126.裏に回りましょう
「じゃ、報告は以上かな?」
「はっ。以上となりますっ!」
「じゃあかいさ〜ん。これからの行動はさっきの指示どうりにね」
僕がそう言い終わると、隊長たちは扉から業務に戻っていく。
「さて、じゃあ僕も移動しようかな」
僕は全員が扉から外に出たことを確認すると扉を閉めた。
そして、そのまま僕は扉と反対側に歩いていく。
「『開け』」
僕は壁に手を触れ、ちょっと神力を込めた言葉を放つ。
すると、黒く輝くなんの変哲もない壁が横にスライドして人1人分の扉が開く。
その先にあるのはマドーラの長老会がある塔のエレベーターを元に、改良に改良を重ねたものだ。
僕はそこに入ると、再び扉に手を触れる。
「『閉じろ』『降れ』」
僕が開くのと同じように神力をちょっと込めて言葉を放ち、壁を元に戻す。
そして、閉じた瞬間に僕の乗った空間がそのまま下に降り始め、2秒とせずに止まる。
そのあと再び扉が開いた。
僕はそこから降りると、そこにあるのは今度は銀色に輝く空間。
ここは地下2階。データ収集用施設。向こうの世界のパソコンのような物が大量に置いてある。というか、向こうの世界のパソコンだし、電波もしっかりとつながっている。空間をまたがせて、向こうの世界としっかりと電波をつなげたのだ。
この辺は僕の得意分野だ。もともとパソコンとかはそんなにやってなかったんだけど、いろいろ覚えたりするのに必要に駆られて覚えた。ついでに作り方とかもね。
おかげで、ちょっとしたハッキングくらいならできるよ?
まぁそんなことは置いておいて、さらにここにいるのは…いや、あるかな?とりあえず、ゴーレムがいる。
パソコン一台につき1体のゴーレム。
このゴーレムは、監獄の管理を任せている”アフラ”の改良版で、ノーマル・ゴーレムじゃなくてマテリアル・ゴーレムを使っている。
マテリアル・ゴーレムって言うのは、肉体をありとあらゆる物質へと自由自在に変化させることのできるゴーレムだ。それをさらに知能を無理やり上げ、関節や指先などを精密に動かすことができるようにした。肉体を色々な物へ変えることができるので、関節部分を動かしたりさせるのは結構楽だったよ。
僕は右手を上げて魔法陣を描き、今聞いてきた情報をゴーレムたちに伝える。
この部屋でやっていることは、僕が聞いてきた情報を細かに分類して記録することだ。
まぁ、僕が自分の脳内でやればいいだけの話なんだけどね?
さて、なんでこんな無駄なことをしているのかというと。今後の僕の後継者となる人のためだ。
このゴーレムたちの支配権は別の人に委託することができるように作ってある。
なぜそういったことができるように作ったのかというと、僕が今”人間種”だからだ。
人間種の寿命は60~80歳くらい。僕が人間種として表で行動している以上、30年から40年くらいの間が僕の表で堂々と行動を行える限界だと考えていいだろう。つまり、その後は僕以外の人にこれらの仕事を託さないといけないわけだ。
僕が貴族じゃないとやるのが難しくなるような貴族の誘導は早く終わらせるように予定は立てているし、逆に僕が簡単に干渉ができる宗教や国全体の誘導は後回しになっている。まぁ一応手は出しているけど。
で今現在、貴族の根回しはある程度済まし、ほとんど次の段階に進める状態になっている。
だが、その前にやるべきなのは後継者の教育とかかな?
まぁ、とりあえずそんなことは今日はいいや。
僕は情報の記録が終わったのを確認すると、再びここに入ってきたときの壁に触れ、壁を開ける。
「『閉じろ』『裏へ』」
僕の乗った空間は動き始め、今度は部屋1つ分だけ下に降りながら横へとスライドする。
そうしてスライドをした空間は数秒でまた動きを止めた。
そして、入ってきた方とは反対側の壁が開いた。
「ロメ。ただいま」
「おかえりなさいませ。主」
ここは僕らのこの世界における本拠地。
広さはこの王都全体の地下だ。つまるところ、この空間は王都の地下全てだ。
「どう?協会の方の動きは?」
「恐らくは、後フレリック教皇令息がほぼ確実にこちら側へ」
「そう。じゃあ、そのまま神様の役をよろしくね」
「仰せのままに」
今僕がロメに頼んでいることは単純。神様の遣いを演じることだ。
ロメの種族は精霊種。その中でも感情を司ると言っていいような種族だ。その能力を用いて協会を内側から分裂させている。
現在、教皇派とその息子派の2つに分けることに成功し、少しずつ協会も変わり始めている。あと数年が経てば綺麗に2つに分かれてくれるだろう。ちなみに、教皇の息子派が僕が伝えた”人間こそが至高の種族”を提唱する派だ。
貴族たちの一部を教皇の息子と仲良くさせ、そいつらをまとめて北側に追いやっている。
まぁ、実際は息子じゃない別の奴の方が権力とかは強いのだが、それでもその息子を選んだ理由は、彼は異様に強欲な野心家だったからだ。はじめは時期教皇と言われている奴を利用しようと思ったのだが、たまたま息子が幾らかの貴族と話しているのを見かけて、調べていくうちに息子の方が使いやすいと思って選んだ。
いやぁ、でも初めて会ったときはびっくりしたよ。ああ、僕が直接じゃなくてロメにお使いを頼んでその目を通して見たんだけどね。彼は父親と同等、つまり教皇になりたがっていた。自分というものに”特別”を強く欲していたよ。協会をまとめ上げ、民に慕われ、貴族たちにも一目置かれるような存在にね。彼は自分もそういった”権力”が”力”が欲しかった。
なんとも強欲なことに自分が世界の中心にいたかったのさ。
で、ロメに噂を流させたら、自分で派閥を作り上げ始め、一部の貴族を取り込み始めたんだよ。彼には強いカリスマ性があったよ。そこに北側にいる貴族の派閥とかを放り込んで、少しずつ拡大し始めさせている。そのうち彼が第二皇子よりも権力を持つようになるかもしれない。
まぁ、そのときは”皇国”の教皇として、国の主に据えてやるよ。
僕はその空間の中をぐるりと見渡す。
「ねぇ、テラは今いないの?」
「ええ。テラには受け渡しをお願いしております」
「あ、もう準備ができたんだ。さすがロメ」
「お褒めに預かり光栄です」
少し前…大体3,4日前くらいかな?そのくらいにロメに”お土産”を渡すように言っておいたのだ。
北の方にいる辺境の貴族たちの頂点にいるのは、現在王都にいる第二皇子派の老貴族だ。
彼の子孫はろくなのがいないけど、彼自体はとても有能だ。教皇の息子に真っ先に目をつけ、彼と一緒に皇国を建国する準備をしている。第二皇子の家庭教師にはうちの暗部が行っているので、内部事情とかが結構だだ漏れで伝わってくるんだけど、すでに北側の貴族をほとんど吸収した。
一応表向きは教皇の息子の下だけど、多分彼の方が強いね。
まぁ、でお土産なんだけど。これは王…つまりハルについている貴族の中で、いらない奴らと今後北側に飛ばす予定の奴らをピックアップした資料を届けさせた。そこでなんでテラが行ってるのかというと、テラにその老貴族のスパイを頼んでいるのだ。いわゆる二重スパイっていうやつをね。
で、建国するにあたり、必要なのは金と土地と民だ。なので、いらないけど金を持っている貴族の名簿と飛ばす予定のいらない奴の名簿を教えてあげるのだ。
ちなみに、名目は国に対して反感を持っている貴族の名簿だとさ。国に対して反感を持つ貴族を集めてクーデターでも起こすのだろう。
「じゃああとどれくらいで帰ってくる?」
「そうですね…およそ20分程度といったところでしょうか」
「ふ〜ん。じゃあここで待ってるよ」
「承知いたしました。何か食事をご用意いたしましょうか?」
「あ〜。任せた」
「ではしばらくお待ちください」
そう言って、ロメはこの地下空間の中を歩いていく。
この地下空間は結構単純明快な造りになっていて、僕の屋敷を中心に北門側に魔物の素材などをまとめて収容しておく場所とギルドにつながる場所があり、王城近くに王城への通路とメイド…というか自動人形なんだけど、を送るようの場所があり、南門に向かって下級貴族街に通じる通路と商業施設付近に通じる通路、西と東はロメとかテラとか僕とか用の居住スペースや見られるとまずい資料とかをしまっておく場所が準備してある。
ちなみに、ここからは王都のどの場所にでも出られるようになっている。ま、入るのは今はできないようにしてあるけど。
「さてと、じゃあ暇でも潰そうかな〜」
僕は大量にある内ポケットの中から数十本のナイフを取り出す…
「お姉ちゃん!ただいま〜」
「あ、テラ。おかえり」
そう言ってテラが僕に飛びついてきた。
特に何も置いていない屋敷の真下あたり…一応、ここは扱い的には廊下なんだけど、広すぎて僕が暇を潰す用の場所になっている…で、僕がナイフでジャグリングをして時間を潰していたらいつのまにか20分くらいが経っていたようだ。
最近時間の感覚が神様的なものにちょっと近づいた気がするよ…
「お姉ちゃん、元に戻らないの?」
「今は面倒だからね。少ししたらまた戻る用事があるし」
「そっか…」
なんだか知らないけど、テラは僕が女の子の体だと喜ぶ。
テラも、この2年でかなり成長した。
姿は相変わらず一対の翼を持った水色の髪の毛の可愛らしい女の子のまんまなんだけど、知能はすごく成長した。使徒化で人型になれるようになった当初は、喋るのもそこまでうまくなかったのだが、今ではハキハキと楽しそうに話すし、今では二重スパイなんて軽々とこなすほどに思慮深くもなった。
「で、お願いがあるんだけど」
「何?お姉ちゃんのお願いはなんでも聞くよ!」
「うん。ちょっと探し人を…ね?」
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テラに頼んでから、24日目。
さて、後継者の教育を始めるとしよう。
第一、なんで僕がわざわざ戦争を起こそうとしているのかとかも説明しないとかな?
あ。でも、ルディの話とかはできないな…
ま、いっか。
ああ、そうそう。僕が戦争を起こそうとしているのは楽しみのためだけじゃないよ?いや、一応楽しみのためでもあるけど。で、なんでかというと、この世界の文明が滅ばないようにするためだ。
ルディが神魂を生むためだけに作ったこの世界には幾らかの欠落が生じている。
それによって、ある一定期間が過ぎると種族全体による全面戦争が勃発し、文明が滅んでリセットされる。
なので、それを防ぐために全面戦争ではないちょっとした紛争を起こす。いや、多分ちょっとしたでは済まないと思うけどね。
それに、今この世界は安定している。安定し、平和を保ち続けている停滞した世界だ。
…ああ、なんとくだらないゴミのような灰色の世界だろうか。
ただでさえ色のない世界がよりつまらない上に、戦争がなければ技術が一気に発達することもない。
戦争というのは、技術の発展には必要不可欠なのだと思うね。
昔の日本やヨーロッパだってそうだった。フランス革命、産業革命、アメリカ独立宣言…大抵裏には戦争や紛争、そういった争いごとがある。
世界という風鈴は僕が揺らそう。
世界は僕が守るのさ。
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