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7.仕事をしましょう

 で、約1週間後。文化祭。


 あれから放課後は、役の人に動きを教えたり、設置場所を細かに話し合ったり、衣装を合わせてみたり、装置の動きを確かめたり…などなど、いろいろなことをやった。

 どうでもいい役の分担とか、教室のことだとか、そういった面倒なことは全部クラス委員に任せ、好き勝手にやらせてもらったよ。



 ああ、それと紹介もしてもらった。魔力とかが見えるようになってしまった少年Aとしてね。

 ま、そのせいでちょっと協力を要請される羽目になったよ。文化祭は学校の人だけでなく、他校の人や保護者、来年入ってくる中学生やら普通に遊びに来る人…いろいろな人が学校に来る。


 まぁ、つまり変な人が入っていないかの報告をさせられることになった。

 トランシーバーを渡され、魔力を多く持っている人間がいたら報告することになっている。魔術師の人たちも万年人不足のようだ。


 で、今開会宣言をしているとこ。



 『ここに、第32回文化祭の開会を宣言します』


 校長がそう言い、進行が開会式典をしゅうりょうさせて生徒たちは教室へと戻っていく。 


 さて、僕もお仕事の時間だ。




 教室に戻ると、僕は役のうち”ゾンビ”と”ドラキュラ”役の人を呼ぶ。

 ま、やるのはメイクだ。

 ゾンビは全体的に身体のあちらこちらに切り傷やすり傷を作り、肌色を残しつつ色白くする。

 ドラキュラは青白いくらいに肌の色を白っぽくして、カラーコンタクトを入れ、牙をつける。

 他の役は、被り物とかで済むのと装置しかないのでメイクはこいつらだけ。


 ああ、ちなみに狼男の頭。結構好評だったよ。

 作ったその日に持って行き、朝のH・Rの時間にかぶっていたら先生がビビって転んだ。うん。すごく面白かったよ。

 矢辺がえらく気に入ってしょっちゅうかぶっていたので、本番も狼男の役を矢辺がやることになったりしたが、実際いい出来だと思うよ。

 というか、それって狼男じゃなくて狼女になってるんだけど…いいのかな?


 で、神野と渡部がくる。

 神野は面白そうだったから僕が勝手に選び、渡部はドラキュラの役が金髪だった上に長身だったのでちょうどいいと思って選ばれた。

 本人も渋々な様子ではあったが、まんざらでもない表情をしていたのを僕は知っている。

 ついでに神野は僕が勝手に選んだけど、神野自身がドッキリとかが結構好きなのでノリノリだったりする。



 「さて、じゃあ座って〜」

 「おう」

 「…ああ」


 2人はすでに衣装を身につけ、僕の前に置いてある椅子に座る。

 僕は傷とか色々とやることの多い神野の準備を先にすることにし、神野の顔や体に血のりやメイクアップパテとかいうものやアイシャドウやらファンデーションを使い、痣の痕や怪我を作っていく。

 その間に渡部にカラーコンタクトと尖った耳と牙をつけてもらう。

 十数分かかって神野のメイクが終わると、渡部のメイクに取り掛かる。全体的に肌の色を青白くし、目元を青黒く、唇を不気味なくらいに赤くする。

 


 「さて、これで終了〜。じゃ、ほとんど乾いてるけど、もうちょっとの間はこすったりしないでね〜」

 「おう。了解だ」

 「…ああ、わかってる」


 神野は鏡を見てすごく楽しそうにニヤニヤしてる。

 渡部は僕の方を見て、悔しいがうまい的なことでも思っているような表情をする。

 

 僕はそれを終えると、矢辺と依田を呼び込む。


 

 「お〜い。矢辺さん、依田さんちょっと来て〜」

 「はいはい。何〜?」

 「今行く…」

 「こっちこっち〜」


 せっかく作った衣装だ。完成したところを一番に見せてあげようじゃないか。

 僕が手招きをして2人を呼ぶと、小走りで僕らがいる控え室に来る。


 

 「その辺で目をつぶって〜」

 「え?なんで?」

 「いいから〜。ほら、依田さんも」

 「わかった、うん…」

 「じゃ、そのまままっすぐこっちに来て〜…そこでストップ」


 僕は入り口で2人に目を瞑らせる。

 そのままゆっくり控え室に入れ、神野たちの前に立たせる。

 そして、神野と渡部を呼び、目の前に立たせた。



 「いいよ〜。目、開けて」

 「え〜何なの〜…っ⁉︎」

 「…………!」

 「くはっははは!」

 「ふふふ〜。どう?驚いた?」


 目を開けた瞬間、2人が凍りついたかのように動かなくなった。

 神野と僕は爆笑中。渡部はそれを見て苦笑いしている。



 「もう!やめてよ〜」

 「でも、どう?自分たちで作った衣装の完成図は」

 「すごい…これ、しんちゃんが?」

 「そ。神野くんの方が絶対怖いけど、渡部くんもいい感じな雰囲気だよね〜」

 「しんちゃんって、こんなことまでできるんだ〜。すごいね!」

 「ははは〜。めったに使うことはないけどね」


 そこしして動き出した2人は、神野と渡部の周りをくるくると回ってあちらこちらから出来栄えを見ている。



 「じゃあ、わたしも準備してくる!」

 「私、手伝うよ…」

 「いってらっしゃ〜い」


 2人も控え室を出て、衣装を持って更衣室だか女子トイレだかに走っていく。

 後15分で公開開始時間になる。



 「さて、じゃあお披露目と行こうか〜」

 「お、もう動いてもいいのか?」

 「うん。どうせだから驚かさないとね〜」

 「よっしゃ、新ちゃんは電気一瞬消してくれ。俺はその間に向こうに移動するから」

 「了解〜。じゃあ、10秒消すからね〜」

 「はぁ…お前らまだやるのかよ。俺は付き合わねぇからな」


 僕は控え室の端の方にあるクラスの電気の電源に向かう。

 そして、電源を切る。


 『え?あれ?何?』『うぉっ⁉︎電気が消えた!停電か?』

 『誰だよ電気消したの〜!』『早くつけろ早く…全く』

 

 向こうのお化け屋敷の方から声が聞こえる。

 僕は10秒が経ったのを数え終わると、電源を再びつける。


 『キャァアアア!』

 『うわぁぁ!…って、神野⁉︎』

 『ギャァア!』『ひっ…ひぃぃい!』


 向こうの方から慌てる声が聞こえてくる。

 僕は控え室から急いで出ていく。




 向こう側には、座り込んでる女子3人と抱き付き合っている女子4人と転んでいる男子5人とそのまま普通に立っている男子3人がいる。

 それから、声を聞きつけて廊下で装飾の最終確認をしていた数名が入ってきて「うわぁ!」とか声を上げている。


 …やばい、超楽しい。



 「いえ〜い」

 「イエーイ」


 僕は神野とハイタッチする。

 すると、クラスメイトがぞろぞろと近づいてきた。



 「マジか。何それスゲェ」「どうなってるんだよそれ!」

 「こわ〜い」「あれ?泰は?」

 「ひゃあ⁉︎」「あ、そっちにいたんだ。うわぁ。そっちもクオリティたけぇな〜」


 神野の周りを取り囲む。

 そして、気づかれた渡部も取り囲まれる。



 あ、いいこと思いついちゃった。

 僕は神野に耳打ちする。

 神野は僕を見てニヤッとすると、突然下を向いた。



 「あ゛ぁ…あ゛あぁあ゛…」


 神野が再び突然上を向いて、次は声にならず、喉の奥から音が出ているだけのような声を出す。

 つまり、予行練習をしてもらったのだ。


 それを見て、神野の周りにいた人が一歩後ずさる。



 『公開時間5分前です』


 アナウンスが入る。



 「あ、準備早く終わらせないと」

 「やべっ。向こうのやつそのまま」


 アナウンスを聞いてみんなが準備に戻っていく。


 僕らもそれを見て控え室の戻る。



 『キャァ⁉︎』

 『ユキちゃん、ちょっとやめてよ〜』

 『はははっ。どう?びっくりした?』

 『もう見慣れちゃったよ〜だ』

 『ええ〜。そんなぁ』


 廊下から矢辺と何人かの女子の声が聞こえてきた。

 どうやら向こうの準備を終えたようだ。


 

 「いやぁ〜。みんな驚いてたね〜」

 「さすが新ちゃん。これで今年の優秀賞は決まりだろ」

 「頑張ってよね〜。うまくいくかは神野くんたちにかかってるんだから〜」

 「任せとけよ!俺の本気を見せてやる」

 「ああ、後で安井さんたち連れてくるね〜」

 「おう。和也の見っともないところを安井に見せてやんよ」


 僕が神野と話していると、後ろから誰かが来るのを感じる。

 ま、十中八九矢辺だろうけど。だって、僕の後ろを見てる神野がニヤニヤしてるんだもの。


 そんなことを思っていると、トントンと肩を叩かれる。

 僕は後ろを振り向く…まえに、制服の内ポケットから仮面を出して顔に当ててから振り向く。

 


 「ウォオオ!」

 「ガォオ!」

 「きゃぁあっ⁉︎何それ!ていうか、私が驚かせようとしてたのに〜」

 「ふふふ〜。こっちは骸骨風に塗っただけのお面だよ〜。いいでしょ?宣伝用に使えるかなぁ〜と」

 「もぉ〜!私の頑張りを返してよ!」

 「僕を驚かせようなんて、1673年早いよ〜」

 「何その中途半端な数字〜」

 「僕の年齢〜」



 僕の年齢が1689歳で、それから現在の矢辺の年齢を引いたものだ。


 「嘘つけっ!しんちゃんにはやられてばっかりじゃん、私にもやり返させて〜」

 「ことわる〜っ!」

 「ええ〜」



 『では、一般公開を開始します』


 そんなやり取りをしていると、アナウンスが入り文化祭が始まった。



 「あ、始まった。神野くんたち、早く持ち場について〜」

 「おう。じゃ、また後でな」

 「覚えてろ〜!今度は驚かすんだからね〜」

 「はいはい〜。じゃ、頑張って〜」


 神野は意気揚々と出ていった。

 それに続き、矢辺も負け犬の遠吠えを残して出て行き、渡部は何も言わずに出ていった。


 さて、僕も仕事の時間だ。

 この報告するのは、報酬がもらえることになっている。

 ちゃんとやっておかないと僕の信用に関わるからね。見捨てられると面倒だ。

 …まぁ、どんなに信用されてなくても、最低限は守ってくれるだろうけどね。僕のような人間が相手に渡っていいことなんて1つもないからね。


 そんなことを思いつつ、僕は廊下に出る。

 ああ、お面は頭の横につけてるよ。さっきから僕を見てギョッとする人がいて面白い。



 「ふぅ…とりあえず、見える強度あげるかな」


 今更ながら、ちょっと僕の目について説明しよう。

 僕の目は普段からずっと魔力や魂やエネルギーの動きやらが見えているわけではない。

 僕の普段から見えているのは、生物内に包含されている魔力とかのエネルギーと、誰かが使おうとしている陣とかの状態になっている魔力とかのエネルギーのみ。

 他のものまで見てると、視界がエネルギーとかの色だけに染まって何も見えなくなるからね。

 で、今の状態は”魔力視【弱】”この状態で体内の魔力と陣とかが見える。

 

 僕は【弱】から【中】に変える。

 この状態で使用後の魔力の跡や、空中に漂う魔力のうちの濃い部分とかが見える。

 ついでに言うと【強】にすると、空中とかに存在する魔力で視界が埋まる。



 「さて、お仕事の時間だ」


 僕は学校内を歩きながら、通りすがる人たちを眺める。

 今のところ、生徒会の人と教えられた人以外に強い魔力を発する人はいない。


 まぁ、とりあえず石井をからかいに行こう。確か、公演はあと15分くらいのはずだ。

 僕は廊下を歩いて、石井たちが劇をやる予定の物理室に向かう。

 ああ、なんで物理室かというと、劇とか大掛かりなことをやるクラスは自分たちのクラスじゃない場所を使ってもいいことになっているのだ。

 うちも1階の地学室を使わせてもらってる。

 お化け屋敷とかでは本当はダメなのだが、うちのクラス委員が頑張ってくれたよ。


 そんなことを思いながら、物理室に着いた。

 物理室の入り口には”ロミオとジュリエット”と書かれた看板の付いたヨーロッパ風の城門のような飾り付けがされている。



 「あ、しんちゃん。来てくれたんだ」

 「げ、しんちゃん…見ないでよ」

 「やっほ〜。石井くん…頑張ってね?」

 「…来んなよぉ」


 石井は裏方だったのに、突然ロミオ役が本番に部活で出れないことが発覚し、無理やりロミオ役を押し付けられたそうだ。

 ああ、ジュリエット役はもちろん安井だよ。

 ま、安井が頑張って覚える練習してた時、石井も一緒にやってたからきっと石井も大丈夫だろ。

 …僕は信じてるよっ。

 たとえ石井がどんなにアホでも、きっとうまくやり切るはずっ。


 さて、そんなことは置いといて。



 「もう入れるの〜?」

 「うん。大丈夫だよ。入って入って」

 「じゃ、遠慮なく〜」


 僕は中に入り、設置されている椅子の一つに座る。

 さて、ついでに録画の準備もしておこう。このために昨日わざわざビデオカメラを充電してきたんだから。


 僕はポケットからビデオカメラを取り出し、さらに三脚も取り出して全体が綺麗に写るような場所に設置する。

 ついでに、座った時に人が映って邪魔になりそうな椅子はちょっとずらしておいた。

 


 「さて、しばらく動けないし、探知でもかけておこうかな」


 このまま劇を見始めたら、1時間近くここにいることになる。

 それだと仕事ができないので、今のうちにある程度発見しておこうと思うのだ。そうすれば、これが終わったらすぐに駆けつけられる。


 僕は学校全体を対象に探知をかける。


 …おや?



 そんなことをしていると、幕が上がり、ナレーターが出てきた。


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