120.今度こそ話し合いました
「そろそろいいかな?」
神野たちが色々試し始めて5分くらいは待ってあげた。
ま、楽しいのはわからなくもないんだけどね。
「あ、わるい」
「うん。使い方はわかった?」
「大丈夫だよ。でもしんちゃん、こんな物を作れるなんてすごいね」
「俺はこういうのは向いてないから…」
「あ、多分向こうの世界でも使えるはずだから、武器とかしまっておきなよ」
「あ、そうだった。行ってくる」
「はい、ストーップ!」
僕は行こうとした神野の首を掴んで止める。
「ん?なんだ?」
「いや、褒美の話をしてたんでしょ?」
「「「あ」」」
「はぁ〜…みんなして忘れないでよ」
どうやら忘れていたようだ。
「で、褒美の話なんだけど、何か欲しい物ってある?」
「俺はないな。向こうに帰るから権力とか金は入らないし」
「俺もだな。まぁ、金貨とかはもう幾らか持ってるからそれだけあればいい」
「私はちょっと欲しいかも。この世界には魔石ってあるでしょ?あれがキラキラしてて綺麗だなぁ〜って」
まぁ、つまり欲しい物は特にないと。そういうことだね。
「じゃあ、みんな結局は何か欲しい物はないんだね?」
「そういうことだな。こんなことしてボランティアじゃ割に合わないけど、なんかそれでもいいかなって思うんだよ」
「俺も同じく。俺は未来がいればいいし」
「え、えっと…そ…」
安井が顔を両手で覆って隠してる。
耳が赤いのが見えてるよ〜。
「じゃ、そんな話を宰相さんにしにいかない?」
「え?今から行くのか?」
「あ、別に神野くんだけがいればいいよ〜」
「うん。じゃあ俺らはここで待ってるわ」
「よし、じゃあ行こうか〜」
「え?なんで俺だけ?」
「いやだって、そういうのはいつも神野くんの仕事でしょ?」
「いや、まぁ、そうだな。ああ」
神野は少し何かを考えた後、納得したような顔をした。
「じゃ、お邪魔したね〜。また夕食の時に〜」
「じゃあ、俺も行ってくる」
「「いってらっしゃ〜い」」
僕らは石井と安井に見送られて部屋を出る。
「じゃ、行こうか〜」
「いや、その前に場所知ってるのか?」
「ん?当然じゃん。何言ってるの?」
「いや、俺は行ったことないから。つか、なんで知ってるんだよ?」
「ん?暇な時に色々回ったんだよ〜。まぁ、一部は行ってないけどね」
アルの修行をやってた頃、アルを送った後で暇つぶしに城の散策をしてたのだ。
「へぇ。で、どこなんだ?」
「3階の応接間の1つにいつもいるみたいだったね。多分そこが宰相さんの執務室だったのかな?」
「じゃあそこに行くんだな」
「うん。じゃ、行くよ〜」
僕は石井の部屋から出て、歩き出した。
階段を降り、廊下を移動する。宰相さんのいる部屋は、その中の一番端から4番目の部屋だ。
「多分ここだったと思うよ〜」
「そうか。で、どうするんだ?」
「う〜ん…どうしよっか?」
「え⁈考えてなかったのか⁉︎」
ここに来るまでと中で話すことは考えていたんだけど、どうやって中に入ろうか全く考えていなかった。アポとか取った方がよかったかな?
「まぁ、とりあえず神野くんが用があるって言えば入れるよね」
「お前な…」
「じゃ、行くよ〜」
僕はそこの扉をノックする。
『はい。どなたでしょうか?』
「新と神野くんだよ。ちょっと話があってさ〜」
『勇者さま方でしたか。どうぞ、お入りください』
「じゃ、お邪魔するね〜」
「そんな軽くていいのか…?」
僕らは扉を開けて、中に入った。
神野はちょっと挙動不審みたいになってるけど、まぁいいよね。
「ええと、宰相さんであってるよね?」
「はい。わたくし、シルフィード王国宰相を務めさせていただいております。ラミュール・ベルファと申します」
「俺は勇者をやってた、神野 拓巳だ」
「僕は新だよ〜」
「いや、ちゃんと名乗れよ」
「え〜。じゃあ、松井 新一郎だよ〜」
神野にちょっと睨まれたので、おとなしく名乗り直す。
「して、どうかされましたか?」
「ああ、そうだった。えっと、新ちゃん頼める?」
「え〜。まぁいいけど。えっとさ、どうせ神野くんたちに褒美とか出るでしょ?その話をしに来たんだ」
「ああ、なるほど。とりあえずお掛けください。話はそれからにしましょう」
「じゃ、失礼して」
僕と神野は部屋の真ん中にあるソファーに腰掛けた。
宰相さんもテーブルを挟んで向かい側のソファーに座った。
「では、話をしましょうか。褒美の件とおっしゃられましたが、どういった話でしょうか?」
「ああ、そうだった。俺らは元の世界に帰るだろ?だから、金とか権力はいらないんだ」
「なるほど…では、帰還の魔法が所望だと?」
「あ、それはもういいよ〜。僕がマドーラで頼んできたから」
「…ふむ。ではどういった?」
「簡潔に言えば、いらないんだ」
「…え?いらないと申されるのですか?」
宰相がかなり驚いた表情をしている。
というか、今まで僕の嫌いな感じな表情をしていたので”読心”を起動する。
「そ。でさ、表彰とかは形だけのもので構わないよ」
「なるほど…」
(どうやってこの国に縛りつけましょうか?せっかくの戦力です。そうやすやすと逃すのは…)
「でなんだけど、僕からのお願いがあるんだよね」
「え?新ちゃんが用があっただけなの?」
「うん。まぁね」
「はぁ…で、お願いとは?」
(せめてどうにか、1人でも…いっその事、魔法を邪魔させるか?)
「神野くん。もう帰っていいよ〜」
「…は?」
「え?」
(なっ⁉︎交渉させないつもりか!)
「いや、ここからは僕と宰相さんだけがいればいい話だから、神野くんは部屋に戻って〜」
神野と宰相さんは驚いた顔をしている。
僕としては神野にはそんなに世界の黒いところの見せたくないし、第一に僕が今から話す事を絶対邪魔するし。
「いやいや。俺も最後までいるよ」
「ほら、さっきあげたやつをもうちょっと試してくれない?まだ何回も使ったりしてないから、ちゃんと使えるのか確認して欲しいんだ〜。あ、壊れたら中身は全部外に出るからさ」
「…しょうがない。何か聞かれたくないような話なんだろ?じゃあ俺は行くよ」
「あ、あの。何か欲しいものとかはないのですか?」
(ここは少しでも時間を稼いで、説得をしなくては。ここでどうにもならなければ、魔法を邪魔するより他なくなってしまう)
「いや、本当にいいんだ。じゃ、俺は戻ってるからな」
「うん。じゃね〜」
神野は扉を開けて出て行った。
「さて、どうしたのかな?」
僕はニヤニヤしながら宰相さんの方を見る。
「…いえ。なんでもありませんよ」
「ふふふ〜。ちなみに、『(どうやってこの国に縛りつけましょうか?せっかくの戦力です。そうやすやすと逃すのは…)(せめてどうにか、1人でも…いっその事、魔法を邪魔させるか?)(なっ⁉︎交渉させないつもりか!)(ここは少しでも時間を稼いで、説得をしなくては。ここでどうにもならなければ、魔法を邪魔するより他なくなってしまう)』ってね。心の声は丸聞こえだったよ〜」
「なっ⁉︎…そ、それは、その…ですので…ええと…」
宰相さんはものすごい焦った動きとともに、しどろもどろになりながら言い訳を開始した。
「はい、でさ。お願いがあるんだよ…もちろん聞いてくれるよね?」
「…は、はい。もちろんです」
宰相さんはうつむきながら小さい声でそういった。
考えはどうにかしてこの状況を奪回しようという考えがいつくか上がっては消えてを繰り返している。
「僕を貴族にして欲しいんだ。できれば結構位が高いやつね」
「え?き、貴族ですか⁉︎」
「そ、貴族。構わないでしょ?」
「いや、願っても無い事です。はい」
(こやつだけでもいれば、向こうの世界のものを…)
「聞こえてるよ?まぁいいけどさ。で、僕に侯爵位を寄越せ」
そのくらいあれば色々できるだろう。
「こ、侯爵位ですと⁉︎」
(そ、そんなくらいを私の一任ではどうにもできるわけが無いじゃ無いか!)
「そう、侯爵位。ねぇ、カリーナって知ってる?」
「え。ああ、もちろんですとも」
(そんな事をこの私が知ら無いわけがないだろうに)
「僕は彼女を支える。彼女、第一皇子の求婚に答えたよ」
「なっ!答えただと⁉︎あの平民が!」
(メイド共に色々と吹き込ませたのに、答えただと⁉︎ふざけているのか!)
「ふふふ…ちょっと面白い事を教えてあげようか?」
「面白い事だと…何も面白くなど無いわ!」
(これは早くどうにかしなくては…平民が王族と婚約するなど…あってはならない!)
宰相さんは眉間にしわを寄せて、僕を睨みつけている。
「彼女。エルシード・グラスフェアの娘だよ」
「エルシード・グラス…まさか!あの英雄の娘だというのか⁉︎」
(そ、そんな馬鹿な!経歴にそんな事など微塵も…)
「ちなみに、そのエルさんは今王城内にいるよ。僕が連れてきた。今は図書館にいるから、彼女を殺そうとかは考え無い事だね」
「つ、つつ、連れてきただと⁉︎き、きさま…何者だ!」
(こんな無能な平民が連れてきただと!)
「ねぇ、さっきから聞こえてるって言ってるよね?」
「…っは!」
「そろそろうるさいよ。散々僕を馬鹿にするって事は…僕を敵に回したいのかな?」
「…きさまなど、きさまなど、屁でも無いわ!」
「ふぅ〜ん。へぇ…僕の名はシン。AAAランクギルドランカー”悪霊”、迷宮ルンベルの塔初代攻略者、全大陸戦闘競技大会準優勝者。僕の名前はエクレイム。黒龍の英雄、長老会内の複数人の友人。他にも色々あるよ。僕を敵に回すという事がどういう事なのかしっかりと理解しようね?」
「な、なな、なななな…そ、そんな事が、あ、あるわけが」
(ありえない、そんな事など認めないぞ!)
宰相さんはありえないほど冷や汗をかいている。
顔は絶望を体現したような感じだ。
「ほら、理解できたかな?」
「…はい。申し訳ございませんでした」
(…もうおしまいだ。あの迷宮の攻略をしたという事はAAAランク以上の魔物を単独で討伐可能という事。そんな者を敵に回す事ができるわけがない。さらに長老会の友人だと?つまり、この者を敵に回すという事はマドーラに戦争を仕掛けるという事と同意ではないか!)
「さて、理解できたようで何よりだよ。で、侯爵位…用意できるでしょ?」
「は、はい。もちろんです」
(と、とりあえず王に相談を。新たに領地を用意しなくては…ああ、アーノルド子爵が死んだのだったな。そこを含めその周辺を与えるとしよう)
「さて、じゃあ嫌な話は終わらせてあげるよ」
「あ、ありがとうございます」
(ふぅ…とりあえず、乗り切ったのだろうか?)
ま、位はどうにかできそうだ。これで約束は守れそうだね。
「じゃあ、いい事を教えてあげよう」
「な、なんでしょうか?」
(いい事だと?さっきの話の時点で全くいい事なはずがない…どうすれば)
「ああ、安心して。本当に君にとってもい話だから」
「ほ、本当でしゅか?」
(本当であることを祈るしかないのか…)
緊張しすぎて噛んでるし。男がやってもキモいだけだよ?
「僕は向こうの技術をかなり多く知っている。商会を開いてあげるよ。技術を含め、この国を繁栄させてあげよう」
「む、向こうの世界の技術ですか?それはどういったのもでしょうか?」
(ほ、本当か!これならば場合によっては貴族位を与えても…)
「遠距離の通信伝達技術。印刷技術。街道の舗装などに関するもの。移動技術。生産技術…他にも色々あるよ。少なくとも、言われれば大抵のことはできるよ」
「そ、そんなに…」
(遠距離の通信技術など、冒険者ギルドと国に1個ずつあるのみだ。印刷技術とはなんだ?1つ1つ奴隷に書かせる以外の方法が…?それ以外も十分に魅力的な)
「ほらね?いい話でしょ?」
「はい。そうですね。では、王に交渉してシン様の願いを通しましょう」
(これならば、悪くないかもしれない。終わりなどではない、これはこの国の、私の始まりだ!)
「さ、じゃあ僕の話はこれだけだから」
「承知しました。では、この話はまた後ほど」
(とにかく、王と話してこの話を通そう。そうすれば私にも…ふっふっふ)
とりあえず僕の願いは通りそうだし、支配はできそうだな。
「ああ、あとなんだけど。神野たちはきちんと向こうの世界に返す。邪魔したら僕は武力でこの国を滅ぼす。カリーナの邪魔をするな。邪魔をしたら僕は内部から国を滅ぼす…いいね?」
「…はい。もちろんです」
(どうにかこやつだけには逆らわずにうまくやる方法も考えなくては…)
「じゃ、話は終わり。僕は大抵部屋にはいないと思うから、話がついたなら夕食の時あたりに来てよ。その時間ならいるからさ」
「わかりました。全力を尽くして、話を通しましょう」
(何事も全て王と話さないことには、どうにもならなそうだ…)
「じゃね〜。あ、考えは全部聞こえてたよ?頑張って僕を利用してね〜」
「なっ⁉︎全部聞こえてたのか…⁉︎」
僕は最後の言葉を言ったあとに”読心”を切った。
そして、僕は部屋を出る。
「いやぁ〜。人のつながりって大事だね〜」
向こうの世界にいた時に読んだ本の1冊に”交渉は権力で押し潰せ”という、ふざけた題名のものすごいためになる本があったのだ。
内容は人とのつながりの作り方から、集団の掌握の仕方まで、結構いろいろなことを書いてある本だった。
いやぁ、ためになるね。やっぱり本はいいね。うん。
他にもそういった本は大量に読んだし、昔の歴史の支配の仕方とかも色々調べて知っているので知識は無駄にあるのだ。
普通は恐怖支配ってそんなに長続きしないんだけど、圧倒的な恐怖の前には続くだろう。
僕に跪かないなんて頭がおかしいんだから。
「あ、やべ。新しい蜂を出さないと」
カリーナに付かせてた蜂の魔力がそろそろ切れる。
アルバートの店を出たあたりで14時くらい。
他に色々とやってて、もともと少し魔力を消費していたから残り魔力量が3時間分。
今は16時半。あと半分で落ちちゃう。
僕はポケットから蜂を取り出し飛ばすと、カリーナのそばにいる蜂と交代させた。
「さぁ、世界を征服しようじゃないか〜!」
暇つぶしに、宗教とかも作って600年後くらいに合わせて戦争を勃発するように国を、歴史を動かそう。
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