110.魔族を迎え入れました
他にするべき準備を終え、城の中にいる魔族を全員城の外に追い出し、引越しをする時になった。
僕とリューゼルドが城の持って行く範囲から少し離れた場所に立ち、その後ろで他の魔族たちが何も説明されずに何が起こるのかを理解していないまま放置されている。
「さ、じゃあ今からやるよ。心の準備はいい〜?」
「…ああ。構わぬぞ」
なんかリューゼルドが覚悟を決めたような顔になってるんだけど…特にこれといって何かが起こるわけじゃないんだけどなぁ。
「さぁて…『第1から第4地点まで…確認。第5から第8地点まで…確認。転移範囲確定、空間固定、転移先指定…完了。対象空間を転移先空間へ調節。対象空間を転移先への移動まで…3,2,1…転移開始』…ふぅ」
最終確認を終えると共に、空間を切り取り、城全体と地下200m程までを透明な水色の直方体型の結界が囲い、中の空間を向こうに合わせて、向こう側にそのまま転移させる。
僕の”転移開始”の声の後、その直方体の結界周辺の空間がゆがんだ後、一瞬で城とその地下200m程が綺麗に切り取られてなくなった。
「ど、どうなったのだ?成功したのか?」
後ろにいる魔族たちがポカンとしている中、リューゼルドが僕に尋ねてきた。
「多分、問題はないと思うよ〜。じゃ、他のみんなと一緒に行くとしようか」
「ふむ。そうであるな。では、頼む」
「じゃ。『扉』…じゃ、みんなを向こうに連れてって〜」
「了解した。よく聞け!我輩たちは新たな新天地で生きる!我輩に続け!」
リューゼルドは大声で魔族にそう言いそこへ入っていき、その声を聞いた魔族たちはそれに続いて中に入っていった。
扉は今回は転移した場所へ直接繋いだので、真っ白い場所の中に城が建っているのが見えただろう。
ちなみに言うと、前回リューゼルドたちをそこから連れて行ったのは単なる気分だ。
「さ、僕も行くとしますかな」
僕は空間をまたぐ。
空間を跨いだ先には、想像通りの白い空間の中にぽつんと建った風情ある城が建っている。
僕の前には未だ理解が及ばずに呆然としている魔族たちと「ま、魔王様、いいいいい今、し、城が何もなかった私の前に!」とか言って目を白黒させてるナルハセとそれを聞いてあげてるリューゼルドがいる。
僕はリューゼルドの元まで歩いて行く。
「おお、来たかエクレイム。では、説明してくれぬか?我輩も何が何だかよくわからんのでな!」
「うん。なんでそんなに自信満々に言ってるのさ。ま、説明してあげるよ。端的に言えば君の空間をつなげる奴の最終強化版みたいなやつだよ」
「…ふむ。これは我輩にも可能であるか?」
「う〜ん。無理かな?一応、別の空間に繋げてるから空間魔法が使えないと」
「そうか。では、これからどうすれば良いのだ?」
「あ〜、ちょっと待って、地面創るから。『複製:大地』…こんな感じかな」
僕は城と一緒に持ってきた地面をコピーして、白い空間の部分を地下数kmほどまで同じ地質の地面に創り変えた。
そして、一瞬のうちに地面ができたのを見て魔族たちはもう何かを諦めたような顔をしている。
「ふむ。この後は?」
「まず、魔族のみんなには一旦城に行ってもらう。リューゼルドは僕と一緒に砦とかにいる魔族の選別」
「ふむ、了解した。皆の衆!先に我らが城へと戻り、この地で暮らす支度をせよ!」
魔王であるというような威厳ある声に魔族たちはハッと我に帰り、城へと移動していった。
「さ、戻るよ〜『扉』」
僕らも空間をまたぎ、魔王城のなくなった魔族大陸に戻ってきた。
「さて、じゃあ向こうに連れて行っても構わない魔族を選別してもらいたいから、とりあえずルディのところに行こう」
「そのルディとやらは何者だ?」
「僕の同類〜。神様だよ。後僕の友人」
「そうか。では行こう」
「あ〜。その前にすっかり忘れてた。ちょっとこっちに来て〜」
「む?どうかしたのか?」
「その封印を解こうと思ってね〜。不便でしょ?それだと」
「解けるのか⁉︎…いや、おぬしならばできるのであろうな。では頼む」
「ほ〜い。『解析」あ〜、うん。面倒なことしてくれるね〜」
どうやって力を弱めてるのかと思ったら、魔石に魔法陣を書き込んでいた。
能力低下、耐性低下、魔力使用制限、能力制限…などなど、他18種類の能力を低下させる系統の魔法陣が刻まれてる。
…どうやって消そうか?直接書き込まれてるから無理やり消すと痛いだろうし、かといって1個1個消していったら22種類だけではあるが、その数は各1個なわけではなく数十個も書き込まれているので消すのに時間が掛かる。ま、一気に考えることなんて簡単にできるからせいぜい魔法陣を消す方法を見つけるのにかかる時間だけど。どうしたものだろう?
「どうなのだ?」
「痛いのと時間がかかるのどっちがいい?多分時間が掛かるとは言っても1,2時間程度だと思うけど」
「ふむ…おぬしはどちらがよいのだ?」
「多分そんな時間が掛かるわけじゃないし、向こうに着いてからやるのでいいなら時間が掛かる方でいいんだけど。どう〜?」
「ならばそちらで構わぬ。では、参ろう」
「そう。じゃ、そっちの砦にいると思うから〜」
僕らは、初めに来た砦に向かって歩き出す。
「ちょっと待ってて〜」
「ぬ?どうかしたのか?」
「別に連絡するだけだから〜」
「ふむ。そうか」
砦に着く直前、僕はルディに連絡を入れる。
『ルディ〜。聞こえる?』
『お、やっとか。とっくにこっちは終わってるぞ。おせぇじゃねぇか』
『あ、それは今目の前にいるから〜。でさ、魔族はどのくらい殺した?』
『1人も殺してねぇぞ?それがどうかしたか?』
『あ、ならいいんだ。じゃ、もう着くから入口開けて〜』
『おう…おお、見えた。隣にいんのは誰だ?』
『リューゼルド。魔王様だよ〜』
『…今魔王って言ったか?』
『言ったけど?』
『はぁ、なんでそんなことになってんだよ?』
『いろいろあったんだよ〜』
『…まぁ、いつものことだ。じゃ、今扉開あけるぞ』
念話が切れた瞬間、砦のこちら側にある門が開いた。
当然、中から誰かが開いたわけではなくルディが神力でやったんだろうね。
「なにが起きたのだ?我輩には門がひとりでに動いでいたように見えたのだが?」
「うん。ルディが開けたんじゃない〜?ま、とりあえず入るよ。多分、少しすればルディも来ると思うし」
「ふむ。そうか。了解した」
僕らは門のところまで歩いていき、そのまま中に入る。
ついでに、砦は灰色の岩で構成されており、壁は4mちょっとあるので結構頑丈に出来ていて、形は万里の長城みたいなのをイメージしてもらうと分かりやすいような形である。
「さて、ルディは〜」
「あれか?」
「あ、多分そうだね」
門を入って中を見ると、奥の方からルディが歩いてきているのが見えた。
「で、何があってこうなったんだ?」
「おかえりとか、そういうのはないの〜?」
「いや、普通そっちよりこれを気にするんじゃねぇか?」
「う〜ん。ま、いいや。じゃ、適当に広いところに連れて行ってよ」
「いや、何があったのかを説明しろよ⁉︎」
「歩きながら教えるから。ほら、早く〜」
「俺を、顎で、使うな!まぁ、いい。こっちだ」
「さすがルディ〜。じゃ、行こうか」
僕とリューゼルドはルディに後に続く。
そのまま歩きながらここまでの顛末を説明し、それが終わったくらいに広い場所に着いた。
「で、ついたけどよ。何すんだ?」
「倒した魔族ってどこにいるの〜?」
「質問を質問で返すなよ…一応、牢があったから園に入れておいたが。それがどうしたんだ?」
「だから、説明したでしょ?選別するの〜」
「ああ、それか。ここに連れてくりゃあいんだな?」
「そ。数人ずつ連れてきてよ。連れてきたらさっき言ったように分けるから〜」
「わかった。じゃ、5,6人ずつ連れてくるわ」
「うん。お願いね〜」
ルディはどこかに歩いていった。
ちなみに分けるって言ったのは、連れて行くのは別の場所で待機してもらい、連れていかないのは牢屋に戻すっていうものだ。
「では、我輩はそれを選べばよいのだな?」
「お、初めてしゃべった。ずっと黙ってたけどどうかしたの?」
リューゼルドは、ここに入ってから一言たりとも喋っていなかったのだ。
「いや、お主らが楽しそうにしておったので邪魔をしてはいけぬかと思ってな」
「そんなことないよ〜。ま、とりあえず座って」
「ぬ?先ほどからそこに椅子などあったか?」
「いや〜、今作ったよ」
「…そうか」
リューゼルドは椅子に腰掛けた。
「じゃ、ルディが連れてくるから、それを連れて行くのは右に、連れて行かないのはそのままルディに連れてってもらってね〜」
「了解した。おぬしはその合間どうするのだ?」
「リューゼルドの封印を解くよ?」
「そうか。では頼む」
「うん。じゃ、僕は後ろにいるから〜」
僕はリューゼルドの後ろに回り、背中に手を当てながら魔法陣を1つ1つ解析していく。
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「…これで解除終了〜。あ〜疲れた」
1時間23分。やっと全部の魔法陣を解析し、解除した。
「おお、体が軽い!終わったのか?」
「うん。大体670個くらいの魔法陣が書かれてたよ。よくあんなので生きてられたね〜」
書かれてた陣の中には生命力減少とかもあったので、結構普通の生活でも辛かったと思ってたんだけど、今のリューゼルドを見ると元々が異常に高かったんだということがよくわかった。
「ふむ。実に晴れ晴れとした感覚だ。久しい感覚ゆえ、加減がよくわからん。はっはっは」
「じゃあ、連れてく人を向こうに送ってもらえる?『扉』」
「ふむ。了解した。では、皆の衆!我輩に続け!」
15人の魔族がリューゼルドに続いて、扉の向こうに行く。
ちなみに、今ルディは残りの魔族を牢屋に入れているところだろう。
僕は一旦向こうに行かないといけないので、リューゼルドと一緒に空間をまたぐ。
そして空間を移動すると、連れてきた15人はさっきの魔族たちと同じように呆然としている。
「さて、リューゼルド。こっからはちょっと説明なんだけど、いい?」
「ほう。真面目な表情をするからには大切なことなのであろう?聞こう」
「ここから南西に少し行ったところに川が流れてる。反対に東側は壁があって進めない。北西に行ったところには岩とかがあるから城とかの材料に使ってくれて構わない。そして、これが一番大事なんだけど東の端から6km四方が君たちの場所になってるから、それより向こうには行くな。いいね?」
「貴様っ!魔王様に指図するとは何事だ!」
話をしている途中、やっと再起動したようだった魔族の1人が僕に向かって叫ぶ。
「落ち着かぬか。こやつは我輩の友であるぞ。では…それはなぜだ?」
「うん。そこより向こうは、吸血鬼たちの世界と妖精たちの世界になってるんだ。変にちょっかいかけると死ぬよ?」
「我輩は強いが、それ以上であると?」
「う〜ん。信じてないみたいんだね。ちょっと付いてくるといいよ」
僕はその15人の魔族とリューゼルドを連れて、吸血鬼の世界へと向かう。
「ようこそおいでになさいました。我らが主よ」
「うん。あと、彼らはお客だから殺さないでね?」
「承知いたしました」
少し歩いて、辿り着いた場所は吸血鬼たちのために作った場所。ここは前にも言ったが一日中夜で、日が一生登ることのない場所だ。
僕らを迎えたのは、ここの吸血鬼たちの中の王で名前をエールという。これはどかの言葉で神を表すものだったりする。見た目は赤い目と青白いくらいに白い肌、カラスのような黒い髪を持った長身の男だ。耳が少し尖っているの以外は普通の人と変わらない姿をしている。
吸血鬼たちは、僕がルディの修行中に初めて作った知能の高い種族だ。
「さ、行こうか?」
「ふむ。我輩今のやつに勝てると思うか?」
「いや〜。片手で遊ばれるんじゃない?」
「…そうか」
「ま、そんなに落ち込むことはないよ。あいつはここの王様なんだしね」
その後、ちょっと顔を青くしている魔族たちを連れて、そこを観光してきた。
なんというか、海外のお化け屋敷みたいなのはご愛嬌ってことで。
「…世界は広いのだな。エクレイムよ」
「ははは〜。ま、いい体験ができたってことで。じゃあ帰ろうか」
「そうだな」
僕とリューゼルドはまだいいが、後ろから付いてきてた魔族15人は変な液体を身体中から流し、顔を真っ青にしている。初めの威勢はどこに行ったのやら。
僕らは城のある場所へと戻っていく…
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