107.お喋りを楽しみました
「ふぅ…やっと解けた。随分と頑張って作ったね、これ」
結界の解除を始めて14分。
僕が魔法とかの解析にかかった時間にしては結構長い。かなり複雑だった。
さらに、
「適当に壊さなくてよかったわ〜」
解析しないで破壊しようかと思ったんだけど、破壊せずに解析をしててよかった。これ、中に封じてある”封魔の英杖”って、魔王を封印してたやつだ。この結界を無理に壊すとそれを一緒に破壊するようになってた。
危なく神野たちに魔王を自力で完全に殺させなきゃならないところだったよ。僕は神野たちに封印させようと思ってエルシード…迷宮のとこにいた英雄のエルフに倒した方法を聞いてたんだけど、これを使って封印したって言ってたので、これを壊したら封印する物がなくなるところだった。
「さて、中を拝見するとしましょ〜」
僕は解析を終えたので封印を解き、中に入る。
中に入ると、そこは中心に台座があるだけの部屋であり、その中心の台座には先に天使をイメージした物のついた銀色の杖が刺さっていた。
なんというか、神聖な雰囲気を放っている。
「さ、これを回収して魔王と会ったら帰ろ〜。ルディもそろそろ終わったでしょ」
僕はそれを引き抜き、アイテムルームに放り込む。そして階段を登…るのは面倒なので、階段のところに”扉”を開いて転移する。
「で、上に上がる階段はどこなんだろ?」
探すの面倒なんだけど、どうしようか?
探知でもしようか?風魔法にそういう魔法作ったぞ。それ使おうか。
…よし、そうしよう。
「使わない魔法が埃を被ってたし、いい機会だね。使っておこうか。『風の報せ』起動」
僕の脳にこの城の内部を流れる風の情報の全てが流れ込んでくる。
普通に人だと脳が焼ききれる量ではあるが、まぁ僕なので問題ない。普通に情報を処理する。
「…よし。いやぁ、あっちだったのか。反対に来てるじゃん」
城の内装は全て理解したので、階段のある方向に歩いていく。
ちなみにだけど、魔王は予想に反して塔の2階の自室にいた。てっぺんのアレじゃなかったよ。残念…
「にしても、ここって本当に何にもないんだね〜。情報だと召使い以外は魔王しかいないみたいだし、宝物庫も隠し部屋もないし。すごいのは見た目だけで、結局は維持費がかかるだけのでかい家だね」
歩きながら情報を見返して思う。
ここには、宝物庫などのそういった場所が一切存在しなかった。金銀財宝を持っているのかと思えば、全くそうではなくて。むしろ食糧難になるくらい物が足りていない。少し外の方の情報も見てみれば、庭には幾つもの魔族の墓と思われるものもあった。おそらく、餓死したのだろう。
そんなことを思いながら、魔王がいる2階の自室に向かって歩き続ける…
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2階は以外にもそんなに汚くなかった。
まぁ、1階に比べればではあるが、埃は積もってないし薄暗いわけでもない。
それにメイドのような人も時折り見かける。
しかも、僕を見ると軽く頭を下げてくる。警戒心はないのだろうか?
「こんなんでいいのかな…魔王城」
結構不安だ。
そんなことを思ってるうちに、魔王の部屋の前に来てしまった。
魔王の部屋の扉はそこそこ綺麗だし、中もさっきの情報で見る限りだと結構広い。
「さて、お邪魔しましょうか〜。えっと、入る時はノックだよね」
僕は、コンコンと扉を叩く。
『誰だ?』
中から重たくのしかかるような声が聞こえてきた。おそらく魔王だろう。
…というか、魔王以外なら誰だって話なんだけどね。
「お客だよ〜。じゃ、入るね」
僕は扉を開いて中に入る。
中には、豪華なベッド、美しいシャンデリア、キラキラと輝くステンドガラス、壁にかかった肖像画…なんて物は一切存在しない。ごく普通のベッドと書斎があるだけのただっ広い部屋だった。
そして、大量の紙が積まれた書斎には、今にも死にそうな表情をした髪は乱れ、髭は手入れをされておらず、よれた服を着た初老の男が座っていた。その男は、手元の資料に目を通し続けているままこちらを一切見ていない。完全にブラック企業の社員のようだった。
しかし、そんな中にも威厳を垣間見ることができるあたり、おそらく魔王であるのだろう。
「貴様、何者だ?」
「僕?一般人だよ〜」
「そうか。なら出て行ってくれ。我輩は今忙しいのだ。我輩がやらねば、魔族は遠くない未来に滅亡する」
「残念〜。もうすぐ滅亡するよ。あと1カ月足らずで勇者が来るよ」
「…そうか。もう…終わりなのだな」
そういって、その初老の男は動かし続けていた手を止め、初めてこちらに目を向けた。
目は曇り、疲れ切った顔ではあったが、その表情はこころなしか晴れ晴れとしているように見えた。
「ところでさ。さっき結構な衝撃があったのになんでなんともないの?騒いでたと思うんだけど?」
「ああ、それはそんな事などに目を向けている暇がないからだ。使用人たちが騒いでいたが、すぐに仕事に戻らせたよ。どうせその類の事は、なんの役にも立ちやしない貴族どもがかってにどうにかすると言ってな」
「ふぅ〜ん。で、何をしてるの?」
「外務とかだよ。だがそれももうやめにしよう。少し我輩の話に付き合ってくれぬか?どうせ最後になるのだ。我輩の好きしてもバチは当たらんだろう」
そう言うと男は立ち上がり、僕の方に歩いてきた。
「さぁ、こっちだ。ついて来てくれ」
「え?あ、うん。わかった〜」
そして、僕が開けたままにしていた扉を通ってそのままどこかへ歩いていく。
僕はそれに続く。
「どこに行くの〜?」
「元々我輩のいた部屋だ。あの部屋なら客を迎えるのに恥ずかしくないだろうしな」
「ふぅ〜ん」
その後は何も話さず、ただ淡々と歩いていく。
廊下を歩き、階段を登り、また少し廊下を歩き、階段を4階ほど登る…
そうして着いたのは…塔のてっぺんだった。
3mほどもある豪華な扉に、龍を象った取っ手や魔王である事を象徴するような禍々しい魔物を描いた彫刻…入り口だけだはあるが、まさに魔王の部屋だった。
「さぁ、入ってくれ」
そう言うと、目の前の扉は勝手に開いていく。
開ききった扉の奥に溢れんばかりの財宝があるわけではないが、それでも権力者の住んでいた場所であるのがよくわかるような作りをした部屋だった。壁には斧槍が立てかけられ、その上に今僕の後ろにいる男の肖像画が飾られている。その肖像画の中の男は、赤黒いマントを羽織り、ピシッとした服を着て、短く刈り上げた髪と整ったあご髭を持った威厳あるものだった。
僕はその内部に圧倒されながら、中に入っていく。
「そこに腰掛けてくれ。素晴らしいだろう?昔はもっと色々とあったのだが、人の住む国に持って行き、売り払ってしまったのでな」
そう言いながら男は悲しそうにカラカラと笑った。
僕は言われた椅子に座り、男も僕の目の前にテーブルを挟んで座った。
「ところでさ、君は魔王であってる〜?」
「ああ、あってるぞ。まぁ、こんな立ち振る舞いで魔王というのも笑える話ではあるがな」
「ははは〜。そうだね。じゃあ、自己紹介でもしとくよ。僕はエクレイム。一般市民をやっている勇者のお友達っぽい何かだよ」
魔王は不思議そうな顔をした後、愉快そうに笑い始めた。
「そうか。お友達っぽい何かと?はっはっは。面白いことを言うやつだな。我輩はリューゼルド・バルグス・ゼッペンバルド。魔王をやっているしがない一魔族だ」
「魔王は一魔族じゃないでしょ〜。ははは〜」
「はっはっは。今や一魔族であろう。もう既に魔族はほとんど残っていないのだ。そうであろう?エクレイムよ」
「ははは〜そうだね。僕が殺しちゃった。ごめんね?」
「いや、構わないさ。どうせ、もう我輩の愛した誇り高き魔族はもういないのだから…」
魔王の表情に影が差した。
「召使いとかは〜?」
「あれは愚かな貴族どもの送ってきたのだよ。我輩の機嫌を取ろうとしてな」
「ふぅ〜ん。じゃあ、誰かいないの?」
「ふむ…ナルハセというやつがいたが、そやつ以外は碌なものではなかった。あやつは我輩最後の直属の部下であったのに…なぜあんな無理をしたのだ?ナルハセよ…」
う〜ん…殺したの僕なんだよね。まだ魂残ってるかな?残ってれば甦らせられるかもしれないんだけど…
とりあえず、確認してみよう。
僕は白髪の魔族…ナルハセを送った空間を確認する。
「あ、残ってた」
「ぬ?どうかしたのか?」
「あ、いや、えっと、そのナルハセ。甦らせたい?多分できると思うんだけど」
ぎりぎり残ってた。どうにか削り切られずに、意識部分と記憶部分が無事に残ってる。
これを別の魂で作り直せば甦らせられるね。
「…エクレイム、何を言っておる。あやつは既に死んでおる。例い可能であるとしても、この地獄にもう一度呼び戻すのはあやつを家臣として持った者として、我輩が許せんよ」
「そう?じゃあいいや。でさぁ、なんでこんなに魔王であるリューゼルドが仕事しないといけないようなことになってるの?魔族って400年前はかなり恐れられてたと思うんだけど」
「ふむ、そのことか…聞きたいか?聞きたいのであれば話そう」
「え〜と、一応気になるんだけど」
「そうであるならば話すとしよう。長くなるが構わぬか?」
「あ、ならちょっと待って」
「ぬ?」
長くなるならルディにちょっと報告をしておいたほうがいいと思うのだ。
ということで、ルディに念話を送る。
『ルディ〜。聞こえてる?』
『お、やっとか。随分と遅かったな。こっちは随分前に終わったぞ』
『あ、そう?ならさ、ほかの砦も落としといてよ。できるだけ魔族は捕えておいてね』
『それは構わねぇんだが、お前は何してんだ?』
『魔王様と謁見中〜。ということで、よろしくね』
『おおう。マジか。つーか、お前俺になんかしたか?出会う魔族が俺を見た瞬間噴き出すんだが…俺の顔ってそんなに変か?』
『あ、忘れてた。あとで鏡でも見るといいよ。ああ、あと捕えた魔族はその砦にまとめて捕まえといてね』
『了解。じゃ、あとでな』
『うん。じゃね〜』
いやぁ、落書きしたの忘れてた。
「さて、もういいよ〜」
「ふむ。念話か何かか?」
「お、分かるんだ。さすが魔王様っ。じゃあ、終わったから話してよ〜」
「ふむ、では話そう。この話をするには我輩の生まれた時まで遡るが…
これは神…シャルドネが2度目の創生を行ってしばらく経った頃のことだ。
彼、リューゼルド・バルグス・ゼッペンバルドは、とある”人間”の子供として生まれた。
しかし、彼の肌は人間とは異なり青黒かった。
それを気味悪がった親は、リューゼルドを獣の住む山奥に捨てた。
しかし、この彼を捨てた行為が”魔王”を生み出した。
この世界は弱肉強食。当然、まだ生まれて間もない赤子など、最底辺の生き物だ…そう、最底辺なのだ。普通の種族であるのなら。しかし、彼は違った。
山に捨てられて数時間後。案の定、獣は彼を見つけ食らおうと迫っていた。
しかし、その獣は彼を喰らおうと噛み付く寸前で動きを止めた。
そしてその獣はそのまま動かなくなる。
その獣は単純に恐怖していた。自らが喰らおうとした者の持つ異様なまでに禍々しくおぞましい魔力を。それだけでなく、その獣はその赤子の魔力に魅せられていた。そして、この魔力を持つ者が成長した時どのような者となるのかを知りたいと思った。
その獣の知能は一般的な獣に比べてかなり高かった。そのせいもあり、その獣はこの赤子の母は赤子を捨てたことを理解していた。
その獣はその赤子を咥えて自らの巣へ…いや、自らの種族の多くが住む場へと運んだ。
そして、獣はその赤子を育て始めた。
…その捨てられた山の名は”龍極山”。龍の住む山であり、その獣の種族は”龍”と呼ばれる種族だった。
今でこそ退化しているが、かつての”龍”は人の言葉を話すことも可能であり人の姿となることもできた。そうはいっても滅多なこと姿を変えるとこなどはなく、普段から龍の姿ではあったが。
そうして龍に育てられた赤子は”リューゼルド”と名付けられ、その山に住む龍たちによって武術や魔法を教えられて育った。
彼も教えられることをどんどん吸い込み、いつしか龍たちとも対等に戦うことができるようなレベルに達していた。種の最強種と歌われた龍種と。
そうしてしばらくの時間が経ち、彼は山を出た。彼は人の世界で暮らすことを望んだのだ。
龍たちはそれを喜んで送り出した。
…それが全ての始まりとなった。
行く街全てにおいて、彼と同じような色の肌を持つ種族はいなかった。
だから、彼は拒絶された。
ある場所では街に入ることも許されず、入ることのできた街では後ろ指をさされ気味悪がられ、宿に泊まることなど出来なかった。
そして、そんななか事件が起きた。
ある日、彼に因縁をつけてきた人間がいたのだ。
喧嘩になり、彼は殴られたので殴り返したところ、その因縁をつけてきた人間は”弾け飛んだ”。
もちろん、彼は龍たちによって育てられたのであり、普通の人間の肉体の強さなど知る由もなかった。
しかし、周りのそれを見てしまった者たちは彼を…青い肌を持つ種族を恐怖した。
噂はたちまち広まり、彼はどの街にも入ることができなくなった。
そんな時。彼は同じ青い肌を持つ種族に出会った。
青い肌と翼を持った女だった。
彼はその者と話すと、今まで知らなかったことを初めて知った。
彼以外にも青い肌を持つ者がいたのだ。
彼らは迫害され、今はある森の中にひっそりと暮らしているそうだ。女の話では、噂を聞き彼のことを探していたらしかった。
彼はそのことを喜び、その女に連れられその彼と同じ肌を持った者たちの住む場所へと向かった。
二十数人程度ではあったが、そこには彼と同じように青い肌を持ち生まれた者がいた。
母親や父親の種族も様々であった。翼を持つ者、獣のような耳を持つ者、角のある者…そして、誰も彼も形は違えど彼と同じ色であった。
彼らは支え合ってひとつの集落で暮らしていた。
彼はそこで暮らし始めた。
平和な日々が続いた。
早朝に起きて、畑を耕し、獣を狩り、集落の者たちと食事をとり、集落を支え、馬鹿騒ぎをしたり、喧嘩をしたり…彼は幸せであった。
そうして、彼はいつしか集落のある女性を好きになり、めでたく結ばれ夫婦となった。
しばらくし、彼とその女性との間に子ができた。
…彼に家族ができたのだ。
生まれた自らの身を嫌ったこともあった。街を追い出されるたび、人に拒絶されるたびに自らは必要のない生き物でないかと思ったこともあった。
しかし、彼を必要としてくれる者ができたのだ。
いや、集落の者たちが彼を必要としていなかったわけではないが、彼は初めて自らの血を継いだ子を得て、初めてそれを強く感じた。
しかし、幸せは続かないものだ。
彼に子ができてから少しして、彼らの住む集落が人間に見つかったのだ。
いや、正確には人間が…ある国の騎士が迷い込んだのだ。
彼らは迫害されたこともあり戸惑いはあったものの、その騎士を快く集落に迎え入れた。そして、この場所のことを絶対に誰にも教えないように念を押した上でではあったが、帰る道を教えその騎士を帰した。
それが災いの始まりであった。
それから間もなく、騎士が攻め込んできた。
彼がある街で人を殺したことのどこかで聞いた騎士が彼らを危険と判断し、仕えていた国の王に話してしまったのだ。
彼は強かった。
だが、集落の者たちは能力的には人に勝っていたが、戦い方を知らなかった。
だから、彼らが騎士を撃退することはできたが幾らかの被害はあった。
その中に彼の子も存在した。
彼は恨んだ。騎士を、人間を、色の異なる種族を…何より、子を守れなかった自らを。
それからほどなくして、彼らは住む場を変えた。
大陸を離れ、別の島を探した。
そうして見つけたのが、今の魔族大陸である。
彼らはそこに集落を築き、再び幸せな生活を望んだ…
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