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消えゆく時間の中の魔術師たち

 この世界、新たちが元いた世界には、”魔術師”と呼ばれる人間がいる。

 遠い昔、ある人間は自分の中にあるエネルギーを見つけた。

 その人間はそれを操る術を見つけ、自らの子孫へと伝えた。

 そのエネルギーはだんだんと使えるものが限られるようになり、そのうち彼の直系の子孫のみの力へと変化した。

 しかし、そのとある子孫はその力を多くの人が使えるように変えようとした。その研究は長年にわたり続けられ、彼の何世代か後の人間がその方法を発見した。 

 …それを魔を操る術…”魔術”と呼んだ。

 その方法は幾らかの人間へ伝わった後、彼らはそれを秘匿した。

 その力がむやみに使われ、人々を狂わせぬように。

 そうして、魔術を使うためのエネルギーは、その血を継ぐ者たちのみのが扱える特殊な能力へと変化した。


 いつしか、彼らは時代の中から姿をくらませた。

 いや、時には呪い師、時には魔女、時には魔法使い、時には占い師…そして、今は魔術師と名を変え、時代の中に隠れ続けてきた。 


 今、彼らは幾つかの集団となり、国の裏にいる。

 彼らの中にはその能力を他者のために使う者も、自分のために使いたい者も、使わない者もいる。

 

 …もし、自分に特別な力があったら、どうする?

 当然、暴走する人がいるということは明確だ。

 その集団は、世界を混乱に陥れないために戦っている。


 これはそんな集団にいる人間の間に生まれた少女のお話。



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 「春菜ぁ〜!いい加減に起きなさい。もう朝よ。学校遅刻するわよ〜」


 私はお母さんの声で目を覚ます。時計を見ればすでに8時。後もう少しで遅刻だ。


 急いでベットから起き上がると、洗面台で顔を洗い、歯を磨き、パジャマから制服に着替えて、カバンを持ち、机に置いてあったトーストを手に家を出る。


 「行ってきま〜す!」

 「気をつけるのよ〜」

 「わかってるよ!」


 

 私は自転車のカゴにカバンを乗せ、トーストをかじりながら学校へ急ぐ。

 今は8時13分。学校までが15分かかるので結構ギリギリ。

 

 私は自転車をこぎ続ける。




 そうして学校へ到着し、4階のクラスまで駆け上がる。

 教室に入ったのは8時27分。30分前にはちゃんと着いたみたいだ。

 私が自分の席に荷物を置き、筆箱などを机に出していると、



 「春ちゃんおはよう。今日もギリギリだったね」

 「あ、未来。おはよう」



 私の机に未来が来た。この子は去年からずっと同じクラスで、仲良くしている。

 去年から仲良くしている、しんちゃんと拓巳はクラスが別にになってしまったが、未来と和也くんは同じクラスだ。

 まぁ、拓巳とはちょっと気まずいけどね。


 「今日はお昼一緒に食べる?」

 「あ〜…ごめん、生徒会の話し合いがあるから無理そう。時間があったら行くから」

 「そっか…そうだね、もう文化祭まで後ちょっとだもんね。春ちゃん、がんばってね」

 「う、うん。ありがと」

 「そういえばね、昨日和くんと買い物に行ったんだ」 



 私はその無邪気な笑顔に心が痛い。


 私たちはクラスが分かれてしまったので学食でお昼をみんなで食べているのだが、拓巳がいるせいでちょっと気まずい空気になってしまうので、私はあまり行ってない。

 事実、今日は生徒会での話し合いがあるので嘘じゃないんだけど、それでも別の話し合いだからね。


 私がそんな風に未来と話をしているうちにチャイムが鳴り、朝のホームルームが始まる。



 「え〜、おはようございます。今日は晩秋も半ばに近づいているのにまだ暑いですね」



 チャイムが鳴り入ってきたのは、ちょっと白髪交じりの初老の男性…金子先生という教師。

 2年生で古典を受け持つ先生で、そのせいでちょっと話し方が古いが、授業も楽しく生徒から人気がある。

 ちなみに晩秋って言うのは9月のことみたいね。


 そうして、私の1日が始まる…

 








 午前中の授業が終わり、私は生徒会室にいた。

 

 パイプ椅子には私以外に5人が座り、弁当を食べていたり、携帯を弄っていたりと思い思いに時間を潰している。

 私もお弁当を広げ、昼食をとる。


 さて、なんで暇を潰しているのかといえば、先生を待っているから。

 正しくは、先生からの情報を待っている。



 「ねぇ春奈ぁ〜。うちにもお弁当分けて〜」

 「嫌よ。だいたい自分の弁当はどうしたのよ?」

 「もう2時間目休みに食べた〜」

 「じゃあ学食とかでパンでも買いなさいよ」

 「今月もうお金ないの〜」



 私の肩に少し赤みを帯びた黒髪の女子生徒が持たれかかってきた。

 彼女は臼井 蓮香。私と同じ2年生。


 

 「こないだの報酬はどうしたのよ?」

 「えへへ〜…」

 「はぁ…いい加減にその金遣いの荒さは直しなさいよ」

 「善処しまぁ〜す」

 「って、あぁもう。人の弁当に手を出さないの!」



 そんなことを言っている隙に弁当から卵焼きを攫われる。


 「へへ〜ん。春奈が油断してるからだよぉ」

 「もう…わかったから。とりあえずそれやめて」

 「はぁ〜い」



 そう言うと、彼女は私の肩から頭をどけ、隣に座った。

 私は仕方なく(・・・・)、おかずを少し弁当の蓋の上に乗せて彼女にあげた。



 「さぁっすが、春奈〜。やさしぃ〜」

 「はいはい。次はもうないからね」

 「わかってるよぉ〜」

 「はぁ…本当にわかってるの?」



 彼女はばくばくと私があげた弁当を平らげていく。

 私も自分の弁当を食べる。


 


 すこしして、ガラガラ…と扉が開き、1人の教師が入ってきた。


 「今日は異常なしだ。通常の生徒会を行ってくれ」

 「了解した。皆、文化祭の話を始める。集まれ」



 教師はそれだけ言うと教室を出て行き、会長が私たちを集めた。

 それから私たちはテーブルを囲んで文化祭についての話し合いを始める。










 「では、本日はこれで終わる」

 「おつかれさんですな」

 


 会長と副課長のその言葉を聞くと、みんな自分の教室へと帰っていく。

 今は13時27分。あと少しで午後の授業が始まる。

 私も急いで教室へと帰る。


 …そして、何事もなく授業が始まるはずだった。



 

 「な、何よ…これ」



 私はクラスに一番近い階段を上り始めた瞬間、3階か4階あたりで異常に魔力(・・)が発生したのを感じた。

 私は何が起きているのかを確かめるために、急いで階段を駆け上がった。



 私がそこで見たものは、異様なまでに高まった魔力と私の知るどの文書にも見たことのない魔術陣。

 私は大急ぎで会長たちへ念波を飛ばす。



 『大変です。原因不明の魔力が異常発生。本館4階、至急集合を』



 私たちは生徒会…またの名を”学生魔術関連事項調査部隊”。

 魔術師の家を継ぐものたちが、大人には入りづらい学校などでの魔術を扱う可能性を持つ人間の調査や魔術などによる事件を調査するために作られた。

 当然、力を手にすれば奇行に走る者だっている。もしそんな者がいれば指導や排除が行われるし、事件の調査の結果によっては大人の部隊が出たり、専門の術師が呼ばれたりすることもある。 

 生徒会の担任の教師ももちろん魔術師だ。 



 私は階段の陣を再びじっくりと眺めるが、全く見たことのないものだ。

 敵性魔術師の新魔術だろうか?

 それとも全くそれらのものとは全く関係なく、どこかの術師の魔術の実験の失敗などだろうか?


 私は治癒術に長けた一族の末裔。

 治癒以外の魔術についても幾らかは知っているが、詳しく知ってるというわけではない。

 


 私が陣を見つめていると、階段を上って来る足音が聞こえる。

 そちらを見てみると、来たのは生徒会長…姫路 裕也のようだ。



 「結城。どこだ?」

 「ここよ。強い魔力反応があるわ」

 「なるほど…」



 生徒会長も陣のそばまで来ると、それをじっくりと観察する。


 「どう?何かわかった?」

 「わからん。我々では無理かもしれない」

 「そう…」



 生徒会の生徒会長は今の学校内で最も魔術に長けた者がつく。その会長ですらわからないのだから、私たちの手にあまる案件なのだろう。


 「李川先生を待つ」

 「わかったわ。じゃあ、教室とかに戻ったほうがいい?」

 「いい。緊急で教室に全生徒を戻す。名目は集会など」

 「わかった。じゃあ、伝えておくわ」

 「もうやった」

 「あ…そう」



 生徒会長は魔術師としては一級だけど、口数が少なく、何を考えているのか全く分からなくて扱いづらいところがある。


 「生徒会室に集まれ」

 「はいはい。了解」



 私はその場を生徒会長に任せ、生徒会室へ戻る。

 まぁ、多分生徒会長は自分たちではどうしようもないことをみんなに伝え、李川先生を呼んだのだろう。

 生徒会室に行けば、きっとみんなも集まっているはず。


 私は再び階段を下り、2階にある生徒会室に入る。


 ガラガラ…とドアを開けて中に入れば、すでにみんなは生徒会室の中で集まっていた。

 そして私が生徒会室に入った瞬間、放送が流れ始める。

 なんとも手の早いことだ。



 『え〜。本日、午後13時29分に校舎内で汚染物質が発見されたため、生徒は……50分より、帰宅を始めさせてください…また、教職員も…』


 生徒会室では途切れ途切れの放送だ。

 おそらく誰かが音漏れを防止するための魔術でも起動し、電波が届きにくくなっているのだろう。

 


 「さて、会長以外は揃ったみたいですな」

 


 そう言って副会長…島村 錦司が生徒会室の中央の席に座った。

 彼は椅子に座ると、私のほうを見て話し始める。


 「では、今回は何があったのか説明してくださいな」

 「はい。ええと、本館4階にて原因不明の魔力が異常発生しました。またその場には見たことのない方式の魔術陣が残されていました。現在わかっているのかこれだけです」

 「そうですか。今、会長から李川先生も知らないとの連絡が入りましたので、おそらく専門知識を持つ者たちを呼ぶことになると思いますな。我々は未知の魔術陣や現場の保護に向かうのだな。では、各自行動開始するのな」

 「えっとぉ、細かい作戦や配置は〜?」

 「会長に任せるのな」

 

 

 そう言って副会長は教室を出る。


 私たちもそれに続いた…



 * * *



 事件が起きてから3日が経った。

 状況を整理したいと思う。


 魔術陣の方式や使用者の特定など、いろいろな面からの解析が進められているが、未だ詳しいことは不明。

 被害は、行方不明者4名。それ以外は無し。

 これらの件は魔術師協会の上層部へ管轄が移され、私たちは護衛などの任を解かれた。


 文面だけを見るなら、今までと変わらない、いたって普通の事件にすぎない。

 けれど…


 「なんで?なんで、未来が…和也くんが…拓巳が…しんちゃんが…?」



 行方不明者…安井未来。石井和也。神野拓巳。松井新一郎。

 私の大切な友人たち…魔術師であるなんて伝えてはいないが、それでも心から彼らのことを大切に思っていた。

 私はそれを失った。

 どうしようもない虚無感に襲われる。

 どうにもできないという無力感に苦しむ。

 どうにもならないという絶望に心が痛い。

 

 私は任を解かれ、家にいた。

 私の家は表向きは町の小さな自営業の診療所。だけど本当は、魔術を使用し、この町の魔術師たちを治療する治癒魔術師。

 兄はもう少しで医師免許も取り、表でも裏でも働き始める。

 私もそうするつもりだ。


 だけど、その知らせを聞いてからというもの、何にも手がつかない。

 

 私は布団に潜り込む…



 * * *


 事件から1ヶ月。

 何も進展しないまま、学校は通常通り始まった。

 事件は機械の誤作動ということで収められ、何事もなく日常が続いている。


 私も空虚な日常を続けている。

 事件が起きた場所では、術師が通常魔術の不可視化を使用し、解析が続けられている。


 この世界における魔術の定理は、自らの体内を通る魔力を体外に放出し、陣を描いて現象へと変化させること。

 やり方さえ理解していれば、大体のものは使えるし、魔術に不可能はほとんどない。ただ、それらを理解するには莫大な時間がかかり、1人が使える魔術は基本的に10〜20程度。私も、簡単な治癒魔術と基本魔術のみしか覚えていない。


 基本魔術の中の不可視化。これはすべての魔術師に覚えることが義務付けられている。

 基本魔術の中の魔力視。これも同じく義務付けられている。適正魔術師の判断などに必須だからだそうだ。

 基本魔術の中の念波。これも義務付けられている。

 基本魔術の中の飛行。これは適正魔術師と遭遇した際、逃走などのために使えたほうがいいと父に教わったもの。私たちは治癒に特化しているため、戦闘には向かない。

 基本魔術の中の魔力探知。これは用途が多いため、覚えている人は多い。敵の発見、自分の魔術の制御、仲間の位置把握、他にもいろいろ。

 基本魔術の中の暗視。これは暗い中での戦闘や逃走を考えてのことだ。

 治癒魔術の中の浄化。これが一番初めに教わった治癒魔術。傷口の消毒や痛みを和らげたりする。

 治癒魔法の中の修復。これは治癒魔術の基本。皮膚などの修復を行い、傷を治す。

 それで8個だけ。


 いろいろな人が人生をかけて作りあげた魔術の数々は、様々なことに使われている。

 ただ、それがいいことばかりに使われるとは限らないのが嫌なところでもある。

 

 力を手にし、世界を混乱に導こうをする集団や国を滅ぼそうとする集団、自分勝手に力を使って暴れる人…様々な人がいる。

 それを防ぐために、私たちがいる。


 …ああ、そういえばしんちゃんも一時期見張られてたね。

 生まれつき異様に魔力が高くて、優菜さんがついてたっけ。

 まぁ、何もないことがわかって、今は両親の仕事で優菜さんは別のところにいるはず。元気かな?

 彼女は天才的だった。引っ越してしまう時には、すでに私の3倍は魔術を覚えてたよね。

 

 帰ってきてほしいな…今の彼女ならこんなことくらい、ささっと解決しちゃうのかな?


 私の煮え切らない日々は過ぎていく…



 * * *



 事件から約1年半が経った。 


 事件から1ヶ月半が経った頃、あの魔術陣は異界のものとわかり、魔術師全体がどよめいた。

 また、その技術や情報を求めて暴挙を起こす魔術師が増え、父はその頃から一向に家に戻ってこない。

 時を同じくして、優菜さんの家族は解析に長けた父と戦闘用魔術に長けた母がおり、彼女自身も有能であるために呼び戻された。彼女は昔よりもっと強くなっていて、今では私にとって天上の人だった。

 未来たちは未だに行方不明。警察はもう匙を投げている。

 生徒会も次の代へ移り変わっていき、私たちも卒業してしまってた。



 私自身は大学へ進み、医療を学んでいる。

 今も解析は続けられておr………



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


 私がそこで見たものは、異様なまでに高まった魔力と私の知るどの文書にも見たことのない魔術陣。そして、その上で何が起きたのかわからない様子の未来たち4人。

 私は大急ぎで会長たちへ念波を飛ばす。

 

 『大変です。原因不明の魔力が異常発生。本館4階、至急集合を。また一般人4名が現象を目撃した模様』



 陣は魔力を扱える人間にしか見えないので、彼女たちには突然地面が光ったように見えただろう。



 「あ、ああ。春ちゃん。え、えっと…」

 「未来。何があったの?どこか変なところとかない?大丈夫?」

 「え?あ、ああ。うん、大丈夫だよ」

 「そ、そっか。よかった。あ〜、突然で悪いけど、何があったか聞きたいから生徒会室まで来てくれる?」

 「うん。そうだね、結城さんは生徒会だもんね〜。学校の風紀を守らなきゃ〜」

 「じゃあ、こっちに来てよ」


 私は彼女たちを連れて生徒会室へ向かった。

 気になるのは、なぜか全く感じられなくなったしんちゃんの魔力と、他の4人に突然感じられるようになった魔力。

 これはあの魔術陣の影響だろうか?


 まぁ、何はともあれ彼女たちに何もなくてよかった。

 


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