106.侵入しました
僕の目も前は見渡す限り魔物がうごめいている。
魔王城っぽいところの場所までぎっしり魔物が詰まってる。
一応、砦や城の入り口付近は魔物がいないけど、それでも異様な光景だ。
「とりあえず、さっさと終わらせてやりたいことでもやるとしようかな」
僕は元の大きさに戻した息吹の刃渡1mくらいの刃に淡く揺らめく灰色の魔力を纏わせる。
「さてと。なんでここの魔物はオークとかキモいのしかいないんだろ?確かに単体での力は強くて、生命力も高くて死ににくいけど」
他にも、武器を使えるとか幾らか利点はあるけど、それくらいならワイバーンとか飛竜系を使った方がよっぽど便利なのに。
「とりあえず、見えた方が近づいてくるからやりやすいよね」
僕は姿を見えるように戻す。
そして、その瞬間にうじゃうじゃといた魔物たちの注目の一部が僕の方を向き、それに合わせるように他の魔物の注目も僕に集まり…
『『ギャアァア!』』
『『『ギュウォォオ!』』』
気持ちの悪い声を上げ始めた。
そして、そのまま僕の方に向かってあるものは武器をまたあるものはその拳を振り上げ襲い掛かってきた。
「だけど残念」
僕は剣を振るう。
ところで、よく「剣が音を置き去りにする」とか言うけど。僕のはそんな生易しいものじゃない。”光”をも置き去りにする。
残像ができるのは剣を振り終わってから。音がするのもそのあと。そして、それを知覚するのは…
パンッという破裂音がし、僕の目の前が一瞬にして血だまりに変わった。そして、砂煙が立つ。
…不可能だ。
それを知覚することはない。
なぜなら、剣を振るった瞬間に全てが終わっているからだ。
許されるのは気づくことなく消滅するのみ。
「さてと、どこまで無くなったかな〜?」
砂煙が収まると、視界が開ける。
僕の剣を振るった範囲…砦から僕を中心に円を描くように半径30mほど地面が消滅し、その衝撃波で城付近まで地面が3mほど陥没し、城の壁が半分ほどその余波で崩壊している。
「う〜ん。結構手加減したはずなんだけど…ま、いっか」
一応、抑えてやったので城の壁が崩壊程度で済んでいる。まぁ、問題はないだろう。
『ま、魔王様!ご無事ですか!』
『ガエン!何があった?』
『下級魔どもは何をしている!』
『は、はぃぃいいいい!只今っ!』
『早く報告をしろ!』
『他の砦との情報を共有しろ』
『さっさとどうにかしろっつってんだよ!聞こえねぇのか!』
耳をすますと、魔王城付近から叫び声その他が聞こえてきている。どうやら、全く現状が飲み込めていないようだ。
「ま、とりあえず。残りを消し飛ばそうかな。あと半分は残ってるだろうし」
こっちから魔王城までの魔物はほぼ死んだか、逃げて反対側の方に移動している。
つまりだ。もう半分で剣を振ればほとんど殲滅完了なのだ。
そう思って移動しようとしたら、向こうの方から魔族が来ているのが見える。
おそらく、確認とかで向かわされたやつだろう。
魔族の魔石は純度が高くてランクも高いので回収しておこうと思い、そのまま僕が近づいていくと、魔族はこちらに気がついたようで。
「何者だ!これを起こしたのは貴様か?」
「はいはい。もしそうだったら君ごときじゃどうにもならないので、魔石はいただくね?」
僕は一瞬で魔族の目も前まで近づき、心臓あたりの場所から魔石を抜き取る。
「え?…かはっ⁉︎き、貴様、な、にを…?」
「う〜ん。ランクSの魔石か。もうちょっと高いやつがいいな〜」
僕の目の前で魔族は倒れる。
魔族にとって、魔石とは生命線だ。
魂の削った魔力の余剰分を体外へ放出するための器官。つまり、これがないと魔力で体が傷つき、即刻死に至る。
「さて、向こうも早く終わらせよ〜」
僕は反対側を目指して歩き出す…のをやめ、空を蹴って空に飛び上がり、空中を走って移動する。
この方が早いので、魔物が向こうの方に逃げたままの状態でいてくれる間に片付けられる。
そして、僕は魔王城を越えたあたりに着陸し、僕が初めにいた砦の反対側の砦に向かって残り半分の魔物を片付けるために剣を振るう。
再び、空気が弾けるような破裂音がして目の前の魔物が消滅する。
今度はさっきより弱めに放ったので、砦に被害はないはず…!
砂煙が晴れるまで少し待とうと思って、魔王城の壁に寄りかかっていると。
『よし。城壁、開け!』
『『『おぉぉおおおおお!』』』
後ろから声が聞こえてきたあと、寄りかかっていたものが左右に開いていく。
どうやらここは門だったようだ。周りと同化しすぎてて気づかなかったわ。普通、切れ目もないようなところが開くとは思わないでしょ?
「って、見つかっちゃうじゃん!」
隠れなきゃ!見つかったら…うん、何もないね。むしろ相手が全滅するだけだわ。よし、おとなしく門が開くのを待つとしよう。
僕はギギギギギギギ…と、金属が擦れる音を聞きながら門が完全に開くのを待つ。
『よし…あれは何者だ?』
『わかりません!』
『全員。警戒せよ!我輩が先頭を行く!続け!』
『『『はっ!』』』
えらく隊長とか船長とかいうのが似合いそうな男の魔族がこちらに向かって歩いてきている。
「よし、とまr…」
そして、全員分の魔石を抜き取る。
バタバタと魔族たちが倒れていく。
綺麗にやったからあんまり苦しくはなかっただろう。
「ふむ。大漁大漁〜」
一気にランクS以上のものが30個近く集まったので、ラッキーだった。
これで魔結晶の残りが補える。
「さ、せっかく開けてくれたんだし。中に入るとしましょうかな〜」
僕は門を通って、城壁の中に入る。
「おおおお〜。魔王城っぽい!」
内部に入ると、お化け屋敷のような見た目ではないがそれなりの雰囲気を放つ城が建ち、それを囲うように6つの豪邸が建っている。
魔王城っぽいのは尖った塔が5つ建ち、その1つだけ高く伸びた塔の天辺に何かが書かれた旗が立っている煉瓦造りの建造物だ。まぁ、よくあるような城を黒っぽくアレンジしたみたいな感じだ。
「さて、どうしよっかな〜?」
入ってはみたが、これといってやろうと思ったことがない。
島の生物を探知してみたんだけど、この島の中にいる魔族は…城の中に23人、周りの豪邸に35人、砦に各5,60人ずつくらいしかいない。大体、魔族1体を倒すのに一般的な兵が100名は必要だが、砦は全て潰しておくつもりなので5800名ちょっといればここを攻略できてしまう。もはや圧殺状態になる。
ああ、あとついでに島の中にいる生物も探知してみたけど、魔物はあと37匹しかいなかったので、放っておいてもいいだろう。
「ま、少ないに越したとこはないよね。適当に会ったやつから潰そ」
豪邸とかにいるやつは強そうだし、豪邸もろとも…あ、溜め込んでる魔石とか宝石とかないかなぁ?
あったら勿体無いし、中を確認したら潰そ。
「よし、そうと決まれば豪邸探検でもしようかな〜」
僕は近くにある場所からしらみつぶしに豪邸を漁ることにした…
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僕は今、魔王城に向かって歩いている。
ちなみに、探検の結果は…
「やっぱり、いまいちかなぁ〜」
宝はあった。確かに豪華だったし、金だとか銀だとかお高い物が大量にあったよ。
でも、
「人すくなすぎるでしょ〜!しかもウザッ!」
1つの屋敷に7体しかいない。
いや、それだけでも確かに魔族の能力値的には屋敷の管理とかはできるだろうし、不便は無いだろう。けどさ、どいつもこいつも性格がゴミすぎて腹が立った。主人が大抵ヤンキー崩れみたいなのかギャルもどきみたいなやつ。または、世間知らずなおぼっちゃまかお嬢様。いちいちうざかった。
それでも全部の屋敷を回ったけど、全て屋敷の主人は2人であとはメイドと執事で形成されていた。いや、正しくは5つの屋敷は主人がいて、1つだけ主人がいない屋敷があった。肖像画に随分前にマドーラであった白髪のおじぃさんの絵があったから、あの人の屋敷だったのだろう。そこの屋敷だけは他に比べてあまり執事とかが疲れた顔をしていなかったので、いい主人だったのかな?
「別の会い方してたら仲良くなったかな〜」
どこぞの小説だと言いたいが、本当にそう感じる。
屋敷の中を見ると、豪華な絵では無いが風情を感じるような物が置いてあったり内装が質素な作りだったりと、良い人であるような感じがしてた。
…まぁ、血塗れにしましたけどね。使えそうな物を回収して、屋敷の人皆殺しにしましたから。
「さて、これどうやって入れば良いのかな〜?」
城には大きい入り口があるのだが、内側から開く作りのようで開けられ無い。
「…穴でも開けようかな!」
僕は手を扉にかざし、そこに僕が入れるくらいの大きさで空間を消滅させる。
「さぁ、入ろ〜」
僕は開けた穴を通り、中に入っていく。
そのまま、僕は城の中へと歩き出す。
中は薄暗く、頭上には多くのシャンデリアがぶら下がり、壁に火の灯ったロウソクが並び、僕が歩くたびにカツーン…カツーン、と石畳が音を立て響いている。
なんというか…廃城みたい。
いや、技術がないからだろうし、上まで掃除が行き届か無いとかなのは仕方がないだろうけど、なんというか薄汚い。
シャンデリアには蜘蛛の巣が張り、ロウソクはところどころ消えてるし、廊下の端には埃がたまってる。他にも壁のところどころにかかっている絵は斜にかかってるし、窓もヒビが入っている物が多い。
荒れてるのかな?魔王様ご乱心?
「どこに魔王っているのかな〜?やっぱり一番高い塔?」
城を歩いていて見かけるのは、厨房のような場所とか武器庫とか基本的に使用人とかの場所ばかりなのだ。やっぱり偉い人って高い場所にいるのかな?
それに、さっきから人の足音ひとつ聞こえないし、みんな上とかにいるのかな〜?
「とりあえず階段でも探してみるとしますかな〜」
階段を探して上に上がることにする。
1階には人がいるような気配がないし。
「これって…地下かな?」
上に上がる階段を探していたのだが、上じゃなくて地下に降りる階段を見つけた。
「降りてみよう。何かあったら良いな〜」
僕は階段を下る。
…階段、長っ⁉︎
ちょっと降りたところで曲がったのだが、そこから下が暗くて見えないくらいに長かった。
「と、とりあえず明かりを…『燈蛍』起動」
僕は蛍の形をした光を数個作る。
これ、本来は大量に作って目くらましとかに使うための魔法なんだけど、以外に役に立った。蛍は僕の周りを照らしてくれてて、下がよく見える。
「うわぁ〜…余計に降りる気が失せるわぁ〜」
残念ながらそれでも一番下が見えず、降りる気が結構失せる。
でも途中まで降りちゃったし、どうせだから降りてみようと思う。
そのまましばらく僕は階段を下り続ける。
「あ、着いたかな?」
そのまま降りること13分。
やっと地下についたっぽい。
その階段を降りた目の前には3mくらいの扉があり、何かを厳重に守っているように見える。というか、封印しているように見える。
「ま、開けますけど?何が入っていようと、別に僕は死なないし?」
どうせ大抵のものじゃ僕は死なないので、気軽に扉を開ける。
軽く力を加えると、ゴゴゴゴと錆び付いた扉がひとりでに開いていく。
中からは青白い光が溢れてきており、数秒ほど経って完全に扉が開くとその光の正体が見えた。
扉の向こうには…結界が貼られていた。
結界は青白く光り、解析してみるとこんな物だった。
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名前:魔性結界
階級:A
説明:魔族以外をはねのける結界。
追記:中心にある”封魔の英杖”を核として発動されている。
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つまり、なんか大切な物を守ってるわけだ。
「よし、破ろ〜」
まぁ、結界なんぞ破壊してくれるわ!
ということで、僕は結界の解除を始める…
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