101.うるさいのが来ました
「じゃあ、そろそろ帰るね〜」
「ああ、またいつでも来るとよい。歓迎しよう」
「うん。じゃね〜」
おじぃちゃんはいい人だった。しかも紅茶いれるのがかなりうまい。
結果、会話に花を咲かせ、話し込んでしまった。
ここに来たのは午前10時頃で、今は午後7時。いやぁ〜、10時間も話してたよ。驚きだね。
「ま、ついでに今の状態も聞けたし、別にいっか」
軍は、帝国軍3000と少し、王国軍は2000弱くらいが集まってるそうで、さすがにこの街だけでそんなに入れないから、隣町で半分くらいが待機してるらしい。ま、出発する日には全員こっちに来るらしいけど。
で、冒険者は500人くらいが集まり、今も増加中。ここから、軍が出るっていう噂を流して集めたそうだ。
僕はそんなことを考えつつ、一階に降りる。さすがに、登録でうるさい以外は静かになったようだ。
「あ、あの…さっきはすいませんでした」
僕が降りると受付から受付嬢さんが出てきて、頭を下げてきた。
「まぁ、次からは気をつけなよ〜。僕じゃなかったら殺されちゃうかもっ!ははは〜。じゃね〜」
「すみませんでした。ありがとうございます」
僕はギルドを後にする。
…と思ったんだけど。
「うちを弟子にしてください!」
「子供?」
ギルドを出て、目の前にちっちゃい女の子がいた。しかもハンマー背負った。
だいたい小学生くらいかな?
「ちっ違います。ドワーフです。これでも150歳は超えてるんです!」
「あ、そう?」
「はい。だから子供じゃないんです!あっ、じゃなくて。うちを弟子にしてください!」
どうやらドワーフだったようだ。確かに、言われてみれば耳が尖ってる。確か、ドワーフは女性は子供みたいで、男性が小さいおじさんだったっけ?
でも、今僕弟子とる気ないんだよね。ルー出てっちゃったし。
…そういえば、アルは元気かなぁ〜?
「い・や・だ〜」
「な、なんでなんですか!」
「なんでって、いやだから?」
「なんで疑問系なんですか〜!うちを弟子にしてくださいよ!」
「やだよ〜」
「じゃあなんで嫌なんですか!」
「…気分?」
「気分で嫌なんて言われたくないです!お願いしますよ〜」
「え〜」
「え〜、じゃないです。お願いします!」
なんか粘るね。
「なんで僕の弟子になりたいのさ〜?」
「何でって…それは…」
「強いから?有名だから?君が持ってる武器は、槌だよね?僕は、短剣とクレイモア以外使ってみせてないよね?」
「うぅ…で、でも弟子になりたいんです!」
「僕は理由がない弟子はとらない主義なんだよ〜。アルは孤児院を守るため。ルーは傷ついた人全てを癒すため。じゃあ君は〜?」
情熱がない弟子を取っても面白くないしね。
「う、うちは…」
「はい残念〜。じゃね〜」
「あ。ちょ、ちょっと待ってください!」
僕はそれを無視して、人混みに紛れて宿に帰る。
「で、なんで君はここにいるの?」
「うちの取ってる宿がここだからです!さぁ、うちを弟子に!」
「はぁ…」
なんで、さっきのドワーフちゃんはここにいるんでしょうか…
「あ、申し遅れました!うちの名前は、リナです!」
「あ、そう。じゃ」
「ああっ、ちょっと待ってください!」
どうしよう?すごくうざったい…
僕はさっさと部屋に戻る。
『うちを弟子に〜!』
ゴンゴンゴン…
「…『消音』起動」
僕が部屋に入ってからも、ドアの前に張り付いたように動かない。しかも扉を叩くサービス付き。
「はぁ、疲れた〜」
ガチャ…
「うちを弟子に!」
「なんで鍵開けてまで入ってくるのかな〜…?」
後で新しく鍵つけとこ。
「うちを弟子にしてください!」
「嫌だってば〜。僕は理由のない弟子は面白くないから取らないよ?」
「そ、それなら。うちは世界最強になりたいんです!」
「よし、採用…とでも言うと思った〜?嘘つきめ〜」
嘘をついてるのは、目を見ればすぐにわかる。
「う、嘘じゃないです!」
「残念だったね〜。僕は嘘がわかるんだよ〜」
「うぅ…うわぁあああん」
「あ、泣いた」
なんと面倒くさいことでしょう。僕は苦しんでるのかを見るのは好きだけど、泣かれるのはうざったいだけだから好きじゃないのだ。ああ、苦しんで泣き叫ぶのはいいよ?
「泣いたって無駄だから、どっか行ってくれる〜?邪魔〜」
「うあぁああああ」
「はぁ…『マリオネット』起動」
僕は、その子を廊下に放り出す。
廊下に出すと、”消音”の効果で鳴き声は聞こえなくなった。
「とりあえず、鍵つけよう『創世:南京錠』」
僕は内側から鍵をとりつける。
「さ、今日は何しよっかな〜」
やろうと思ってることは結構残っている。
順番的には、封印を解いた後に魂のない状態で意識を維持する空間を作るのを最初にしておきたいところだ。後回しにしたら忘れそうで…
「とりあえず、『空間創世』」
僕の目の前に穴が開く。
「次に〜『空間固定』『内部状態設定』…むむむ、結構むずい」
空間を固定し、中を魂がなくても意識だけで存在できるように作る。
意識をそのまま存在させるには、世界からの干渉を完全に絶ち、意識を現実化させ、存在を固定させなきゃならないので、手間が多い。
てなわけで、およそ2時間半。
「ふぅ。これでいいかな?とりあえず、試しておこう」
僕はその空間に入る。
中は何もなく、あの空間にいた人全てが入れるくらいに広くしてある。
「とりあえず『扉』…2個ぐらいあればいいかな?」
”アイテムルーム”から魂を取り出す。
僕が魂を作っても良かったのだが、それでは、この世界のもの…つまり、ルディたちが作ったものとは違くなってしまうかもしれないのでしまうかもしれないので、既存の魂を使うことにした。
「さて、この中から…」
意識にあたる部分を探し出していく。
「お、あった。どんなのが出てくるかな〜」
僕は魂の中から意識を取り出す。
すると、その意識の部分は白い靄に包まれた後、人型になった。
「う、うぅ…ここは?」
「お〜。成功かな?」
更に少しして、しっかりと人間になった。どうやら、王都の時に死んだ騎士のようだ。
「き、君は誰だ?」
「僕?ああ〜、気にしないで。それより、君のことを聞かせてくれる?」
「え?あ、そういえば俺は死んだんじゃ…ここは死後の世界か何かなのか?」
「う〜ん…そうとも言えるけどそうでもないんだよね〜。ま、いいよ。とりあえず、死ぬまでの記憶は全てある?」
「え?ああ、あるはずだ。そうじゃなくて、君は誰なんだ?」
「それは後でね。じゃあ、思い出せないこととかってある〜?」
「いや、ないと思う」
「うん。じゃあいいかな。次に行こう。君はその辺で待っててよ」
「は、はぁ」
騎士さんは、何が何だかよくわかってないような顔で呆然と立ち尽くしている。
そんな騎士さんは放置して、僕は次の魂の意識の部分を取り出す。
「さて、次はなんだ〜?」
「な、何が起きてるんだ⁉︎」
「あ、うん。黙ってて〜」
「あ、はい」
今度の靄は、大きい人型を成していく。
「おお、巨人族だ。ってことは、マドーラの魔族のやつかな?」
「…う、俺は、なぜこんなところに。はっ…!リューカスは!リューカスはどうなったんだ!」
「はいはい落ち着いて〜。リューカスは無事に残ったよ〜」
「そ、そうか。それなら良かった。で、ここはどこなんだ?」
「僕の場所。で、質問に答えてくれる?」
「あ、ああ。それよりリューカスのことを知りたいのだが。俺はあそこに戻らなきゃならない」
「いや、君はもう死んだでしょ?」
「え。あ、いや…そうだった。そうだ、俺は確かに死んだ。死んだんだよな?なら、なんで俺はここにいるんだ?」
ああ、巨人さんが狼狽え始めちゃった。
ちょっと失言。
「とりあえず、一度落ち着いてくれる?」
「これが落ち着いていられるかぁ!俺は死んだはずだ!なのになぜここにいる!答えろ!なぜだ!」
「あ〜あ〜」
巨人さんが僕の肩を持って揺さぶってくる。これ、普通の人なら死んでると思うんだけど?
「あ、あのぉ…私は?」
「あ〜、もうちょっと待って。えいっ!」
「ぐぁあ⁉︎」
僕は巨人さんを軽く蹴っ飛ばす。巨人さんは、どっかに吹っ飛んだ。
…回収するの面倒なんだけど。
「さて、これでよし」
「ええ?え?ええ⁉︎ええええええ!」
「ていっ。はい落ち着いて〜。君は結構落ち着いてたのに、あの巨人さんったら。ね〜?」
「は、はぁ。ね〜と言われましても」
「へぇ、君はそういう口調が普通なの?」
「え?あ、はい。私は騎士ですから。それに相応しい言葉遣いを」
「ふぅ〜ん。じゃあ、質問を受け付けてあげよう。ただし、3つまでね?」
ま、気分が乗ったらもっと答えてあげるかもしれないけど。
というか、向こうの方で巨人さんが暴れてる声が聞こえてくる…
「え、ええと。では、まずここはどこで、あなたは誰ですか?」
「ははは〜、なんか記憶喪失みたいだね〜」
「えっと答えてくれません?」
「ああ、そうだった。ここは、僕が作り出した空間。そんで、僕のことは君も知ってるんじゃないかな?」
「え?作った?」
「そう。作ったの。ちょっと意識だけの状態の人を迎える予定があってね〜」
騎士さんは全く何が何だかみたいな顔をしてる。
「…あなたは私の知っている人なのですか?」
「君はシルフィードの王都の時死んだんでしょ?なら会ってないけど、聞いたことはあるんじゃないかな」
「うぅ〜む…すみません、わからないです」
「ああ、そう?僕はシン。勇者と一緒に召喚された、”悪霊”って言えば通じるかな?」
「ああ!あなたが。そうでしたか。王都はあの後どうなったのですか?」
「それ質問?」
「あ。いえ、そんなことに質問を使うわけには…」
騎士さんは神妙な表情。特別に答えてあげましょうか。
「王都は別に無事だったよ。勇者が魔族を倒して、僕と弟子がもう片方の門を守った。ただ、死人は結構出たけどね」
「えっと…」
「ああ、別に質問に答えたわけじゃないよ」
「そうですか。では、次の質問をしてもいいですか?」
「どうぞどうぞ〜」
「私は、確かに魔族によって殺されました。なのになぜここにいるのですか?」
「ああ、やっぱり聞きたい〜?」
「はい」
「ここはね。僕が意識だけで存在できるように作った空間なんだ〜。で、君は死んで魂だけの状態で僕に回収されて、実験に使われた。そんなところかな」
「え?実験?魂?」
「いや、もう死んでるんだし、別にいいでしょ?」
「いえ、なんといいますか、人道的?道徳的?にダメな気がしますよ。それにこれって一応人体実験じゃないですか」
騎士さん、ビクビクしてます。面白〜。
「まぁ、もうしちゃったんだし、気にしてもしょうがないね!」
「いや、まぁそうですけど…人体実験ですよ…」
「はい。この話、終了〜」
「はぁ。では最後になんですが、私をこの後どうするんですか?」
「う〜ん。どうされたい?」
「ほぇっ⁉︎」
いや、試そうと思っただけで、その後のことは全く考えてなかったわ。
「いや、実験したはいいんだけど、その後どうするか考えてなかったんだよね〜」
「なんと適当な…」
「で、どうされたい?」
「ええと、どのようなことができるんですか?」
「消滅。蘇生。転生。後は実験台になるくらい?」
「え?蘇生って、生き返れるんですか?」
「うん。でも、君位の屍体はもう埋葬されてるから、ゾンビになるか別の体で生き返るかだね。ま、どちらにせよ、元の生活には戻れないね」
もうすでに死んで埋葬した人間が出てきたら、一種のホラーだと思う。
「そうですか…」
「どうする?実験台になる?」
「いやいやいや、もちろん嫌ですよ!」
「え〜。じゃあ消滅?」
「なんで私は消えることしか選択肢にないんですか!」
「え?転生する?」
「ええ。したいですよ。どうせこのまま消えるくらいなら、ええ」
「ふ〜ん。じゃあ、いろいろ決めようか」
「え?何をですか?」
「ん?その辺のスライムに転生したいの?」
「いえいえいえ。わかりましたから、それは勘弁してください」
「ふむ。よろしい〜」
「は、はぁ。で、どうするんですか?」
「まずは〜、性別?何がいい?男?女?どっちでもない?」
「え?最後のどっちでもないって何ですか?」
「あ、それがいいのね」
どっちでもないってのは、まぁアレがどっちもないってことですよ。はい。
「え?ちょ、わからないのにそれは勘弁です。男がいいです」
「そう?じゃ、次は種族。スライムでいい?」
「さっきいやって言いましたよね?」
「うん。知ってる。ツンデレかなって思って」
「ツンデレって何ですか?」
「あ、うん、別にいいや。で何がいい?」
「あ〜…何にでもなれるんですか?」
「うん。一応何にでもなれるよ。家畜でも最弱生物でも」
「なんでそんなに私を弱くしたいんですか?」
「面白そうだから」
「はぁ…エルフってできますか?」
「ふ〜ん。できるけどなんで?」
「長生きしたいんです。今はこんなすぐに死んでしまったので」
「そう?じゃあエルフの男ね」
今度は死ににくい体にでもしてあげようかな?
「じゃあ、次は外見。ブサメン?豚?醜悪?キモい?汚い?」
「え?なんでそんなのしかないんですか?もっとイケメンだとかは?」
「ああ、イケメンがいいの?しょうがないな〜。近づく人が崇め奉りたくなるようなイケメンにしてあげようじゃないか〜。延々にお友達はできなさそうだねっ」
「いや、それはやめてください」
「え〜。面白そうなのに〜」
「私は面白くないです」
「そう?」
「そうですとも」
「じゃあどんなのがいいのさ〜?」
「いや、普通に」
「あ、平均?全ての人の顔を平均した顔がいい?きっと気持ち悪いと思うよ」
「いや、そうじゃなくて。普通にエルフのどこにでもいるような顔がいいです」
「ふ〜ん。じゃあ、結構な美形だねっ!」
「え?」
「あれ?エルフにあったことないの?」
エルフは総じて顔の作りが綺麗なのだ。ルーもかなりのイケメンだよ?
「あ、はい」
「ま、エルフってのは結構イケメンなんだよ〜。じゃあ次ね」
「え。ちょっと…」
「次は能力値。筋力は高いほうがいい?」
「え。あ、はい」
「体力は高いほうがいい?」
「あ、はい」
「耐性は高いほうがいい?」
「はい」
「もう残り全部高くていっか。別に困ることもないだろうし」
「え。それでいいんですか?」
「僕が見てて面白そうならそれでオッケー」
第一に面白そうだからやるんだし。あとついでに、紫たちを転生させる練習。
「そうですか…」
「はい、次は職業」
「職業ですか。というか、職業ってなんなんです?」
「え?知らないの?」
「えっと、私は騎士っていうのでしたが…」
「うん。じゃあ説明しよう!職業っていうのはね、その人の能力値の上昇率に関係するもので、魔法使い系なら魔力と耐性、剣士系なら筋力と体力みたいな感じにね」
「へぇ〜そうなんですか」
「そ。ということで何がいい?村娘?」
「え?そんな職業あるんですか?」
「特別に作ってあげる」
「いや、いらないです」
騎士さんは職業を考える…
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