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行為には理由を

 朝、8時に朝食が運ばれてきて、着替えを済ました僕らは昨日と同じ部屋に呼ばれていた。


 今までの癖で6時には目を覚まし、着替えを済ましていたのだが、いつまでも何も起こらないのは僕に恐怖の時間を与えてくれた。

 嫌なことばかりが頭の中を巡っていたが、7時過ぎにメイドが来て「おはようございます。朝食を運んできますね」と言われ心から安心した。


 朝食は僕がいつもご主人様に運んでいた物よりもずっと美味しそうで、実際美味しかった。


 この生活を守るために僕を作ろう。




 そして、僕らはメイドに呼ばれて昨日の部屋に来ていた。

 部屋には昨日と同じように、僕ら全員分の席とあの人の席が準備されていた。


 部屋に入ると、僕が一番最後で皆が席に座りあの人を待っていた。そして、あの執事も待機している。

 僕は昨日と同じ場所に座る。隣にはレーヴィとダレンがいる。



 「なぁ…良く寝れたか?」

 「うん。あんなにいいベットで僕が寝ていいのかすごく不安だったけどね」

 「だよな。俺は全然寝れてないわ」

 


 僕にレーヴィが話しかけてきた。

 相変わらず右目が気になるようで、時折右目に触れている。


 「なんなんだろうな…俺たち」

 「そうだね…僕たちこれから何をされるのかな?」



 僕らは不安に苛まれる。

 メイドのあの言葉はどんな意味があったのだろう。あの人はどんな人なのだろう。そんなことばかりが僕の頭を占拠している。



 レーヴィと少し話をしていると、ドアが開いてあの人が入ってきた。



 「やぁ。みんなおはよう。よく寝れた〜?」



 彼は僕らの顔を見て、眠れなかったのを理解していながらもそう言った。

 そして、彼は部屋に待機していたあの金髪の執事を部屋から出すと、彼も椅子に座る。

 

 「じゃあ、話をしようか」

 


 彼はそう言うと、また指を振るう。

 何が起きたのかわからないが、おそらく何かの魔法を使ったのだろう。



 「え、ええと。何をなさったのですか?」

 「シモン君。敬語禁止ね。まぁいいや。普通に防音だよ〜」

 「は、はぁ…なんででしょうか?」

 「まぁ、しょうがないか。理由なら決まってるでしょ?聞かれたくない話だからにさ」



 その一言に僕らは凍りつく。

 一体、これから僕らに何を話すつもりなのだろうか?


 「じゃあ、話を始めようと思うんだけど…その前に、1つ聞きたいんだけど今までの奴隷をやっていた記憶を消して欲しい人…いる?」



 そして、再び僕らは何も言えなくなった。

 記憶を消すなどということができるのだろうか?そんな疑問が浮かび上がる。


 そして、少ししてダレンとルインが手を挙げる。


 「ふ〜ん。じゃあこっちに来てくれる」

 「は、はい」

 「はい…わかりました」



 2人がそばに行くと、彼は彼らの頭に手を置く。


 「はぁ……残念だよ。『歴史を滅ぼせ。虚無の記憶』」



 彼は深いため息をつくと、呪文を唱えた。

 そして、次に彼が手を放すと2人はそのまま倒れこむ。

 

 「え?え?い、一体何を…したのですか?」

 「ん?ああ、えっとラージェ君だっけ?知りたい?」

 「え…あ、いえ…はい」



 ラージェは戸惑ったような顔をした後、深く頷いた。


 「記憶の消しただけだよ。ただし、消したのは奴隷になった瞬間から今までの全てをね」

 「…え?それってつまり」

 「うん。この屋敷での記憶もね。苦しみを知らない人種なんていらないから」



 そう言うと、彼は再び指を振るう。

 すると、ドアが開き2人のメイドが入ってきて、彼らを抱きかかえる。


 「失礼します」

 「うん。じゃあアンリさんによろしくね〜」

 「はい」



 メイドはそう言うと部屋を出て行く。

 アンリさん…それはアンリねぇさんのことだろうか?


 「る、ルイン達はどこに連れて行かれるのですか?」

 「孤児院さ。僕が経営するね」

 「それは…アンリねぇさんの?」

 「ああ、そうだったね。シモン君はあそこにいたことがあったね。そうだよ」



 彼はそう言うと、優しげに微笑む。

 しかしその微笑みは天使や女神ではなく、悪魔のもののように感じる。


 「じゃ、今度こそ話を始めようか」



 彼はそう前置きをすると、話を始める。


 「まず。これから君たち…残ってる3人にはいろいろなことを学んでもらう。帝王学などの学問から、集団の管理の仕方までね。そうやって出来るだけ僕の願いを叶えるための人間を作り上げる。そして、その中から最も素質のある者を僕の後継者とする。ここまではいいかな?」

 「えっと、その願いって何ですか?」

 「シモン君。それは今から話すから後ででいいかな?」

 「あ、はい…わかりました」

 「他にいないなら話を進めるね。今日から僕が僕の出来る限りの事を君たちに教える。とりあえず手始めに文字の読み書きから算術くらいまではできるようにね。その次からは僕の願いを叶えるために必要な技術と知識を教える。多分、君たちが20歳位になるときには全部教えきれるかな。それらが終わったら、今度は貴族としてのマナーを権力者としての振る舞いを知ってもらうために王城とか協会に連れて行く。ハルとかフレリックとかに色々教わるといいよ。それが終われば、晴れて君らは僕の後継者になる権利を得る。その後僕は君らから後継者を選んで表から消えるから。じゃ、とりあえずの説明終了ね」

 


 それだけ言うと、彼はポケットから3つの指輪を取り出して、僕らに向かって投げよこした。


 「これをあげる。どの指でもいいからつけて〜。ああ、もちろん奴隷の首輪とかじゃないから安心していいよ?」



 僕らが一瞬表情を強張らせたのを見たのか、彼はそう付け足した。


 僕は恐る恐るその指輪を指にはめる。

 それを見て、レーヴィとラージェも指にはめた。



 「つけましたが、これは何なのですか?」

 「シモン君…それはさすがに説明するからさ。まぁ、気になるのは仕方ないだろうけど」 

 「あ、はい。すみません」

 「じゃあ説明するよ。それはステータスプレートを指輪に作り替えた物だよ。ステータスって唱えてごらん。ステータスが見れるからさ」



 レーヴィとラージェはあまりよく理解していないようだったが、僕はその異様さに気がついた。


 ”ステータスプレート”とは、今はすでにその技術が失われた物だ。それを改良したと言っているのだ。それがどれだけおかしなことなのか、僕にははっきりとわかった。


 2人はそんなことも考えていないのか、ちょっと指輪を見つめた後、「ステータス」と唱える。

 すると、2人の指輪から半透明の青い光が溢れ、四角い形を作り上げる。


 「お、おお。これって、俺のステータス…なのか?」

 「え?どういうこと?」



 レーヴィがそう言ったのを聞き、僕はその四角い光を覗き込む。

 その四角い光には黄金色に輝く文字が浮かんでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:レーヴィ

 種族:人間種

 性別:男

 年齢:13

 称号:奴隷から解放されし者 選者

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 職業:死霊術士 レベル:15

 筋力:50

 体力:65

 耐性:48

 敏捷:46

 魔力:83

 知力:46

 属性:闇 水

 スキル:死霊作成・召喚・帰還 家事 奉仕 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「し、死霊術師?」

 「ああ、そうだね〜」

 「な、なんでそんな職業保持者を?」

 「使えるからに決まってるじゃん」



 僕に質問に当然とでも言うようにそう答える。


 レーヴィはそれを見られ、表情に影が落ちる。


 それもそのはずだ。

 ”死霊術士”といえば、昔王国に反逆を起こした者の職業な上に、闇属性…つまり魔族の属性を持つのだ。多くの者に忌み嫌われる。



 「だよな…道理で変だと思ってたよ。なんで家族が俺を売ったのかってさ。そうだよな」

 「安心していいよ〜。僕も闇属性保持者だし。それに、そっちのラージェ君もね」

 

 

 そう彼が言うので、僕はラージェを見ると、ラージェも同じようにステータスを見て暗い表情をしている。

 僕はそれを覗き込む。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:ラージェ

 種族:人間種

 性別:男

 年齢:12

 称号:奴隷から解放されし者 選者

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 職業:禁呪術師 レベル:16

 筋力:32

 体力:70

 耐性:65

 敏捷:54

 魔力:99

 知力:47

 属性:闇 

 スキル:禁呪執行 呪剣 家事 奉仕 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「禁呪…術師?」

 「ああ、今この職業を持ってるのはラージェ君だけじゃないかな?」

 「で、でも僕は闇属性は持ってない!」

 「とりあえずステータスを見てごらんよ」



 僕は前にこっそりアルと一緒にステータスを見に行ったことがある。

 腕が悪く、属性と名前くらいしか調べられない人だったので、安く調べてもらえた。

 僕が持っていた属性は”水”と”地”のみだったはずだ。


 僕は恐る恐る、ステータスと唱える。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:シモン

 種族:人間種

 性別:男

 年齢:13

 称号:魔道の申し子 取捨選択を超える者

 奴隷から解放されし者 選者 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 職業:超級魔導師 レベル:16

 筋力:30

 体力:79

 耐性:87

 敏捷:53

 魔力:219

 知力:73

 属性:水 地

 スキル:魔法融合 家事 奉仕 剣術 

 冒険知識

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 な、なんだ…これは。


 僕は単純に驚きを隠せずにいた。

 確かに魔力が多いという自覚はあった。そのおかげで生き延びることができたこともあるくらいに。

 だが、これは異様だ。宮廷魔導師が200程度。つまり、僕は同じレベルに達してすらいないのにもかかわらず、宮廷魔導師を超える魔力を持っているということだ。



 「ね?わかった?」

 「…は、はい」

 「ああ、ちなみになんだけどさ。あの2人は”竜騎士”と”聖天”だったよ」

 「ど、どう…どうやって僕らを見つけたのですか?」

 「ふふふ〜…まぁ、のちのちわかるよ。じゃ、話を進めようか」



 彼は未だ呆然としていた2人をたたき起こし、椅子に座らせた。


 「で、まず君らを選んだ理由が2つあるんだ。1つはその受け入れられ難い能力。もう1つは苦しみを知っていること。僕の後を継ぐということは、つまり色々と危険が伴うということ。最低限自分を守れ、その上で相手に恐怖を植えつけることが可能な職業が欲しかった。もう1つは痛みを知らない人間は脆いからね」



 そう言って彼は愉快そうに笑う。

 レーヴィは自分の手を握っては開きを繰り返し、ラージェは自分の頭を抱えている。

 僕も本当は自分がどういった能力を持っているのかを理解していない。だから、彼らと同じように自問自答する時間が欲しかった。



 「僕らに…何を求めているのですか?」

 「うん。それはこれから話そうと思ってたんだけど、その前にお昼にしようか。もう12時過ぎるし」



 そう言われて、部屋にかかっている時計を見ればすでに12時21分。

 

 いろいろなことを一度に聞いて、時間の感覚がかなりずれていたらしい。

 …と言うことは、彼を僕らがあたふたしてかなり長い時間を待たせてしまったということになる。



 「そうですね。わかりました」

 「よし。じゃあ、お昼は何かな〜」

 


 そういって、彼は部屋を出て行く。

 僕らもそれについて歩く。


 階段を降り、1階のダイニングルームに行く。

 食堂には長い机が1つあり、その上にはいくつものキャンドルスタンドが並び、彼が作ったと思われる魔道具が部屋全体を美しく照らしている。


 彼は一番奥の肘掛の付いた金と赤の椅子に座る。

 僕らも机の側面に用意された椅子へ腰掛けた。


 そして、僕らが座ったのを確認すると、彼はベルを鳴らした。



 少しして、メイド達が料理を運んでくる。


 「じゃあ、楽しい昼食タイムってことで〜。いただきます」



 そう言うと、彼は食事に手をつける。


 僕らもをそれを見て食事を始めた…


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