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親友

あの日から数日が経った。

けど、オレは未だにあの路地と草原に夢中になっていた。

毎日、中ノ大路を通りすぎては、目印のナツグミの木を探した。それが見つかると、そこから行動範囲を広げていった。

五ノ月の十ノ日。

今日も朝飯を高速で平らげると、日も昇りきらない内に家を出た。

てくてく歩いて、まだ薄暗く、活気の足りない中ノ大路へ。そしてあの路地へ。

中ノ大路よりあの路地が活気に満ちているなんてことが、あるはずもない。路地から奥に進むにつれて、更に静まりかえってきた。

五ノ月の早朝は涼しかった。

勘違い少年と出会った辺りより少し手前で右折して歩き続ける。方向感覚が狂っていなければ、北に向かっているはずだ。でも別に北に目的地があるわけじゃない。南に行くと、あの草原が広がっているってだけだ。そっちはもう行った。

陽射しが少し強くなってきたように思って、歩みを止めて蒼穹を見上げた。

雲ひとつない晴天。太陽が高く高く昇っていた。眩しくて、思わず目を細める。

五ノ月に強くなるというシガイセンなるものを、身いっぱいに浴びた気がした。

そろそろ一度帰らなければ。昼飯が。

オレは踵を返した。

その時だった。

「よぉ。また会ったな。やっぱ家この辺なの?」

勘違い少年だ。

また会った→迷子じゃない?→じゃあ近所?と考えたんだろうか。

相変わらずの七ノ月の太陽みたいな笑顔で、こっちに歩いてくる。

「家は中ノ大路の向こう。近所じゃない。」

愛嬌の欠片もなく言ったのに、気を悪くした風でもない。

「へぇ、けっこう遠いじゃん。なんかこの辺に用があったのか?」

「用っていうか、ただ散歩してるだけだよ。お前こそ、どうしたんだ。」

何をしてたのか聞こうと思ったのに、少年は妙にそわそわした。

「や、その、あのな……何でもない!オレ、シデンっていうんだ。お前は?」

名を訊かれたのだと理解するまでに、なぜか十秒近くかかった。それくらい、シデンと名乗った少年はあたふたしていた。

「オレはユウリ。東の方に住んでる。」

無難に自己紹介をした。前回会った時と合わせて、オレはこいつのことが苦手になっていたから、自然と口調は堅くなってしまった。

「そっか。ここで会ったのも何かの縁、せっかくだから遊ん…」

「もう昼だから。」

結局、シデンの言葉を遮り、すれちがうようにして前と同じ理由で帰ろうとした。

「じゃあさー、昼飯食ったらまた来いよ!ここで待ってるからさ!いいな!」

シデンの明朗な大声を聞いた気がした。

内容はしっかり伝わっていたけどその通りにするつもりなんて更々ない。はずだった。

昼飯のおぼろげな記憶。まるで体が自分の意思とは別に動いているみたいだった。

気づけば昼下がりをシデンと遊んで過ごしていた。一人で里内を巡ることが日常になっていたオレにはとても新鮮で、いつの間にか笑顔まで見せていた。

思えばシデンの明るさ、朗らかさは暑苦しいだけじゃなくて、人の心をひきつけていたんだろう。その証拠に、あいつは友達が多かった。

年が同じだったこともあって、オレ達はすぐに打ち解けた。一緒に散歩して回ったり、まだ熟していないナツグミの実を食べて、失敗したと笑いあったりした。

こんなに楽しいなんて、久しぶりだった。趣味に没頭しているのも楽しかったけど、多分『楽しい』の種類が違うんだと思う。でも、それを何て表したらいいのか、十一のオレは、分からなかった。

それでも良い。

今がすごく充実してて。

日も暮れかけ、里の家々が橙色に染められていく。その様子を二人で眺めながら、オレは思いついたことを口にした。

「ちょっとついてきてくれよ。いいとこがあるんだ。」

あ、マジで?行く行くと、シデンは立ち上がった。真夏のような衣の端が、風を受けてひらりと揺れた。

オレ達は十分も歩くことなく、あの場所に辿り着いた。もう少しかかると思っていた。シデンもなかなかの健脚のようだ。

辿り着いたのは、オレのお気に入りの場所。

あの広い草原。本当はオレだけの特別な場所にしようと思ってたんだけど、気が変わった。

ここを秘密基地みたいにするのもいいかな、とかさ。

ここにシデンは初めて来た。中ノ大路より幅広の空間に、呆然と立ちすくんでいた。

ようやく我に返り、口を開いた。

「こんなとこがあったのかよ!すげぇ、遊び放題じゃん!小母さんたちにとやかく言われそうもないしさ、今日は時間的に無理でも、明日もここに来ようぜ。約束な。」

人に意見を聞こうともせず、一方的に約束を取り付けて、シデンは帰ってしまった。短髪が跳ねるのもお構いなしにあいつは駆け去った。

嵐が過ぎ去った後のようだ。

けど、オレは言い様のない充足感を感じていた。

友達が、できた。

第一印象からはとても信じられない。

きっと、もっと楽しくなるという期待。そこに影は微塵もない。夕景の里は、ただただ優しげだった。

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