあげよう。



 「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃいとな。ちょっとマジックショー」


 僕はお面を普通に付け直し、ポケットからマントを取り出して羽織る。

 僕の声に近くにいた人がこっちを見る。そして、それにつられるように十数人程度の人がこっちを見た。



 「タネも仕掛けもございません〜。じゃあ、いきますよ〜。1…2…3!」


 僕はその部外者の魔術に干渉し、魔術を解除してあげる。

 すると、そこには今までいなかった人が突然現れる…というか、普通の人にはそう見えたはずだ。

 


 「「「おお〜」」」「どうやってやったんだろ〜?」

 「すげぇ〜。ぜんっぜんわからなかったわ〜」


 観客は満足してくれたようだ。

 そして、その歓声を聞いて部外者も初めて見えていることに気がついた。


 

 「なっ⁉︎お、俺の魔術が…くっ」


 部外者は黒いスーツ姿のサラリーマン…のような格好の一般人にしか見えないような人。

 そいつは近くに出していた自分の道具を両手で掴み、急いで逃げようとするが…まぁ、残念ながらそれは無理だ。僕が逃げられるような状況でこんなことをするわけがないだろう。

 やる前に周囲に探知をかけ、結城と会長が走って来ているのを確認した。それから、ちょうど僕が魔術を解いたあたりでここに着くようなタイミングで僕はこれをやった。

 つまり、観客の中に結城達はすでにいるということだ。


 サラリーマンが逃げるのと同時に、結城達が不可視系の魔術を発動して追いかける。

 そしてすぐに捕まり、一緒に不可視系の魔術で見えなくされてから連行されていった。


 めでたしめでたし。



 「これにて御免〜っ」


 僕はそのままマントを翻しながらその場から走り去る。

 まぁ、僕はもともとマジックとかが好きで頑張って練習したことがあるので、そのままマジックショーとかをやっても良かったんだけど、後で実行委員会の人に許可なくそんなことをして怒られるのは面倒なので、逃げることにした。…いや、できないわけじゃないよ?というか、僕の特技でもあるくらいだし。


 そして、階段付近で曲がってすぐにマントを外し、お面を元のように頭の横につけ直す。

 今更思ったんだけど、こうやって横につけるならひょっとこのお面とかにすれば良かったね。その方が合ってるし。

 僕はマントを綺麗に折りたたんでポケットにしまい直し、歩き出す。


 

 「じゃ〜、この後はどこに行こうかな〜」


 僕はポケットから文化祭パンフレットを取り出す。

 一応、全てに目を通しているので、行ってみようと思っている場所には目星をつけてある。

 …そのうちのほとんどが食べ物で、なおかつ甘いもの中心なのは気にしないでほしい。僕の趣味だもの。仕方がないのだ。

 ただ、順番も何も特に考えていなかったのだ。

 混むようなところは明日の始まってすぐで行けばいいし、今日は適当に見て回るだけのつもりなので考えていなかった。



 「とりあえず、お菓子研究会にでも行こうかな〜」


 この学校のお菓子同好会は、実に素晴らしいと思う。なにせ、クオリティーがかなり(・・・)高い。

 去年はワッフルを作って売っていたのだが、なかなかに美味しかった。

 今年はブルーベリーチーズケーキとか、ラズベリーのチーズケーキとか、いろんな種類ベリーを使ったのチーズケーキを作っているらしい。楽しみだ。

 お菓子研究会は当然のように”家庭科調理室”を使っている。その場所は僕らのお化け屋敷の2つ隣の教室なので、幾らか買ってクラスに持って行こう。

 神野は甘いものはそんなに好きじゃないが、チーズケーキは好きらしいので今年は運がいい。


 僕は階段を降りる。


 で、列を見てちょっとげんなりする。


 

 「最後尾こちらで〜す」

 「チーズケーキ、いかがですか〜?どれでも1つ150円で〜す」


 そんな呼び込みをしている列は、パッと見た感じ30人くらいが並んでいる。


 ついでにその奥の奥にあるうちのクラスを見てみると、並んでいる人用に出していた椅子、計37脚が全て埋まり、立って並ぶ人が10人くらいいる。大繁盛のようだ。

 お金を取れないのが惜しいところだ。


 僕は仕方ないが、列の最後尾に並ぶ。

 ついでにポケットの中からルービックキューブの正二十面体のバージョンのやつを取り出す。

 まぁ、暇つぶしだ。母親がこれが好きで、収納に使っていたダンボールの中にしまいっぱなしになっていたのを最近発見してやっている。こういうのはあまり得意ではないのだが、何せ僕は一度に何億何兆もの思考をできるのだ。時間さえあれば動かした後の色の配置とかを全て予測し、正解を選んで完成させることはできる。まぁ、時間が必要なので暇を潰せるのだ。

 僕はカタカタと手を動かして面を揃えていく。

 そして、そんな間に列が進んでいく。



 「…あの、済みませんが」


 僕の真横から威圧的にも取れるような感じな冷たい声色の声がかかる。僕はちょっとそちらに目線を向けると、その声の主は僕を見ているので、僕を呼んだみたいだ。



 「えっと、僕?…あれ?」

 「…はい。学生の方ですよね?生徒会室は…え?」


 僕は返事をしながらそっちに顔を向けると、なんだか見覚えのある顔が…

 長く、黒というより深い紺色に近い髪色。少し垂れ気味な優しそうな目。それなのにあまり優しそうではないように感じさせるような雰囲気…



 「ゆーちゃん?」

 「しんくん?」

 「お〜!ゆーちゃん、来てたんだ〜。というか相変わらず、知らない人に話しかけるの下手だね〜」

 「う、うるさいよ。私がひどい人見知りなのはよく知ってるでしょ!」

 「人見知りというか、完全に相手を威圧してるけどね〜」

 「ち、ちがうもん!ちょっと緊張してるだけだもん」

 「さて、どうでしょうね〜。で、どうしたの?学校は名古屋でしょ。今は長期休暇中とかなの?」

 「え、えっとね…こっちに引っ越すことになったんだ」

 「え?…と言うことは、こっちに帰ってきたの?」

 「うん…えへへ」


 ゆーちゃんはなんだか嬉しそうな顔をし、長い髪を弄っている。

 そして、ちょっと気がついたんだけど、ゆーちゃんも魔術師のようだ。魔力が高い上に体から魔力があふれないようにしっかりと抑えられている。そんな芸当ができるのはこの世界では魔術師のみ。まぁ、生徒会に堂々と行こうとしてたし、こっち側の人間だといいな。



 「どこに引っ越してきたの?こっちでも学校は行くでしょ?どこに行くの〜?」

 「ちょ、ちょっと1個ずつにしてよ〜。えっと、引っ越したのは前にしんくんが住んでた家だよ。それとね、学校はここに転入するよ。一緒になれるといいね」

 「おお〜。そっか、じゃあ同じクラスに来れるといいね」

 「うん!…えっと、しんくんは今どこに住んでるの?鈴ちゃんは元気にしてる?」

 「ああ、僕は3丁目のアパートで一人暮らし中だよ〜。あと、僕の家族は父さん以外はもういないよ〜」

 「…へ?」

 「今年の始め頃に交通事故でね〜。まぁ、しょうがないし気にしないでね?」

 「う、ぅん」


 ゆーちゃんが僕にものすごく申し訳なさそうな顔を向け、目をそらす。

 


 「ほら〜、気にしないでよ。僕の方が悪いことしてるみたいだしさ〜。ああ、そうだ。ゆーちゃんはなんで生徒会に?」

 「え、えと…ちょっとこれからお世話になるし、一応挨拶というか…その、ね?」

 「ゆーちゃんはこっち側の味方なの?」

 「こっち側?」

 「生徒会…確か、学生魔術師なんたらとかいうやつの見方?」

 「なんたらじゃなくって、学生魔じゅ、え?…えっ⁉︎」

 「ああ、呼ばれたのがあの陣関係なら僕は関係者だよ〜。ある程度のことは知らされてるし」

 「え?じゃあ、しんくんは…?」

 「ん?僕は魔術なんて使えないよ〜。普通に関係者。それと、生徒会に行くなら今はやめといた方がいいよ〜」


 多分、今行ったらさっきのやつの尋問中かなんかで待たされることになるだろうからね。



 「え?どうして?」

 「ちょっと捕まえた人がいるからだよ〜。ま、ゆーちゃんもどうせ来たんだし、ゆっくりしていきなよ。っと、あともうちょっとだね。ゆーちゃんも食べる?チーズケーキ」

 「え?あ、うん。食べたい」

 「ゆーちゃんも相変わらずだね〜」

 「そう…かな?これでもちょっとくらいは変わったと思うのにな〜」

 「うん。ニコニコしてれば優しそうに見えるのに、僕と話すまでほとんど無表情だったよ〜。もうちょっと頑張ろうよ〜」

 「えっ⁉︎これでも頑張ってたのに…」

 「ははは〜。でも成長は…う〜ん。そんなでもないのかな?」

 「ええ〜!ほら、ちゃんと身長は伸びたよ!ほら!」


 ゆーちゃんが僕の目の前でしゃんと背筋を伸ばしている…が、僕の胸あたりだ。

 僕の身長が176cmそれということは、大体150cmあればいい方くらい?

 昔からちっちゃかったけど、僕との身長差は増えたみたいだね。中1ぐらいの時は同じくらいだったのに。



 「微妙だね〜」

 「うぅう…」

 「ははは〜。いいんじゃない?ちっちゃいと女の子っぽくてさ〜」

 「むぅ…」

 「拗ねないでよ〜。ほら、もう次だしさ〜」

 

 そんなやり取りの間に、列の一番前まで到達した。

 


 「ようこそ、お菓子研究会へ。ご注文は?」

 「とりあえず、1つずつね〜」

 「え…?あ、えっと、1つずつですか?」

 「うん。えっと、6種類だから…ほい、900円」

 「あ、はい。ちょっと用意するから、待っててください〜」

 「ほ〜い」


 エプロンをつけた受付さんは、ケーキを用意しに行く。僕は受付の近くに置いてあった紙皿を発見し、こっそりといただく。

 文化祭中は飲食可能エリア以外は飲食が一応禁止なので、ここでケーキを買ったら少し移動しないといけないのだ。


 そして、6色のカラフルなチーズケーキを入れ物に入れて持ってきた。


 僕はそれを受け取り、ゆーちゃんを連れて移動する。


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