82.大会に出ました
で、大会当日。
登録した日から今日までは、ずっと装備の準備とか装飾とかをしていただけなので割愛する。
まぁということで、大会だ。後数十分後には、開会式が始まる。
とは言っても、今僕は未だに宿にいるけどね。装備を身につけてから行かないと、途中で出せないから着ることができなくなっちゃうので、いろいろしてたら時間がかかってしまった。
「お〜い、エク。そろそろ時間じゃねぇの?」
「あ、うん。今から行くよ〜」
ルディが僕を呼びにきた。僕は部屋を出て、鍵を預けて外に出る。そして、会場目指して歩き出す。
「で、どうなんだ?勇者たちとは会えたのか?」
「いや、会えてないよ。こんないっぱいの人たちの中から見つけるのは無理だね」
「まぁそうか。じゃあ大会でだな」
「うん。そうだね」
神野たちと会えるかもしれないと思っていたのだが、さすがにこの人だかりの中では見つけることはできなかった。それに、勇者なんだから外に出ると騒ぎになるから、外に出てなかったかもしれないしな。
「んで、その格好はなんなんだ?変な仮面つけて」
「変なって失礼な。勇者と普通に渡り合ったりしちゃったら目立つだろうなって思って、顔隠してるんだよ」
今の僕の格好は、王都にいた時と全く同じ服装に、迷宮の時の仮面、髪色は黒に戻し、クレイモアを背負っている。
「ああ、そうか。確かに目立ったら面倒だな」
「そうでしょ?ということでこんな格好してるんだよ。それに、仮面以外は王都にいた時と同じだから、神野たちも見ればわかると思うし」
「なるほどな。どうりでいつもの白いローブじゃねぇのか」
「そういうこと」
そんな感じにしばらく会話をしながら、ドームへ向かう…
「さてと、これどうやって入ればいいの?」
「さぁ〜?俺が知るかよ」
「まあそれもそうだね。どうしよっか?」
ドームの入り口に着いたのだが、入り口は東西南北に4箇所あるにも関わらず、かなりの観覧客で混雑している。おかげで、入り口が見えない。
「無理やり入るか?」
「いや、ダメからね。それに、そんなことしたら目立っちゃうじゃん」
「あ、それもそうだったな。じゃあどうするんだ?もう少しで開会式が始まるんだぞ」
「そうなんだけどさ、別に開会式はお客のためのものだし、出るのは勇者とか前回の優勝者とかだけだから、早く行く必要ないんだよね」
「は?そうなのか?」
開会式は、選手宣誓とか、帝国の開催者の挨拶とか、来賓紹介とかだけだし、行く必要はこれといってないのが事実だ。一応、大会の日程はそこで言われるけど、聴力でも強化すればいいので、問題もないし。
「うん、別に行かなくていいんだよね。この人たちは場所取りのために来てる人だし」
「なんだ、そういうのは早く言えよ」
「ははは〜、ごめんね」
「じゃあ、大会始まるまでその辺で待機だな」
「うん、試合が始まる頃には普通に入れると思うし」
「ところで、大会の参加者はどうやって集合するんだ?ここは観客席の入り口なんだろ?」
「ああ、それは入り口が別にあるんだよ。観客席の入り口は東西南北にあって、参加者用の入り口はその入り口の少し離れたところにあるんだ。そこを入ると待機場所があるみたいだよ」
入り口は、各観客席の入り口から右に少し離れたところにある。観客席は2階からあり、その下に参加者の待機場所がある。ドーム内にはステージが4つあるが、動かして一つにもなるらしい。今回の大会では一つにして使うようだ。一つにした時の大きさは390000㎡ほどあり、観客は150000人を収容できる。
「へぇ。ところでなんでそんなこと知ってるんだ?」
「さっき話してる人たちがいたから」
「盗み聞きしてたのかよ…」
「人疑義が悪いなぁ〜。聞こえたんだもん、しょうがないでしょ?」
「はぁ…まぁいい。で、どうするんだ?」
「その辺で待機するつもりだけど、どこか希望ある?」
「いや、ないぞ。別にその入り口前とかでいいんじゃねぇの?」
「そう?じゃあそこでいいや。さ、早くいこ」
僕らは今いる南口の右にある、参加者用の待機場所がある入り口に向かう。
「ところで、日程はどうなんだ?」
「もう少しで始まりそうだね。今、開会宣言が終わったよ。あと、ちょっとした紹介があったあとにやると思う」
待機場所の入り口に来てからしばらくして、開会式が始まったのが観客の歓声でわかった。それから、聴力を強化して話を聞いているのだが、今やっと開会宣言が終わったところのようだ。次は神野とか来賓の紹介をして、その後に日程を説明して大会が始まるっぽい。
「あ、神野だ。うわぁ〜、緊張してるな。片言に成り掛けてる」
少しして、来賓とかの紹介の中に神野と石井が勇者として紹介されたのだが、挨拶を言うのに神野が緊張してるのがわかるくらい、変な喋り方になっていた。
「まだなのか〜?」
「まだだよ〜。あと、2,3人程度だと思うから。というか、自分で聞いたらどうなの?」
「面倒くせぇから、いやだ。人の話をおとなしく聞いてるのは得意じゃねぇんだよ」
「つまり、お子様ってことね」
「誰がお子様だ」
「ふふふ〜。さぁ〜?」
「…面倒くせ。で、どうなんだ?」
「これで最後っぽい。次に日程だよ」
「そうか。俺は観客席から見たほうがいいか?」
「いや〜、どっちでもいいんじゃない?いっそのこと、空からでも見たら?」
「なるほど、その手があったか。ちょっと行ってくる」
「え?マジでやんの?え、ちょ…行っちゃったよ…」
冗談で言ったのにマジで行っちゃったよ…
別に、僕らは普通に空中に立っていられるから、問題はないんだけどさ。
「あ。次始まった。えっと…番号札の1~50が最初、次に51~100、その次が101~150で、次が151~200、で、最後が201~253と。今日はそれだけやって、本線は明日、明後日で二日間に分けて行う…ふ〜ん、まぁ普通だね。僕は241だから今日の最後か。それまでどうしようかな?」
日程は、予選を今日やって、2日目に本戦を1~12回戦…つまり準準決勝までやり、最終日に準決勝と3位決定戦をやったあとに決勝戦をやるって感じのようだ。
今は午前11時半くらいで、予選の1,2回戦をやってから一度昼休憩を取り、残りの3,4,5回戦は休憩後の午後1時からのようだ。ということは、1回戦ごとに大体1時間くらいがかかるってことになるな。
「って、僕の出番しばらくないんじゃないか。僕も観戦にいこ…」
僕も気配を消して姿を見えなくした上で空中に向かう。
「ルディどこだろ?僕にも見えないようなレベルで隠れないでよ、全く…」
空中に来てみているのだが、一向にルディが見つかる気がしない。面倒だし、普通に”念話”で呼びかけてみようと思う。
『ルディ〜、どこにいるの〜?』
『お、エク。どうしたんだ?』
『試合が午後みたいだから、僕も観戦することにした〜』
『そうか。ちょっと待て、エクが見えるくらいまで下げるから…』
『あ、見えたよ。今行くね〜』
少しして、会場の南口の側でルディが空中に寝転がっているのが見えた。
僕はそこに行く。
「もうちょっと見えるようにしててよ。分かりづらすぎ」
「はっはっは、悪いな。で、エク。お前の試合はいつなんだ?」
「午後の最後だよ。当分は暇だね」
僕はルディの横で一緒に寝ころがった。
「そうか。まぁ、ゆっくり観戦でもしようぜ。今の人の強さはどれくらいなのかを俺は知らねぇんだしよ」
「まぁこっちに来たのが最近だし、しょうがないんじゃない?」
「それもそうだな。お、人が入場し始めたぞ」
「あ、ホントだ。もうすぐ始まるのかな?」
望遠鏡もどきを出してステージを見てみると、会場のステージに何十人もの人が入っていくのが見える。種族も様々で、一般的な人間や獣人、エルフだけでなく、練ったに人前には出てこない妖精族なんかもいるようだ。
妖精族はあまり人前には出て来ない種族で、見た目は50cmくらいの美少女フィギュアだ。
まぁそんな感じに入場が終わり50人の人が入っているが、ステージはかなりの大きさがあるので、未だに結構なスペースが残っている。
「もうそろそろだな。どの奴が残ると思う?」
「う〜ん、あの獣人とか強そうじゃない?」
「ん?どれだ?」
「ほら、あの狼っぽい人」
僕はステージの端っこにいる、狼っぽい軽装備の男を指差す。
「ああ、あいつか。確かになかなか強そうだな。俺はその反対にいる鬼族の大男が残ると思うわ」
「えっと、あれか。でも、結構人に囲まれてるし、最初の方で協力されてやられそうだよ?」
「あぁ…そうかもな」
パッと見た感じの、能力の良さげなのと体の大きい奴は最初にやられそうな気がする。
だって、強そうなのは始めの内に倒しておきたいって思うでしょ?
「お、始まるかな?」
「解説者が自己紹介してるね。それが終わったら始まるかな?」
「だな」
「あ、そうだ。『創世:観戦セット』…ルディ、ほい」
「って、ポップコーンとコーラかよ。完全に楽しむ気だな…」
「当然。お祭り行事は楽しまなきゃ」
他にもソファーとかベットとかが作れるけど、さすがに空中なのでやめた。
『では、予選第1試合…開始!』
解説者の自己紹介が終わった後、司会者が大声で予選開始を言う。そして、観客と選手たちの叫びと共に試合が始まった。
「お、始まったぞ…って、あ!鬼族の奴、集団でかかって来られていやがる⁉︎」
「ほら言ったでしょ。ってこっちの人いつの間にかステージにいないし…」
始まって数秒、ルディが押してた鬼族は多くの人に囲まれて攻撃されてるし、僕が押してた狼さんは魔法に当たってステージ外に押し出されて、失格になってた…
「ははは〜。僕らの予想、いきなり外れちゃったね…」
「…そうだな。にしても、なかなかに人も強くなっているのだな」
「それはそうでしょ。ルディがオービスを最後に見たのって、数千年前でしょ?」
「まぁそうなんだが、この世界だって何回か崩壊してるんだぜ?それでここまでなんだから、悪くないだろ?」
「そうだね〜」
その後は、特に何もしゃべることなく予選を観戦する。
と、まぁこんなところで予選のルール説明でもしようじゃないか。
基本的なルールは3つだ。
1.ステージは直径700mくらいの円型で、選手はその中で戦う。
2.勝利条件は、そのステージ内で最後まで残った2名とする。気絶やステージ外に出たものは失格で、残りが8名以内になった時、初めて降参が認められる。
3.基本的に使用武器、魔法、道具について制限はなく、どのようなものを使っても問題はない。ただし、眷属や召喚などは禁止で、使うと一発で退場だ。さらに、相手を必要以上に攻撃する…つまり殺したりするのも失格。というのも、4回前の大会で殺人事件が起きかけたらしく、その件以来相手を殺したりすると失格にするようにしたらしい…というか、最初からそうしろって感じだけどね。
まぁ、基本的にはこんな感じだ。ついでに、負傷者はお金を払えば治癒魔法使いの治療を受けることができる。ただし、勝者は無料。
「なぁエク。あれってルール違反じゃねぇのか?」
そんな感じに観戦をしていると、突然ルディが声をかけてきた。
「ん?どれ?」
「ほら、あのフード被ったおっさん」
「あ〜、セーフじゃない?多分、魔道具の魔石だけ交換して魔法使ってるんだと思うよ。ルールに魔石の交換なしってのはなかったから、大丈夫でしょ」
ルディが指差しているおっさんは、魔石を嵌めるための窪みの付いた杖を持っていて、そこから魔法を放っていた。魔道具は普通は使い切ったら壊れてしまうので、使い切ったそばから新しいのにするのはいい手だと思う。それに、魔道具の陣が若干歪なので多分自作だろう。
まぁ、僕はそんなことするつもりはないけどね。
「そうか?あれって、結果的に自分の力じゃねぇし、アウトじゃねぇの?」
「う〜ん…自作っぽいし、第一ばれなきゃOKでしょ」
「まぁ、そうだな…あ、やられた」
「あ、残念。なかなか良かったと思ったのに」
なかなか悪くはないと思ったのだが、普通に棍でステージ外に吹き飛ばされてしまった。実に残念だ。
それに続き、数人が吹き飛ばされて、残りが4人になった。
残っているのは、大剣を堂々と構える鬼族のかっこいい女性、見た限りでは3属性も扱うエルフの美青年、巨大な棍を振り回す熊の獣人、小さい体で魔法を放ちながら逃げ回ってる妖精族の女の子だ。
「誰が残ると思う?」
「断然、あの獣人だな。強そうじゃん」
「…さっきからルディ、大きい人しか選んでなくない?」
「き、気のせいだろ。俺は強いと思うやつを選んだだけだ」
「図星かよっ。ていうか、ルディそういうの全般が苦手じゃない?そういえば、ボードゲームとかで最近一回も僕に勝ててないし」
「あ、あはは…俺はそういうのは苦手なんだよ!そういうのはガルディの担当だったんだよ!」
「ふふふ〜。つまりルディは脳筋なわけだね」
「うっせ。それで、エクは誰が残ると思うんだよ?」
「う〜ん、あのエルフかな?見た感じ、魔力も体力もまだまだ残ってそうだし」
僕はエルフを指差す。
なんというか、さっきからあのエルフだけ相手をバカにしてるというか、下に見てるみたいな態度で戦ってるので、まだ体力とか残ってそうだな〜、って思ったのだ。
「へぇ〜、あいつか。確かに魔法はなかなかに悪くないな」
「でしょ?でも多分あれ、僕が嫌いなタイプだね〜」
「確かに、ウザそうだな…」
「お、妖精がやられた」
そんな間に妖精族がエルフに魔法で吹っ飛ばされた。
「あと一人だな」
「だね。どうだろ?」
見た感じは、エルフと鬼族が優勢なんだが、熊さんも結構堪えているし、何よりエルフが鬼族を集中狙いしている。
「お、獣人が鬼族に向かってったぞ」
「あぁ!エルフが熊さんを援護してる。ズルいぞあいつ」
熊さんが走って行ったところに、エルフが鬼族に束縛系の魔法を使いその足を捕まえた。
「あ、鬼族やられちゃった。残念だったね」
「ほら、俺の予想当たっただろ?な?」
「はいはい。そうだね〜」
「いや、適当に流すなよっ⁉︎」
そんな感じに第1試合が終わった。
意見、感想等あったらお願いします。




