閑話:キャルディの贖罪 その2
ちょっと閑話です。
確かにあれは俺が悪かったと思う。
だけどよ、あいつがあそこまで酒癖が悪いとは思わないだろ普通…
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リャーシャに行って、大会が始まる前のことだ。
俺は結構前から酒が好きで、リャーシャに来てからも、エクが準備とかをしている間にいろんな店を回って美味い酒を出すところを探してたんだ。
それで、気に入った店を見つけたんだが、折角だからエクも一緒にどうかと思って、そこに連れて行ったんだ。
「な?ここ結構良くねぇか?」
「う〜ん。僕はあんまりお酒が好きじゃないからな〜」
「おう…そうか」
そういえば、エクが酒を飲んでるのを見たことがないと思ったが、そういうことだったか。
「あ、でも料理は美味しいと思うよ〜」
「そうか。まぁ、いいか」
「でもさぁ〜、ルディそんなにお酒強くないのに、よく飲むよね〜」
その一言がきっかけだった。
「別にそんなことはねぇぞ?それを言ったら、お前の方が弱いんじゃねぇの?」
「う〜ん。飲んだことないからわかんないな〜」
「はぁ⁉︎お前、高校生だったんだろ?学生的なノリとかで飲まなかったのかよ?」
「え?なんで飲むのさ?」
「いやいや、普通学生ってそういうのに憧れないか?」
「あ〜。確かにうちのクラスにも飲んでるのはいたけど、僕はお金を無駄に使う余裕は…まぁ、あったけど両親がどっちもお酒に弱かったから飲もうと思わなかったし」
「へぇ…じゃあ、今試してみるか?」
「え〜、やだよ。面倒くさい。それに僕が酔ったら、ルディを誰が宿に連れて帰るのさ」
「まぁまぁ、そう言わずによ。な?たまにはいいじゃねぇか」
「はぁ…しょうがないな〜。試すだけだよ?」
「おうよ」
そう言って、エクが肉体の酔えなくなっているのを普通に戻した。
「で、どのくらいでルディは酔う?」
「大体…5,6くらいか?まぁ、そこまで強いやつじゃないしな」
「じゃあ、僕はそれを適当に頼めばいいんだね?」
「そうだな。俺が頼もうか?」
「あ、うん。おすすめで〜」
「おう。お〜い、そこのやつ2つくれ!」
俺は、並んでる酒の1つを指差して、店員に叫んだ。
それからしばらく飲んでからがいけなかった。
「おいエク。そんなに飲んで大丈夫か?もう12,3杯目くらいだぞ。しかも結構強いやつをよ」
「ふふふ〜…大丈夫だよ〜」
エクは、ニコニコと微笑みながらこっちを見る。
頬は少し赤くなり、酔ってるのが良くわかる。
本当に大丈夫なんだろうか?
「以外とお前は酒に強かったんだな」
「ふふふ…そうだね〜」
「…ところで、なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「だって、珍しくルディが僕を飲むのに誘ってくれたんだも〜ん」
「あ、そう。まぁ、またそのうち誘ってやるよ」
「わ〜い。あ、店員さん〜次のやつちょうだ〜い」
エクは、並んでいる酒を指差す。
さっきから、自分の気に入った酒を探すようにいろんな種類の酒を飲んでいる。しかも、その指差す先に並んでいる酒はほとんどが蒸留酒やスピリッツ…つまり、アルコール度数の高い酒だ。
「結構ここ、いいと思わねぇか?」
「う〜ん。ちょっと足りない。もっとこう…こんな感じに〜」
エクが指を振る。
すると、天井からロープが降りてきて、店にいた店員を縛り上げて逆さまに天井に吊るす。
こいつ…神法使いやがった。
「いやいやいや、ちょっとやめろ!何してんだ」
「え〜。もっとオブジェクト的なものがあったほうがいいよ〜。こんな風にさぁ〜」
再びエクが指を振る。
天井につられていた店員の四肢が切り落とされ、地面に落ちる。
その音で、店にいた他の客が店員に気づいて逃げだそうとする。
しかし、出口からは出ることができない。
「エク、お前何してんだ?」
「ちょっと空間隔離してみた〜。あとは〜…こんな感じに」
エクはどこからかナイフを取り出し、壁の近くに逃げていた客を貼り付けにする。
壁に貼り付けにされて客を見て、他の人たちがさらに発狂して逃げようとした。
俺は、エクを止めようと思って腕をつかもうとする。
「そこまでにしとけ。後片付けが面倒だろ?」
「邪魔しないでよ〜。えいっ」
「あ…ちょっ!何しやがる!」
「そこで見てなよ〜」
「見てなよじゃねぇ〜!何してんだよ!しかも動けねぇし!」
神法だとは思うのだが…構造が異常に細くて解けない上に、椅子もろとも固定されているだけじゃなく、俺が神法とかを使えないようになっている。
制御はしっかり教えたんだが、やっぱり俺より上手くなりやがったよ…
「ほら、あとはこんなのとか良くない〜?」
「やめろってのが聞こえねぇのかよ!」
エクが指を振ると、また天井からロープが降りてきて、客の1人を捕まえてぐるぐると振り回し始める。その客は、頭に血が上り気絶しそうになる。
さらに指を振ると、壁から棘が生えた蔓が客を捕まえて身体中を擦る。その客の体じゅうからは、血が吹き出ている。
「ねぇ良くな〜い?」
「よくねぇよ!」
「あ、足りない?」
「そうじゃねぇ!」
エクは「ふふふ…」と、楽しそうに笑いながら指を振って、アイアンメイデンなんてものを作り出してその中に客を蹴り飛ばして扉を閉める。
そのついでに並んでいる酒を取ってきて、ボトルのまま飲み始めた。
「ほら、このほうがよっぽど面白いでしょ〜?」
「いや、楽しいかもしれないがやめろ。俺がここに来づらくなるじゃねぇか」
「大丈夫だよ〜。帰るときにはちゃんと記憶を消しとくからさ〜」
「そうじゃねぇよ…というか、気分悪くなんねぇのか?」
「え?なんで?こんなに楽しいのに〜」
「はぁ…」
エクはまだ残ってる客を天井に吊るし、薪を取り出してその下に並べて火をつける。
客は火に当たらないように、どうにか自分の体を曲げている。
「じゃあこんなのは?燃えないように頑張ってるのが見れるよ〜」
「いや、そうじゃない」
「あ、違うの?ああ、こっちの方が良かったのか〜」
「ああ、ちょ…やめろっての」
エクは、天井のロープに切り込みを入れている。
揺らして火から避けようとしている冒険者が火の上に落ちた。髪の毛に引火し、男が大声で叫んでいる。
「ほら、いい感じにBGMが」
「どこがだよ!」
「あ、男じゃない方がいいよね〜。じゃあこっち〜」
「いや、そうじゃねぇよ⁉︎」
エクはもう1人ロープを切って火の上に落とす。女の金切り声が響いている。
「ほら、二重奏になったよ〜」
「楽しそうに言っても良くないからな?」
「ええ〜。そうじゃなくて楽しいんだよ〜?」
「そうじゃねぇよ。とにかく落ち着け、冷静になれ」
「僕はいたって冷静だよ〜」
エクはその後も適当に客や店員を天井から降ろして、拷問道具とかで痛めつける。
斧を吊るした振り子や椅子に大量の棘がついた拷問椅子、無難に十字架に磔にしたりと、まぁどれもこれも一般人が見たら発狂しそうものを死なない程度にしっかり調整してやっている。
「ガァアアアアアアア!」
「イヤァアアアアアアアア⁉︎」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「いたいいたいたいいたいいたい」
「もう殺してくれ…はやく、ああ…」
「ギヤァアアアアアアアアアアアアアア」
とまぁ、店内は阿鼻叫喚となっている。床は血などで汚れ、店の中は異様な匂いを放っている。
「お〜い。エク、そろそろやめようぜ。な?」
「う〜ん…なんか足りないんだよな〜」
「はぁ…って、まだ飲むのかよ」
「うん。あ、戻っちゃった」
そんなことを言っているうちに、エクが可愛らしい女の子に戻った。
どうやら、酔って制御が甘くなったようだ。
さすがに羽までは出てはいないが、この場所に置いて異様ではあるのは変わりない。
「はぁ…しかもそれでもこれ解けねぇのかよ」
「ん?それは僕が頑張って作ったシリーズの中でも、一番手が込んだやつだもん。そう簡単には解けないでしょ〜」
「そんなもんなんで俺に使うんだよ…」
「あ〜。うん、なんでだろ?今、解いてあげるね〜」
そう言ってエクが指を振ると、俺の体にかかっていた重みが無くなり、動けるようになった。
「よし」
その瞬間に、俺は今あったものをもと通りに戻し、店員たちは気絶させて記憶を消す。
「あ〜。なんで戻しちゃうの〜?」
「俺はこういうのはそんなに好きじゃねぇんだよ。ま、たまに見るくらいでちょうどいんだ」
「むぅ〜…あ」
エクが何かを思いついたような顔をして、持ってる酒を飲み干した後、
「で、なんで俺の上に乗る?」
「ふふふ〜」
椅子に座っている俺の膝の上に乗ってきた。
えらくニコニコとしている。
「はぁ…とりあえず、お前の酒癖が悪いのはよくわかった」
「ねぇ〜」
「あ?っておい」
エクが俺の方に体を向けて、抱きついてくる。
なんというか、ラベンダーのような匂いがする。体はやはり女の子なのだな。柔らかいものが俺に当たる。
じゃねぇ!
「ギュッてして〜」
「はぁ〜⁉︎」
「ね〜え〜。し〜て〜よ〜」
エクがこちらを上目遣いで見てくる。
エクは長く存在してる俺が言えるくらいには、かなりかわいい方だと思う。まぁ、年齢的には中学生がいいところだがな。
「なんで俺がしなきゃなんねんだよっ!」
「え〜。じゃあ、撫でて〜」
「はぁ⁉︎だからなんでそうなる!」
エクは俺の胸に頭をすり寄せてくる。
かわいいのだが、そうじゃない。
「むぅ〜。ルディのいじわる〜」
「お前完全に酔ってるな…」
「何が〜?」
「ああ、だめだこいつ」
「僕はだめじゃないよ〜?」
「あ、そういや最初からこうすりゃよかったんじゃねぇか」
そういえば、わざわざ酔いが覚めるのを待たなくったって、強制的に酔いを冷ませばいいんじゃねぇか。
俺はエクに回復をかける。
「……………………………………」
「いやな。お前がこうしてたんだろうが。それにその顔で睨まれても怖くねぇぞ?」
エクが俺の膝の上で、俺のことをじっと睨んでる。
「……………………………………」
「はいはい。俺が悪かった…って、顔真っ赤だぞ。大丈夫か?」
「…別に照れてるんじゃないもん」
「はぁ、そうかそうか…とにかく、帰ろうぜ?」
「…うん」
俺は、エクを連れて宿に帰る。
「なんでもっと早く回復かけてくれなかったの〜?」
「忘れてたんだよ」
「むぅ〜」
「だから、その顔で睨まれても怖くねぇっつの」
「あ、戻すの忘れてた…」
エクは、一瞬消えたかと思うと男の状態に戻っていた。
「とりあえず、お前酔える状態で酒飲むの禁止な」
「二度とやりたいとは思わないよ〜。でも、あれ結構悪くなかったと思うんだけどな〜」
「あ、覚えてるのな。つーことは、俺に」
「うるさい〜。僕だってたまには人肌寂しくなるのさ〜!」
「はいはい」
そんな会話をしつつ俺をエクは宿に帰る。
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「もう二度としねぇから、そんな目で俺を見ないでくれ。悲しくなってくるわ」
エクが俺の横で、ものすごく冷たい目線をこちらに向けている。
「はいはい…あ、そういえばさ」
「ん?なんだ?」
「ルディって、冒険者ギルド入ってないよね」
「あ、そういやそうだったな」
「入らない?」
「なんでだ?」
「便利だよ?」
「なぜに疑問系?」
「面倒ごとが僕に降りかかって…」
ああ、そういやエクは色々やってるせいで、探求者ギルドと冒険者ギルドでは人気者だったっけな。
「そうだったな。だが、後先考えずにランク上げたお前が悪い」
「でもあると便利なのは本当だよ?入り口で変な目で見られないし。誰かさんみたいに」
「そうかい、そうかい」
ステータスカードを出して兵士に変な目を向けられたのを思い出し、俺は苦笑いする。
「他にも、ギルドの関連店とかで物が安くなったりするよ」
「料理屋は?」
「場所によっては」
「よし。登録しに行こう」
それならそうと、早く言ってくれればいいものを。酒が安く飲めるならありがたいしな。
「うわぁ…バカがいるよ〜」
「うるせぇよ」
「ま、早く行こうか。ギルドは確か、領主館のそばだったね…僕行かなくてもいい?」
「行くぞ」
昨日の領主館でのことを思い出して、エクが逃げ出そうとするのを捕まえてギルドに引っ張っていく。
「ひ〜と〜さ〜ら〜い〜」
「人聞き悪りぃこと言うなよ」
「あ〜れ〜」
で、ギルドに来た。
「はぁ…そこの受付でいえば登録できるよ〜。僕はそこで本読んでるから〜」
「了解だ。じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃ〜い」
エクは俺にひらひらと手を振る。
「さて、登録登録」
俺は受付に向かう。
「ようこそ冒険者ギルドへ。ご用件はなんでしょう?」
「登録がしたいんだが」
「登録ですね。では、こちらの紙に必要事項を記入してください」
「はいよ」
俺は受付嬢から紙を受け取って、名前だとかを記入していく。
そういや、この世界はいつの間に紙が普及したんだ?俺がオービスを作った時は、紙は高級品でこんなことに使えなかったと思うが。
そんなことを思いつつ、記入を終える。
「これでいいか?」
「はい。では、登録料金として30Bいただきます」
「あ。金がいるのか。ちょっと待ってくれ…エク!30Bくれ!」
俺はエクに向かって叫んで、そっちを見ると…
『と、いうことで、有り金は全部置いていってね〜』
『は、はいぃ!すみませんでした!』
『ふむ。今日の夕飯代ゲット〜』
20代前半くらいの奴が、金を巻き上げられてる。
「…何してんだあいつ。あ〜、金って後でも大丈夫か?」
「あ、はい。一応は」
「じゃあ、登録終わってからでいいか?」
「は、はぁ。では、完了したらお呼びします」
「おう。悪りぃな」
俺はエクのところに行く。
「で、何してんだ?」
「ん?ああ、ルディ。もう終わったの〜?」
「いや、登録料」
「あ、忘れてた〜。というか、自分のお金で払いなよ〜」
「いや、ちょうど少し足りなかったんだよ」
俺が今の持ってる金は24B。あと6Bほど足りていない。
「ふ〜ん。まぁいいや。ほい」
「おう、悪いな…じゃなくて、お前何してたんだ?」
「ん?何って?」
「ほら、さっき男が逃げてったじゃねぇか」
「ああ〜。ちょっと絡んできたから返り討ちに合わせてみた〜。相手の実力がわかんないのはだめだね〜」
ああ、どうせあんまり実力を理解できないない奴がエクをガキだと思って絡んだのか。
男の時のエクは、顔は髪は長いけど結構子供っぽいし、普段からニコニコしてるからな。
ふむ、なかなか弱そうには見えるな。
「まぁそうだけどよ」
「ということで、今日の夕飯代ゲットしたよ〜」
「そ、そうか。よかったな」
「う〜ん。よかったかな?別にお金は有り余ってるからどうでもいいんだけどね〜」
確かに白金貨があるって言ってたな。
「ま、いいんじゃねぇの?あって困ることはねぇしよ」
「そうだね〜」
「で、いくらぐらいあるんだ?」
「んっとね〜…銀貨数十枚くらい?」
「なんだ、そんなねぇじゃねぇか」
「ま、夕飯代で無くなるぐらいだね〜」
『キャルディ様。ギルドカードができました』
「あ、呼ばれたね〜」
「おう。じゃ、行ってくるわ」
俺は受付に行く。
「これ登録料な」
さっき渡さなかった、登録料金を払う。
「確かに。では、こちらがギルドカードとなります」
「おう」
「では、ギルドについての説明は必要でしょうか?」
「いや、いい」
「そうでしたか。失礼いたしました。では、キャルディ様のご活躍をお祈りします」
「ありがとさん」
俺はギルドカードを受け取って、エクのところに戻る。
「よし、じゃあ夕飯食いに行こうぜ」
「りょうか〜い」
「そういえばよ、紙は安くなってるのか?」
「ん?まぁまぁ安いけど。それがどうかしたの?」
「いや、登録の時に紙を使ってるのにちょっと驚いた」
「ふ〜ん。何代か前の勇者が紙の作り方とかを広めたらしいよ〜。おかげで紙は安くなったけど、印刷技術が追いついてないから本は高い…」
「まぁ、そんなにしょげんなよ。別にロメが頑張ってくれてんだろ?」
「うん。一応、僕が見た本の記憶は渡したからね」
「つーか、お前の記憶ってどうなってんだよ…」
「ん?完全記憶使って覚えた奴のこと?」
「そうだ」
「えっとね〜。脳内に図書館がある感じかな〜。見たって記憶はあるけど、実際に使ったりしないと理解はできないしね〜」
「ああ、どんな本があるかはわかるが、中身まではわからないって感じなのか」
「うん。そんな感じ〜」
「へぇ〜。ま、早く飯だ」
「そうだね〜」
俺はエクを連れて夕飯を食べに向かった…
意見、感想等あったらお願いします。




