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117.帰ってきました

 「さて、準備はいい〜?」 

 「ああ、もちろんできているよ」 

 「じゃ、行くよ。『扉』」


 僕らは空間をまたぎ、王都から少し離れた場所に移動した。


 エルさんを誘ってからの2週間ほどは、一度マドーラの長老会に魔法の進行状況を聞きに行った以外は、蜂の生能を試したり機能を追加したりして遊んで過ごした。で、結果的に普通の武器になりました。次の全大陸戦闘競技大会にはこれだけを使用して出場してみよう。結構楽しそうだ。

 おっと、じゃなくて。

 僕らは王都の北門から出て少しの場所に移動した。


 「本当に来れたね。すごいじゃないか、新くん」

 「当然だよ〜。見たかっ〜」


 

 僕らは森の中を歩き始めた。

 ちなみに、ここから王都までは綺麗な道がほとんどない。それはほとんどの人が東西南の門を使い、ここの門を使わないからだ。なので、この門は冒険者とかしか使うことがない。


 「いやぁ〜。王都久しぶりだな〜」

 「おや?新くんはいつでも来れたのだろう?来なかったのかい?」

 「いやね、さすがに何回も来てたら魔法のことがばれて大騒ぎになっちゃうでしょ?すでに僕って有名人なんだしさ」

 「ああ、なるほど。確かにこんな魔法が広まったら大騒ぎどころじゃないだろうね。戦時中なんかも敵のいる場所に兵が送れるようになってしまうんだから」

 「そ。だから来なかったんだ〜」


 まぁ、陣が細かすぎる上に色々必要な条件もある上に大量の魔力が必要になるので、広まっても誰かが使えるようになるのは、かなり先のことになるだろうけどね。

 ちなみに条件っていうのは、転移先に入り口を塞ぐ物がないとか魔力の状況とかだね。ま、僕には関係ないけど。


 「さて、とうちゃ〜く」

 「こんなに近くだったんだね」

 「うん。結構人が来ない場所だけど、門からは近くなんだよね〜」



 設置してた場所は王都北門から4分ほど歩いた場所。そこにある岩と木の陰になってて周りからよく見えないというちょうどいい場所だ。


 ついでに、北門なのでほとんど並ぶことなく入ることができるという素晴らしいおまけ付きだ。

 

 「おっ?シンじゃあないか。久し振りだな!おい」

 「あ、おひさ〜。まだ門番やってるの?」



 この門番やってるジョーズっていう男は、僕が初めてアレクと外に出た時に門番をやってた奴で、それ以来結構仲良くやってたのだ。


 「いや、これは昇級してないとかじゃあなくて、普通に誰でもやるんだよ」

 「あ、そうだったんだ」

 「よし、じゃあ身分を証明で…って、そっちは誰だ?」

 「あ、そうだね。エルさん、こっちはジョーズ。門番をやってるしがない一般市民Aだよ」

 「一般市民Aって、なんだよそのモブ感は⁉︎」

 「こっちはエルさんだよ〜」



 後ろでちょっと大きめのバッグを背負ったエルさんを見て首を傾げてるので、紹介してやろう。


 「エルさん?」

 「そ。ほら、自己紹介を〜」

 「儂か?儂はエルシード・グラスフェアだよ」

 「グラスフェア…えええ⁉︎あの英雄の?あの魔導師様ですか!」

 「あ、ああ。そうだよ」

 「サインください!」

 


 ものすごいびっくりした顔をした後、ペコペコ頭を下げながらサインしてくださいとどこから出したのかペンと紙を差し出している。

 面白い。やっぱり自己紹介っていいよね。


 「ああ、かまわないよ」



 エルさんはサラサラとペンでサインを書いていく。字が綺麗な上に下敷きもなしに薄い紙に書くってすごいね。

 僕はそこまで字は上手じゃないから今度練習しておこう。そのうちサイン書くことがあるかも…断りそうかな。面倒臭そうだし。


 「ありがとうございますっ!」

 「ははは。いいよ、そんなに頭を下げないで」

 「い、いえいえいえいえ。とんでもありません!」

 「ははは〜。何やってるのさジョーズさん」

 「いや、だってあの英雄だぞ!あの英雄だぞ!つか、なんでお前はそんなお人と知り合いなんだよ!俺にもそんな知り合いが欲しい!」

 「最後の方欲望だよね〜」



 しばらくそんなことをやってると、ふとジョーズが思い出したようで。 


 「あ、おっと。仕事しないとだよな」

 「やっと思い出したんだね〜」

 「いや、早く言ってくれよ。で、身分を証明できるものを」

 「はいよ〜」



 僕とエルさんはギルドカーを出す。


 「お、おお〜。やっべぇ、本物だ…ああ、そうじゃなくて、ってお前いつの間にそんなにランクが上がってんだ⁉︎」

 「え?ああ、いつの間にか上げられてたんだ〜」

 「お、おおう。で、目的…たって、どうせ勇者のアレとかだよな」

 「うん。ついでに人にも会いに来たよ」

 「おう。じゃ、通っていいぞ」

 「じゃ、頑張ってね〜」



 僕らは城壁を通り抜ける。

 城壁を越えると、目の前にまっすぐ伸びる道の先にギルドが見え、その後ろに王城が見える。

 こうやって久しぶりに見るとかなりファンタジーな光景な気がする。


 「さて、どこ行く〜?」

 「どこへ行くとは言っても、まずは宿を取らないといけないだろう?」

 「ああ、荷物があったんだったね。じゃあ、行こうか〜」



 僕は行く場所も言わずに歩き出す。

 ま、もちろん王城に行くだけなんだけど、言わないで行った方が面白いでしょ?


 道をまっすぐ歩いて行き、ギルドの前で曲がり、王城を中心に回って南側にある城門まで行く。




 「お〜い、おじちゃ〜ん。開けて〜」

 「だから俺はダリ…ウ…ス…ってシンじゃねぇか!久しぶりだな!今開けるから待ってろよ」



 ギギギギと、音を立てて門が開く。

 僕らが門を越えると門が閉まる。


 「おいおい、久しぶりだな。今までどうだったんだ?ほら、話してくれよ」

 「はいはい、それは後でね〜。ちょっと荷物置いてくるからさ」

 「ああ、そうだな。悪い悪い」

 「じゃ、また後で来るよ」

 「おうよ」


 

 僕らは門をあとにすると、王城に入り、階段を登り、4階の僕の部屋まで行く。

 ここにはいくつか来賓客用の部屋があるので、後でソフィにでも行ってエルさんの部屋をもらおう。まぁ、それまでとりあえず僕の部屋に荷物を置いてもらおう。


 「さて、とうちゃ〜く」

 「ここは…?」

 「僕の部屋だよ〜。鍵とかはそのまま持ってていいって言われてたし、この部屋は僕らに1つずつ与えられた家みたいなものだからね」



 一応、王都を出るときに鍵とかを返そうと思ったんだけど、ソフィに「この部屋はこの世界でのあなた方の家です。自分の家だと思ってください。この部屋は差し上げますので、いつでも帰ってきて構いませんよ」なんて言われて、鍵とかはそのまま持っているのだ。

 僕は鍵を開けて、中に入った。


 「そうかい。じゃあ入らせてもらうよ」

 「いらっしゃい」

 「ああ、お邪魔するよ」

 「じゃ、その辺に荷物を置いてくれればいいよ〜」

 「そうか。わかった」

 「じゃ、必要なものだけ持っていくよ〜」

 「え?どこかに行くのかい?」

 「ほら、もうすぐでお昼時でしょ?」



 アルバートに帰ってきたことを言いたいし、時間も13時を少し過ぎたぐらいでちょうどいい。


 「ああ、そうだね。まぁ、これだけ持っていればいいから行こうか」

 「よし。じゃあ鍵閉めるよ〜」



 僕はエルさんが出るのを待って鍵を閉めると、再び1階まで降りていく。


 「いやぁ、君は知り合いが多いのだね」

 「いやいや、それを言ったら全然エルさんの方が多いと思うよ〜」

 「ははは。確かにそうだ」

 「ははは〜。まぁ、でも今から行くところも僕の知り合いの店だしね」

 「そうかそうか。エミリオ君から君の料理が美味しいと聞いたよ。君の行く店なんだ。きっと美味しい所なんだろうね」

 「うん。僕が店を出すのを手伝った店だもん。おいしくなかったら叩き直してやるよ〜」

 「ははは。それは楽しみだ」



 そんな会話をしながら階段を下りていく。


 「お〜い、おじちゃ〜ん。門開けて〜」

 「だ・か・ら、俺はダリウスだ!」

 「知ってる〜」

 「知ってるならやめろい!」

 「ははは〜」

 「ったく。開けるからもうちょい離れろ」

 「ほ〜い」



 ギギギギ…と門が開くと、僕らは王城を出る。


 「じゃ、ありがとね〜」

 「おう。後で話を聞かせろよ」

 「ほ〜い。じゃ、行ってきま〜す」

 


 僕らは王城を出ると、そのまま目の前の道を少し進むと裏道に曲がった瞬間。

 

 「あれ?随分と並んでる」

 「これかい?」

 「あ、うん」

 「凄い行列だね」



 2,30人くらいの行列が道をふさいでいる。

 その先に見える店は確かに”アルバート洋食店”という看板が下がっている。僕が知ってる店の大きさとは随分と違うが。

 あのどこにでもあるような一般的な一軒家みたいな店ではなく、一軒家2つ分の大きさの小綺麗な白い店が立っている。


 「…よし」

 「ええと、何がよしなのかな?」

 「並ぶの面倒くさいから」

 「ああ、別の店に行くのかい?」

 「いや?普通に顔パスするよ」



 面倒くさいから並ぶ気はないのだ。実験してたあの蜂の1匹をポケットから取り出し、飛ばす。


 「じゃ、ちょっと待って…『視界共有』起動」

 「ええと、どうかしたのかい?」

 


 僕は蜂の視界を使って店の中に入り、アルバートを探す。


 「ああ、いたいた」

 「何をやっているんだい?」

 「ちょっと待って…『声帯共有』『聴覚共有』起動」

 


 僕は蜂をアルバートの肩に止める。

 アルバートがちょっとびっくりして、肩を見る。そして、蜂を見つけたようだ。


 「『あ、あ〜…聞こえる?アルバート』」

 『はぁー⁉︎シンの声が聞こえてきただと⁉︎なんだこれは!』

 「『よし、聞こえてるね〜。やっほ〜、久しぶりに帰ってきたよ〜』」

 『いや、帰って来たじゃねぇよ。なんだよこいつは?』

 「『これは僕の作った魔道具だよ』」

 『マジか…これ魔道具なのかよ…』

 「『そ。でね『ああ、今行くから場所言え』あ、うん。道に入る列の一番後ろにいるよ〜』」

 『わかった。おい、俺ちょっと抜けるから』

 


 アルバートが他の働いているシェフに抜けることを伝えて、裏口からこっちに来ているのが蜂の目で確認できた。


 「さて、これでよし」

 「ええと、いったい何をしていたのかな?儂には全くわからなかったのだけど」

 「ああ。ちょっと呼び出したんだ〜。あ、来た」



 蜂の目で僕が見えたので、蜂を僕の場所までアルバートに合わせて飛ばして案内する。


 「アルバート、久しぶり〜」

 「おう。どうだこの繁盛っぷりは!スゲェだろ?」

 「うん。このくらい繁盛してくれないとダメだよ。手伝ったのは僕なんだからね〜!」


 

 久しぶりに見るアルバートは、もじゃもじゃの髪の毛を前より少し短めにして結構イケメンな顔がよく見えるようになってる。かなり細っそりとした体付きだったのは、少し筋肉がついて細マッチョみたいな感じに健康的だ。おかげて完全にイケメンオーラ的なのを発している気がするね。しかも、前は少し暗いイメージをもたせるような話し方をしてたのが店を持ってから変わったのだが、さらに明るくなった気がする。


 「ははっ、言うじゃねぇか!とりあえず来いよ。歓迎するぜ?」

 「うん。エルさん、これはアルバート。この列ができてる店のオーナーだよ」

 「そうか、よろしく」

 「あ、おう。よろしくな!俺はアルバート。ここ”アルバート洋食屋”のオーナーシェフをやってる」

 「よろしく。儂はエルシード・グラスフェアだよ」

 「…なぁシン。もしかして、あの英雄だったりしたりするか?」

 「あ、正解だよ」

 「はぁぁああああああああああああああああああああ⁉︎」

 「うるさいなぁ〜。どうしたのさ」



 突然結構な大声で叫んだアルバートは周りから結構見られてる。


 「いやいや、ちょっと待て。…スゥゥウ…ハァアア」

 「うん。ちょっと待てと言いつつ、何深呼吸してるのさ」

 「よしよし。整理できたぞ。シン…お前やっぱスゲェな!」

 「えっと…まぁ、とにかく行かない?」

 「あ、そうだったな」



 僕らはアルバートについて、店に向かって歩き出した。


 「いやぁ。シン、何でそんな人と知り合ったんだよ」

 「えっとね、カリーナさんって知ってる?王城図書館司書の」

 「ああ、知ってるぞ。今、かなり有名だぜ。なんでも第一皇子に求婚されたらしいな」

 「…へ?」

 「何ぃいいいいいいい!」


 

 今度は僕の真横でエルさんが叫ぶ。


 「エルさん。娘のことだからってもう少し落ち着こうよ〜」

 「娘ぇええ⁉︎」

 「ああ、そうそう。エルさんの義娘さんだよ」

 「そうか…ついに娘も結婚か」

 「ああ、なんか感傷にひたりはじめちゃったよ…」



 エルさんがどこか遠いところを見つめてる。


 「で、なんで知り合いなのかに戻れよ」

 「あ、そうだね。僕が勇者と一緒に召喚されたのは知ってるでしょ?その時に仲良くなって、カリーナさんが手紙を書いてエルさんに送ってて、それで迷宮都市に行った時に知り合ったんだ〜」

 「今、途中がかなり抜けた気がするのは俺だけか?」

 「別にあった時の情報なんていらないでしょ?」

 「ま、そうだな。ほれ、ついたぞ」



 そんな事を言ってる間に着いたようだ。


 「じゃ、そこから入ってくれ」

 「了解〜。エルさん、行くよ〜」

 「結婚…はっ!」

 「はいはい。ほら、着いたよ」



 エルさんも現実に戻ってきたので、僕らは店に裏口から入る。


 「よし、入ったな。そこの横の扉を開けて少し待っててくれ」

 「えっと…あ、これ扉なんだ」

 「じゃ、俺は厨房に戻るからな。シンはいつものでいいんだろ?」

 「あ、2人共それでいいよ〜」

 「わかった」



 アルバートは裏口から入った僕らとは違う入り口から厨房に帰って行った。

 僕らは裏口から入ってすぐのところにある煉瓦のような壁紙で扉が隠されている扉を開けて中に入る。


 中に入ると今までとさほど変わらぬ内装で、そこで案内係みたいなのが列に並んでいる人を案内している。

 その人は僕らに気がつくと、こっちに歩いてきた。


 「オーナーシェフのご友人様ですね。少々お待ちください」



 どうやら、何か説明でもしてあるのだろう。その女性は少し待つように言った後、席が空くとすぐに案内してくれた。


 「メニューは「ああ、もう頼んであるから大丈夫だよ〜」そうでしたか。では。ごゆっくり」


 

 案内係…というか、見ているとどうやらオーダーを受けたりもしているので、ウェイターはテキパキと客を案内している。客は満員の状態が続いていて、中はテーブルが30個近くあるのにも関わらず相席までしているくらいだ。


 「随分と繁盛しているんだね。新君のお友達の店は」

 「うん。そうみたいだね〜。いや〜、よかった」



 僕がいない間に店は大きくなってるし、客も楽しそうだ。頑張っているんだろうね。


 その後、料理が運ばれてきて、おいしくいただいた。エルさんも満足してたし、腕も上がっていたので良かった。


意見感想等あったらお願いします。

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