閑話:とある出来事
僕は今頃目覚めた後継者となる可能性を秘めた者たち驚かしに行く。
最近の僕のマイブームだ。夜中の間はいろいろと別の仕事をしているが、朝のこの時間のみが唯一とも言える暇な時間。まぁたまにしか取れないんだけどね。
それを…レーヴィたちを驚かせるのに使う。いやね、シモンくんが傑作なんだよ。こないだなんか驚いてベッドから落ちたからね。
ま、後で文句を言われたのは言わずともだけど、そんなことで僕はやめたりしないのだよ。
ギィィ…とこの数年のうちに錆の入ってきた扉の開く音を『消去』で消して部屋に入る。
初めはラージェ。ラージェはいいよ。なにせね。
「おはようございますぅ…」
「その寝ぼけたままの顔で出てこないでよ〜。ちょっと怖い」
「ひどいじゃないですかぁ〜」
僕が入った時には起きているんだもん。
そして、扉のすぐ前で待機している。ぼさぼさの前髪が目を隠して、それがお化け屋敷のお化けみたいに見えてちょっと驚く。
で、それを連れて僕は他の2人を起こしに行くのだ。ラージェを連れて行くとさらに驚いてくれるから楽しい。朝起きたばっかりのラージェは本当に不気味なのだよ。
僕はそのまま足音を消しつつ、ラージェと一緒に隣の部屋に行く。
隣の部屋はレーヴィがいる部屋だ。レーヴィはそこそこに驚いてくれるので結構楽しい。
「音を立てないようにね?」
「了解ですぅ…」
「眠そうだね〜?」
「昨日ちょっと頑張ってぇ」
どうやら自習でもしていたようだ。僕はそんなラージェを気に止めることなく部屋の扉を開けて中に入る。あ、ちなみにだけど、ちゃんと扉に鍵はついてるよ?ただ僕が勝手に開けてるだけで。
ギィィ…と鳴る音を消しつつ僕らは部屋に入り、扉を閉めて部屋に棒をんの結界を張る。
「じゃじゃ〜ん。今日はこちらで〜す」
「なんですかぁ?」
「ラッパです。そこに口をつけて、思いっきり服と音がします!」
「わかったですぅ」
僕らはレーヴィを間に挟んで両側に立ち、よく子供のおもちゃにあるようなラッパを構える。これ、実はちょっとした実験でできた副産物を利用した物で、この音を聞くと体調が良くなるのだ。本当は治癒を促進する音を出そうと努力したんだけど、健康的な気分になる物ができたのだ。ちなみに魔力は魔石から供給式。
ついでにレーヴィの頭の上にタライを設置した。
「3・2・1…0!」
僕の合図でラッパを吹き鳴らす。
プァァアアアアアン!…と部屋中に音が反響し、レーヴィが飛び起きて僕が設置したタライに頭をぶつけて悶絶する。ドッキリ大成功。
「イェ〜イ!」
「いぇーいですぅ」
「イェーイ…じゃ、ないですよ。痛いです。死ぬかと思いました」
僕らはハイタッチを交わす。ラージェはノリが良くて楽しい。
レーヴィがジト目をこちらに向けている。男のそういうのは需要ないと思うけど、レーヴィはかなり美形だしどこかしらにはあるかもね。
「ということで、おはよ〜」
「…ぉはようございます」
「ははは〜。今日は体調が良くなる魔道具の実験だよ〜。どう?ご機嫌いかが〜?」
「この起こされ方のおかげで最悪です」
「ははは〜。じゃ、シモン君に悪戯に行ってくるね〜」
むすっとベットの上に座るレーヴィを放置し、ラージェとともにシモンの部屋に行く。
こっちがメインイベントなのだ。
僕らは隣の部屋に行く。扉に耳をつけ音を聞くがまだ起きていないようだ。
こっそり扉を開き、中に侵入する。
「はい。次はこちら〜」
「今度は何ですかぁ?」
「ウィンドチャイムだよ〜。僕のはトライアングル」
あ、ウィンドチャイムっていうのは”キラキラキラ〜”って感じの魔法みたいな音を出す楽器ね。
で、今度は随分と可愛らしい楽器2つなんだけど、こっちも魔道具。これは音を出すと音符の形になって攻撃力の全くない無害な音が飛び回る。本当は音を使った武器が作りたかったんだけど、失敗してしまった物だ。飛び回るオンプがピンクだったり水色だったりと可愛らしいのでとっておいたのだ。
「さぁ、鳴らしちゃえ〜」
「了解ですぅ〜」
ラージェはさっきのラッパで目がすっきり覚めたらしく、機嫌よく反応してウィンドチャイムを鳴らす。僕もこれでもかと言わんばかりに無駄に鳴らす。
その音にシモンがボンヤリとした顔で目覚める。そして部屋中に立ち込め飛び回る音符に驚き、ベッドの上で立ち上がろうそして転び、ベッドの上で尻餅をつく。さらに音符が近づいてきたのを攻撃と思ったのか避けようとして壁に頭をぶつけた。
「ははっははは〜。シモン君驚きすぎ〜」
「おはようございますぅ」
「お、おはようございます…って、またですか!やめてくださいってこないだ言ったじゃないですか」
「しょうがない。シモン君面白いんだもの。あ、これはしばらくしたら勝手に消えるから〜」
「ああ、そうですか。よかったです…って、そうじゃなくてですね」
「じゃあ、僕は今日は研究所に行ってくるからね〜」
「あ、いってらっしゃいですぅ〜」
「え?ちょっ…だから〜」
文句を言っているシモン君を置き去りにし、僕は1人部屋を出る。
そして部屋を出たところで僕は『扉』を開く。
僕は空間をまたいだ。
「あ、シン。おはよう、今日も来てくれたのだね」
「あれ?ルーがこんなところにいるなんて珍しいね〜。どう?魔除けの結界」
「今ひとつだよ。シンが協力してくれれば早いのにさ」
「ダメだよ。これは君らがやらないと〜」
「そうだね。神様に頼りすぎるのは良くないな」
ルーの最近は引っ張りだこにならなくなった代わりに学校の建設を始めている。今はまだ近場の子供に教えているだけだが、ゆくゆくは大きい学校にしたいと言っていた。
まぁ、ルーともいろいろあったんだよね…
* * *
僕が久しぶり?というか入るのは初めてだったんだけど、ちょうどその日だった。
たまたま。本当に偶然にルーと廊下ですれ違ったんだ。
「…シン⁉︎何で、こんなところにいるんだい?」
「あ、ルー。お久〜。どう?弓は調子いい?」
僕はルーの腕に嵌っている腕輪に目を向ける。どうやら調子はいいみたいだ。ルーがちょっと通常な表情を見せかけたからね。
僕がにっこりと微笑むと、ルーは僕の方へ露骨に嫌な顔を向ける。
「そんなことはどうだっていいだろう?君と僕とはもう関係ないのだから」
「いやぁ〜。僕これからここにしばらく通いつめることになりそうなんだよね〜。これから街道を引くんだ。これで交通も楽になるよ〜」
「君はそんなことどうだっていいんだろう?だって君は…」
「ははは〜。まだ根に持ってるの?」
「当然だよ。君にはもう幻滅してるんだから」
「ひどいな〜」
ルーの明らかに不満そうな表情に僕は何も変わらず笑顔を向ける。
「まぁ、そういうのはそのうちにしてくれない〜?僕はしばらく本当に忙しく暮らすことになりそうだからさ」
「忙しいだって?どうせまた」
「いや、僕は今王国の王様のために働いてるんだよ〜。正しくはまだ王子様だけどね。ハルはきっと素晴らしい王様になるんだ。きっと王国は幸せの国になれる」
「…それは君にとって、かい?」
「世界にとってだよ〜。ハルは頭がいい。きっと民をあるべき方向へとちゃんと導ける…って、こんなことしてる場合じゃないや。僕は行くね〜。これから会議なんだ」
僕はルーの前から立ち去った。
* * *
「シン?行かないのかい?」
「ん?ああ、そうだね。今日は”強化魔法研究室”に用があって来たんだった」
「そうか。じゃあ、頑張ってくれ」
僕はルーに手を振って別れる。僕が向かうのは強化魔法を研究している研究室。ちなみに転生させたガリュさんがいたのはこの研究室だ。
今は強化魔法によって生物という種そのものの強化に努めている。この世界の生き物は弱すぎる。最悪は世界を弄って直すけど、できれば自力で強くなって欲しいところだ。
僕は研究室に向かう。
今日この後はハルとの話し合い。貴族たちの派閥形成の阻止。情報収集と…その他いろいろと仕事があるんだ。できるだけ早く進めないといけないのだ。人がそうやって対応してくれるものは日が昇ってる間に済ませないといけないのだから。僕は一日中起きてるけど、普通の人は違うからね。
僕は研究室へ向かう。
研究室では大量の紙に色々な陣が書かれた物が散乱し、魔法文字が大量に書かれた紙が机の上に積み重ねられ、何かを象徴する絵の描かれた紙が丸められて放られている。
要は散らかっていた。これらは全て僕らの今研究している物の実験で使った残骸だ。紙に描いてあるのは媒体で魔法を行使する研究用の物で、僕が開発効率を上げるために作った物だ。これに陣や詠唱する言霊を魔法文字で描くと発動する魔法がイメージとして使用者の脳際に再生される。
散らかっているのはいろいろやってやっとのことでそれが生物実験の域に到達しかけた結果だ。
この世界での生物実験は魔物を使って行う。魔石に陣や魔法文字を読み込ませ魔法を発動させるのだ。こないだの結果では魔物が破裂して研究室の実験用部屋の1つが血まみれになった。で、それからさらにしばらく続けて未だそれを解決する方法が見つからない。
僕は向こうの世界の生物の学問は大学レベルを少しかじった程度だからあまり役には立たないし、本当に一から魔法を作る大変さを体験する羽目になっている。
僕は落ちている紙たちを使用した順に”影腕”を使って片付けていく。研究者たちは大体が机に突っ伏して寝ており、昨日も夜通し研究していたのが見受けられる。
が、僕は忙しいのだ。優しく毛布なんぞかけてやらん。
「は〜い。みんな起きてくださ〜い。仕事だ〜」
僕はポケットからメガホン…とは言ってもトイレットペーパーの芯みたいな大きさの黒い筒なんだけど。ちなみに名前は”大きくできるんですmark73”だそうだ。それを口元に当て大きくした僕の声が部屋の中を響き渡る。
その声に驚くこともなく…できれば驚いてくれる方が楽しいのだが、むくっと研究者たちが起き上がる。
「ああ、シンさんですか…お早うございます…」
「寝ぼけてないでいいから研究の状況だけ教えてくれる?」
「あー、はい。了解です…」
僕の前のボサボサの髪を掻きながらダルそうに返事をするのがこの研究室の室長だ。名前はレーボハイト・フェルスケン。一応貴族らしいのだが、どう見たってそうは見えない。おかげで研究室のみんなから”エセ貴族”って言われている。
レーボハイトは机の引き出しを開け、中に置いてあった紙の束の一番上の紙を取り出し僕に見せる。
「えーっと…まぁ、こんな感じです。やっぱり崩壊しますね…」
「みたいだね〜。で、解決案は出てるの?」
「出てないですね…まぁ、次はいろいろ溜まってるやつをしらみつぶしにやって、うまくいったのを掛け合わせますかねー…」
「それしかないよね〜。じゃあ、頑張って続きをお願いね〜。これ、今回の分だから検証よろしく」
「了解ー」
僕は結果を聞き、新しくいろいろと手を加えて考えてきた紙の束をポケットから出して押し付ける。最近はもうずっとこれの繰り返しだ。今日も研究者組に頑張ってもらうより他ない。僕は忙しすぎて時間がないから。
「じゃ、僕は次の用事があるから後はよろしくね〜」
僕は研究室をさっさと後にし、『扉』を開いて屋敷に帰る。後ろの方から研究者たちの声が聞こえ始めていたので大丈夫だろう。
でも、ルーの方の研究は近いうちに一度訪ねる必要があるかな?やっぱり人が生物の理解をするのはまだ難しいみたいだし、ちょっとくらいは手助けするべきだろう。
まぁ、ルーとはいろいろあったけど、今は普通にやってるしね。
…ああ、でもすこし違うかな?ルーは僕を神様だからしょうがないって割り切ってるだけだし。内心ではまだ少し嫌われてなくもないんだし。
ま、しょうがないよね。だって精神構造が異なるんだもの。
神魂へ変化するとき、長く生きるのに精神が壊れないようにいろいろと変わるんだってさ。人間はそんなに長く生きるように作られてないんだ。僕はちょっと執着心が強くなったり、余計な感情が薄くなったりしてるからそれが影響の結果だろうしね。
僕は空間をまたぎ、城に向かう。
今日もやることがいっぱいなのだ。さっさと済まさなくては。たまには僕だって休みたいし、テラが最近僕が相手してくれないって拗ねてるしさ。
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