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115.準備をしました

 島は海から顔を出したあたりで上昇を止め、沈んでいた精霊大陸はもとどおりになった。



 「で、魔力だまりってないの〜?」

 『ええと、おそらく島の中心部あたりに発生すると思われます』

 「そ。じゃあ、あとはなんで君のあたりの魔力が高いの〜?」

 『ええと。位が上がるにつれ、肉体を構成する魔力量が上がりますので』

 「ふ〜ん。じゃ、やることはもうないし。僕は帰るね〜」

 『えっ?もう帰られてしまうのですか?』

 「え?帰るけど?」


 えらく女王さまが寂しそうな顔をしてるんだけど?

 


 『せめて何かお礼くらいはさせてください。エクレイムさまのおかげで精霊たちはこれから増えることができるようになりましたし、魔力だまりの近くにいるものが増えれば位も上がるので私ももう寂しくなくなりますし』

 「う〜ん…あ、蜂蜜とかないの?」

 『蜂蜜ですか?ええと…ああ、ここにありますよ』


 女王さまは部屋の壁にある棚の中から1つの瓶を取り出した。

 蜂蜜って美味しいよね。



 「それちょうだい。僕は甘いものが好きなんでね〜」

 『それなら、今から皆に集めさせます!(皆、蜜を集めて持ってきなさい!)』

 「あ、うん。お礼ならそれでいいよ〜」

 『い、いえ。それだけだなんて…』

 「あ、ならさ」

 『はい。なんでもお申し付けください』

 「精霊たちにもっと契約するように言っておいてよ。しばらくしたら僕はこの世界に大量の迷宮を作る。その時に精霊がいると攻略がしやすい場所とかも作るつもりだからさ」


 神野たちが帰ったら、色々とこの世界を作り変えるのだ。

 ま、時代が変われば勝手に変わることも多いだろうけどね。



 『そ、そんなことでいいなら。もちろん』

 「じゃ、それだけかな〜」

 『本当にありがとうございます』

 「いいえ〜。ああ、あとさ。その魔力、頑張れば抑えられるから訓練したら?」


 僕の神力も意識して抑えるようにしてるから漏れてないだけだし。


 

 『本当ですか!頑張ります!』

 「お、おおう。ずいぶんやる気だね〜」

 『え、あ。すみません、はしたない姿を…』

 「いや、楽しそうなのが見れていいよ〜。つまらなそうにしてるより、そのほうがよほど見てて気持ちがいい」


 苦しんでるほうが楽しいけどね。



 『そ、そうですか。なら良かったです』

 

 女王さまが初めて楽しそうな表情で笑ってるのを見たからね。


 その後もしばらく女王さまとおしゃべりしたり、魔力の押さえ方を教えたりして時間を潰した。









 『では、本当にありがとうございました!』

 「いいよ。蜂蜜ありがとね〜」


 扉を開き、スリングのルファーリオに行く僕に向かって女王さまたちが頭を下げてる。


 僕は空間をまたいで、扉を閉じた。



 いやぁ。久しぶりに来たね。みんな元気かな〜?

 半年もいたから結構仲良くなった人はいるし、僕自身が結構あの宿とかエルシードのことが気に入ってるので、実はかなり楽しみだ。



 僕は城壁の中に入るために並んでいる列に並ぶ。

 列は前に来た時よりもかなり短く、僕の前には4パーティーくらいしかいない。

 馬車を連れた商人の護衛と思われるものが2つ。冒険者…いや、探求者だったね。それが2つだ。



 前に並んだ商人の荷物検査が終わり、僕の番になる。


 「身分を証明するものはあるか?」

 「はい。これでいい?」


 僕はいつものようにギルドカードを出した。



 「おや?君があの…」

 「うん。じゃ、通っていい?」

 「あ。ああ、その前に目的は?」

 「エルシードさんに会いにね。旅の話をしようと思って」

 「ああ、英雄のエルシードさんか。知り合いなのか?」

 「うん。前によくしてもらってね」

 「そうか。ではようこそ!迷宮都市ルファーリオへ」


 僕は兵士の歓迎を受け、中に入った。


 中に入ると、今も変わらず目の前に天を貫くかのように巨大な塔が立っていて、門の横にはエルシードさんが座っている。



 「やっほ〜、エルさん。久しぶり」

 「おや、新くんか。おかえり」


 相変わらずとは言えないが、エルさんはそこに座っていた。

 前に見た時のようにどこにでもあるような木の椅子に腰掛け、迷宮のほうを見ている。

 しかし、その肉体は衰えを感じさせ、白髪が目立つようになっていた。



 「どう?クリアした人はいた?」

 「いや、勿論おらんかったよ。いやぁ、儂ももう年なんだがね」

 「ははは〜。もう一回くらい僕がクリアしてこようか〜?」

 「はっはっは。君になら簡単なことだろう?」

 「当然だよ〜。ま、とりあえずやることが済んだから一旦帰ってきたんだ?」


 あれ?ここって僕のうちだっけ?



 「はっはっは。いつでも儂らは君を迎え入れるよ。そうだね、ルーネたちも君のことを気にしていたことだし、天使の安息に行かないかい?」

 「あ、そうだね。じゃ、いこうか〜?」


 そういえばなのだが、ここを出てそんなに経ってはいないように感じるけど、それでも半年に近いくらいの月日が経っている。

 エルシードはエルフで、現在は675歳。

 エルフの平均寿命は600~650歳。長い間若い姿を維持し続ける種族で有名だが、最期に近づくと急激に歳を取り始め、歳を取り始めたら5年程度で死に至る。つまり、彼の寿命は残り5年を切っているということなのだ。


 

 「新くん。君はここを出てからどこに行っていたんだい?」

 「ん?僕はここを出てから、マドーラのリューカスに行って、そこからルクシオのリャーシャで大会に出て、ラブランに移動して魔族大陸に行ってきたよ〜」

 「ほうほう。随分と長い距離を短時間で移動したみたいだね。魔族大陸はどうだった?杖は残っていたかい?」

 「あ、そっか。エルさん、行ったことがあるんだったね」

 「ああ、儂らの時は封印程度が限界だったのだがね。今、彼はどうしているのだろうか…」


 エルシードはどこか遠くを見つめている。

 それはまるで親友を想うかのように優しげであった。



 「あれ?魔王のこと嫌いとかじゃないの?」

 「ああ。別に恨んでいるわけではないんだよ。ただ、そうしなければ儂らに被害が来てしまうから、しかたなく封印したんだよ。まぁ、俗に言う物語なんかには書かれていない裏話なんてやつだよ」

 「ふ〜ん。じゃあ、あとでエルさんにだけ面白いこと教えてあげるよ」

 「はっはっは。楽しみにしておくよ」

 「あ、そうだ。いい物貰ったから分けてあげるよ。『扉』…ほい、蜂蜜だよ」


 貰ったときに少しずつ小分けにしておいたので、みんなに分けてあげよう。エルさん、門番さん、ルーネさん、レベッカさん、エミリオさん。きっと喜ぶだろうね。蜂蜜ってこの世界だと結構高価だから。

 何気にこの世界の甘味料って、砂糖とかより蜂蜜の方が高い。それって、蜂蜜が魔物のキラービーっていうCランクの魔物の巣からしか取れないのが普通。しかもキラービーの巣を採取するのはキラービを全て狩ってからじゃないと街まで巣を取り返しに来て、えらいことになるから採取が難しいのだ。



 「おや、蜂蜜か。儂はこれが好物でね。ありがとう。ところでどうしたんだい、これは?」

 「えっとね〜。精霊大陸に寄ってもらった。秘密だよ?」

 「はっはっは。君は本当になんでもやるね。一体そんな距離をどうやって移動したんだい?」

 「ははは〜。それは宿に着いたからみんなで話そうよ」

 「そうだったね。では、入ろうか」


  

 チリンチリンと扉についた鈴が鳴って、僕らは中に入った。


 

 「おや、いらっしゃ…シンかい⁉︎それにエルさんも!久しいね」

 「うん。ただいま〜」


 受付にいたルーネさんは、受付から出て僕らの方に駆け寄ってきた。



 「どうしたんだい?何処かに行くって言ってたのに、もう帰ってきたのかい?」

 「ははは〜。やることが終わっちゃったから、しばらくここにいようと思ってね〜」

 「なんだ、そういうことかい。てっきり夢半ばで帰ってきたのかと思ったよ」

 「ははは〜。僕が夢なんて語ったことなんてあったっけ?」

 「いや、ないね」

 「はっはっは。まぁ、とにかく宿をとったらどうだい?」


 そうだった。止まる場所を先に確保しておこう。



 「あ、そうだったね。ルーネさん、部屋空いてる?」

 「ああ、空いてるよ。ちょうど前に使ってた部屋も空いてるから、そこの方がいいかい?」

 「あ、うん。そうして〜。そうじゃないと間違って別の部屋に入っちゃいそう」

 「じゃあそこにしとくよ。どのくらい止まるんだい?」

 「う〜ん。だいたい1ヶ月半くらいかな?」

 「じゃあ、450Bだね」

 「ほい。お釣りはいいよ〜」

 

 僕は銀貨5枚を手渡す。



 「おや、いいのかい?」

 「僕はお金持ちなんだよ〜?」

 「そうかい。じゃあ受け取っておくよ」

 「じゃ、とりあえず荷物置いてくるね〜」

 「はいよ、鍵だよ。203ね」

 「じゃあ、儂は食堂にいるよ」


 僕は部屋に行く。

 階段を登り、手前から3つ目の部屋。

 鍵を開けると、ギィィと扉の蝶番が軋む音と共に僕は中に入る。

 相変わらず中は質素な机と椅子があり、クローゼットとベットがある以外は窓が一つあるだけの部屋。


 「さて、荷物って言っても今何も持ってないんだけどね」



 荷物を置いてくると言ったのだが、今僕が持っているのはどこかの城壁を抜ける時とかに変に思われないように持ってるバックだけ。

 もちろん中身は別に何かが入ってるわけでもなく、一応タオルと食べ物が少々。

 僕はそれを下ろして、クローゼットに着てるローブを脱いでしまい、白いカーゴパンツと黒のTシャツのみになる。ああ、一応息吹がネックレスになってるね。


 「じゃ、戻るとしようかな」


 

 僕は部屋に鍵をかけ、階段を降りて受付のすぐ隣にある食堂に行く。



 「おお。来たね」


 食堂に行くとエルさんは何か飲み物を飲んでいて、他の客は普通に食事を取っている。

 ま、今は午後8時だし、夕食を取ってる人も少なくないだろうね。



 「何飲んでるの〜?」

 「これかい?ワインだよ」

 「いや、それは見たらわかったよ」

 

 どう見ても、ワイングラスだったのでそれくらいはわかる。



 「はっはっは。ま、座りなさいな」

 「うん。レベッカさん〜、なんか食べる物ちょうだ〜い」

 

 僕は別のテーブルでお客にご飯を運んでるレベッカさんに声をかける。



 「さて、新くんは今まで何をしてたんだい?」

 「ん〜?聞きたい?」

 「ああ、儂は人の旅の話を聞くのが好きなんだよ」

 「ふ〜ん。あ、そういえばみんなはいつまで仕事してるの?」

 「今日は11時までではなくて、10時に食堂を閉めるそうだ」

 「ふ〜ん。じゃ、2時間ぐらいゆっくり待とうか〜」

 「そうだね」

 「じゃ、どこから話そうかな〜」


 僕はここまでの経緯を所々飛ばして話す…



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 「あ、終わったみたいだね〜」

 「そのようだね」


 食堂の扉を閉め、外の看板をしまってきたエミリオさんが見えた。



 「お久しぶりだね。シンちゃん元気だった?」

 「僕はずっと元気だよ〜。レベッカさんも元気そうで何よりだね」

 「ふふふ…実はそんなに元気じゃないんだよ〜。いや、元気だけど元気じゃないんだよ?」

 「うん。何言ってるか、わけがわかんなくなってるよ?」

 「えっとね…子供ができたんだ」

 「え⁉︎ほんと〜?」


 レベッカさんはお腹を優しげに撫でている。

 レベッカさんの種族は人間種。エミリオさんが獣人種なので、どっちが生まれるかな?



 「へへへ。今はまだ3ヶ月くらいだからわかんないと思うけどね」

 「う〜ん。言われてみるとふっくらしてきたような〜…してないような〜」


 妊娠なんて、向こうの世界の4~5ヶ月、こっちの3~3ヶ月半くらいは見てもそんなにわかんないのだ。

 ま、一応知識は完璧にあるから生まれる時は手伝えるけどね。



 「おや、終わったのかい?」

 「あ、お母さん」

 「やめてくれよ。もうすぐおばあちゃんになるんだ」

 「ははは〜。ルーネさんもおばあちゃんだね〜」


 ああ、そういえばこの世界における子供なんだけど、別種族どうしでも子供は生まれる。初めてマドーラの図書館で知っ他時は結構驚いた。

 さらに生まれる子供はハーフではなく、母か父のどちらかの種族で生まれる。一応どんな種族どうしでも子供は生まれるので、巨人族と妖精族でも子供は生まれる。ま、どうやって作るかは知らんが。



 「…ええと。シンさん、お久しぶりです」

 「あ、エミリオさん。お久しぶり〜」


 料理場の片付けを終えたエミリオさんがいくつかの料理を持ってこちらに来た。

 エミリオさんは狼種の獣人族で、銀色に近い綺麗な耳と尻尾を持ったイケメンだ。身長も180cmくらいあって小さくないし料理もうまいのだが、気が小さいというか弱々しいのが玉に瑕。



 「さて、これで全員集まったね。では新くん。おかえり!」

 「「「おかえり!」」」

 

 なんかこういうあったかいのも…たまには悪くないよね?


 僕はみんなに迎えられ、いろんな話をしてしばらく騒いだ…


意見感想等あったらお願いします。

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