95.準備をしました
「あ、やっと帰ってきた。おかえり〜」
僕がしばらく管理空間で時間をつぶして、宿の部屋に戻ってくると、疲れ切った顔をしていたルーが幾分かマシな表情で帰ってきた。
「遅くなったかい?」
「いや〜、別に。じゃあ、もう始める?」
「ああ、そうしよう。一応今日が宿でやれる最後の日なのだろう?」
「そうだったね。うん、じゃあ始めよう」
そういえば、今日で宿とってるの最後だったわ。
…明日からどうしようかな?飛べないし、扉使えないし…面倒だわ〜
「で、次は何をするんだい?」
「えっと次は、さっきの応用だね。まずは見てもらおう。『火よ』…」
僕は目の前に再びライター程度の火を作る。
「さ、いくよ?『凍てつけ』」
そして、僕が魔力に干渉し、火を作り変える。
まぁ、つまり火が氷へと変化した。燃えている氷が出来上がる。
「まぁこんな感じだね。さ、やってみよう」
「…いや、それは無理じゃないのかい?」
「できるよ?だってこの世界にいる生物は、どうして火が起こるのかを知っているのかい?」
「えっと、それは魔力が…」
「そうじゃなくて、根本的な原理の方」
神野は僕らの世界で学んだから知っているが、神野に魔法を教えていたシャパンとかは知っていただろうか?否である。
「いや、魔力でやったり魔道具で起こしたりするのが基本だから」
「そう。つまり、”できる”って思い込めば、自然の法則なんてどうでもいいのだよ」
「ええと…それはつまり、やろうと思えばなんでもできるっていいたいのかい?」
「そういうこと。じゃあやってみよう。やり方はさっきと同じ様に干渉すればいいから」
「わかった。やってみよう…『火よ』………『凍てつけ』」
ルーの前にできた火は、一瞬形を変えて、再び普通の火に戻って四散する。
「ま、頑張って〜。今日は後3時間で終わりにして、明日出る準備しておいてもらうからさ」
「わかった。明日は何時に出るんだい?」
「一応、8時程度を予定〜」
「わかった。なら早めに戻って、休んでおく様にするよ」
「じゃ、後2時間頑張ろう〜」
「ああ、わかったよ」
ルーは再び集中し始めた。
「さて、僕は続きでもしようか。『モニター起動』」
僕の左目に神様と世界の様子が映し出される。真っ白い世界に机や椅子が準備され、世界を管理しているのが見える。
「うん、頑張ってるね。あ、『干渉:世界1を再設定』…よし」
ちょっと綻びを見つけたので直しておく。
そんな感じに僕は神様達を眺める…
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現在、午後5時過ぎ頃。
「…やっぱり無理じゃないのかい?」
「結構惜しいところに行ってるよ。ま、でも今日はここまで。また明日ね〜」
訓練開始から2時間経つか経たないくらい。ルーの頑張りはなかなかなもので、後もう一押しって感じである。
「そうか。わかったよ。明日はここに来ればいいのかい?」
「うん。じゃあ」
「ああ、これからも頼むね」
ルーが部屋を出て行く。そして、扉を開けるとそこにルディが立っていた。
「あ、ルディ。何してんの?」
「…いや、邪魔しちゃ悪いかと思ってな」
「そう?結構前からいたと思ったけど?」
「うっ…まぁ気にすんな。で、明日からここ出るんだろ?どうするんだ?」
ルディは頬をぽりぽりと掻きながら、目をそらして言った。
「明日は、8時くらいには出る予定だよ〜」
「そうか。エクは夕食は行くか?」
「いや、いいや。気分じゃないし。ルディは?」
「俺は行ってくる」
「りょうか〜い。じゃ、いってらっしゃい」
「おう」
ルディは夕食を食べに1階の食堂に行った。
「そういえば僕がここの食堂使ったのって、結果的に5回しかない気がする…」
食堂を使ってないんだから、その分のお金が戻ってくるとかないかな?
「ま、いっか。さて、続き続き…」
僕は、引き続き神様と世界の様子を見て時間を潰す。ただし、時間は数倍速ぐらいにしてるけどね。
僕は、最初に設定したことの穴を見つけては直していく。まぁ、僕だけで世界を作るのはこれが初めてなのでしょうがないと思う。
それに穴は魂がきちんと戻っていかないとか、すべての世界を循環しないとかなので、直さないと後々問題になってしまう。
そんな感じに、世界構成の綻びを直していく…
「やっぱり、ルディに手伝ってもらったほうがよかったかな?」
「何をだ?」
「…わっ⁉︎」
突然、僕の後ろにルディがいた。
「そんな驚くか?結構前からいたが、そんなに集中して何してんだ?」
そんなに時間が経っているのに気付かなかった。時間を確認すると、もうルディが夕食を食べに行って1時間近く経っている。
「ええとね。僕がもともといた世界の複製と、それ以外に3つ世界を作ったんだ。それの管理させてる神様と世界の観察だよ」
「へぇ、複製なんて作ってどうするつもりだ?」
「もし僕がこうなってなかった世界を見てみたくなったんだ」
「そうか。で、どんな感じだ?」
「ええとね…うん面倒だね『扉』…さあ行こう」
説明するのは面倒なので、ルディを直接管理空間へ連れていく。
「さて、こんな感じだよ。どう?」
ルディは、スクリーンに映し出されている世界の構成情報と神様の情報を見ている。
「…まぁいいんじゃねぇの?とりあえず、これとこれとこれがダメだな。そこ以外はほっておいてもいいと思うぞ」
ルディは幾つかのダメなところを指差し、教えてくれた。
「りょうか〜い。『再構成:世界1、神世界、接続』…こんな感じ?」
「そうだな。とりあえずはそれだけやればいいんじゃねぇの」
「じゃあこれで一旦終了」
「つーか、一気に何個も作るからこうなんだよ。複製作るのって以外と大変なんだぞ?」
「別に、3つは途中まで同じ構成だし、残りの1つはオービスと少し近い構成だから問題ないよ?」
ちなみに、1つ目は僕がいた世界の複製、2つ目は超能力とかがある世界、3つ目はロボットとかが進歩した世界、4つ目がファンタジーな世界になる予定だ。
「はぁ…そうか。ならいい。で、穴はまだ残ってはいるが、全部塞いでおくか?」
「あ〜、一応そうする。残ってるところ言っていってよ。全部塞いじゃうから」
「そうか。じゃあ、まずそこの構成部分とその関連系の一部がダメだ」
「りょうか〜い」
そんな感じに、世界をしっかりと設定し直していく…
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「よし、これで終わったな。で、この後はどうするんだ?」
「今何時?8時には出る予定なんだけど」
「今か?大体4,5時くらいじゃねぇの?」
「うん、僕がルディに聞いたのが間違いだった。一回戻ろう。『扉』」
僕は”メインルーム”に戻る。
「おや、おかえりなさいませ、主。今日は随分と微妙な時間におかえりですね?」
僕らが帰ると、いつものようにロメが出迎えてくれた。
「うん。で、今何時?」
「今ですか?今は6時ですよ。それがどうかしましたか?」
「えっとね、明日8時に集合って言っておいたから、今は何時かなって。ていうか、また種族変えたの?」
「ええ。今度は兎獣人です。いかがでしょうか?」
「うん、いいと思うよ。あ」
そういえば、忘れてた…
「どうしました?」
「ロメ、世界からの拒絶はどうなった?あれの原因って、1つの生物が魂を持ってるからだったんだけど…どうなった?」
僕のように、魂を完全に吸収していれば拒絶されることはない。しかし、ロメは魂の集合体であり、魂は1つになっているのではなく大量の魂の塊で、ロメはそれを1つにまとめているいわば群れのリーダーのようなもの。なので、世界から拒絶されているのだが…今なら直せるんだよね。
「ああ、幾分かマシになっていますよ。それがどうかしましたか?」
「今、僕はそれをどうにかできるんだけど…直しとく?」
一応”実現”っていうスキルは僕の魂を削って、世界そのものの一部を書き換えるなんていうスキルで、僕が初めに僕を不老不死にしていなかったら、今の僕はいなかった可能性があったものであり、その上魂を削られる痛みとかも消してくれるので、いつの間にか死んでしまうなんていう酷いものだった。ま、嘘は身を滅ぼすとでも言いたいのだろうか、嫌味なスキルだったのだが、それはさておき。それによってロメのみに対して魂の大量所有を許可させようとしていたのだが、魂や世界そのものに関係することを書き換えるのには結構な時間がかかってしまうのである。今からこの世界の管理空間に行って書き換えてもいいのだが、おそらく…というかほとんど世界では、魂を大量所有していると拒絶されるので、魂を今のうちに1つにしてしまった方がいいと思うのだ。
「ええと。それによって何か副作用などはありますか?」
「多分種族が変わるね。今のロメのバラバラになっている魂を1つにするからね」
「そうですか…では、お願いしましょう」
「りょうか〜い。じゃ、ちょっとこっちに来て」
「はい。ではお願いします」
「よし。じゃあ行くよ〜。『干渉』」
僕はロメの魂の近くに手を置き、ロメの体を構成している魂たちを1つへとまとめていく。
ロメは体を構成するのが厳しくなったのか、初め生み出した時のように黒っぽいもやの塊になっている。
「…ふぅ。こんな感じかな。ロメ、終わったけど…大丈夫?」
黒っぽいもやの塊は、魂を1つにまとめたことで小さくなり、多分進化か何かをしているようでもぞもぞとしている。
「あ、終わったかな?」
少ししてもぞもぞとしていたのが止まり、一瞬光を放った。
「お?変わったな」
「だね。なんか今までよりもっと黒くなった気がするね」
光を放った後、黒っぽかった塊は漆黒という方が正しいようなもやの塊になった。
「ロメ、なんか変わった?」
『…はい。少しお待ちください。今体を作りますので』
「あ、そう?」
漆黒のもやの塊は、少しずつ形を成していくのだが…
「ねぇ、なんか小さい気がしない?」
「俺も今そう思ってたところだ」
人のサイズにしては小さすぎるのだ。大体、15cmくらいの大きさを形成している。
「どうでしょう?」
「うん、精霊みたいだね」
ロメは、今までと同じ黒髪黒目で燕尾服を着た格好なのだが、15cmくらいで三頭身な可愛らしくデフォルメされた感じの見た目になっている。
「え?あ、本当ですね」
「気づいてなかったの?」
「ええ。恥ずかしながら…」
「まぁいいや。とりあえず一回見てみるね。『解析』」
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名前:プロメテウス
種族:怨精霊
ランク:最高位精霊
状態:エクレイムの使徒・契約精霊
スキル:憑依 記憶知識 記憶技能 魂喰らい 霊体変化
呪術補助 魔道補助
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うん、どうやら精霊のようなのだが…
「ねぇルディ。怨精霊って何?」
「へぇ、そんなもんになったのか。怨精霊ってのは、精霊の成り損ないみたいなもんだ」
「ふ〜ん。でも最高位ってあるんだけど?」
「おおっ。それはレアじゃねぇか。もともと精霊がなんなのかは知ってるだろ?」
「魔力だまりが魔結晶になったところに、魂が定着したものだったっけ?」
魔結晶に世界の意思から魂を供給されると、精霊が生まれる。精霊は契約者かそれを見ることができるスキルを持っていないと見えなくて、確か神野の仲間のエルフにも2匹くらいくっついてたはずだ。
「そうだ。で、その魔結晶でランクが変わるんだが、最高位ってのはかなり高いランクの魔結晶じゃねぇと生まれねぇんだ」
「ふ〜ん。で、怨精霊って?」
「呪術特化の精霊だ。呪術は生物の感情を糧に使う魔法だってのは知ってるだろ?」
「うん。昨日喰らわせてあげたでしょ?」
「あれは俺が悪かった…で、呪術は感情、特に恨みとかの負の感情を糧にする。呪術は魔力は使わずにそれだけで使えるから結構便利なんだが、その使った後にその使用者の中に負の感情の残骸である呪術痕が残る。それで生まれる精霊が怨精霊だ」
…もしかして、昨日僕が使ったのが原因かな?
「あれ?でも、普通は呪術痕って外に出ないんじゃなかった?」
「ああ、それを意識的に精霊が形成されているときに与えるか、世界から供給される魂に混じってるかじゃねぇと生まれねぇからレアなんだ」
「ふ〜ん。じゃあ普通の魔法は使えるの?」
「一応使えるはずだ。ま、その属性を持ってるかにもよるがな」
精霊が使える…というか補助できる魔法は、その精霊が形成されるときに世界から取り込んだ属性になり、その種類は精霊によって違う。
「ふ〜ん。呪術で魔法は使えなくなるとかはないんだね」
「ないな。だが、使用者の精神を侵食するぐらいはあるかもしれねぇが」
ん?
「ねぇ。確か、呪術は安全って言ってなかった?」
「ああ、大丈夫だ。あれは、生物の感情をちょっと歪めるだけだからな」
「歪めちゃダメでしょ…」
「別に俺らには関係がないんだから問題ない。歪むのは精神が弱いやつだけだ」
「それなら問題ないか」
「そういうことだ」
「だってよ、ロメ」
ルディと話している間ロメは僕の後ろにいたのだが…
「ああ、やっと直りました。で、なんでしょうか?」
「あれ?戻っちゃったの?可愛かったのに〜」
いつの間にか、いつものサイズに戻っていた。
「戻らないほうがよかったでしょうか?」
「いや、別にいいんだけどね。で、ロメは呪術特化の精霊になったみたいだよ」
「そうですか。なら私は主人と一緒にいた方がいいでしょうか?」
「いや、大丈夫だよ。困ったときは呼ぶかもしれないけど、基本的に困ることなんてないしね」
「そうですね。キャルディ様がついていますので問題はないでしょう」
「そういうこと」
まぁ、よっぽどのことがなければ僕に被害とかが来ることはないし、被害が来ても僕は死んだりないから問題はないね。
「で、なんで一回ここに戻ってきたんだ?」
「あ。えっとね、部屋から旅の準備でも持ってこようと思ってね」
「ああ、そうだったな。しばらく俺らはここに戻ってこないんだったな」
「そ。ということで、ロメ。しばらく戻ってこないから」
「わかりました」
「じゃ、ルディ。8時までに宿で集合ね」
「わかった」
僕らは自分の部屋で準備とかをする。ま、とは言ってもおかしくないように適当な持ち物を持つだけだったけどね。
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「おはよう。随分と持ち物が少ないような気がするけど、大丈夫なのかい?」
「うん。じゃあ行こう〜」
朝になって、ルーが宿の前で待っていた。僕らはそこで合流し、リャーシャを後にした…
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