99.楽しみました
そんなこんなで当日。
「ねぇルディ。見える〜?」
「おうよ。あれか?」
「そうだよ〜」
僕らは、いつも通りポップコーンとコーラを片手に空中で、透視を使いながら魔族が帰ってくるのを待っている。
「どうするつもりなんだ?作戦とかってなんかやったのか?」
「うん。大丈夫だよ〜。失敗してもあの洞窟、ここから魔法放り込んで壊すから」
「というかさ。お前、何で神法使わねんだ?その方が楽だろ」
「う〜ん。この世界にいる間は、創世とか以外使わないことにしたんだ〜。その方がなんか異世界って感じがするでしょ?」
「そうか?」
「だって神法使ったら、思ったことがそのまま反映できちゃってつまんないでしょ?」
神法は、自分がイメージしたことをそのまま現実にする。つまり、イメージさえできればなんでもできるものなのだ。
そんなのを使ったら、魔法を使っている的な感じがしなくて、異世界にいるような気がしなくてつまらないので、リャーシャにいるときにやめたのだ。
「そうか。ま、別にいいんだけどな」
「そう?…あ、来たね」
「お、あれがそうか」
そんな会話の間に、魔族とアニキさんがやって来て炭鉱跡に入っていく。
今は、夜中の2時16分。
予定より結構遅いけど、間に合うかな?魔族を1人燃やすのって、どのくらい時間がかかるかわかんないんだよね。
そして、魔族に連れられて仲間のところに着いたのがわかった。
「さて、始まるね〜」
「どうするんだ?」
「それはお楽しみでしょ〜?」
「そうだな」
そして、仲間の1人がアニキさんの影になる場所で鍵を開けて、火属性持ちの人たちが檻の入り口で待機している。
さらに少しして、魔族が僕の掘った落とし穴のポイントの上に立った。
「あ、落ちたな」
「落ちたね〜」
まぁ、落ちた。
そこに向かって火属性持ちが走って行って、魔法を唱えているのが見える。
ついでに、魔族は一瞬何が起きたのか理解できていなかったようで、ちょっと固まった後そこから逃げ出そうと壁を掴んで登ろうとしている。
そして、壁を登ってる魔族に火の玉が当たり、落ちたところで布にも火がついて魔族の蒸し焼きが開始された。
「あ、向こうも出発したね」
「ということは、後33,4分じゃねぇか。間に合うのか?」
「どうだろ?ま、でもどっちでも面白そうだしいいか」
「そうか?」
「途中で魔族に皆殺しと、出てきた瞬間兵士に捕まる。どっちも面白そうでしょ?」
「確かにそうだな」
「ね?」
さらに、兵士たちがこっちに向かって出発してきたのが見えた。
一応、3時って言ったはずなんだけどな〜。早めに来て待機するつもりかな?
まぁ、大体50人くらいの規模で、盗賊は30人くらいだったので圧勝できるだろうし。
そんなこんなで、魔族に火魔法をぶつけている盗賊団を眺める。
魔族がいい感じに悲鳴をあげ、盗賊団が今までの恨みを晴らしてるのが結構見ものだ。
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「まだ燃え尽きないね〜」
「結構苦しんでんな…ん?」
魔族の蒸し焼き開始から、約30分と少し。ルディが何かに気づいたようだ。
「どうかしたの〜?」
「そういや、なんで二酸化炭素で火が消えてねぇんだ?魔法とは言っても、普通のやつらが使ってるんだろ?」
「ああ、ちょっと油に細工がね」
「細工?なんか変なの使ってんのか?」
「そ。一度火がつくと、1時間はどうやっても消せないようになってるんだ〜」
「またずいぶん変わったもんを作ったな。いつも、こんなもん作ってたのか?」
「ん?意図して作ったんじゃなくて、これは失敗作だよ」
夜中の暇なときに作ってたやつの失敗作だ。
「へ?ちげぇのか?」
「ほら、ランプとか用になくならない油を作ろうとしてたんだけど、失敗してこんなのができた。一応取っておいて正解だね」
「だな。で、その目的だったものはできたのか?」
「できてるよ〜。ああっ!もう消えちゃう」
「え?あ、マジか。って、もう兵士が来てんだし、時間的にはちょうどじゃねぇの?」
「あ、そっか」
そんなことを言っている間に、兵士が魔族のアジトを囲み始める。
今は2時48分。もう少しで時間だ。
「お、盗賊が魔族を殺したって喜び始めたな」
「じゃあ、そろそろかな?」
「だな!くくく…」
「…ふふふふ〜」
盗賊団が全員檻から脱出して、無事を喜び合っている。
そして、兵士と冒険者はアジトの入り口から少し離れたところで出てくるのを待っている。
盗賊団は、仲良くアジトから出ようとしている。
そして…
『な、なんだこりゃ⁉︎』
『あ、アニキ!どうなってんですかい!』
『さ、下がれ!帝国兵どもだ!』
『『『『『『『うわぁぁぁあああああ』』』』』』』
喜びの表情は、一転して絶望へと変わる。
仲間の無事を喜ぶのもつかの間。兵士たちがアジトに乗り込み、盗賊たちは魔法やら槍やらと、攻撃を受けてどんどん死んでいく。
「はっはっは。こりゃ傑作だな」
「でしょ〜。ふふっ…」
『頭は残せ!情報を聞きだす!』
『隊長。魔族が使用していたと思われる部屋を発見しました!』
『そうか。他も当たれ』
『はっ』
兵士は、魔族が魔物うんぬんのためにここで色々やってると考えて、情報を手に入れようと思っているのだろうけど。
残念。魔法陣は僕が全部書き換えておいたよ。魔力を込めると魔物…の形をした銅像になるようにね。
『逃げろ!とにかく、1人でも生き残れ!』
『あ、アニ、キ…グフッ…』
『お、おい!死ぬな!』
兵士に部下っぽいのが、アニキさんの目の前でやられた。
アニキさんの顔は憎しみに満ちている。
「あ、これでアニキさんだけになっちゃったね〜」
「お前、えげつねぇことすんだな。いや、面白かったけどよ」
「ならいいじゃん。それに僕がこうなのは、今に始まったことじゃないし」
で、その後アニキさんは兵士に回収されて、魔族は焼死体が発見され、魔法陣は違うものに書き換えられていたので、何事もなく事件は終了した。
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「でもさ〜。これ、もらってどうしたらいいと思う?」
「しるかよ。くくく…」
「ねぇ〜」
事件が終わった後。兵士から賞金と、
「この鎧ってどうすればいいの〜?」
帝国の諜報部の鎧を貰った。
なんでこんな物を貰ったのかというと…
* * *
作戦の後日。僕は領主の館に呼ばれた。
「褒美として、銀貨10枚を与える」
僕は領主から、銀貨の入った袋を受け取る。
「おぬし。我が騎士団に入る気はないかね?」
「え?なんでです?」
「魔族にばれることなく、その話を聞いたのだ。きっと鍛えれば、優秀な諜報部員になれるだろう。どうかね?ここで雇われてはみんかね?」
「えっと…辞退させていただきます。僕は根無し草が似合ってますので〜」
「そうか。それは残念だ。だが、これはやろう。帝国の諜報部の着ている物だ。気が変わったらこれを着てここまで来るといい」
領主さんは多分、胸当てとか籠手とかの部分鎧と思われる物が入った麻袋を僕に押し付けてくる。
「え、いや、いらないんですけど〜」
「いいから。受け取っておきなさい」
「え、あの〜」
「ほら」
で、押し付けられて…
今に至る。
「持って帰る時、いろんな人に見られて恥ずかしかたんだけど〜」
「そりゃあ、領主館から大きい袋を持った奴が出てきたら見るだろ。普通」
「いや、そうだけどね。どうせならさ、マーメイド海岸に入る許可とかの方がよかったよ」
「そういや、ここの名所だったな」
「そうなんだけどね〜」
「ん?なんかあんのか?」
ここには、亜人また獣人に分類される”人魚”と”魚人”がいる。
”人魚”は下半身が魚の生物で、亜人に分類。魚人は二足歩行でエラや鱗があり、獣人に分類される。しかし、人魚は女性しかおらず魚人は男性しかいないので、亜人に分類される人魚は獣人の国であるルクシオ帝国に、魚人は亜人の国であるマドーラ連合国に移住し共生している。
また、魚人と人魚は海中での戦闘能力が非常に高く、港付近の場所で魔物を狩って暮らしている。
海に面していながら、海の魔物の被害が少ないのはこれにあると言っていいと思う。
それにより、ここラブランでは魚人や人魚たちの護衛を雇って大きい船などを使うことができる。
「今って魔族大陸に移動するために、一般人の侵入が禁止されてんだよね」
「ああ、そういやそうだったな」
それにより、無駄な被害などを抑えるために入るのが禁止にされているのだ。
「だから、せっかく人魚とかがいるのに見れないんだよね〜」
「近くからもか?」
「あれ?ルディ行ってないの?」
「いや、街を散策して楽しんでたからよ」
「つまり、港の方には行ってないの?」
「そうなんだよなぁ」
「じゃあ今から行こうか」
「よし、行くか」
僕らは、荷物も何も持たず…いや、”アイテムルーム”から出せるし、その気になれば作れるから、持ってても持ってなくても一緒か…港のある街の北側に向かった。
「ほらね。見れないでしょ?」
「確かにこれじゃあな」
僕らの目の前には、崖がある。
「本来はどうやって行くんだ?」
「そっちの方に階段があるんだけど、兵士が見張ってるんだよね〜」
魚人と人魚たちは崖の下のところに住んでいて、本当なら近くにある階段から降りることができるようになっている。ちなみに、そこから少し離れたところに港がある。
つまり結構、歪な地形をしているのだ。なんでこんなところに街を作ったんだろうね。
「じゃあ、見えなきゃいいだろ」
「いや、こっちからしか見えないのは面白くないじゃん」
「そうか?」
「そうでしょ。話したりできないんじゃつまんないと思わない?」
「そうだな。俺らは、ただの観光なんかしても面白がるような生物じゃなかったな」
「でしょ?だからどうしようかと思ってね」
「擬態とかは?」
「やだ、気持ち悪い」
「別に誰かに化けるくらいいいじゃねぇか」
「それに、その人が途中で来ちゃったらどうすんの?」
「それもそうか。じゃあのっとるとか?」
「そこまでするならよくない?」
「確かに、いちいちあれをやるのは面倒だ」
「でしょ?」
「じゃあなぁ〜…」
いまいち、いい案が思いつかない。
「もう面倒だから、志願者が集まる時でよくない?」
「それもそうか。じゃあ、適当にどっか寄ってから帰ろうぜ」
「そうだね。どこかいい店はあった?」
「あ〜…うまい焼き鳥と酒を出す店ならあったぞ」
「酒呑みめ。迷惑かかるのは僕なんだよ?」
「お前も飲みゃ…ああ、ダメだな。飲むなよ?絶対に。飲むなら酔えない状態でにしろよ?」
「わかってるよ〜。あれつまんないから、嫌なんだ」
「しかも記憶があるってのがな…」
僕は、酔うと周囲にいる人を気分で逆さ吊りにしてみたり、四肢を切り落としてみたり、火炙りにしてみたり、etc…とりあえず、軽い拷問を始める。そしてその後、肉体の変化が甘くなって元に戻り、誰かに甘え出す。
いや、確かに前半はいつものことと言われるとそうなのだが、後半は後々処理するのが面倒なのだ。ついでに誰彼構わずにするので、後で気分が最悪になる。
まぁ、デフォルトが酔えないのであんまり関係ないし、僕自身あんまりお酒の類が好きじゃない。いや、おつまみは結構好きだけどね。
「大丈夫だよ。ルディとは違って、普段は酔えないから。あれはルディが悪かったでしょ?」
「ああ、そうだな。あれは俺のせいだったな」
「だから…ね?」
ルディとリャーシャで一緒にお酒を飲みに行ったのだが、ルディが僕に酔えるようにしてみろっていうから、一度だけやった結果が…店内が血まみれ、店員が天井からぶら下がり、壁に客が貼り付けになり、その一部は火あぶりにされ、僕はルディの膝の上でルディに抱きついていた。
後で恥ずかしくなって、死にそうだったね。
ついでに、後片付けはルディが記憶を消してなかったことにして帰った。
「もう二度としねぇから、そんな目で俺を見ないでくれ。悲しくなってくるわ」
「はいはい…あ、そういえばさ」
「ん?なんだ?」
「ルディって、冒険者ギルド入ってないよね」
「あ、そういやそうだったな」
突然だが、ふと思い出した。
「入らない?」
「なんでだ?」
「便利だよ?」
「なぜに疑問系?」
「面倒ごとが僕に降りかかって…」
「そうだったな。だが、後先考えずにランク上げたお前が悪い」
「でもあると便利なのは本当だよ?入り口で変な目で見られないし。誰かさんみたいに」
ルディに哀れみの目を向けてやる。
「そうかい、そうかい」
「他にも、ギルドの関連店とかで物が安くなったりするよ」
「料理屋は?」
「場所によっては」
「よし。登録しに行こう」
「うわぁ…バカがいるよ〜」
「うるせぇよ」
「ま、早く行こうか。ギルドは確か、領主館のそばだったね…僕行かなくてもいい?」
「行くぞ」
「ひ〜と〜さ〜ら〜い〜」
「人聞き悪りぃこと言うなよ」
「あ〜れ〜」
僕はいつもの白いローブのフードをルディに掴まれて、引きずられていく…
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