112.やっと来ました
かれこれ、勇者が来るのを待つこと1ヶ月近く。
やっと海に勇者達の乗った船が見えた。ついでに上空に飛竜がいるのと海に海竜がいるのも見える。
「ルディ〜。やっと来たよ〜!」
「お。マジか。あ゛〜暇だった。やる事があんなに少ねぇなら、1日目だけで全部終わらせんじゃねぇよ。ったく」
「まぁまぁ。これでやっと終わりなんだしいいじゃん」
この1ヶ月近く。僕らは特にする事もなく暇を持て余していた。
1日目に魔王や側近や貴族や軍を作るとかを済ませ、勇者一行を迎える準備をし、砦の1つを自分たちの住まいに作り変え、適度に魔物を生み出して外に放ち、情報をまとめた紙を作り、魔族たちに普通の生活をさせて生活感を出させ、魔王城付近を崖やでこぼことした地形に作り直し…など、いろいろな事をやったのだ。
結果。1日で全てが終わってしまい、そこからの1ヶ月…つまりこの世界では42日近くを暇する羽目になったのだ。
主な原因は、
「いや、エクが楽しくなって全部やっちまったからだろうが」
「いやぁ〜。結構楽しかったんだもん。僕ってシュミレーションゲーム大好きなんだよね」
僕です。すみません。
色々やってるうちになんか楽しくなってきちゃって、気付いた時には全部終わってました。
仕方ないから残りの日は、魔王城に手を加えてみたり、新種の魔物を作ってみたり、地形をいじったり…とか無駄に手を加えまくったおかげで、完璧な仕上がりになってると思う。
ま、それでも2週間しか持たなくて、残りの2週間近くを暇してたわけなんだけどね。
「で、どうすんだ?」
「えっとね。勇者一行が来たらまとめた紙とかを渡して、質問を曖昧な答えで返して、後の事を丸投げして帰る」
「丸投げかよ。それでいいのか?」
「大丈夫だと思うよ〜。レベルは勇者が1人で苦労して倒せる程度に設定してあるし、何人かいるけどそれは他の兵士とかが抑えればどうにかできるだろうしさ〜」
「そうか。まぁそれなら構わねぇんだが」
「じゃ、もうしばらく暇を謳歌しておこうか〜」
「そうだな」
僕らは勇者一行の到着を待つ。
僕が全く強化してない状態の肉眼で見えたくらいだったので、多分あと2,3時間程度の距離だろうから、そんなに時間はかからないだろう。
ついでに言えば魔王は城の塔の頂上で待機させ、その下の階から1階ごとに四天王を置いてちょうど5階全てが埋めてある。
四天王は、
1階にいるのが魔物使い。僕が面白く作った変な魔物を従えている。変なっていうのがどう変なのかというと、1匹1匹に絶対的な弱点が存在してて、そこを当てると一撃で死ぬようになっている。あとその魔族の見た目は研究者っぽくしてあり、能力も魔物なしだとかなり弱い。
2階にいるやつが筋力に優れて武将みたいなの。これは初めにルディが選んだ筋肉ムキムキで顔も厳ついやつ。こいつはしゃべり方も「〜ござる」とか喋るし、剣じゃなくて刀を持ってる。誇り高い性格で1対1でしか勝負をしないようになってる。でも、多分神野が1対1で普通に勝てると思う。
で、3階にいるのは魔法に優れたやつ。こいつは少し耳が尖ってて青いエルフみたいな見た目で、顔の右半分に火傷のあとがある。性格は無駄にコンプレックスが多くて、顔の傷の事を言われるとブチ切れる。魔法は闇と炎を混合して使う。威力はなかなかに高くしてあるし、魔力量もまぁまぁあるのでゲームのラスボスの手前って言ってもいいような能力値だったりするが、その性格のせいで魔法の制御が下手。
最後が、4階にいるのが武術と魔法を組み合わせて戦う傭兵みたいな戦い方をするやつ。どんな方法を使ってでも勝とうとする戦い方で、ちょっとやそっとの怪我じゃ死なない。顔や体には無数の傷跡があり、見るのもにちょっと恐怖を与えそうな外見をしている。だけど、魔王に異常なまでの忠誠を捧げていて、魔王を馬鹿にされると手がつけられなくなる。その上攻撃の仕方が荒くなる。
まぁ、こんな感じだ。
で、その魔王はどうなのかというと…弱い。
普通に弱い。こいつは能力値とかもほどほどに高く作って、武術とか魔法とかの技術も覚えさせてあるが、体の大きさが邪魔をして、塔の中で戦うと動けなくて弱い。ただし、外に出ればラスボス並の能力を発揮するが、塔が丈夫なので結構弱ってから外に出られると思う。見た目は青いというより青黒くて、顔もいかにも悪役っているような顔をしてる。ぼくがこいつを選んだのはそれが理由だったりする。短く刈りそろえた髭がいい感じに悪役の頭領な雰囲気と威厳を醸し出している。で、体格が2m60cmほどあり、塔の高さが2mくらいしかなくて座ってないと動けない仕様。座ってる間は魔法しか使わないようにして、かなり弱ってきたら塔をぶち壊して戦うようにさせた。ちなみに武器はかなり巨大な大剣を両手に持って戦う。なんとの室内に向かない作りである。
一応、他の一般的な魔族は外で戦うようにさせ、レベルもそんなに高くなくて一般的な兵士が5人10人程度で倒せるようにしてある。で、こいつらを100人。
魔物は外にいる数を30匹ぐらいに減らしたが、かなり大きいやつのみにしてある。だいたい一匹の大きさが全長20mくらいのものばかりで、こいつらは胸元にくっつけてある魔石を壊すとどこかに逃げるようになっている。まぁ、さすがにそんなに脆くないので、僕のかなり弱めな魔法1回当てると粉々になるような程度だ。ま、多分兵士を十数人くらい用意すれば倒すことも可能だろう。
ちなみに、全部の魔族に細かな人生や性格などを設定してある。
「あ、そういえば」
「お?どうかしたのか?」
「これ、どうしよう?」
僕は”アイテムルーム”からとある物を取り出す。
「ああ、そういや回収してたな。でも、封印は取りやめになったんだろ?好きなように作り変えてつかやぁいいだろ」
「ま、そうだね」
封印するための杖はそのまま”アイテムルーム”にしまってからすっかり忘れてた。
仕様用途がないので、そのうち別の杖にでも作り変えるとかして使うとしよう。
さて、神野たちがつくまでの間にやることがある。それを済ませるとしようじゃないか…
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準備を終え、しばらくするとガンっていう船が岩礁に着いた音がしたので、僕らは砦から出て船の方に向かっている。
「俺が寝てる間に何してたんだ?」
「あ、僕が色々やってる間、ルディは寝てたんだ」
「おう。どうせやることなんざねぇからな。で、何してたんだ?」
「それは後で教えてあげる…かもしれない」
「かもしれないって、教えねぇつもりだろっ⁉︎」
「さぁ〜。ほら、もう着くよ」
砦から船が付けられそうな場所まではそんなに距離がないので、もう船や船員たちがよく見える距離だ。
『積荷を降ろせぇ!』
『それは向こうへ運べ!それはこっちだ!』
『魔物へを注意を怠るな!ここでは何が起こるのわからん。気を引き締めろ!』
こんな感じに船長っぽい人が船の荷物を降ろして、拠点を築こうと準備を始めてる。
早くしないと、準備が終わっちゃうな…
「ルディ。耳塞いで〜」
「は?なんで?」
「『拡張』起動…『みなさぁ〜ん。ごきげんよう!』」
僕の隣でかなりの大音量の声を直で聞いたルディはその場でうずくまり、船員たちや兵士はこっちに注目した。
「『砦の1つを占拠しました〜。こちらに来てください〜』」
わざわざ一度拠点を築いてから移動させるのもかわいそうなので、早めに呼んであげる。
いやぁ〜、僕って優しいね〜。
『敵かっ!』
『い、いえ。砦を占拠したと言っているので、敵ではないかと…』
『ならば何者だ!』
こんな趣旨の会話が多数聞こえてきた。
僕は信用してくれなくて非常に悲しいです。
…ま、仕方ないだろうけど。
「あ。新ちゃん!」
どうやら、声を聞いて神野たち外に出てきたようだ。神野が一番前にいて、その後ろに石井と安井がいるのが見える。
そのまま3人は船から飛び降りて、こっちに向かって走ってきた。
ついでに、途中に船長?とか隊長?とかに僕のことを安全だと話しているのが聞こえる。
「なんだよ。結局来たんじゃん」
神野は僕に向かって呆れ顏をしてる。
「うるさいなぁ〜。ほら、せっかく砦占拠したんだから。早く行こうよ〜」
「占拠って…しんちゃん何したの⁉︎俺らが来るまでの時間ってそんなに長かったか?」
「僕らが来たのは1ヶ月前だよ〜」
「それって、俺が新ちゃんと話して結構すぐじゃん。なんだよ」
「はいはい。とりあえず、こっちだよ〜」
僕は神野たちを一番南側にある僕が作り変えた砦に案内する。
ちなみに、うずくまってたルディは放置の方向で。
砦に着いて、神野たちを広間に案内してあげた。
「おお〜。新ちゃんこんなもんまで準備してたのかよ⁉︎」
「しんちゃんって料理できたんだね…」
「俺らが来るまで何してたんだ?食料こんなに使っていいの?」
神野が驚いてる間に、安井が後ろで悔しそうにし、石井が的を得たことを言ってる。
「はいはい。で、他の人は〜?」
「新ちゃんのことを信用してなくて、向こうで待ってるっぽいぞ」
「あ〜…うん。ちょっと行ってくる」
「おう、いってら〜。で、これ食ってもいいか?」
「いや、みんなが来るまでは待っててよ〜。神野くんそれくらい1人で食べちゃうでしょ〜?」
「どう頑張っても食えねぇからな?」
僕は神野たちをそこに放置して、船の近くまで戻る。
船の近くまで戻ると、隊長っぽい人が近づいてきた。
「失礼だが、君は何者なんだ?どうやら勇者様たちと知り合いであるようだが、我々はそれだけでは信じることができない」
はぁ…ま、そうなるよね。
僕は”アイテムルーム”から仮面を取り出す。
「こうすればわかるかな?大会見た人ならわかるでしょ?」
「…⁉︎き、君が」
「そ。他にも悪霊とか、迷宮攻略者とか、黒龍の英雄とかで通ってるかな?どう?信用できた?」
「あ、ああ。すまなかった。君は我々の味方なんだね」
「うん。そうだね〜」
僕は仮面を外して”アイテムルーム”にしまう。
「私たちはどうすればいい?」
「ここには4つ砦があって、そこの1つを占拠した。そこに荷物とかを運ぶといいよ〜。あと、幾らかの情報とかもね」
「そ、そうか。よし、荷物を運べ!この人は信用できる人物だ!安心していい!」
隊長さんの言葉に、兵士たちや船員が荷物を持って神野たちが歩いて行った方に向かっていった。場所わかるかな?
「失礼した。私はノーブル・アルヘイム。事実上この隊の隊長だ。君は…なんと呼べばいいかな?」
「シンでいいよ〜。よろしくね、隊長さん」
「ああ、シン殿。我々はどうすればいい?」
「荷物とかを持って全員こっちに来てよ。歓迎の準備くらいはしたからさ」
「わかった」
僕は荷物を持って動き出した兵士たちを連れて、砦に向かった。
砦に着いたあと、荷物を武器は武器庫、食料は食料庫みたいな感じにしまわせて、それが終わったら神野たちがいる広間に集まるように言って、神野たちのところに戻った。
あと、ルディはいつの間にか砦の広間に戻ってた。
「で、どうしたんだ?」
「ちょっと証拠見せてきたよ〜」
「証拠って何見せたの?」
「安井さんは知らないけど、多分全員が見てる物だよ〜」
大会の時、安井は試合に出てなかったからよくわかんないけど、石井と神野は間違いなく見てるだろう。
「ああ、もしかしてあの仮面か?」
「石井くんせいか〜い」
「よくあれだけで信用してもらえたな」
「他にも幾つか二つ名を教えてあげたよ〜」
「幾つかって…しんちゃんそんなに二つ名があるの?」
「そうだよ〜。恥ずかしいからなんか嫌だけど」
なんというか…厨二くさいし痛い。
「でも、それだけ何かで功績挙げてるんでしょ?私はしんちゃんすごいと思うよ」
「そう?」
「そうだろ。俺だって2つだし、拓巳ですら3つだろ?」
「そうだな。それ以前に大体俺らが持ってるのは”勇者”っていう共通の称号と”救済者”ってやつだ。新ちゃんには勇者がないから、少なくとも2つ以上は功績があるってことじゃん」
「まぁ、そうなるね〜。で、聞きたいんだけど…アレクさんは?」
「…………」
神野達はバツが悪そうな顔をして、顔をうつむかせた。
「もしかして死んじゃった?」
「いや、そうじゃないんだ。しんちゃん、腕がなかったの知ってるだろ?あれでいろいろ考えたみたいでさ。「俺が行っても足手まといになる。だから、俺はこちら側で魔族達が攻めて来た時のために備えていることにした。済まない。最後になるがお前らの無事を祈る」って書いた置手紙を置いて、王国に帰ったんだ」
「ふ〜ん。ま、生きてるならいいじゃん。それでなんでそんな顔してるの?」
「それは、私たちが…「はい、スト〜ップ」…ふぇ?」
「そういう話は禁止で。面倒くさいし楽しくないじゃん。ほら、どうせ向こうに強い人がいたほうがいいのは事実なんだしさ〜」
「まぁ、そうだけどな」
僕は後悔だとか懺悔とかそういうのを見る気はないのだ。だってあんまり面白くないじゃん?
そんな間に兵士たちがパラパラと集まり始めている。
「でしょ。ほら、他の兵士たちも集まり始めてるし、そろそろ始める?」
「なぁ、エク。俺はいつまで放置されりゃいいんだ?」
「あ、うん。ごめん、忘れてた」
「はぁあ⁉︎忘れてたじゃねぇよ!」
いやぁ…放置しっぱなしにしててごめんね。
「ほら、特別に食べるの許可してあげるから〜」
「食わすつもりなかったのか⁉︎」
「え?ないに決まってるじゃん〜。ルディ頭でも打ったの?」
「いや、それはこっちのセリフだろ⁉︎」
「じゃあ。もう少しで大体集まるし、始めようか〜」
僕はそのままルディを放置して、広間の壇上に移動する。
「あ、あ〜…みなさん。ここまでご苦労様でした〜!では、歓迎会ということで、好きなだけ飲み食いしてください〜!本当にお疲れ様でした〜」
すこしして、兵士たちが恐る恐る飲み食いを始め、その後吹っ切れたかのように騒ぎ始めた。
お酒とかの部類も準備してあるので、しばらくしたら結構騒がしくなるかも。
そんなこんなで、みんな騒ぎ始めることとなった。
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