124.下準備は終わりました
「じゃ、また来るね〜」
「おう。いつでも歓迎するぞ!」
「うん。じゃ」
結局、2時間ほどかけて3つほど料理を教え、レシピとかを書いた紙を放置してきた。
なんだかんだ言って、僕って世話焼きなのかな?
僕は店を出ると、そのまま人通りの少ない道に入る。
誘い出してやろうじゃないか。
なんだかんだ言って、何時までもついてこられるのはうざったい。さっさと片付けてしまおう。
暗殺者的なやつだろうから、きっと隙があれば出てくるだろう。
そうして、僕は人通りの少ない道をくるくると歩き続ける…
そして、ときおり「あれ〜?ここどこだろ〜?」とか言って、迷子を演出しながら歩き続けること約15分。
ようやく出て来たよ。
後ろから忍び寄っている気配を感じる。殺気が今までより薄く感じるので、気配を消して近づいてるつもりなんだろうな〜。
まぁ、気づいてるけどね。
そして、僕の真後ろまでやってきて、ナイフかな?とりあえず刃物を僕の首元めがけて振り下ろしてきた。
「さて、捕獲っと」
僕はその腕を掴み、ポケットからロープを取り出してぐるぐる巻きにする。
人間じゃあどうしようもないスピードを出してやったので、全く何が起きたのかを理解できてないような様子だ。
僕が捕まえたのは、黒いローブと黒いハンカチ的なもので口元を隠した女の子だった。
ちなみに、性別がわかったのはロープで巻いてたらわかっただけで、触ったりとかしたわけではないよ?
…とは言っても、僕も本体は女の子だったね。
まぁそんなことは置いておこう。
「尋問しよっか?誰に雇われたのかな?」
「………せいだ」
「ん?もう1回言うってくれるかな?」
「お前らのせいだ!私のことを覚えてないなんて言わせませんよ!あのときあなたが私たちを見捨てたから!」
そう言うと女の子は頭を振って、深くかぶっていたフードと口元を隠していた布を取った。
そこには一応僕が知ってる顔があった。
「ああ、ずいぶん前に会ったっけ?で、それがどうしたの?」
「あなたのせいでランドルフは死んだのよ!あなたが生きてるなんて許さないわ…」
「ああ、わけのわからない理屈の元で復讐を決行したのか〜」
「わけのわからないですって?あの時にあなたが私たちを助けてくれたら、もしかしたらランドルフたちは生きていたのかもしれませんのよ!」
「うん。無理だよ」
「なんでそんなことが言い切れますの!あなたのせいよ!」
「いや、僕はその一途始終は見てたからね。君が飛び出した後、彼はすぐに殺されたよ」
いやはや、思い出してみれば懐かしいね。もう千年ちょっとまえのことだよ。あの時の僕はまだ人間だったんだよね〜。
僕の言葉を聞くと、その子はハッとした顔をして唇を噛んでいる。
「そ、そんなの…嘘ですわ。私が…」
「ほら、とりあえず落ち着きなよ。話くらい聞いてあげよう」
復讐する気持ちはわからなくもないので、話を聞いてあげようじゃないか。
「なんであなたなんかに話を聞いてもらわなければならないのですか!」
「ん?ああ、僕も同じようなことをしたことがある人間だからね」
「…え?同じこと?」
「そ。復讐。いやぁ〜、懐かしいね」
「…私はあなたを殺そうとしたのにもかかわらず、話を聞くですって?ありえませんわ」
「いや、せっかくの人の好意を無駄にしないでほしいかな。話せばスッキリするかもよ?」
僕は結んであるロープの端を持って、その場に座り込んだ。
それを見て、その子はちょっと考えるそぶりをした後、僕の隣に座る。
「なんで、私の話を聞いてくれますの?」
「スッキリしなかったでしょ?復讐はしてもつまらないだけ。その過程がその後生きるための足がかりになる」
「わけがわかりませんわ」
「…何もかもがどうでもよくなって復讐をしようとした人がいます。その人は復讐のためにいろいろなことをしました。そして、その人は復讐をしました。しかし、その人が復讐で得たものは虚しさと自らの汚い心だけでした。しかし、それらの努力はその後もその人を助け、今ではその人は貴族になろうとしています」
「…それがあなたですか?」
「さぁ〜ね」
ま、一部フィクションを含むだけどね?
「そうですわね…ちょっと聞いてくださいますか?殺そうとした人にこんなことを言うのもおかしいかもしれませんけど」
「聞かせてごらんよ。感想くらい入ってあげるからさ」
「そうですか。では…」
そう言って、その子は話を始めた…
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僕は彼女の話を聞き、色々と話をしてあげた。
結果的に、彼女はスッキリとした表情をしているし、僕に対して結構有効的になった。
「なんか話をして落ち着きましたわ。あなたも色々あったのですね」
「まぁ、僕はたまたま君より色んなことができるから」
彼女の話を聞いた結果。
…ごめん、全ての元凶は僕でした。
彼女の父親の貴族が摘発されたのは、多分僕がアーノルドに出した命令のせい。
その後のことはあんまり関係ないけど、助けなかったから彼らは死んだわけだし、彼女…セルティアがアーノルドを殺したのに悪いことをしてるような気がしてるのも、僕が人格作り変えたせいだったし。
ま、いっか。
「でも、私はどうすればよかったのかしら。大人しくランドルフの知人の家にお世話になっていれば、もっとランドルフたちが望むような未来もあったかもしれないのに…」
「しょうがないよ。過去はもうすぎたんだ。これからのことを考えようよ」
「…これから?私はあなたに捕まったのです。もう未来はないのでしょう?」
「さて、もし僕がこの縄を解いたとします。では、ここで質問です。僕の下で働く気はない?」
貴族に暗部って必要だと思うんだよ。
「あなたの下で?」
「そ。君は使える。さっきも言ったように、僕はこれから貴族をやる。礼儀作法とかは知ってるでしょ?それを教えると共に暗部として働かない?」
「つまりは諜報部員ですか?」
「まぁ、そうとも言うね。で、どう?」
「…いいですわ。どうせもう表では生きていけませんし」
「お、さすがは元お嬢様。思い切りがいい」
「えっと、それでどうすればいいですか?」
「まず、修行のし直しからかな。殺気が出過ぎ、気配の消し方が甘い、動きは悪くないけど武器の選択がよろしくない…他にもあるけど聞きたい?」
僕が1つ言うことに彼女の表情が暗くなっていく。
「え、遠慮いたしますわ」
「ということで、王城に堂々侵入できるくらいまでは叩き込んであげるよ。ま、基礎は悪くないから一種間はあればできるかな」
「お、王城ですか?」
「そう、王城。大丈夫だよ、心配はないから」
「いえ、不安しかないのですけど」
「とりあえず、森で出ようか。教えてあげるよ」
「…もしかして、今からとか言ってません?」
「当然でしょ?ほら、それをさっさと解いて。さ、行くよ〜?」
「無理です⁉︎私そんなに縄抜けとかは…」
「知らな〜い。ほら早く〜」
僕が急かしているだけで、彼女は頑張って解こうとしているのだが、一向に解けそうにない。
まぁ、僕が普通は1時間くらいかけてきっちりとやるような結び方でやったせいだけど。
「む、無理ですわ」
「しょうがないな〜」
僕はポケットから1本の短剣を取り出し、スパパッとロープを全部切り落とす。
「す、すごい…今、どうやってやったのですの?」
「普通にね〜。ほらいくよ」
「あ、はい」
彼女は少し楽しげな表情で僕の後ろをついてくる。
「ああ、そういえば」
「どうかしたのですの?」
「何て呼べばいい?セルティアって呼んで、ばれたら面倒だし」
外でそうやって呼んで、兵士に彼女を持ってかれたら、僕結構ショックだわ。せっかくいい物件を見つけたのに。
「そうですね…セシル。セシルと呼んでくださませんか?」
「了解〜。じゃ、セシル。こらからよろしくね」
「はい。えっと…」
「あれ?名乗ってなかったっけ?」
「いえ、なんとお呼びすればいいですか?」
「普通にシンでいいけど?」
「そうではなくて、これからあなたに仕えるのですよね。ならば、様とかつけたほうがいいですよね」
なるほど。そういえばそうだった。
確かに、仕えている人が主人を呼び捨てとかにはできないよね。
「あ〜…任せる。好きなように呼んで」
「そうですか?では…シン様。これからお世話になります」
「うん。存分にその力を発揮してね」
様付けはあんまり好きじゃないんだけど、しょうがないとしよう。
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「もしかして、さっき君が目線を送った場所にいるのかな?」
「あ、気付いてたの?」
それから1週間と少しかけて、セシルをしっかりと鍛えたのだ。
一応、城ぐらいなら忍び込んでもバレやしない程度まではね。
「随分と変な場所に目線が行ったからね」
「ふ〜ん。ま、多分だけどね」
「そうか。で、兵は適当に集めればいいだろう。あとは、領地の話だ」
「ああ〜。それは大丈夫だよ」
「おや?この間、前の領主がだめだって文句を言ってたじゃないか」
「…あれ?話してなかったっけ?」
ロメのことを話したような…話してないような…うん。完全記憶、ちゃんと機能しやがれ。意識してないと忘れるとかどんな不便能力だよ。
「話してないだろう?」
「じゃあ、話しとくよ。僕の眷属…ああ、僕が魔物使いなのは話したよね?」
「話していたね」
「で、その眷属に霊系の魔物で知能がかなり高い奴に経営を任せたんだ〜」
「そ、それは大丈夫なのかい?」
「大丈夫だよ〜。単純な知能だけなら、人が数千人分はあるから」
「いや、そうじゃなくて。魔物なんかに任せても」
「大丈夫だよ。だって僕の眷属だからね」
僕の作った眷属に無能はいないのだよ。
いや、ちょっとおバカなのはいるけど、それでも人てしてだったらかなりの天才と呼ばれてもいいくらいの能力がある。
「そうか。なら構わないさ」
「うん、でさ。国王はどのくらい持ちそう?」
「そうだね…おそらく、2年半くらいだろうね」
最近の国王は、少し体が衰えたり、物忘れが激しくなったり、疲れやすくなったり…と、年齢を感じさせるようなことが増えているらしい。
ハルの見立てだと、あと2年半くらいで王位を譲るということだ。
「そう…じゃあ、それまでに僕は準備をしておくよ」
「頼むよ。もう君のおかげで次の王位は確実だけど、それでもやるに越したことはないからね」
「うん。僕は外面を、君は内面を」
「ああ。この国は僕らの手の平の中さ」
僕らはこの国を…もとい、僕はこの国を楽しむのだ。
そのためにも、ハルには頑張ってもらわなくては。
ハルはこの国の基盤になってもらう。
…次は第二皇子の派閥とソフィのところを使おう。分裂さえさせれば、あとは勝手に進んでいくだろう。
まぁ、時間はどれだけかかっても構わないんだ。なんせ時間は無限だからね。
「じゃ、また来るね」
「いつでも歓迎するよ」
僕は口元に笑みを浮かべながら、ハルの部屋を出る…
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