83.試合をしました
で、いろいろやって僕の出番。
残りもいい感じに試合をやって、強そうなのが残った。
1回戦はウザそうなエルフと熊さん、2回戦は槍を持った馬人族の男の人と最後まで空に飛んで逃げ回ってた有翼族の女の人、3回戦は多分シルフィード王国の騎士の人間の女の人とドワーフのハンマーを持った小さいおっさん…多分、おっさんじゃないと思うけど。で、4回戦が素早い動きの獣人で兎の女の子と熟練の冒険者っぽい人間のおじさんだった。
そして、今は4回戦の人が退場するのを待機場所で待っているところだ。
今は3時過ぎで、多分もう少ししたら主催者側の人が来ると思う。
「やぁ、君。僕はルーナイズ・ラトクリフっていうんだ。よろしく」
なんか目の前にきらびやかな青年エルフが来たんだが…まぁ、とりあえず無視しておくとするか。
「君だよ、君。フードに仮面の」
キョロキョロと周りを見てみたが、どうやら僕以外は仮面をつけている人はいないようだった。
「はぁ…何の用?」
「いやぁ〜、僕と同じくらいに見える人があんまりいなくてね。エルフだから年齢がわかんないと思うんだけど、これでも僕は19なんだよ。見た感じ、周りにいる人ほとんど25位は超えてそうだし、仲良くできたらいいなって思ってさ。ルーって呼んでよ」
マジか。エルフって大体5,60越えないと、生まれたところから出てこないって聞いたんだけど。
「ふ〜ん。エルフで20以下なのに、こんなところにいるなんて珍しいね。何かあるのかい?」
「いやぁ、ちょっと人探しをしているんだ。もしかしたらここにいるかもしれないと思ってね」
「へぇ。で、大会に参加したと」
「うん、そういうこと。で、君は?」
「僕はシンだよ。ごく普通の一般人だよ」
「いや、一般人って名乗る一般人はいないと思うよ」
「あ、そう?じゃあ、今度からは気をつけることにするよ」
「ははは。おかしいって思ってなかったのかい」
「うん。ジョークだもん」
当然だ。本気でそんなことを言う奴なんてそうそういないだろう。
「と、いうことは…もしかして、どっかのお偉いさんとか?」
「いや、全くそんなことはないよ。残念だったね」
「ははは。まぁ、お互い頑張ろうじゃないか」
「そうだね。じゃあおまけに1つ、いいことを教えてあげるよ。始まったらすぐ、全力で防御魔法を使うといいよ」
「それはどういうことだい?」
「さぁ〜、なんだろうね。『第5回戦の選手の皆さま、入場を開始してください』っと、始まるよ」
「そうだね。まぁ、その助言を聞いておくとするよ。じゃあ、本戦で会えることを祈るよ」
僕らは、一斉に入場していく。
ここらで、今回の縛りを言っておこう。
能力値は、神力以外は70で固定。
魔法は、1属性のみで大会全てで3種類、5回まで使用可能。かつ、詠唱のみ。
魔道具等の使用は禁止で、武器は今持っているクレイモア1振りのみ。
試合中、一回でも攻撃を受けたら降参する。
まぁ、こんな感じ。
魔法が詠唱のみなのは、魔力的な問題だ。僕は、陣魔法と無詠唱は得意だが、詠唱はあまり得意ではない。
その原因は魔力の質で、詠唱が得意な人は魔力が世界の魔力の属性に染まりやすい。陣魔法と無詠唱の方は、魔力が属性に染まりにくくなっている。
なので、僕が詠唱魔法を使うためには一度魔力に新緑を変換して、さらにそのの質を変化させるという二度手間がかかるので、魔法は詠唱のみにした。
入場して、僕はステージの中心に向かう。
すると、司会者と解説者が話し出すのが聞こえた。
『さぁ、本日最後の予選です。一体どんな試合が見るとこができるのでしょうか?』
『ヤンヤさん、注目すべき選手はどなたでしょうか?』
『そうですね。帝国護衛軍のバルダン選手や数少ない精霊魔法使いのヒュード選手などが注目ですね。でも私が特に注目しているのは、エルフのルーナイズ選手でしょうか。彼はマドーラの天才と有名で、エルフでありながら19歳の若さで大会に出場してます』
マジで?ルーって実は有名人だったのか…
『なるほど。では、準備が整ったようですね』
『そのようですね。では、ユリアさん、コールをお願いします』
僕が、大体中心にたどり着き、準備をしたところで試合開始のコールがかかろうとする。
『はい、わかりました。では、本日最終予選第5試合、開始!』
観客と選手の叫びが会場に響き渡り、試合が始まる。
「さてと、ルーは…あ、いた。防壁張ったね」
ステージの入り口付近でルーが防壁を貼ろうとしているのが見えた。
「じゃあやろうか。『風よ、拒絶し、渦巻け!暴風流』」
僕が魔法を唱え終わると同時に、僕を中心に巨大な竜巻が発生する。この竜巻には殺傷能力はなく、ただ単に当たった相手を弾き飛ばすだけの魔法だ。
そしてさらに、その竜巻はだんだんと大きさを増し、選手を場外に吹き飛ばしながらステージを占領していく。
「ふふふ〜。いやぁ〜、愉快愉快。こんなにうまくいくとは思わなかった」
今回の作戦は、”選手を全員場外にしてしまおう作戦”だ。
やり方は簡単。ステージは円型なので、それに合わせて巨大化する竜巻を発生させるだけだ。そうすれば、選手は勝手に外に吹き飛ばされるか逃げ出してくれる。
まぁ、それでも数人は残ると思ったのだが…
『え、ええと…勝者、シン、ルーナイズ…』
まさか、全員いなくなるとは思いもしなかった。
「あ、ははは、はは、ははは…ってシン!これはなんなんだい⁉︎」
「…竜巻。多分」
ルーが僕に向かって走ってきた。
『…まさか、一人で選手全員を倒してしまうなんて思いもしませんでしたね』
『え、ええ。大会始まって初ですよ…』
『そ、そうですか。でも、こんな規模の魔法を使うとは、一体彼は何者なのでしょう?』
解説者たちも困惑している。
『はっはっはっはっはっは…エク、あれはねぇよ』
『うるさいなぁ〜、おもしろかったでしょ?』
『ああ、かなりきたわ』
ルディから念話が届いて、爆笑している。
「さて、じゃあ戻ろっか」
「ちょっ、シン⁉︎待ってよ。あの魔法は何なんだい⁉︎」
「竜巻」
「だからそうじゃなくて!それに、詠唱も普通のとは違ったし。一体君は何なんだい⁉︎」
「一般人だよ」
僕はステージから退場口に向かって歩きながら、ルーの質問を受け流す。
でよまぁ、後で教えてあげようかな。ルーは結構素質ありそうだし。
「あ〜!そうじゃなくってさぁ〜」
「後で説明してあげるから、ね?」
「え、本当に⁉︎」
「ほら、一旦待機場所に戻ろうよ」
「わかったよ」
僕らは退場する。
『ええ、選手の皆様、お疲れ様でした。治療が必要な選手は、あちらで有料の治療を受けることができますのでご利用ください。また、勝者の方はこの後、4時からもう一度会場ステージ中央にお集まり下さい。では、お疲れ様でした』
僕ら全員が退場して、少ししたら主催者側の人がやってきた。
勝者がまた集合するのは明日以降のトーナメントのくじ引きでもやるんだろうな。
「で、シン。あれは一体どういうことなんだい?」
「ああ、普通に魔法を使っただけだよ」
「いや、シンが使っていたのは、普通の詠唱魔法とは違ってたよね?」
「いや〜、同じだよ」
「詠唱魔法で魔法を使うときは、普通、属性、形状、対象、魔法名の順で唱えることで、初めて魔法が使えるんだ。それなのに、シンの魔法には属性と魔法名以外は普通とは違った。あれは一体どういうことなんだい?」
「いや、やっぱり同じだよ。僕がやってたのは、魔法の形状だけを唱えたものだよ。対象は設定してないんだよ」
他にも、詠唱省略をしているので本来なら、「我を囲いし気高き風たちよ、全てを拒絶し、全てを断絶する強大な渦巻きと化せ。暴風流」なんていう長ったらしい詠唱をしなきゃいけない。
「いや、やっぱりどこかが違うよね」
「そんなことは、別にないんだけどな〜」
「シン、君の魔法は僕らの使うものとは、明らかに異質だ。でも、そこに新たな可能性を感じる」
「そ、そんなに?」
「そうだよ!ねぇ、よければ僕に魔法を教えてくれないか?」
「え、あぁ〜…じゃあ、ルーが4位以内に入ったら教えてあげるよ」
とは言っても、神野たちが魔族大陸に攻め入るまでの間だけだけどね。
「本当かい?」
「うん、いいよ。ただし、勇者一行が魔族大陸に行くまでの間だけね」
「わかった。じゃあ僕の活躍をよく見てくれたまえ。きっと4位以内に入ってみせよう」
「頑張ってね〜。じゃあ僕は一旦出てくるよ。4時までには戻ってくるから」
「え、あ、うん。わかった。気をつけてね」
僕は外に出て、ルディのところに行く。
「おい、エク!あれはダメだろ。さすがにあんなのは避けれるやつなんかねぇよ」
ルディを見つけてそばまで行ったら、いきなり文句を言われた。
「いや〜、僕もあんなにやられちゃうとは思ってなかったんだよ。せいぜい、5,6人くらいは残ると思ったんだよ」
「はぁ…とにかく、これからはあれ禁止ってことで」
「うん、どうせ使うつもりなかったし。じゃあ後は魔法2種、3回ずつだね」
「そうだな。あと、攻撃魔法は単発だけにしろよ?連射はなしだからな」
「え〜、しょうがないな〜。残りは普通に単発だけにするよ」
単発、連射ってのは、魔法の一度に放つ量の話だ。単発は1つの魔法で1つの攻撃をする魔法。連射は1つの魔法で複数の魔法を放つやつのことだ。
「で、やった手応えはどうだ?」
「う〜ん、簡単すぎるかな〜。もうちょっと強いのがいても、いいと思うんだよね」
「そうか、なら俺は出なくて正解だな。つまんなそうだ」
「能力制限するといい感じだよ」
「俺は抑えられるのは嫌なんだよ」
「ああ、そうね」
「そうだ」
修行中から、ルディは何かに縛られたりするのを嫌がってた。
「でもさ〜、もう少し強いと思ったんだけど、あれだったし。魔王倒せるのかなぁ?」
「ああ…無理だな。普通にどう考えても、無理だ。能力値が低すぎる」
「だよね…神野たち、死んじゃうかな?」
「まぁ、このまま行けば死ぬだろうな」
「それは嫌なんだよね〜。僕をおもちゃを取るなんて許さない」
「…相変わらず、なんか歪んでんな」
「え?どこが?普通じゃないか」
「別にいいけどよ。普通、長く生きるてると、どっかしらは歪むもんだし」
「ふ〜ん。まぁ、そんなことは置いておいて、神野たちを勝たせるのはどうしたらいいかな?」
神野たちとは、一度元の世界に帰るのだ。魔王なんかにやられてもらっては困る。
「そうだな…単純に能力値を上げるのが一番なんだが、今からじゃ間に合わんだろうな」
「そうなんだよね〜。先に行って、魔王を弱らせておけばいいか」
「それじゃ、勇者の面子がないだろうに…」
「まぁ、勝てばいいんだよ。勝てばさ」
「それもそうか。というか、お前も手を出したら許さないっていう割には、一人で城出て来てるよな」
「いや、それは普通でしょ?だって、拘束されてでも遊びたいとは思わないし」
「まぁそうだな」
「そういうこと。でも、基本的にすぐ手が届く範囲にいるようにしてるしね」
「そうだったな」
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それから、しばらく時間までおしゃべりを楽しんだ。
「さてと、じゃあそろそろ行ってくるね」
「おう、行ってこい」
もうそろそろ時間なので、待機場所に戻ることにする。
待機場所の入り口に降りて、中に入る。
「ただいま〜」
会場のステージに集まる4時まで、あと5分ぐらい。
ルーは、待機場所にある椅子に座っていた。他には誰もいない。もう行っちゃったのかな?
「あ、おかえり。どこへ行ってたのさ?」
「秘密〜。教えないよ」
「いいじゃないか」
「そんなことよりさ、ステージに行こうよ」
「まぁ、それもそうだね」
僕らはステージ中央に向かう。
「あ、もうみんないそうだね」
「そのようだね」
ステージには、もう既にほとんど…というか全員が集まっていた。
「どうやら、全員が集まったようですね」
さっき、解説者と一緒に話していた司会者の猫獣人の女性がやってきた。
…語尾に、”にゃ”とかつけないかな?
「では、明日以降のトーナメントのくじ引きをしていただきます。シード枠の選手は既に引いていただいております。現在残っている枠はこちらです」
そう言って、司会者さんはスカートのポケットから紙を取り出した。
「では、くじを引いていただきます。まず、第1試合の勝者2名から」
司会者さんはくじが入っていると思われる箱を取り出す。
熊さんと偉そうエルフがくじを引いた。
「では次」
馬人族の人と有翼族がくじを引く。
とまぁ、そんな感じに全員がくじを引いた。
「トーナメント表は、明日発表いたします。最初の試合は、9時からとなっておりますので、お気をつけください。では、本日はお疲れ様でした」
司会者さんが解散を言い渡す。
「さ、僕らも帰ろ」
「そうだね。ところで、シンはどこの宿に泊まっているんだい?」
「裏通りの”彷徨いの宿”ってとこだよ〜」
「…それはいったいどこなんだい?」
「南口の少し右側の通りを、ずっと真っ直ぐに行った所」
「ふ〜ん、そうなのかい。僕は表通りの”歴戦の居所”っていう宿だよ。何かあったらそこにいるから、来てくれ」
「了解〜。じゃあまた明日ね」
僕らは待機場所の出口で別れる。
「さて、ルディは先に帰ったと思うし、もう戻ろうかな」
僕は宿に向かって歩き出す…
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