87.ルーを助けました
僕はゆっくり降りながら、会場から見える程度の位置で姿を見えるようにする。
『なっ⁉︎…シン選手でしょうか?そ、空から降りてきています。これは一体…』
どうやら、司会者から見えたようで、その瞬間に観客の視線が僕に集まり、会場は静まり変える。
「や、ルー。早く退場しちゃえば良かったのに〜」
僕は、地面に降り立つとともにルーに言い放つ。
「シ、シン⁉︎」
「助けに来てあげたよ〜」
「な、なんでだい?」
「気分〜。それに、ルーが困ってそうだったしね」
「いや、確かに困ってはいるが、これは僕がやったことだ。僕にも責任はある…」
「ふふふ〜。誠実だね〜。助けてあげれるなら助けてあげたいの?」
「あ、ああ。もちろんだよ」
ルーが真剣な顔でこちらを見ている。
「いいよ。じゃあ選べ。魔法を僕に教わるのとこの樹人さん助けるの、どっちがいい?」
別にどっちを選んでも魔法は教えてあげるつもりだが、どうせなので選択でも迫ってみようと思う。ルーがどっちを選ぶのかが見たい。
ルーがいい人なら、しっかりと教えてやろうじゃないか。
「…助けてあげてくれないか?この人は、僕のせいでこれから右手と左足は自由に使えなくなってしまうのだろう?そんなのは嫌だ」
「ほほう。魔法はいいの?」
「ああ、僕が魔法を学びたいのは多くの人の助けになるためだ。それが人を傷つけるのならそんなものはいらない」
本気な表情でルーがこちらを見て言う。
うっわぁ〜。マジなヒーローがいるよ…
「ははは〜。合格。この大会が終わったら僕のところにおいで。魔法の真理を教えてあげるよ」
「え?それはどうしてだい?僕はこの人を助けるのを選んだんだよ?」
「気分!」
僕は不思議そうな表情をするルーを放置して、まだ腕と足を治そうとしている治癒魔法師たちに近づく。
「はいは〜い。ちょっとどいて」
そして、治癒魔法師たちを押しのけようとする。
「な、なんなのだね、君は」
「一般人だよ。君たちじゃこれが限界みたいだね。ちょっとどきなよ。僕がやるから」
「何!我々4人がかりでやって、これが限界なのだぞ!それをまだ年もいってない君なんかができるわけがないだろう!」
「はいはい、うるさ〜い。いいからどいた、どいた〜」
なかなかどかないので、無理やる退ける。
「よし、じゃあやろうか。『生命に宿りし力たちよ。今、その身を創れ、戻せ、再生せよ。再生』」
僕は樹人さんに手をかざし、詠唱を唱える。いや、唱える必要はないんだけど、今回はそういうルールだからね。
そして、樹人さんの体の傷が光に包まれて元に戻っていく…
この魔法…いや、正確には魔法じゃない、ただ単に対象の魂力を無理やり引き出し、それで壊れた肉体部分を補わせ、元に戻しているのだ。
「ふむ。これでいいかな?じゃ、後はよろしく。体力が戻ったら起きると思うから〜」
「なっ⁉︎…ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
「い・や・だ。じゃね〜」
少し、惚けていた治癒魔法師たちを叩き起こして、樹人さんを頼み、再び見えなくなり、ルディのところに戻る。
「ただいま〜」
「おう。で、あれ何やったんだ?」
ルディが不思議そうな表情をこちらに向けてくる。
「え?普通に魂力で戻しただけだよ。わかんなかったの?」
「…ガルディもそんなことしたことないぞ」
「…まぁいいじゃん。気にしな〜い」
つまり、僕が一番乗りてことだな。やったね!
『…ええと。今のは…っ⁉︎な、なんと、シン選手と思われる人はハービス選手を治療し、完全に治したらしいです』
『ええっ⁉︎シン選手は治癒魔法を使えたのですか⁉︎』
『い、いえ。それが、今までに聞いたことのない詠唱だったそうで…』
『なるほど、正体不明なだけはありますね…』
『不思議さが増しますね。では、次へ進みましょう』
僕が戻る間に、ルーと樹人さんは退場したらしく、次の試合を始めようとしだした。
『ええ、次は第一回戦最後の試合ですね。有翼族のシャリィ選手と勇者カズヤ選手の試合です』
『始めはシャリィ選手。彼女は飛ぶのに邪魔にならないような軽い素材でできている革の軽鎧で身を包み、その手には予選では持っていなかった弓を持っての登場です。これで空中から攻撃するつもりでしょうか?続いてカズヤ選手。彼は白を基調とした鎧になんとも不思議なオーラを放つ紅い槍を持っての登場。勇者の実力はどれ程のものなのでしょうか?』
説明と共に二人が入場する。
『先ほどのタクミ選手は、無詠唱の魔法で相手を翻弄していましたが、彼はどうなのでしょうね?』
『カズヤ選手の戦闘に注目していきたいですね。では、両者構えてください』
石井は槍を構え、槍に魔力を込め、有翼族…鳥の人は空へと舞い上がり弓をつがえた。
『どうやら、両者準備が整ったようですね。ユリアさんコールをお願いします』
『はい。では、本戦第一回戦最終試合、開始!』
開始の合図と共に、鳥の人は矢を連続して大量に放つ。そして、石井はそれを全て躱すか弾くかして避けた。
「へぇ。結構勇者大丈夫そうじゃねぇか」
「そうかな〜?避けるのはできても、攻撃がイマイチだったらさ…」
「ああ、そっちか。確かに能力値が足りなきゃ、カバーもできねぇわな」
神野も石井も、アレクに相当やられているので、攻撃をかわすのはある程度は出来るのだが、能力値が足りなくては魔王に攻撃は入らないだろう。
「そういうこと。じゃ、僕はルーのとこに行ってくるね〜」
「おう。終わったらどうする?」
「入口で賭けのお金でも受け取って待っててよ。終わったらなんか食べに行くからさ」
「了解だ。じゃあまた後でな」
どうせこの試合は石井が勝つだろうから、気にせずにルーのところへ向かう…
「や。起きたかい?」
「ああ、魔力切れなんて恥ずかしい限りだけどね。というか、よくここがわかったね」
「その辺に人に聞いたんだ〜」
ルーが選手用観客席にはいなかったので、適当に役員を掴まえてどこにいるか聞きまわったら、待機場所の一角にある医務室にいるって聞いたので、来てみたら、医務室のベットのうちの一つで寝ていた。
「で、どうなったんだい?僕は退場してすぐに気絶しちゃったから」
「あ、そうだったの。僕が見た時は元気だった気がするけど?」
「僕は生まれつき体が少し悪いんだ。だから、常に治癒魔法で治療を繰り返してるんだけど、ちょっと限界になっちゃってね」
ルーは恥ずかしげに頭を掻きながら言った。
「ふ〜ん。まぁ、ルーが退場した後は普通に試合。あと樹人さんは多分、隣で寝てると思うよ」
「大丈夫なのかい?」
「僕がやったんだよ?無事じゃないわけがないだろう」
「それもそうか。よかった…」
「で、次の試合は出れそう?魔力ちゃんと戻る?」
「いや、多分無理かな。魔力がある程度戻っても、体の方に回したら残んないし」
「そっか。じゃあしょうがないね」
しかし、ルーはすっきりとした表情をしていた。
「…僕の体はさ、あまり激しい動きはできないんだ。ちょっとした運動をすると咳が出て、呼吸が苦しくなる。症状が出た瞬間に、いつも治癒魔法で体力とかを回復させているんだけど、最近はそれも限界が近づいてきてさ…」
「ふ〜ん。だから僕に魔法が教わりたかったのかい?自分の体を治せる方法があるかもしれないって」
「ああ、これを治すために使える魔法は全て学んだ。僕の親は僕を産んですぐに亡くなっちゃったけど、もともとは治癒魔法系統の研究をしてたから、おかげでいろんなものを学べたよ。でも、もう限界が近づいてる。自分の体のことぐらいは自分がよくわかってる。もしかしたら、僕以上の魔法を知ってる人がいるかもしれないと思ってここへ来たのも、これが最後だと思ってのことなんだ」
「そっか」
「だから、シン。僕に君の魔法を教えてくれないか?僕はもっと生きて、研究所の仲間と研究をしたいんだ。僕は、人を傷つける魔法じゃなく、生かす魔法を作りたい」
ルーの目は僕とは違って光に満ちているようだった。
「いいね〜。僕にはない情熱ってやつを感じるね。で、何が知りたい?見た所、ルーは風と火と治癒が使えるみたいだし」
「…治癒魔法じゃなく、光魔法だよ。僕が使えるのは」
「おっ、レアだ。じゃあ、風と火と光か。で、何が知りたい?」
「…その前に、シン。さっきから、君はどうしてそんなに気楽なんだい?僕には、おそらくだがあまり多い時間は残っていないのに、君はそれを簡単に見ているような気がしてならないのだが」
「当然、君の体は多分治せるしね」
大体の病気なら治療法とかも知ってるし、こっちに来てからは魔法系のチートもあるので、ほとんどはどうにかできる。
「な⁉︎…君は魔道研究所の人が全員無理と言ったこれを治せるのかい?」
「多分ね。とりあえず、今さっさと治してあげるから、ちょっと寝てて」
「あ、ああ。わかった。よろしく頼む」
「はいよ〜」
僕は、ルーがベットに横になったのを見て、幾つかの検査用魔法を起動する…
「え〜と、これで最後かな」
しばらくして、ルーの検査の結果を見終えた。
多分、ルーの病気は先天性の”動脈管開存症”を放置したことによる、”アイゼンメンゲル症候群”っていう心臓の病気だ。この世界には心臓とかを治療することはできなかったのが原因だと思われる。
「ルー、起きてる?」
「あ、ああ。終わったのかい?」
「いや、これから治すとこ。終わるまでにそんな時間はかかんないと思うよ」
「そうか。わかった」
「いや、そうじゃなくて。大丈夫かい?」
「何がだい?」
ルーは不思議そうな表情をした。
「いや、僕はルーとあって2日しか経ってないのに、信じていいのかいって言いたいんだ」
「大丈夫だよ。だって君は…ゴホッ」
ルーは喀血する。早くしてあげたほうがいいかな…
「あらら、まぁいいならいいんだよ。治しちゃうから、寝てなよ」
「あ、ああ。そうするよ。よろしく」
「うん、おやすみ」
そう言うとルーは眠りについた。
「さてと。とりあえず『浄化』起動…」
僕はルーが吐いた血をきれいにする。
この病気は、動脈に静脈の血が流れ込むことで起きる病気で、肌が青紫っぽくなったりするチアノーゼが出ているので、肺とかもやられていると思う。
「さて、じゃあ治そうか…」
僕はルーの体に手を当て、肉体の悪くなっている部分をルーの魔力と僕の魔力を使って作り変え、正常な状態に戻していく。
「…先ずは一度心臓の部分を…次に血管を…で、肺と心臓を……あとは残りの……これでよし。あとは体力の回復としばらく経過観察かな」
ほんの数十秒で、ルーの体を構成し直す。
人の普通の状態には戻ったし、ルーの顔色も悪くないので、これで問題はないはずだと思う。
「さ、次は試合だし行かなきゃかな」
石井の試合が始まって15分程度。そうそろそろ終わってもおかしくはないだろう。
僕は急いで入場口に行く…
入り口に行くと、今回も相手は既にいて僕を待っていた。
「シン選手ですね。お二方揃いました。こちらの準備は問題ありません」
そして、役員が箱に向かって話す。
「では、こちらで待機していてください。この試合の終わり次第、開始しますので」
役員はそう言って入り口の端で待機する。
「いや〜、間に合ってよかった。ルーと話してたら、以外と時間経ってたし」
「ふん、貴様の意識が甘いからだ」
偉そうなエルフが、入り口のほうから僕を見下して言う。
うっわぁ〜…うざぃ
「ちょっとルーの治療に時間がかかっちゃてさ〜。うっかり、試合のこと忘れてたよ」
「ふん、知ったことか。大体、試合を忘れていただと?この僕との試合を」
「いや〜、しょうがないでしょ」
「どこが仕方がないだ。この僕を軽んじるとはいい度胸をしているじゃないか。初めの試合で勝ったからといって、調子にのるな」
「いや、調子に乗ってないよ〜」
ただ、バカにしているだけだ。
「っく…貴様程度の輩なぞ、この僕の敵ではないわ。せいぜい無駄な足掻きでもするんだな」
「ははは〜、安心しなよ。僕はこの試合で魔法は1種類を1回しか使うつもりはないからさ」
「なっ⁉︎やはり貴様…ふん、そんなことを言っていられるのも今のうちだ。せいぜい後悔するがいい」
「そうだね〜」
偉そうなエルフは、驚愕したような顔をした後、後ろを向いてしまった。
「さてと、試合はどうかな〜」
僕は、入場口から試合を見る。
「『地よ。礫となり、放て。ロック・ショット』」
石井が大量の小さい石で鳥の人を打ち落としていた。
「あ、うん。これはひどい」
見てても何にもならなそうだったので、入場口から離れる。
そして、試合が終わるのを待った…
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