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90.ルーを教えました

 今、午前9時になるくらい。


 『さて、では本日で大会も最終日。張り切っていきましょう』

 『はい。では、第1試合。開始!』


 ただいま僕は、ステージで熊さんと戦うところで、熊さんは大きな棍を片手にこちらの様子を見ている。

 始まってから熊さんは動かない。

 


 「こないの〜?」

 「いや、おぬしはまだ何を使うのかわからんのでな。油断はせんよ」

 「ああ、そうね。僕、結構いろいろ使ってるし。あ、でも今回はこの剣と魔法1種類しか使わないよ。」


 どうやら様子見をしているようだ。


 「どうだかな…」

 「いやぁ〜。嘘じゃないんだけどな」

 「そうかい、そうかい。じゃあ行くぞ…」

 「おっ、やっと?」



 熊さんは棍を振り上げて、こちらへと走ってきた。

 そして、かなり重いものでできていると思われる棍が、僕のすぐ横を唸りを上げて地面を砕く。


 「おお〜。さすがっ」

 「軽々と避ける奴に言われたくないわ」

 


 いや、別に軽々じゃないよ?能力値的には結構ギリギリだし。


 ボーっと待ってると、熊さんは棍を振り上げて、僕へとまた振り下ろし、僕が避けたところに滬んを横に振るう。


 「おっ。危ない、危ない」



 僕はそれをジャンプして躱して、ついでに剣を抜いて熊さんの皮でできた鎧の腹を強く押す。

 熊さんはそれを警戒したのか、後ろへ引く。


 「あれ?避けるんだ」

 「ふっ、おぬしは何を使うのかわからんしな。避けるに越したことはなかろう?」

 「まぁそうね。じゃ、こっちから行こうか」



 僕は熊さんから離れて、詠唱を始めようとする。そして、熊さんはそれを止めようとこちらに向かって走ってくる。


 「そう簡単にはさせんよ」


 熊さんは、僕に向かって棍を振り回してくるので、それを躱しながら詠唱を始める。


 「さぁ行くよ?『猛々しく地を吹き荒れる風たちよ、我が敵の元に集え、止まれ、全てを停滞させる絶対の衝壁となれ。凪風』」 



 凪ぐとは、風が一切吹かないこと。つまり熊さんの周りの空気は重くなって、熊さんの攻撃を遅くして、動くのにも体力を余計に消費しなければならないくしたのだ。それに、この魔法は対象の周囲の魔力を吸収して強くなる。まぁ要するに、動けなくなるのを狙おう作戦だ。



 「…何をしたのだ?何かが起こったようには感じられなかったのだが、もしや不発か?」

 「いや、確かに発動してるよ。まぁそんなことは置いておいて、行くよ?」


 実際、重くなるとは言っても急に重くなるのではなく、少しずつ重くなっていくので熊さんはしばらくは気付かないだろうな。


 僕は剣を構えて、熊さんに飛びかかる…



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


 「くっ…おぬし、まさか最初の魔法は、これが狙いだったのか」

 「あ、やっと気付いた?でももう遅いね。そろそろ限界じゃない?」


 魔法使用から約20分と言ったところだろうか?やっと、熊さんの動きが遅くなってきて、ついに動けなくなりかけている。


 …にしても、今かなりの重量になってるはずなのに、結構普通に動けてた熊さんって何者よ?



 「ふっ。そうだな。だが、まだまだよ!」

 「おおっ!がんばれ〜」

 


 それでも立って棍を振り上げようとする熊さん。だけど、重くて棍が持ち上がらない。残念!

 僕はゆっくりと近づいて、後ろに回り、熊さんの首に剣を当てる。


 「はい、降参ね?」

 「…ああ。そうさせてもらおう」



 やっぱり限界だったみたいで、熊さんはおとなしく降参した。



 『ええ、ただいまの試合。シン選手の勝利です!そして、今回もまた一撃たりとも攻撃を食らわず、勝利しています』

 『本当に彼って何者なのでしょうね?』

 『いや〜。それがですね、つい先日見つけたのですが、”悪霊”こと彼は中央の迷宮の初攻略者だそうです』

 『ええと、もちろんパーティでですよね?』

 『いえ…それが彼、職業が魔物使いだそうで、1人で攻略しちゃったそうです…』

 『ってことは、彼はAAAランク近い魔物を従えることができるのですか!龍とか従えていませんかねぇ』

 『そうですね。もし従えているなら一度は見てみたいです』



 ついでに、なんか迷宮の件も露見しました。これが面倒だから嫌なのに…


 とりあえず、僕はステージから退場する。







 「さてと。ルーはどうなったかな〜?」


 僕はステージから退場すると、一旦宿に戻るために服装とかを戻して歩き出す。 


 朝、ルーをルディに任せたまま置いてきたので、今頃は多分魔力操作をやらせている頃だと思うのだが…ルディ、ちゃんとやってるかな?



 「やっぱり急いで戻ろ」


 僕は姿を見えなくして、町の屋根の上を駆け抜ける。


 この世界の家はどこも、2階より高いものはギルドと王城みたいな場所以外はないので、高さが安定しているし、ヨーロッパの建築のように中心が高い形になっているので、戻るのは結構楽なのだ。



 そんなこんなで、走って2,3分程度で宿に着いた。


 僕は自分の部屋に戻る。



 『だから、そこはそうじゃなくて、こうだっつの!』

 『だから、感覚的に言われてもわからないと言ってるじゃないか!もっと、何かないのかい?』

 『だぁ〜!エク、早く戻ってきてくれよ。俺は理論的なのは苦手なんだよ』


 やっぱり早く戻ってきて正解だったようだ。



 「呼ばれて戻ってきたよ〜」


 僕はドアを開けて中に入る。


 「うわっ⁉︎マジできた⁉︎」

 「なにそれ、ひど〜い。帰っちゃうよ?」

 「いや、マジでやめてくれ。な?」

 「で、何やってるのさ?」

 「いや、俺は感覚なら教えられるが、論的なのは苦手なのは知ってるだろ?ルーはどうもしっかりとわかんないとできないタイプみたいでよ」


 

 つまり、ルディじゃ無理だったってことね。


 「しょうがないな〜。ルディ、遊んできていいよ〜。あとは僕がやるから」

 「お、いいのか?行ってくる!」


 ルディがすごい勢いで飛び出していった。

 …ところで、二日酔いとかにはならなかったんだろうか?



 「さて、ルー」


 僕はベットに寝転がって、床に座って唸っているルーを呼ぶ。



 「なんだい?」

 「今、魔力操作はどこまでできる?」

 「今かい?そうだね、好きに動かすくらいならできるけど、それがどうかしたのかい?」

 「了解〜。じゃあ始めようか」


 僕は、指先から他人でも見えるレベルまで濃くした魔力を放出する。



 「な、なんだい、それは⁉︎」

 「見ての通り、魔力だよ。ちょっと見てな」


 僕はその魔力を世界に還元させずに、ふわふわと指から離れたところで動かす。



 「とりあえず、こんなことができるように今日中になってね」 

 「なっ⁉︎そんなの無理じゃないか。魔力は、自分から離れるとすぐに消えてしまうんだよ」

 「はいはい、それは今から説明するから。まず、魔力ってなんだと思ってる?」

 「魔力かい?それは…精神力か何かじゃないか?」

 「残念、違うよ。魔力っていうのは、生物全ての持つ魂が、世界に少しずつ破壊されていく最中に生じた、いわば残骸のようなもの。それでも、一応エネルギーを持っているから、魔法を使うことができるんだ」

 「そうだったのか。初めて知ったよ。なんでシンは、そんなことを知っているんだい?」


 ルーは不思議そうにこちらを見ている。



 「それはそのうち教えてあげる。で、説明の続きだけど、その残骸は世界に集められてもう一度魂を作るためのエネルギーに使用される。だから、魔力は生物という防御壁から離れてしまうために世界に還元されてしまう。つまり、魔力に還元されるのを防ぐ防御壁があればいいんだ。わかるかい?」

 「あ、ああ。わかるよ」

 「とは言っても、生物自体も少しずつながら世界に魂を持ってかれるように、防御壁じゃ完全に防ぐことはできない。ま、今はこれだけ知ってればいいよ。でだ。魔力に肉体と同じように防御壁を作るところから始めようか?」


 一応、完全に防ぐ方法とかもあるけど、時間がかかるので基本が終わってからついでに教えてあげよう。



 「わかった。じゃあ何をすればいいんだい?」

 「生物は”魂力”っていう、魔力よりも強いエネルギーから構成されている。つまり、魔力を昇華させれば世界に吸収されにくくなるんだ。ということで、まずは一度に魔力を大量に放出して、それを限界まで圧縮してみて」

 「よし…」



 ルーは魔力を放出し、それを一箇所に集めて圧縮していく。どうやらこの程度ならできるようだ。


 「じゃあ次、それを昇華するよ。そこに圧縮した状態にさらに魔力を込めて」

 「わかった…」


 

 そこに、魔力を継ぎ足していく…

 が、破裂してしまう。


 「あっ…」

 「残念。そのままうまくいけば、魂力に近いエネルギーを作り出すことができる」

 「ところで、その魂力ってのは使えないのかい?」

 「いや、できないことはないけど。寿命が一気に縮むよ?」



 僕の場合は”自己修復”があったからこそ、魂が減っても元に戻ったけど。普通にやれば、魂がどんどん減っていって魂が肉体の寿命より早く尽きて死んでしまう。


 「い、いや。それならいい…」


 ルーはちょっと怯えたように答えた。


 「ははは〜。じゃあ続けようか。ちなみに魂力っていうのは、魂そのものを削って作るよ。まぁ、そのうちやるから覚えといて」

 「や、やるのかい?」

 「大丈夫、死にはしないから」 

 「そ、そうか」

 「ほら、早く〜」

 「ああ…」


 ルーは再び魔力を圧縮し、そこへ魔力を込めていく…


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 「おお、できた!」


 開始2時間半。やっとの事で、ルーが魂力もどきを作れた。


 大会は決勝戦と3位決定戦は午後にやるので、あと1時間くらいは大丈夫だな。



 「あ、できた?じゃあ、その感覚を忘れないようにね」

 「ああ。わかってる」

 「よし、じゃあ次に行こうか。今度はそれを体内で作って」

 「え?」

 「だから体内で魔力を昇華して、それで魔力を包んでやれば、僕がやったようにできるから」

 「でも、体内でやったら濃すぎる魔力で体がやられてしまうよ?」

 「大丈夫。そのために外でできるようにしたんだから。魔力ってどこらへんに感じる?」

 「え?お腹のあたりじゃないのかい?」

 「そ。じゃあなんで?」

 「ええと…」


 ルーは頭を抱えてしまう。



 「ま、わかんないだろうね。それは、そこが一番魔力に強いからだよ。ちなみに、魂は心臓のあたりにあるから、魂力は心臓付近で作れば体に被害はない。だから、少しずつ魔力を心臓付近に集めて昇華させて」

 「そうか。わかった…」



 ルーは目を閉じて、体内の魔力を心臓付近へと集め、昇華させる。


 「どう?できそう?」

 「ああ…もう少し」


 ルーの体内で魔力が昇華する。



 「お、できた。じゃあ次ね。次は魔力と昇華させた魔力を同時に放出して、魔力を包む。ただし、昇華させた方はそんなにはいらないよ」

 「わかった…」



 ルーは指先から魔力を放出し、それを昇華した魔力で包む。

 

 「で、次は体から切り離す」



 そして、それを指から離す。


 「まぁ、あとはそれをいつもと同じような感覚で操作するだけ。包んだ昇華した方の魔力を自分の一部だと思ってやるとやりやすいよ。じゃ、あとは頑張ってね〜」

 「え?ちょっと、シンはどこへ行くんだい?」

 「もう少しで、大会始まるからね。ああ、あとここは明日までしか取ってないけど、ルーは宿いつまでとってる?」

 「えっと、確か明後日だったかな?」

 「了解〜。じゃあ明後日にはこの街出るから、準備しておいてね〜」

 「わかったけど、どこへ行くんだい?」

 「ラブラン。魔族大陸に一番近いところ。多分、勇者たちもそこから出ると思うから、そこに行く」



 ついでに、神野の実力次第では先に大陸に行って、魔王を弱らせてしまう。


 「そうか。わかった」

 「じゃ、今日は今のが一瞬でできるまでやること。以上。じゃあ、行ってくるね〜」


 

 僕は、ルーを部屋に置いたまま宿を出て、会場へ向かう…


意見、感想等あったらお願いします。

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