116.暇つぶしをしてました
それから1ヶ月と3週間。
勇者が魔王を討伐したという知らせが各地各国に知れ渡った。
3週間後に王都にて勇者のパーティを開くことも。
「エルさん。王都に行かない?」
「ん?突然どうしたんだい?」
僕はいつものように城壁の入り口の前で座っているエルさんに声をかけた。
「いやね。僕はもう少ししたら王都に帰るから、一緒に行かない?」
「…そうだね。行こうかね」
「おお〜。じゃ、2週間後くらいには準備しておいてね」
「え?そんなに遅くてもいいのかい?儂の足ではここからシルフィード王国の王都までは1ヶ月以上かかってしまうよ」
「あ、そういえば説明してなかったっけ?『扉』」
僕の目の前に王都付近の森につながる穴が空いた。
「それは一体?」
「空間魔法の応用だよ。僕は空間魔法が使えてね、どうにか2点間の転移魔法を作ったんだ」
「それはすごいことじゃないか!今の魔道研究室では小さい物が限界だと聞いたよ?」
「へぇ〜。で、どうする?」
「それなら安心だ。もちろんお願いすることにするよ」
「わかった〜。じゃ、2週間後くらいには行くから、それまでに準備はしておいてね」
「わかったよ。ありがとう、新くん」
「いいえ〜」
僕はエルさんに別れを言い、歩き出す。
この1ヶ月ちょっとの間。僕は主に迷宮の研究をしていた。
迷宮の構成、内部の魔物を生成しているシステム、罠などの自動修復…などなど。
これで準備はできたので、神野たちを向こうの世界に返したら早速取り掛かろうと思う。
で、他にやったことは魔道具?の制作だ。
一応、作り方とかは魔道具なんだけど、魔石じゃなくて神力の塊の結晶で作った。もはや神器とか言ったほうがいいかもしれない。
まぁでも、まだ世界に干渉せずにうまく起動ができていないので、未だに要検討な状態なんだけどね。
そんなこんなで、ここ1ヶ月ちょっとの間は迷宮と宿を行ったり来たりしてた。
で、だ。
これからまた迷宮に行く。
神器もどきの実験だ。
もともと僕の空間内でやってたんだけど、ちょっとうまく起動まではできたからそれを試す。
もちろん、要検討だったやつとは別の物だよ。
今僕が作っている神器もどきは3種類あるのだ。2つはちょっとうまくいってて、もう1つが要検討。
そのうちの1個が僕の空間内で起動まではうまくいったので、今度は世界に少し近い性質を持ってる迷宮内でやる。その次に普通の世界の中で起動する予定だ。
迷宮は世界の中から少し外れた空間で、どちらかといえば僕が作った”アイテムルーム”とかの仲間なのだ。
そんなこんなで迷宮までやってきました。
「やっほ〜。門番さん」
「お、シンか。どうしたんだ?今日も何かやるつもりなのか?」
「あ、うん。ということで行ってくるね〜」
「おう。いってらっしゃい」
僕は迷宮に入ると、ワープポイントから99階層まで飛ぶ。
僕はワープポイントから出ると、99階層の扉を開く。
『ここまでよく来たな…』
99階層のボス部屋の中心には、真っ黒いマネキンが立っている。まぁ、俗に言う”ドッペルゲンガー”っていう魔物だ。テンプレだよね、迷宮のボスがこれなのって。
少し待つと、黒いマネキンは肌色に変化して僕と同じ外見、格好、装備の姿に変化する。ついでに言うと戦闘の仕方とかも僕と同じになるんだけど…能力は同じになれない。
いや、普通に人間なら同じになれたんだと思うんだけど、僕は前に来た時の時点でステータスが高すぎて完全にコピーされず、かなり弱かった。
「はい。『滅びの淀み』起動」
ドッペルゲンガーの周りに黒い煙が集まり、その煙がドッペルゲンガーを飲み込むと消滅した。ドッペルゲンガーごと。
さて、清掃は終わったね。
「じゃ、始めようかな。『扉』」
僕はアイテムルームから、試す神器もどきを取り出す。
それは赤い目、銀色に輝く翼、黒く光る牙と斑模様に光る胴体、鋭い爪を持った足…メタリックな”オオスズメバチ”だ。
昆虫型のラジコンが作りたくて遊びで作ってるんだけど、以外と楽しくていつの間にか神器もどきになってた。追跡用に作ったルーを追いかけさせてるのもあるんだけど、アレは違う。虫とかじゃないしただ単に追尾する機能がついた盗撮用の物だ。
ついでに言えば、いつのまにか自分の手足のように使えるちょっとした?武器にもなってた。
いや、でも性能は結構高いんだよ。というか相当高いよ?
胴体部分とかの全部が僕が創世で作り出してる金属…高度はダイヤモンドを優に超え、神力を通しやすく、劣化なんかもしない…だし、核に使ってる神力結晶は世界1つを支えられるようなレベルのものだし、籠められた神法は少ないが便利なものだし、移動速度とかはほぼ音速、それらは全て僕の意思で動かすことができる。
作るのに2週間もかかったんだ。性能は普通には考えられないほどのものになっている。
「さ、やろうか」
僕は地面に座ると、取り出した10個うちの1つに神力を流す。
結構な衝撃と共に爆散。
「…失敗だね」
何が起きたかというと、起動して飛ばそうとした瞬間に世界の魔力に干渉し、核が耐えきれなくなってその周辺と共に爆発した。一応、この迷宮の階層は結界で保護してるので迷宮と僕は無事だ。
「さて、調整しよう…」
僕は書き込んである陣をいじる。魔力に対するものや内部から神力を制御するもの…計237個の陣をちょっとずつ書き換えていく…
「さて、今あるのは全部終わったから、これでダメなら加えないとかな〜」
今ある237個は、僕の空間内で必要だった陣を全て書き込んだ結果なのだ。これでダメだったら別の陣を新たに幾つか加える必要があるだろう。
「じゃ…」
僕は神力を流して起動する。
羽が動き、蜂は空中に飛び上がった。ま、実際は魔法とかで補助してるけど。
「よし、起動はできた。あとは、動作の確認と機能が使えるかの確認と…他いろいろ。うん」
考えるのが面倒になった。とりあえず試していこう。
「まず第一に、動かせないことには何にもならないよね〜」
僕は思考を1つ割いて、超呼応機能なラジコン操作を始める。
この蜂は僕が操作する意思を持って動かそうとすると、その動かそうと思った通りに動くように作ってある。僕の空間内だときちんと動いたが、こっちではどうだろうか。
…また爆散したら結構悲しい。こいつ、2173機目だぞ。どんだけ失敗したと思ってんだ。
僕が動かそうと思うと、蜂はきちんと機能し、動き始め…爆散した。
「ああああ!もう!今度は何が引っかかったの〜?」
爆散した周辺の魔力とかの情報から、失敗の原因を探す…
「あ、これ無理だわ」
はい。行き詰まりました。
原因、それは神力を世界が吸収できないことだった。僕の空間では僕の魔力…神力を薄めたものでできている空間だったから吸収できた。普通に神法は神力を全て使い切り、世界に神力が残らないから問題はない。
だけど、これは核になっている神力結晶に僕の神力を注いで起動してすぐに飽和し、付近の空間そのものを巻き込んで爆発する。
つまり、核が神力結晶である限り、世界で使用ができない。
せっかく、神力結晶ならエネルギー切れが起きないから無限に使えると思ったのに…
「仕方ないかな〜。よし、じゃあ試験モデルを動かすことにしようかな。『扉」」
”アイテムルーム”から神力結晶ではなく魔結晶を使って作ったものを取り出す。
「そういえばこっちで試してなかったよね」
試験モデル…魔席で作った方は、機能とかは完成してから神力結晶に変えようと思ってそのまま放置していたので、この世界で起動させていないのだ。
今更ながら、この魔道具は魔石を核として、魔石内の魔力を消費して動く魔道具だ。僕がいつも作る魔石を核として、自分の魔力を消費させて動かすものとは違う。僕の空間内で動かしてる途中で魔力切れになってしまったので、神力結晶に変えようと思ったのだ。
僕は取り出した2匹の黒と銀でカラーリングされたオオスズメバチに魔力を注ぎ、起動する。
2匹の蜂は羽を動かし始め、空中に浮かんだ。
「さて。どうせだから機能も試しておこうかな」
僕はボス部屋から出て、1つ下の階に戻る。
まぁ、階段を降りても向こうの扉が開いていないので入れないから、ワープポイントを使っての移動だけどね。
僕は2匹の蜂を引き連れて、98階層に行く。
98階層のボスはファイアー・ドラゴン。これ、最近気がついたんだけど、僕が使ってた”烈炎”の素材だったのだ。ファイアー・ドラゴン…確かに火龍だよね。
そんなことを思いつつ、僕は扉を開け放つ。
「ギャァアアアオオオ!」
扉を開けると、中には紅い色をした龍がいる。鋭い牙、長い角、恐ろしい爪、テカテカと光っている鱗…その風体全てが強者であることを物語っている。
が、僕にとってはハエと同じレべルにしか感じない。
「さて、いこうか〜」
僕の後ろに控えているように飛んでいた2匹の蜂は、飛竜に向かって飛んでいく。
僕はその場に座って、結界を張った。
「グルルゥゥゥゥゥウウウ」
龍は何かを吐き出すような体勢になり、そしてブレスを吐く。紅い炎がボス部屋全体を覆い尽くす。
僕の蜂たちは、それをなんともなく通り抜ける。
そして、蜂の尻の部分…つまり、針がある部分を龍の胴体に向けると、そこから朱いレーザーが龍に向かって発射させる。
このレーザー。正体は単なる火属性魔法だけど、一度試した結果は温度は鉄を溶かすどころか一瞬で蒸発させ、その下にあった地面をマグマのように煮立たせるレベル。
さぁ、火龍に効くかな?
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
龍はそれが当たった部分を地面に押し付け、少しでも温度を下げようとしているように見える。
どうやらこの世界の火属性で最も強度が高そうな奴にも効果があるみたいだから、ほとんどのものに効きそうだね。
…あれ?僕はラジコンを作ってたはずなのに。
「ま、いっか。使わなければ問題ない」
こういう機能を1つも使わなければ、普通のラジコンとしても使えるから問題はないだろう。
そんなことを思っている間に龍は立ち上がって、蜂を睨んでいる。
相当怒っているみたいだ。でも、やってるのは僕なんだよ〜。
龍は蜂に飛びかかり、噛み砕こうとしてきた。
僕は蜂を動かして、それを避けさせ、頭部についている角の1つに止まらせてみた。
「グギャアアオオオオオオオオオオ!」
あ。もっと怒った。
龍は頭を思いっきり振って、蜂を振り落とそうと必死になっている。
ロックのヘッドバンキングみたいだ。結構面白い。
まぁ、それでも僕の蜂は落とせないけどね。
蜂の足の部分の先は鉤爪状になってるし、その材料は僕が作った金属だ。強度、高度ともに最高の物。角にしっかりと引っかかり、全くぶれずに止まっている。
「よし、次は何しようかな〜?」
やっぱり、止まってるだけじゃ面白くないので蜂を角から飛び立たせる。
「グルゥウウ…」
龍は相変わらず蜂を睨み続けている。
そして、少し睨み合った?あと、蜂を爪で切り刻もうと腕を振る。
蜂はそれを避けていく。
動かしてる僕はシューティングゲームみたいで結構楽しい。
しばらく腕を振り続ける龍だったんだけど、さすがに当たらない上に体力を消耗するだけだってことに気がついたらしく、諦めたかのようにボス部屋の真ん中で動くのをやめた。
「もう終わりなのかな?」
蜂で近付いてみても反応しないし、角に止まってみても反応しない。
仕方ない。
「ギャアァアアアアアアアア!」
尻尾の先めがけてレーザーを放出。
さすがに熱かったらしい。反応はあった。ついでに睨みを利かせている…ただし蜂に対して。
「あ、そうだ。こっちも試したいな」
こいつ。一応、攻撃系以外に防御用の機能もあるのだ。多分使用することはないと思うけどね。
「よし、早く反撃するのだ〜」
僕は蜂に龍の尻尾を先端からレーザーで切り落とさせていく。
「ギュガァァアアアアア!」
やっと怒ってくれた。もう尻尾が40cmくらい縮んだよ?
「グルゥゥウウウウウ…」
また何かを吐き出そうとしている。きっとブレスだろう。やったね。
僕は蜂を動かし、龍から僕までをつないだ直線上の場所にこさせる。
「これでちゃんとうまくいけば僕にブレスが当たらないはず!さぁ、早く〜!」
僕は蜂を動かし、蜂は頭部の牙を開く。
すると、顔の目の前に正六角形の薄い水色をした透明の壁が出来上がる。
まぁ、単純に防護壁だ。大きさは僕の手のひらを限界まで開いたくらいで、僕の弱い魔法くらいなら何十発でも防げるレベル。多分、普通に打ったら2,3発が限界だと思う。
「ギュァアアアアアアア!」
赤い炎が吐き出され、蜂に当たる。
そして、その炎は六角形の障壁に阻まれ、僕の顔以外の部分にしか来ていない。うまくいっているようだ。
でも、まぁ…
「大きさが足りないね〜。あと何匹必要かな…」
顔しか守れてない。立ってる状態の僕を覆うくらいは欲しいので、あと数十匹は最低でも必要だろう。
蜂は、その場でまったく動くことなく炎を防いでいる。
ブレスが終わり、龍はなんとも言えない表情を浮かべている…と思う。僕は龍じゃないので龍の表情はよくわかんない。
「さ、もういいかな」
僕は蜂を動かして龍の頭部に向けてレーザーを発射させる。
龍はあっけなく頭を撃ち抜かれて死亡。そして、少しして迷宮に吸収されて、魔石と爪と牙と角を残して消えた。
「ああ、そうだ。どうせなら持ってこれる重量とかも調べておきたかったな」
さすがに、角とかのサイズは普通に運べるだろう。
僕は蜂を動かして角を掴ませて持ってこさせ、爪と牙と魔石も同じように運ばせた。
うん。簡単に運んできたね。
「仕方ないね。戻ってから調べよ〜」
僕は貼っていた結界を解除し、ワープポイントに向かい1階層へと戻った…
意見感想等あったらお願いします。




