98.準備に取り掛かりました
僕が捕まった日から、5日が過ぎた。その間に、作戦に必要なものとかを準備して、ルーの魔法を教え終わり、アニキさんたちをはめる準備を着々と進めている。
「よし、じゃあ行こうか」
僕は、アニキさんたちが魔族に呼び出された場所から、500m位離れた所でアニキさんたちを見ている。
そして、アニキさんたちが魔族と何か話した後、魔族が魔法を使い黒っぽい靄がアニキさんたちの目と腰に絡み付き、そのまま持ち上げられて移動を始めた。
そのまま、魔族は結構なスピードで移動して行く。それを僕は気づかれないように注意しながら追いかけていく。
追いかけながら、作戦を確認しようと思う。
まず、魔族にアニキさんたちが連れて行かれるのを僕が追いかけて、魔族のアジトを探し出す。
次に、魔族とアニキさんたちが戻ってすぐにアジトに入り、罠を仕掛け、仲間が捕まっている檻の鍵を作り、仲間に作戦を伝え、魔族が帰ってくるまでにアジトを出る。これは、アニキさんたちにできるだけ時間を稼いでもらうことになっている。
そして、もう一度アニキさんたちが仲間に会いに連れて行かれるときに、魔族を罠にかけ、檻の中の仲間に脱出して一斉攻撃を仕掛ける。
簡単に言うとそんな所だ。
「お、着いたみたいだね」
そんなことを思いながら魔族を追いかけていると、ぱっと見は炭坑跡のような場所に入っていった。
おそらく、あそこをアジトにしているのだろう。
「さて、僕も準備をしておこう」
僕は、”アイテムルーム”から燃えやすい布と油、それと魔力を流すと一時的に軟化する金属を取り出して、持っているバッグにしまう。
その準備をしている間だけでアニキさんたちが行きと同じように連れて行かれる。
「よし、行こう」
僕は魔族に気づかれないように注意をはらいながら、炭坑跡に入っていく。
「結構、作り直してるんだ〜」
炭坑跡は少し広めの洞窟になっていて、壁に照明のようなものが取り付けられ、だいたい全体が見渡せるくらいの明るさになっている。
その道を進むと道が2つに別れていて、仲間が捕まっている檻とかがある道と魔族が生活するための道になっている。
僕はアニキさんたちに聞いたように右側の道を進み、奥へ奥へと進む…
『くっそ。なんで俺らこんなことになっちまったんだ…』
『今さら言っても遅せぇだろうが。今はアニキたちを待つんだ。きっと助けに来てくれるさ』
奥にある檻から声が聞こえてきている。
僕は道をさらに進んでいくと、檻がある少し広い空間に出た。
檻は洞窟の最奥のところにあり、むき出しの洞窟の壁を金属と思われる格子でこちらと隔てている。
「お〜い。聞こえます〜?」
僕はそちらに向けて声をかける。
「お、おお!誰か来たぞ」
「あ、聞こえているみたいですね〜」
「ああ、そんなのはいいから、俺らをここから出してくれ!」
「あ、ちょっと今は無理です〜。そんなことをしたらアニキさんにどんな危険が迫るかわからないので〜」
「っく。そうだった。じゃあ俺らはどうすれば…」
「なので、作戦があるので手伝ってください」
「お、おお!そうか。つーか、お前は味方なんだな?」
「当然です〜。アニキさんに言って、こっちに来てるんですから〜」
「おお、そうか!やったぞみんな。助けが来た!」
「「「「「「うおぉぉぉおおお」」」」」」」
「あ、はい。騒がないでください〜。見つかりますよ〜?」
「あ、そうだったな。わりぃ。で、どんな作戦なんだ?」
「ちょっと待ってください〜。今そっちに行きますんで〜」
僕は檻に近づく。
「で、俺らはどうすりゃいいんだ?」
「まず、鍵穴はどこです〜?」
「鍵穴の位置か?それならそこだ」
仲間の1人が、檻の端の方を指差して言う。
そこには確かに檻の鍵穴があった。
…って、ん?
「ああ、これですね〜。ありがとうございます〜。ところでですけど、なんで鍵を開けないんですか〜?」
「そりゃあ、俺らが逃げたらアニキに迷惑がかかっちまう。だからアニキがどうにかしてくれるのを待ってんだ」
「ああ、そうですね〜」
それもそうだった。
「さてと、じゃあやりましょうか〜」
「何をだ?」
「ちょっと見ててください〜」
僕はバッグから金属を取り出し、魔力を流しながら鍵穴に差し込んで鍵を複製する。
「よし、できました〜」
「おお〜。なんだそりゃあ。そんなん見たことも聞いたことのねぇぜ?」
「僕が見つけた特殊な金属です〜。じゃあ、次に魔族がアニキさんたちがここに連れてこられるときに立ってる場所ってどこです〜?」
「立ってる場所か?そんなの聞いてどうすんだ?」
「落とし穴を作ります〜。ああ、あといつも魔族はここを確認にきますか〜?」
「ああ、来るぞ。毎日、朝と夕方にな」
「そのときはどこから確認します〜?」
「そこだ」
仲間の1人は、檻からそこまで離れていない場所を指差す。
「ふ〜ん。了解です〜。じゃあ、アニキさんたちが来ているときは〜?」
「そんときはもう少し離れてんな。えっと…確かそっちの壁の近くだった気がするぜ?なぁ、そうだったろ?」
「あ?ああ。立ってる場所か?」
「そうよ。どこだったか覚えてっか?」
「今日はそこの壁の近くだな。この間もそうだったぜ」
「だそうだ。そこの壁の近くだ」
仲間の1人は、さっきよりもちょっと離れた場所を指差す。
どうやら、来ているときと、来ていないときでは場所が違うらしい。よかった。これでやりやすくなった。
「この辺ですか〜?」
僕はその指差された場所に立って聞く。
「ああ、その辺だ」
「じゃあいきましょう〜。『地よ。窪め。剛穴』」
僕はそこから一歩下がって、穴を作り出す。大体深さが10m位なので、簡単には抜け出せないだろう。
「よし、じゃあこれにほいっと〜」
さらに、僕はそこに燃えやすい布と油を放り込む。
「じゃあ蓋をして〜。『地よ。動け。鉱物操作』」
周りから土を引っ張って、人が乗ったら壊れるくらいに脆くする。
「よし、これで完成〜。じゃあ、あとは説明ですね〜」
僕は仲間のところに戻る。
「お前スゲェな!俺は魔法がそんなに使えねぇからな」
「そうですか〜?」
「そうだろ?」
「ああ、俺らのところでまともな魔法が使えんのは、リャイとアニキを除けば5,6人くらいしかいねぇしな」
「へぇ。じゃあ、その中で火が使える人って何人います〜?」
「それなら、ちょっと待てろ。おい、火属性持ちって誰だったか?」
「俺だ」
「おいらも〜」
「あ、俺も」
「これだけだぜ」
ちょっとゴツイのと太ってるのと少し痩せげ身なのが手を挙げた。
まぁ、3人いればいいか。
「じゃあ、作戦を教えますね〜」
「おう。で、俺らは何すりゃいいんだ?」
「まず、次にアニキさんたちが来るまでに、今手を挙げた人たちは魔力を貯めておいてください〜」
「おい、聞こえたか!」
「「「おうよ」」」
「だそうだ。続けてくれ」
「で、次にこの鍵を渡しておきます〜。魔族にばれないようにアニキさんの合図で開けて、待機してください〜」
「おう。じゃあ俺が持っておく」
僕は最初から話している仲間の1人に鍵を手渡す。
「じゃあお願いしますね〜。で、さっき僕が掘った落とし穴に魔族がハマるまで、檻の入り口で火属性持ちの人は待機です〜」
「おい、こっちも聞こえたか!」
「「「おう」」」
「よし、いいぞ」
「最後に魔族が落とし穴に落ちたのが見えた瞬間、檻から出て落とし穴に向かって火を放ってください〜。どんなのでもいですので〜」
「聞こえたか!」
「「「聞こえてるわ!」」」
「そうだな。で、どうすんだ?」
「中に、よく燃える布と油が撒いてあります〜。魔族はその火で焼かれてしまうでしょう〜」
「おお〜。そうか!」
「と、いうことで。お願いしますね〜。僕は、本番は来れませんから〜」
「そうか。よし、任せろ!アニキは俺らで守る!」
「あとは頼みます〜」
僕はそのまま急いで魔族のアジトをあとにする。準備に時間がかかってしまったが、どうやらアニキさんがしっかりと時間を稼いでくれたようだ。
僕はそこから出たあと、魔族が戻って来るのを確認するために、アジトから少し遠くで入り口を見張る。
「でも、ちゃんとうまくいくかな〜?」
話していてわかったのだが。こいつら、やっぱり頭が悪いのばっかりだ。まぁ、しっかりとし教育を受けていないからこそ、盗賊なんてやってるんだろうけどさ…
そのまま、入り口を見張ること5分弱。魔族がゆっくりと歩いて帰ってきた。
「よし、じゃあ戻ろう」
僕は、アニキさんに捕まってた倉庫に戻る。
「で、うまくいったのか?」
「当然ですよ〜」
僕は、倉庫に戻ってきた。
「そうか。じゃああとは俺ら次第ってことだな」
「そうですね〜。僕はあの魔族に見つかるとまずいんで、その日はここで待ってますね〜」
「あ、ああ。そうだったな。わかった。俺らでやってくる」
「頑張ってくださいね〜。じゃあ、もう僕は戻りますね〜」
「ああ、ゆっくり休めよ」
「はい〜」
僕は倉庫を出る。
中から、男二人の話し声が聞こえている。
尾けられてはいないな。
この場所は、意外に宿からそんなに遠くなくて、歩いて数分程度で宿に着く。
しかし、この場所から宿までに僕は寄るべき場所があるのだ。
もちろん、詰所…つまり、兵士とかがいるところだ。
そこで、そのアジトの場所を伝えて、2日後にそこで魔族と手を組んだ盗賊が何かをするらしいということを教えておくのだ。
ということで、僕は詰所に向かう。
詰所はこの街の入り口近くと中心にあって、この場所からだと入り口の方が近いので、そちらに向かっている。
そんなこんなで、歩くこと3分と少し。
詰所に着いた。
僕は外から中に声をかける。
「すみませ〜ん」
『お、誰だ?こんな時間に?』
「あの〜。ちょっと情報があって〜」
『何のだ?』
「魔族です〜」
『…!早く入れ!』
僕は扉を開けて中に入る。
中はマドーラでルシウスと話した時の造りとほぼ同じだった。
そこにちょっとした鎧と剣を持った中年くらいの男が2人いた。
「とりあえず、座れ」
「あ、どーもです〜」
僕は促されて椅子に座ると、2人のうちの1人が目の前の椅子に座った。
「で、魔族の情報とはなんだ?」
さぁ、催眠をかけて差し上げよう。『過信』起動〜。
僕は、僕の言ったことを微塵たりとも疑わずに信じ込ませるための魔法を起動した。
「なんか、この間夜考え事してて〜」
「ああ、それで?」
「その時に、海辺のところに人が立ってるのが見えて〜」
「ほう、で?」
「なんか話をしてて。イライラしてたから、こんなところでしてる話なんて碌なもんじゃないだろうな〜て思って、聞いてたんです〜」
「ふむ、そうしたら?」
「なんと話し相手が魔族だったんです。それで今から2日後に、山の中にある炭鉱跡ってあるじゃないですか〜?」
「ああ、あるな。それで2日後がどうした?」
「そこで、魔物を呼び出すとか言ってて〜。それを言いに来たんです〜」
「な、なんだと⁉︎それを早く言え!おい、ジャン聞いたか?」
「あ、ああ、聞いた。今本部に!」
「あ、ちょっと待ってくださいよ〜。で、2日後にその場所に仲間全員が集まるとか言ってたので、確か…夜中の3時くらいに、集まるって言ってました〜」
実際に作戦を開始するのは2時頃だ。
「そうか。有力な情報をありがとう。ところで君は?」
「えっと…ネロです〜」
今どの名前を言っても、黒龍の英雄かAAAランク冒険者ってことがばれてしまうので、古代ローマの暴君の名前を名乗った。
「そうか、ネロくん。情報をありがとう。君の今住んでいる場所とかはどこだね?その話が本当だったら、君には賞金が出る」
「えっと〜、骸の看板のところです〜」
「あ、ああ。あのばぁさんのとこか。わかった。協力感謝する」
「いいえ〜。じゃあ僕は失礼しますね〜」
僕は詰所を出て、宿に帰る。
そんなこんなで、もう6時過ぎである。つまり、朝だ。
いい感じに時間を潰せて、さらに楽しいことが待っているのだ。今の僕はとても気分がいい。
「ふっふふんっ〜、ふふ、ふふふふふん〜」
鼻歌なんて歌いながら、宿に戻る。
何の曲かと言われれば、僕がよくやってた敵を吸い込んでコピーするピンクのボールのゲームのBGMである。結構好きなのだ。
そうして、僕は宿に帰る。
「あ、シン。やっと帰ってきた。どこ行ってたんだい?」
宿に戻って、朝食をとろうと思ってそのまま食堂に向かうと、階段を降りてくるルーと鉢合わせた。
「あ、ルーだ。おはよ〜」
「あ、ああ。おはよう…って、そうじゃないよ。ここのところずっと、こんな時間に帰ってきてるじゃないか。一体何をしてるんだい?」
「聞きたい〜?」
「ああ、是非とも聞きたいね」
「仕方ないな〜。ご飯食べたらそっちの部屋に行くよ」
「そうか、わかったよ。」
「じゃ、とりあえず朝ごはん〜」
僕は席に着いて、朝食を食べる…
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
今日の朝食は、フランスパンみたいなのと緑色のコーンスープ、あと目玉焼きだった。
普通に美味しかったです。
そして僕は今、ルーとルディの前にいる。
「で、説明してくれるんだろ?何をしてるんだい?」
「ん〜とね。盗賊ごっこ」
「はぁ…また変なことしてんのかよ。相変わらずだな。で?今回は何するつもりだ?」
「ははは〜。魔族と繋がってるみたいでさ〜。魔族を倒させて、そいつらを兵士に引き渡すんだ〜」
「それで、なんで指がなくて盗賊ごっこなんだい?」
「それは別にいいだろ。エクのやつはすぐに生える」
「まぁね〜。で、理由?その盗賊さ〜、魔族に仲間を人質に取られてるんだよね〜」
「じゃあ、その盗賊は悪くないんじゃないか」
「何を言ってるんだい?ルー。盗賊は悪いよ?」
「そうだな」
「ああ、そうだったね」
「で、その仲間を取り戻した瞬間、兵士に取り囲まれて捕まるの〜。面白いでしょ〜?」
「はっはっは。お前、最近がルディに似てきたか?やることがえげつねぇ」
「そうかな〜?」
「そうだぞ。あいつ、消える少し前はその辺の人に呪いかけまくってたし」
「ふ〜ん。で、盗賊の絶望の表情が見れるよ。ルディも来る〜?」
「おう、そりゃ行くわ。で、結構手の込んだことでもしてんのか?」
「今は秘密だよ。で、そんなところなんだけど…ってルー?」
なんか、ルーがアホみたいな表情をしてる。
「な、なんでそんなことをするんだい?」
「もちろん面白いからだね〜」
「ふざけないでくれよ!確かに、盗賊は悪いかもしれない。けれど、そんなことをわざわざしなくったっていいじゃないか!」
「やだよ、つまんない。それに、この方法なら盗賊を一網打尽にできるし、魔族も倒せる。一石二鳥でしょ〜?」
「た、確かにそ、そうかもしれないけど…」
「ま、ルーがきにすることじゃないよ〜。嫌なら、ここから出て行くといい」
「…!っく。君がそんな人だとは思っていなかったよ」
「どんな人だと思ってた〜?」
「僕や樹人の彼女を助けてくれて、さらに僕に魔法を教えてくれるいいやつだと思ってたよ」
「事実だね〜。でも、僕はいいやつじゃないよ?人間大っ嫌いの神様もどきだ。気分で人を助けたり、拷問するようなね」
「…ああ、やっぱりそうなのかい。いつも神力や世界の話をしているとき、君はすぐにその話をそらすし、そんなことを知ってるんだ。まさかとは思ってたけど、そうだったんだね」
「あらら。気づいてたんだ〜。まぁいいや。『解除』…ふふふ」
僕は体を元に戻す。
すると、ルーは納得したような顔をした。
「そういう意味だったんだね。部屋を分けていたのは」
「ああ、そうだよ。少し前に俺がな…」
「と、いうことだよ。君はどうするの?」
「いつまでもここにはいないよ。出て行くさ」
「そ」
ルーは、部屋の荷物をまとめ始めた。
とは言っても、ほとんど片してあったので、もともと近いうちに出て行くつもりだったのだろうね。
「じゃあ、シン。いや、エクレイム。お世話になったね」
「そうだね。あ、後これをあげるよ。ルーは弓得意なんでしょ?」
僕は水色の結晶でできた弓を”アイテムルーム”から取り出して、ルーに渡す。
「こ、これは?」
「僕の弟子なんだから卒業祝い。魔力を込めて、属性と形状をイメージすればその通りの矢が形成されるようになってる。素敵でしょ?」
他にも、始めに魔力を込めた者を所有者として登録し腕輪に変化し。魔力を流すと、普通の形に戻るというおまけ機能とか、いろいろ付いている優れもんだ。驚く顔が見たかったな…
「あ、ああ…ありがとう」
「うん。後は自分で研究でも練習でも積んでいけばいいよ。頑張ってね〜」
「ああ…」
「ルーナイズ・ラトクリフ、君に幸あれ」
ルーは扉を開けて出て行った。その後ろ姿は、悔しさや悲しみを感じさせるものだった。
「あ〜あ。ルー行っちゃった。僕のお気に入りだったのに〜。たかが数十人くらいで文句言わなくってもいいじゃんね〜?」
とりあえず、監視用魔道具でも使っておくとするかな。そうしておけば、いつでも見れるし。
僕は”アイテムルーム”から、監視用に作った黒い球体の魔道具を取り出し、ルーを対象に登録して後を追わせる。ついでにさっさと体を戻した。
「まぁ、普通の人はそういう反応するだろ?」
「まぁそっか。次からは気をつけよ」
「おう。そうしろ」
「よし…って、指忘れてた。まぁいいか」
普通に体を作り直したせいで指があるのだが、そんなことはいいや。当日まで会うことはもう必要ないから、作戦が成功したら会おうって言ってあるし。
そんなこんなで、その日を待つ…
意見、感想等あったらお願いします。




