127.それからを考えました
そういえばなんですけど、この話の本来の主人公って神野なんですよねー。
僕は後継者候補たちの授業を終え、地下の空間に帰ってきていた。
僕は、空間の真ん中に設置してある王座のような大きい椅子に腰掛けている。
彼らを連れてきて、もう早くも7年の月日が過ぎた。
彼らもいい感じに成長を遂げている。
まずは第1候補、レーヴィ。
現在は20歳になり、いい感じの美青年に成長した。
話していると、少しミステリアスな雰囲気をまとっているような感じで、まるで貴公子といった感じだ。
学問の出来は基本的に3番手だが、武術については非のつけようがない。銀色のレイピアを使い、貴族らしいパフォーマンスをしてくれる。死霊術もきっちりと出来ているし、応用までもこなすようになった。
彼なら汚い貴族社会に行ってもあまり毒されず、彼の道を突き進んでくれそうだ。
彼は表向きの僕の後継者にちょうどよさそうだ。
次に第2候補、シモン。
彼も同じく現在20歳になり、3人の中でも一番の努力家だ。
桃色の髪と相まって優しげな雰囲気を醸し出すまだ少年といった幼さの抜けない見た目に反し、彼は一番腹黒い。特に自分を”ご主人様”に成ってると騙して生きてる所とかね。
学問は彼が最もできる。まぁ、職業の分もあり、魔道系の知識はピカイチと言えるだろうね。武器は僕とアルと同じように短剣を使い、最近はちょっと暗器も使えるようになっている。
中身は小心者で臆病者だけど、手を抜かず、誰も信じず、望んだもののために心の奥底から動ける人間だ。
彼は分裂したあとの王様の補佐とかに適任だろう。
最後がラージェ。
彼はまだ19歳だが、彼ら3人の中で最も僕好みだ。ああ、恋愛感情的ではなくね。
黄緑色のふんわりヘア同様、彼もほんわかとした雰囲気を出す。恋愛ゲームとかでメインキャラの横にいるようなヤツみたいな感じだ。
彼はどれも2番目の成績ではあるが、ニコニコを笑いながら平然と綺麗事を抜かす狂人。まるで、教会の教主のようにさ。職業の禁呪術師をうまく利用し、最近は人を強制的に従わせることも簡単にできるようになったらしい。彼の能力があれば、教会をうまく動かせそうだ。
彼は教会の分裂後を任せるにちょうどいい人間だろう。
僕はおもむろに席を立つ。
「ロメ。僕はもう降りるよ。あとは楽しむとしようじゃないか。世界のことはこの世界の住人に任せてあげよう…『扉』じゃ、これから僕は後継をしてくるよ」
さて、夕食の準備の時間だ。
僕は調理場に転移した。
調理場ではまだ食事の準備はされておらず、夕食の準備に取り掛かろうとしている時だった。
「お〜い。料理長、いる?」
「はい!ここに」
「今日は僕がやるからいいよ〜。久しぶりにね」
「は、はい!わかりました!おい、撤収だ。シンさんが今日は代わってくれるってよ」
料理長がそう叫ぶと、着替えていた料理人たちは大喜びで調理場を去る。
僕がやる時は誰も入るなと指示をしていたので、これで存分にストレス発散に没頭できるね。
「さてと…『影人』起動」
僕の影から黒い塊が浮き出してきて、それが15個の人型になった。
僕はそれらを同時に動かし、”アイテムルーム”から食材を出して、調理を始める。
僕自身は調味料などを使うことを担当し、影たちには切ったり茹でたり炒めたり…と調理をさせる。
今日は彼らを祝うのだ。
盛大に豪華な夕食にしよう。
…とりあえず、大量にケーキを作ってもいいよね。
僕は夕食を作り始める…
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ある程度作り終え、あとはよそるだけになったところで彼らが来たようだ。
僕は視覚と味覚と触覚を影たちと共有しながら、彼らのところへ向かう。
「やぁ。みんな来たみたいだね〜。今日は僕が夕食を作ってみたよ」
「本当ですか?やった」
「シモン君も料理ぐらい覚えてみたら?」
「いや、僕には無理ですよ。シンさんみたいに才能ないですから」
「そう?」
「そうです」
シモンが微笑みながら僕と会話する。内面は結構黒いけどね。
「でも、レーヴィ君。君はやらないでね」
「はい。俺は向いてませんから…」
「やった時はひどかったね〜。これからやる時は君が1人じゃない時にしてね」
「ですね」
レーヴィが料理をやりたいと言い、ずいぶん前にやらせた時があったのだが、ちょっと目を離した隙にいろいろ大惨事になったのだ。
火事になりかけ、料理が焦げ、出来た料理もなぜか味が甘かったり辛かったり…とりあえず、彼に向いていないことだけは確かだ。
「僕はやってもいいですかぁ?」
「ラージェは得意だよね」
「そうだな」
「やりたい時はちゃんと料理長に許可とるんだよ?」
「ありがとうございますぅ」
そんな会話をしているうちに、料理を盛り付けるのが終わったので、影が料理を運んでくる。
「うわっ…て、シンさんのか。それ驚くからやめてくださいよ」
「ははは〜。その表情が見たくてやってるんだもの。しょうがない」
「本当にシモンはそういうの苦手だな。だから奇襲されて俺に負けるんだ」
「いや、それはレーヴィが強いからだと思うよぉ?」
「シモン君、武術一番弱いもんね〜」
「う、うるさいです」
「さて。じゃあ食べよっか?」
「そうですね」
「では」
僕らは楽しく談笑しながら食事を始めた。
「さてと。ごちそうさまでした」
しばらくして夕食を食べ終わった。
僕はいつもはすぐに部屋に帰るのだが、今日は違う。
影を動かして食器とかを洗う。
「えっと。今日は帰らないんですね」
「うん。今日は重大発表があるからね」
「重大発表…ですか?」
「うん。僕の後継者を決めるね」
僕がそう言うと、みんな物凄い勢いで僕の方を見た。
なんか面白いね。
「…?もう、なのか」
「うん。だって教えることは全部教えたよ〜」
「ええ、まぁ。それは」
「なら当然でしょ〜?僕の目的も、やってほしいことも、やり方も、それに必要な知識と経験も、その全ての理由も、僕はちゃんと話したはずだよ?」
「はい。聞きましたよ。世界がそういうふうにできてしまっているって。それを止めるにはそれしかないってことも」
「なら答えは簡単でしょ?時間がない。あと、たったの1000年で限界がくる。世界がエネルギーの再補充を求め大量に生物の意思を無理やり動かして、争いで大量の生物が死に絶えて文明は滅ぶ。僕は別のことに手を出さないといけない」
主に迷宮を作って遊んだり、世界の構造をちょっと整えたり、勇者召還魔法陣を弄って対象を神野にしてやるとかね。
…ようするに飽きたんだよね。貴族の生活ってやつに。邪魔が多くてめんどくさい。
ま、カリーナたちの助けはするよ?それは約束だもの。
というか、僕のお気に入りが僕の思い通りにならないなんて許さない。
「そうだよねぇ。しょうがないよぉ」
「そう…だよな」
「うん」
「よし、じゃあ役割を発表しよう。まずはレーヴィ君」
「はい」
僕がレーヴィの名を呼ぶと、彼は立ち上がって僕の方を見た。
どこの謝罪会見かなんかなのかな?
「君は…今からデルピエール侯爵の名を名乗れ。君がこの国を支えてあげるんだ。向こうの宗教とかの動きは、僕がある程度は制御してあげる。だから、頑張ってね」
「はい…ありがとうございます」
「うん。次はシモン君」
「はい…」
僕がシモンの名を呼ぶと、彼も同じように立ち上がるが、彼の表情は少し暗い。
そんなに当主になりたかったのかな?
「君にも、デルピエールの名を名乗ってもらう。ただし、侯爵ではなく、分家…伯爵としてね。君は宗教国家の建国に深く関わり、王を傀儡にしろ。邪魔はさせないし、手伝いも出すからね」
「っ…⁉︎はい。頑張ります」
「さて、最後はラージェ君」
「はぃ」
ラージェは何もないかのように、いつも通りの清らかな笑顔を僕に向ける。
「君は、宗教を動かす教皇を補佐してもらいたい。もちろん、貴族としての位も持ち続けてね。君も同じようにデルピエール家の分家として動いてもらう。教皇を支えていた鷗外は僕が取り除いた。代わりがほしい時期だろう。頼んだよ?」
「はい。まかせてください。僕、やりますよぉ!」
「うん。さて、じゃあ僕の最後のお話をしよう」
押し付けるのは終わったし、あとのことは暗部たちとバーニスに任せれば問題ない。
バーニスには、僕のやることをすべてしっかりと教えてある。
彼女は喜んでそれをやってくれるだろう。なにせ、彼女にとって戦争の誘発なんて、とても楽しいことに分類されるようなものだから。
「最後の…お話って何ですか?」
「僕の遺言さ。僕の愛する弟子…いや、家族かな?」
まぁ、僕にとっての愛は”友愛”や”情愛”や”恋愛”の”愛”じゃないけどね。
僕にとっての愛は、狂うほどの愛…詰まる所”狂愛”さ。
身を削り、心を削り、その身を滅ぼす姿は最高に美しい。僕がお気に入りを守るのは他人に壊されるのが我慢ならないから。
僕のものは僕が好きなように扱うのさ。
あるものは溺愛し、あるものは友情を描き、あるものは心まで壊し尽くす。
「家族…か」
「そうだね。家族に向けてだよ。僕にはもうすでに血の繋がった家族は存在しない。だから、君と僕の眷属たちが家族。僕は愛する家族に遺言を残そう。僕の家族たちよ。傲慢であれ。つまらないプライドはいらない。ただ、傲慢たれ。自らこそが至高。自らこそが王。君らは可能性を持つ最高の生物だ。だから、傲慢であれ。自らを疑うな。すべては君らの手の平の上の出来事だ。安心して、世界を壊したまえ。以上」
僕は席を立った。
「さて、じゃあ…元気でやってね〜。『扉』」
僕はそのまま地下の会議用空間に転移した。
「さて、じゃあ書き置きでも残そう」
暗部たちにも連絡をしなければ。
『暗部の行動は今まで通り行う。連絡対象はバーニスへ変更。何かあった場合はバーニスに。なお、3人については行動を任せる』
ああ、3人っていうのは彼らに付けてたメイドたちのことね。一応、全員隊長ではないけど、僕の直接の部下として動いてた諜報部員だ。彼らの下で動いてくれた方がありがたい。
「よし、次だ。『扉』」
僕は再び転移する。
「ハルには連絡をしないとね。僕が侯爵位を降りて、レーヴィに継がせるって」
僕はハルの部屋のまえに立っている。僕は紙に『ハルへ…レーヴィを後継者にした。これからもよろしくね』とだけ書いて、ハルの部屋に滑り込ませる。
「これでいいよね。じゃ、『扉』」
僕は再度転移する。
「ただいま。帰ったよ」
「おかえりなさいませ、主。長くお疲れ様でした」
「いや〜。たかが10年くらいだよ?そんなに長くないでしょ。僕が今いったい幾つだと思ってるのさ?」
「そうでしたね。では、これからどうするおつもりで?」
「そうだね〜…とりあえず、この世界をちょっと直したら、迷宮作りをしようか。この世界の住人を強化する。みんな根本的に弱すぎるからね。それが終わったら、時系列を向こうの世界を同期させて、僕は一度帰ることにするよ。他にもやることはあるけど、何せ僕は神様だからね。時間は無限だ」
「そうですね。では、コーヒをお持ち致します。あとクッキーも」
「うん。僕は管理空間にいるから。『扉』」
僕はシャルドネのいた場所へ転移した。
相変わらず、何もなく真っ白い部屋。
僕は指を振るう。
ゴゴゴゴ…と、何かがずれてテレビのような画面が幾つも僕の視線の先に浮かび上がった。
「さてと。じゃあ、直すとしますかな〜」
僕は体を元に戻した。
僕は画面の1つに手を触れる。
「世界のエネルギー循環率を変更………クリア。魂の還元率一部上昇…クリア。時空間上方修正…………クリア。魔導制限解除……クリア。生物存在可能世界創生…クリア。レベル、ステータス大幅改良………クリア。魔法補助強化…クリア。一部スキル補助率上昇、および低下…クリア。熟練度によるステータス補正追加…クリア。隠しステータスの生成……クリア。生物生命治癒速度変更……クリア。ステータスの情報表示変更…クリア。空間内常時安全装置生成……クリア。世界管理用生物複数体設置…生成開始……完了。および情報刷り込み、指定能力上昇…クリア。世界エネルギー循環法一部変更…………………クリア。および新循環法読み込み、一部改良……………クリア。生物成長制限設定…クリア。一部生物に対する強制進化を促進…クリア。スキル熟練度をレベルとして表示…クリア。世界管理用予備情報保存用設備のバックアップ開始…完了。世界管理用生物への送信…完了。世界管理用生物の起動………完了。システム確認…クリア。情報処理テスト開始………完了。過剰情報読み込み開始……一部損傷。複製…治療…試験情報の保存…完了。問題点修復の上起動………完了。情報過剰読み込み開始……クリア。限界値測定……完了。複製開始…完了。アクセス権の一部共有……完了。データ処理開始…完了。魂情報、および意識記録設立……クリア。世界”オービス”への全情報適応……………………………………………………………………10%…………21%……………………37%……………52%………69%……………………73%…………80%…………97%…98%……99%………………クリア。確認…完了」
体がだるい。熱っぽい。頭痛い。
…僕の体は全部高エネルギー体だから、そんな気がするだけなんだけどね。
「さて…」
僕は他の画面に触れる。
「全情報複製開始……………………………………完了」
さて、終わった。
「あぁ〜、疲れた。なんでルディはこんな適当な作りで作ったんだよ〜」
文字だけで見るとたった数百時程度のこれらのことは、実際情報に書き換えれば1つのことで言っても、最低1058458008546520134100457532130000520101253050245230242620程度の事柄を書き換えなければならない。
僕ら生物やめてるようなものじゃないと無理だね。知恵熱で無理。
僕の体は疲労が生まれた瞬間に、肉体を元の状態に修復し戻してしまうので、疲れがたまらない。根本的に体の構造が違うのだ。
この体は人の形をとってはいるが、実際は高エネルギーの塊。
それが最初に書き込んだ情報を元に肉体を構成しているにすぎない。
ま、そのおかげで無理やり形を変えることができる。まぁ、形状記憶合金みたいなものだ。
「さて、戻すかな…ふぅ」
僕は男の体に戻る。
「やっぱり、ちょっと違和感があるよね」
この体も同じだ。
デザインは同じでも、材質が違う。つまり、元々の僕の体とは全く異なる別物なのだ。
そのせいで、食欲、睡眠欲、性欲…三大欲求とか言われてたあれは消滅してる。食事は単なる嗜好品にすぎないし、睡眠は紫に呼ばれて以来相変わらず1度も取っていない。性欲についてはほとんど元からないのだが、それでも変化は存在する。
なんというか…根本的に感情が薄くなった。
楽しくない。足りない。
不満だ。
「…ありだな」
そうだよね。しょうがない。いやぁ、僕って天才。
そうなっていないなら、そういう形に作り直せばいいじゃないか。なんで今までやらなかったんだろう。
ま、時間はかかるかもしれないけど、どうせ勇者召還を決行しようとするまでは、迷宮作ったりルーとか騎士さんとか僕のデルピエール家の子孫とかを観察するくらいしか基本的にやることないし、ちょうどいいや。
「お待たせいたしました。コーヒーとクッキーです」
「うん。ありがと。『創生』…そこに置いておいて。僕はしばらくここに篭ってるから、ロメは自由にしてていいよ」
「では、私も僭越ながらここにいさせてもらいます。ご用があればお申し付けください」
ロメは僕の前に跪く。
なんとも良く出来た僕の眷属…家族。
「う〜ん…じゃ、みんなにしばらく僕がここにいることを伝えておいてよ」
「承知しました」
「さてと。じゃあやるかな」
僕は肉体の構成を開始した…
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