121.還しました
宰相とお話し(権力で)してから3週間。
あったことを説明しよう。
まず初めのニュースは第一皇子の婚約発表だ。
それとともにカリーナがエルさんの娘であることも発表され、公式に婚約が発表されたのだ。
その数日後、勇者の魔王討伐を祝うパーティが王城の前のメインストリートを利用して行われ、王城の目の前で神野たちは表彰された。
パーティは2日ほど続き、一種の祭りみたいになった。
アルバートは3日目に見に行ったら死にそうになってたよ。なんでも、王都以外でもちょっと有名になっていて、それを聞きつけた客が殺到したらしい。
そして、それからさらに1週間後。
王国全土で第一皇子の結婚式を祝い、またパーティが行われた。
こっちは1週間以上騒ぎが続き、さすがのアルバートもそれが終わってから2日ほど店を休みにしてた。
王城で行われた式は、エルさんの登場でさらに大騒ぎになりはしたが、カリーナの式は素晴らしいものになった。
ついでに僕はつながりと使えそうな奴らをピックアップして仲良くなっておいた。
もちろん、王子様ともね。
あいつについて言うならば、素晴らしく純粋で天才肌の政治家だ。
そのうち僕が直々に色々と教え込んでやろう。
結構性格はいいし、僕とは仲良くやっていけそうだった。
で、それから1週間と少しして、マドーラの長老会から手紙と魔法陣とその説明の書かれた紙が届いた。
そしてそれから3日。準備が整い、神野たちが帰る日となった。
「拓巳さん。本当にありがとうございました。このご恩は忘れません」
「いや、いいよ。俺もソフィと入れて結構楽しかったしな」
「そうだよ。私たちは好きでやったんだよ?お礼なんていいよ」
「ありがとうございます。では、いきます!」
僕らは初めに呼ばれた時にいた場所に来ている。
神野たちはそこの中心にある祭壇に立ち、扉の前にいる2人の騎士と僕とソフィ以外は誰もいない。
ソフィはそう言うと、魔力で陣を描き始める。
「じゃあ、神野くん。また向こうでね〜」
「おう。早く戻ってこいよ」
「うん。石井くん、それ向こうでやたらに使わないでね?特に人前で」
「と、当然だろ。向こうで使って、変なのに関わりたくないしね」
「安井さん。それ、前のやつとは違ってつけている限りは壊れないから安心してね。あと、倉庫の方に手紙を入れておいたから1人で読んでね〜」
「え?しんちゃん、私の倉庫に干渉できるの?」
「あ、大丈夫だよ。変な用途に使うことはないから」
「えっと…うん。わかった」
「じゃ、また後でね〜」
僕がしゃべっている間にソフィが陣を描き終わり、後は魔力を注ぐのみの状態になったので僕も魔力を注ぎ、さらに少し陣を書き加える。
書き加えたのは”スキルに隠蔽を追加” ”転移先の詳細な指定” ”肉体年齢のみの逆行” ”転移先の時間軸を呼ばれた瞬間まで巻き戻し” ”能力とかの固定”だ。
ついでに言っておくが時間を巻き戻しても、俗に言う”パラレルワールド”は発生はしない。
世界っていうのはゲームのようなもので、消えたデータは復活しない。
どうしても”パラレルワールド”を作りたいなら、2つ以上の全く同じ世界を作ればいい。僕が作った”トイボックス”のようにね。
「新さん。もう大丈夫です」
「了解〜。じゃ、また後で〜」
「おう。じゃあ、お世話になった!」
神野がそういった瞬間、その部屋の中が白い光に包まれ、光が消えた時には神野たちはいなかった。
「さて、じゃあ…これからもお世話になるよ。ソフィ」
「はい。でも、よかったのですか?帰らなくて」
「うん、大丈夫だよ。いつでも帰ろうと思えば帰れなくもないからね」
「まぁ、新さんも空間属性を持っているんですものね」
「じゃあ、行こうか」
「はい」
僕はソフィに連れられて歩いていく。
向かう先は謁見の間。
初めて来た時を思い出すね。
だけど、今回これから行われるのは僕に爵位を与える式典だ。
謁見の間の扉は、初めて来た時と変わらず豪華な雰囲気を醸し出している。
少しして、扉の前に立つ騎士が扉を開けた。
『シン様、ご入場です』
扉の前にいた騎士がそう言うと、僕は中に入る。
そして、中に入ると王座の前で跪く。
「面を上げよ」
「はっ…」
王の声を聞いて、僕は顔を上げる。
カリーナの婚約で集まった辺境の貴族なんかもいるので、初めてここに来た時よりも多い貴族が僕を見ている。
そして、そのうちの半分以上は婚約パーティの時に仲良くなった貴族だ。
僕が周りを確認しているうちに、王の横で控えていた宰相さんが形式張ったことを話し始める。
その間に宰相さんから僕のお願いの話をされた時からの話をしておこう。
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「シン様。今、よろしいでしょうか?」
その日から2日目のことだ。夕食をとった後、宰相さんが食堂に来て、そのまま応接間に向かって話をすることになった。
「で、どうなったのかな?」
「はい。無事、提案が通りシン様に候爵位が与えられることとなりました。おめでとうございます」
(私がどれほど苦労して王を説得したことか…しかし、それが私の権力を確かにするものになるのならば、このようなこといくらでも引き受けてくれようじゃないか)
「よろしい。じゃあ、これからもしっかりとやってね?」
「はい。もちろんですとも」
(この者についていれば間違いはない!私はもっと強大な力を手にするのだ!)
その言葉と思考を聞いて、宰相は完全に僕についたことが確認できた。
というか、宰相って王に仕える最も偉い人だったよね。これ以上偉くなるってことは、王族と結婚でもしたいのかな?ま、使えるからいいや。こいつ、結構才能はあるんだろうし。
「で、何か必要なことってある?あと、やっておいた方がいいこととかも」
「はい。まずは与えられる領地のことなのですが、王都の北側の一角に加え、シルフィード王国南部に存在します”ウェイア”を与えることとなりました。よって、王都に屋敷などを用意する必要があります。侯爵という位に見合った屋敷をお建てください。これがその与えられる領地の詳細な地図となります。また、経営等のことは、以前にこの場所を治めていた貴族の遣わした領主がおりますので、その者とお話くださっていただければ結構です」
(最近、大量に裏に繋がっていた貴族を摘発したおかげで、王都に土地が空いていて好都合だったな)
「ふ〜ん…あ、そうだ。私兵とかっていた方がいいよね?」
「はい。侯爵ですので、それ相応には必要となりますね。こちらでご用意いたしましょうか?」
(私の手の者をつかえばいくらでも兵など用意できる。ここで恩を売っておけば…)
「いや、いいや。それは僕が要するからさ。で、あとは何かある?」
冒険者の知り合いとか、兵士の知り合いとかから引き抜こう。結構僕が好き勝手できる人たちの方がいいからね。
「そうですか。では、現在決まっていることは以上となります。それと、貴族になるにあたって家名を贈らせてていただくのですが、何かご要望はございますか?」
(その程度の兵は自分で集められるというのだな)
「あ〜…任せるよ。あと、僕の名前はシンでいいよ」
「了解いたしました。では、領主の者と対面などはいつ可能でしょうか?できる限り早くお願いしたいのですが」
(また執務か…私のためだ。苦労は惜しんではいられない)
「明後日は?ちょうど勇者のパーティの次の日だし、王都に来るにはちょうどいいでしょ?それでよければ僕は昼頃には部屋にいるからさ」
「了解いたしました。では、そう伝えておきます。では、以上です。お疲れさまでした」
(さぁ、早く戻ってユベルにこの件を伝えて、王と私の部下と家名を決めて…ああ、忙しい)
「じゃ、僕は帰るね〜」
そうしてその日は部屋に帰り、夜な夜な蜂用の魔石に陣を書き込む作業をして時間を潰した。
蜂は本体を50匹と頭部についている魔石の替えを大量に制作してある。
次の日は王都で勇者のパーティが盛大に行われ、昼にアルバートの店に行く以外は城の中で過ごした。
いや、正しくはカリーナと話すために図書館に向かったのだが、ちょうど王子様がいたので王子と話すこととなった。
「君がシンかな?」
「ん?え〜と、王子様であってるよね?」
「ああ、もちろん。この国の第一皇子、ハルファン・シルフィードさ」
「よろしくね。ハル」
「ははっ。この僕をそう呼んだのは君が初めてだよ。みんな皇子をいう身分に頭を下げるやつばっかりでね。ほんと嫌になっちゃうよ」
「じゃあ、僕もその方が良かった?」
「いやいや、これからも仲良くしていこうじゃないか」
そう言って、ハルは僕ににこやかな笑顔とともに手を差し出してきた。
僕はその手を取って、握手を交わす。
「うん。似た者同士仲良くやっていけそうだね」
彼は良くも悪くも純粋だった。
ただし、真っ黒いという意味での純粋だが。
ああ、カリーナのことは普通に惚れたらしいね。聞いたところ、カリーナが図書館で働き始めた時に見た目に惚れて、時折図書館に通うようになってからカリーナのその真面目なところとかに惚れたらしい。
それから仲良くなって、今に至ったらしい。
「ははっ。そうだね」
「うん。君とはいい関係が築けそうだよ」
それから、しばらく2人で話をした。
結局、それからはちょくちょく会ってお茶をしたりする仲になった。
その次の日、僕は僕がもらう予定の領地の領主をクビにした。
必要な書類、知識、住民の生活や家族とかの合計収入からくる税金の事…他にも色々あったが、そいつをクビにした理由は単純だ。
横領してた。
持ってきた書類や聞いた話など、全てのことから合計金額とかを割り出し、書類の金額が20%近く足りていなかったので、カマをかけたら案の定だった。
僕の外見から、子供だと思って舐めてたのかな?
近いうちに領地に直々に向かう必要がありそうだ。他にもいくらかいるみたいだったから、制裁を下してやろうじゃないか。
とりあえずは、領主がいないと経営もままならなそうな状態の領地だったので、ロメを遣わしておいた。
僕が行くまでの間にしっかり仕事をこなせるような人材の確保と育成を頼んでおいたので、とりあえずの心配はないだろう。
金貨20位を渡しておいたので、他のこともうまくやってくれるだろうし。
…とにかく、後で宰相さんに苦情を言っておかないとね?
それが終わったら、カリーナのところに行った。
「えっと、いいんですか?こんなことまで頼んでしまって」
「うん、大丈夫だよ〜。任せてよ」
「じゃ、じゃあ…お願いします」
「うん。じゃ、当日は楽しみししておいてね〜」
カリーナはルファーリオでエルさんに育てられた。つまり、天使の安息とか迷宮の門番さんとか、僕が知ってる知り合いも知っている人が多い。なので、カリーナに頼まれた人をできるだけ呼んであげようと思うのだ。せっかくの晴れ舞台だし、このくらい悪くないと思うんだ。
まぁ、必要最低限の礼儀は叩き込むけどね。
それから、1週間後。
式の前日までにカリーナに頼まれた人、総勢23人を王都に連れてきて礼儀とかを叩き込んで、僕がお金を払って宿に待機させた。
他にやったことは、ハルとお茶をしてたのと屋敷を立てる場所を見に行ったくらいだ。
屋敷を建てようと思った場所。
というか、もらった場所で建てるのに困らなそうな場所がアーノルド…僕は来たばっかりの頃に洗脳してた貴族の屋敷跡だった。
どうやら、僕がいない間に暗殺されたらしく、この場所周辺の貴族はアーノルドと一緒に悪いことに手を染めているグループだったから一気に摘発され、この周辺が僕に回ってきたらしい。
つまり、アルの孤児院とかも僕の管轄になったわけだ。
で、向こうの世界で建築とかの知識は一応一通りは覚えてあるので、ヨーロッパの造りとかを参考にして屋敷の設計図を書き、眷属の小人族たちに建築を始めさせた。
元々あったアーノルドの屋敷は取り潰し、地下2階、地上3階の屋敷を建設中だ。おそらく2,3週間後には完成するだろう。
その後、式でハルと話していた使えそうな能力の高い貴族と高い権力を持ってるだけの無能の貴族を僕らの側の派閥…第一皇子を時期王にしようとしている派閥に取り込む前準備をしながら式を楽しんだ。
この国には派閥が4つもある。
まず、僕らハルを時期国王にしようとしている派閥。
次に第二皇子を時期国王にしようとしている派閥。
で、第三王女でありながら彼女…ソフィを時期国王に据えようとしている派閥。これは第一と第二王女が他の国に嫁がされてしまったために発生したらしい。
最後がどこにも所属していない派閥。いや、正しくはこの国を宗教国家にしようと企んでいる奴らだ。
僕はこいつらをそのうちこの国と分離させて、別の国を作らせる予定だったりする。
他の派閥から使えそうな奴らを取り込んできた。
僕のことを知ると、大抵の奴らは僕の下につくので、そこからあとはハルの仕事だ。
僕は恐怖で外面を支配する。ハルは褒美などで内面を支配する。
言わば飴と鞭だ。
僕らはこの国を2人で掌握する。
今の国王は御歳67歳。もう少ししたら王位を降りる。それまでに準備を整えておくのだ。
それから、僕は私兵を増やそうと色々と誘ってみたりして、その後神野たちを見送った。
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長々しく、形式張った話がやっと終わった。
さぁ、メインイベントだ。
「ではシンよ。汝に”デルピエール”の家名と侯爵位を授ける」
「はっ。ありがたく頂戴いたします」
「これからもこの国のために尽くすといい」
「仰せのままに」
僕は王にうやうやしく頭をさげる。
僕に侯爵位を授けるという言葉を聞いて貴族がざわめくが、誰が気にするかっての。
「では、もう下がってよいぞ」
「はっ。では、失礼いたします」
僕は王に礼をすると、扉へと歩いていく…
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