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109.準備をして待ちました

 「エクレイム。何を言ってるのだ?」 

 

 リューゼルドがちょっと怒ったような表情でこっちを見てる。



 「ま、話を聞いてよ。実際に魔族じゃなくなるんじゃないからさ」

 「…ふむ、そうか。続けてくれ」


 僕の言葉を聞いて、怒った表情は一気になくなった。


 

 「僕は君が気に入ったんだ。だから、まだ死んでほしくないんだよ」

 「…そうか。だが、このまま勇者が攻めてくれば我輩は死ぬであろうな。もうほとんど力が出せん」

 「でさ、魔族はもうほとんどいない。君の家臣は死んじゃった。そうでしょ?」

 「ああ、そうだ」

 「だから、もう魔族を守りたいと思わないなんてことはないの?」


 ないなら魔族の誰かを魔王ってことにして、リューゼルドだけを逃がしてあげるんだけど。



 「そんなことはありえんよ。我輩にとって、魔族とは家族だ」

 「…う〜ん。ま、いいや。でさ、砦にいる人って生きててほしい?」

 「生きていてほしい…か。そう言われるとなんとも言い難い」

 「よし、なんで〜?」

 「よしとはなんだ…まぁいい。あそこにいるのは、愚かな貴族どもの生き残りが罪を犯した者を使い、守っているのだ。だから、魔族であるという誇りのない者たちなのだ」


 ならもう1つの案にしよう。



 「ふ〜ん。じゃあさ、今いる屋敷のみんなとここ出ない?」

 「…この城を捨てろと?そう言うのか?」

 「ああ〜、ちがうちがう。僕の持ってる空間に引っ越さない?」

 「持っている…空間を所有しているのか⁉︎」


 リューゼルドが驚いた表情をこちらに向け、僕を揺さぶってくる。



 「あ〜、ちょ〜、スト〜ップ」

 「…あ、ああ。すまん」

 「で、話を続けるよ。僕はこれでも一応神様みたいな者なんだ。幾つか世界を保有してる。その中の1つに城ごと引っ越さない?向こうには僕の眷属が暮らしてて、他の生き物はいないよ。あと、ナルハセくらいは蘇らせられる」

 「…すこし。すこし考えさせてくれぬか?」

 「了解〜。じゃ、僕は準備してくるね〜。1時間ぐらいで帰ってくるよ。『扉』」


 僕は”眷属の箱庭”へ移動する。



 


 ここには色々な植物があるし、水とか生活に必要な物は一通りは揃っている。

 この中の一角にまだ何も作ってない場所があり、そこを何で埋めようか悩んでいたのだが、ここに城を作ったら結構見栄えが良くなると思うのだ。


 そんなことを思いながら、僕は空間の端まで移動する。

 ちなみに、ここは一辺が3000kmの正方形である。普段の移動はニーズに乗るので問題はない。



 その空いている場所には現在は何もなく、だだ白いだけの場所が1km四方くらい広がっている。

 そこに魔王城が500m四方くらいのが入れば、あとは生活用の物で埋めてやればちょうどいいと思う。畑とか家畜用の場所とかね。



 そうして、今回はニーズに乗らずに自力で飛んで移動すること28秒。

 端っこに到着。


 「さて、準備をしましょ〜」



 準備といって何をするのかというと、この場所を周りの環境を整えるのだ。

 現在、ここの近くは無駄に深い森で囲まれている。


 さすがにこれを1から開拓するのは大変だろうし、川とかも流れてないと暮らすのが大変だと思うのだ。


 「じゃ、始めようかな…『創生:自然環境』」



 森がすこし減り、土が作物を育てやすい物へと変化し、川が流れ始め、気温も17度前後くらいに設定した。


 「あと必要なのってなんだろ?」



 家畜とかは向こうにいるのとかを連れてくればいいし、作物も向こうの物の方がいいだろう。

 他に何がいるのかな?



 「あ、家だ」


 向こうの場所から持ってくるのは城だけで、他の家を持ってくる気はない。なので、使用人とかが暮らすための家は新しく作らないといけない。向こうの城には幾らか住居スペースがあったけど、多分これから増えたらそこも足りなくなると思うのだ。



 「うん、でも魔族ってどんな家に住んでるのか知らないんだよね〜」


 種族によって生活も違うし、家の造りとかが違うのは結構ある。変に僕が作ってもしょうがないんだよね…



 「よし、材料だけ置いておこう。とりあえずそれは引っ越してきてからでいいや」


 あと、やることといえば…



 「ないね。やることもうなくなっちゃった。1時間って言ったのに、まだ20分くらいしか経ってないや」


 仕方がない。空でも見て時間が経つのを待つとしよう。




 この世界は僕が作ってるけど、神魂になった時に大きく作り変えて、1つの世界になっている。

 空も存在するし、天気も変わる。


 この世界は、完全に僕の”箱庭”なのだ。


 扉を開いてはじめに出る場所を中心として、一辺が3000kmの正方形をしている。

 出てすぐの場所はそこの中心に1kmほどが日本の春ぐらいの気候に設定され、大抵の眷属が住みやすいように作ってある。川が流れ、木の実などが実る場所だ。

 あと、これがちょっと自慢なのだが、中心に”世界樹”と名付けた空まで届くような高さの大きな木が立っている。最近本で読んだものに感化されて作ったのだが、これが意外と良くて、ここのシンボルのようになっているたりするのだ。ちなみにこの木の中には人が住めるような場所が設けられていて、僕の部屋になってたりする。


 で、そこから先は、東西南北で分かれている。

 東に進むと、その1kmの範囲を出てすぐのところから海が広がっている。その中でも南の方は温かい海で、北の方は冷たい海になっている。


 そこから考えられるように、南は暑い。異常に暑い陸地が広がっている。東付近は地球でいうところの南半球程度だが、完全に南だと火山が絶えず噴火し、一部はマグマでできた海のようになっている。そこから西に向かうにつれてだんだんと人が暮らせるような環境に変化し始め、西との分かれ目で普通に少しばかり暑い程度まで収まる。


 北はもちろん異様に寒い。東に近い場所は北半球程度だが、完全に北のあたりは見渡す限り氷の世界。見るだけなら幻想的だが、温度は絶対零度よりも低いレベルまで無理やり下げてあるので、普通の人間は入った瞬間に凍って動かなくなる。そこから西に進むとだんだんと人の暮らせるような環境へ変化し、西との分かれ目で少しばかり寒い程度まで収まる。


 じゃあ西はどうなっているのかというと、ここだけは特殊なのだ。

 日が昇ることはなく永遠に朝が来ない場所だったり、気圧の低い山の山頂のような場所であったり、ひたすらに雨が降り続く場所だったり…と、色々な場所になっている。引っ越してもらおうと思っているのもこの辺りだ。

 さらに言うと、この場所は2km四方で区切られ、そこから出た瞬間に環境が変わるので下手に動き回るとこができないようになっている。


 

 さて、一応いろんな場所を作っているが、これ…実は全く必要がない。

 僕の生み出した眷属たちは、例えば吸血鬼のような生物でも様々なものに対して耐性があり、どんな環境下でも生きられるようになっている。

 だから本来は全く必要がないのだが、僕はルディに世界の作り方とかを教わった時、せっかくなら住みやすい場所の方が嬉しいだろうということでいろんな場所が存在している。



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 「さてと、そろそろかな?」


 色々考えるうちに1時間ぐらいは経った。

 


 「じゃ、答えを聞きに行くとしようかな〜『扉』」


 僕は空間をまたぎ、魔王…リューゼルドの前に再び現れる。



 僕が帰ってきた時のリューゼルドの表情は、今までより明らかに晴れ晴れとしていて、暗い影を残すような彼はもういなかった。



 「さぁ、答えを聞こうじゃないのさ。どう?こっちに来ない?」

 「その話。受けようと思う」

 「おお〜。じゃあ、僕の世界に引っ越すってことでいいんだよね?」

 「ああ、それでいい。おぬしが消えたあと、暫く考えたのだ。我輩たち魔族はこのままでは滅ぶであろう。だが、おぬしの話を信じても良いものなのかがわからなかったのだ。それでも、どうせ1月後には滅ぶ種族なのだ。それが今になろうと変わらぬであろう?だから、おぬしの話に乗ろうと思うのだ。例えそれが嘘であったとしても、我輩の愛する家族が生き残る可能性が高い方を選ぶのは必然であろう」

 「ふ〜ん。ま、信じてないのは別にいいよ〜。だって、今日会ったばっかりのやつを信用しないのは当然だしね。まぁ、信じてもらえないのはちょっと悲しいからさ、証拠というやつを見せてあげるよ…『扉』」



 僕は、ナルハセの魂を取り出し、まだ残っていたナルハセの魂の中の意識の部分を取り出して、そののうち”地獄の心底-1”内の記憶を消去して、再び魂を作り直す。


 「ねぇ、僕が持ってるものって見えてる?」

 「うぬ…うっすらと光を帯びたものが見えている気がしているのは気のせいか?」

 「いや、それで正解だよ〜。これ、ナルハセの魂」

 「…!なんだと」

 「さ、今から蘇らせるから」


 僕はその中から肉体の情報を読み取り、肉体を作り出す。

 一瞬その場が光に包まれたあと、彼は…蘇った。

 僕が最後に見た時の彼の姿のままでそこに立っている。

 そして、そのまま倒れた。後、


 「…う、ぅう…はっ!ま、魔王様⁉︎」

 「な、ナルハセであるのだな?」

 「はっ。ですが、私は確か仮面をつけた者に負け、ここへ帰還しようとし…」

 「お前は死んだのだよ」

 「…そうでございましたか。して、そこにいる者は?」

 「こやつがお前を蘇らせたのだ。そうであろう?エクレイム」

 「…!魔王様、そのものは敵でございます!私を負かしたものでありますぞ!」



 僕の名前を聞いて、拳を構え、僕に向かって殺気?的なものを放ってくる。


 「まぁ落ち着け。敵ではない。エクレイムよ、おぬしは敵ではないのだろう?」

 「うん、そうだよ〜。リューゼルドが気に入ったから、彼の望む魔族たちを生き残らせてあげようと思ってね〜」

 「貴殿、魔王様を呼び捨てにするなど…!」

 「良いのだナルハセ。こやつは我輩の友なのだから」

 「…そうでありますか。では、その者の言うこととは?」


 ナルハセは一気に毒牙を抜かれたようになった。



 「エクレイムよ、説明してくれぬか?我輩も未だよく理解しておらぬのだ」

 「じゃ、とりあえず1回付いてきてくれる?」

 「了解した。では、行こう」

 「じゃ、行くよ…『扉』」


 僕が空間をまたぐのに続き、彼らも空間をまたぐ。



 「…こ、これは」

 「さて。ようこそ、僕の箱庭へ」


 今、彼らの目の前には自然が広がり、後ろを振り返れば世界樹が天を貫くがごとくその大きい姿を見せつけている。



 「…貴殿。いや、エクレイム殿。これはどういうことなのでしょうか?」

 「ここは、僕の大切な眷属たちが住む場所。ここに、君達も引っ越さないかっていう話。今から場所を案内するけどさ。『呼声』起動」


 僕はついでにニーズを呼び出す。



 「エクレイム。我輩たちはここに暮らしても良いのか?おぬしの大切な眷属たちの住む場なのであろう?」

 「大丈夫だよ〜。変に自分達だけじゃ動けないと思うしね。あ、来た」


 ニーズが全力で飛べば、ここの範囲くらいは数十秒でたどり着く。

 

 

 「りゅ、龍種…まだ、生きていたのか」

 「あ、違うよ。ニーズは僕の眷属。ちょっと特殊な生まれだからね〜。さて、じゃあ乗って」


 僕はニーズの背中に乗る。 

 そして恐る恐るという様子で僕に続き2人が乗ったら、ニーズに合図を出して出発した。



 「ま、すぐに着くからしっかり掴まっててね〜。加速するから〜」

 「そ、それを、早く言、ってく…!」

 

 後ろからナルハセの声が聞こえて来る最中にニーズが加速し、そのままかなりのスピードを出して目的地までの道のりを飛んでいく。








 「はい、とうちゃ〜く」


 僕はひょいっとニーズから飛び降りる。

 そして、



 「こんな目にあうのも久しぶりだったな!なかなかに楽しめたぞ。はっはっは」


 僕に続いてリューゼルドが楽しそうに降りてきた後、



 「よ、よくぞこのようなものを楽しいと言うことが…ぅっぷ」

 

 ナルハセはどうやら酔ったようで、かなりぐったりとしながら降りてきた。



 「さて。ということで、ここに引っ越してもらおうと思うんだよ」


 僕がそう言うと、リューゼルドが怪訝そうな表情を浮かべてこちらを見てくる。


 「…ぬ?ここには何も無いではないか。我輩はここからさらに移動でもするのかと思っていたのだが、そうではないのか?」

 「あ〜。それはね、これから作るからだよ〜。ほら、さっき蘇らせたみたいにさ」

 「…ふむ。そうであったか。して、どうするのだ?我輩たちを連れてきたからには何かあうのであろう?」

 「お〜。察しがいいね。じゃ、早速始めようか。まずさ、僕は魔族の風習とかを知らないから生活に必要なものとかを教えて欲しいんだ。一応、植物はあるから食べるものはあるし、家は城はこっちに持ってくるんだけど、他に必要なものはある?特にないなら1回戻って城とかを持ってくるんだけど」

 「なるほど。ならば、使用人たちの住まいと畑と家畜を育てるための場があるとありがたい。他のものは自力でどうにかしよう。全ておぬしに頼るのでは我輩も面子が立たないのでな」

 「了解〜。じゃ、それなら城を持ってきてからのほうがいいね。環境的なものだったら先にしようと思ってたんだけど、問題はなさそうだし」

 「そうか。了解した。では、我輩たちはどうすれば良い?」

 「じゃ、この真っ白い場所じゃない場所にいてよ。今から城を持って来るからさ」

 


 というか、さっきからナルハセが木にもたれかかって、死にそうな顔してるんだけど大丈夫なのかな?


 「持ってくるとは、どのようにやるのだ?叶うのであれば我輩はそれを見てみたいのだが」

 「あ、見たいならいいよ〜。じゃ、ナルハセはそこで動かないように言っておいてね」



 リューゼルドが僕の言葉をナルハセに伝えに行っている間に、僕は眷属たちにここへ近寄らないように伝え、さらに引っ越してくるものたちのことを伝えておく。


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