哀れな独裁者
俺と小室さんはその後椿先生に断ってから、一旦、ジャージ組の部屋を離れた。
階段を上がり、目的の場所へと向かう。
小室さんは……何も言わずに俺の後をついてくる。
俺が何をしようとしているのかは……理解しているようである。
だからこそ、俺も何も言わずにただ、目的の場所へと向かって歩き続けた。
そして、階段を上がりきり、たどり着いたのは……
「……生徒会室」
流石に俺も少し躊躇ってしまった。用があるのはもちろん……生徒会長黒上マツリである。
「あかいくん」
「え? 何? 小室さん」
小室さんは無表情のまま俺を見ている。だけど、その表情はどこか俺を安心させようとしているような……そんな感じに思えた。
そうだ……ここで立ち止まっていても仕方ない。黒上には聞きたいこともある。だからこそ、こうやって生徒会室にやってきたのだ。
俺は意を決して思い切り生徒会室の扉を開いた。
「黒上……え?」
生徒会室に入った瞬間、何か違和感があった。
風を感じるのである……まるで窓が開いているような……
よって、そのまま俺は、窓の方に目を向ける。
そこには……窓辺に腰掛け、空を見上げる……というよりも、今にもそのまま窓から落ちてしまいそうな少女の姿があった。
その少女は制服の上に軍服のようなものを羽織っている……まぎれもなく、黒上だということが認識できた。
「く……黒上さん?」
俺が恐る恐る声をかける。すると、黒上はゆっくりとこちらに顔を向ける。
「……ああ。アナタ達……何しに来たの?」
その目は真っ赤に腫れ上がっており、ついさっきまで泣き腫らしていたことを伺うことができた。
「え……お、俺たちは……アンタに聞きたことがあって……」
「聞きたいこと……? ああ、別に教えてあげてもいいわよ。もうすぐ、私、死ぬから。ここから飛び降りてね」
「……はぁ?」
信じられない言葉を、黒上は簡単に言ってのけた。
そして、黒上は窓辺に腰掛けたままこちらに振り向き、引きつったような笑みを浮かべる。
「フフッ……知っているのよ。川本も谷内も、私を裏切ったんでしょ? 私を裏切って、アナタ達の味方になった……そうなんでしょ?」
とてつもなく不安定な感じで黒上は俺にそう言った。
「え……」
「だって……二人とも、学校中どこを探しても見つからないんですもの。きっと隠れているのよ……分かっているんだから……どうせ、私は……」
「ちょ、ちょっと待って。二人は――」
「近づかないで!」
俺が近づこうとすると、黒上は懐から拳銃を取り出した。
おそらく谷内が持っていたものと同じ改造エアガン……俺はさすがに動きを止めた。
「……ああ……どうして……こんな世界になればきっとうまくいくと思ったのに……私のことをずっと馬鹿にしていた奴らに仕返しできると思ったのに……どうして……!」
俺に銃口を向けたまま、黒上は涙を両目に貯めている。
このシチュエーション……俺の脳裏には自然と宮本さんのことが浮かんでしまった。
「く、黒上さん……落ち着いて。二人は……」
「黙りなさい! 私は生徒会長なのよ! もう誰にも裏切られない! 私が……私がこの学園で一番偉いんだから!」
そういって、黒上は完全に取り乱してしまっていた。もはや、話をできる状態ではない……俺がそう思ったその時だった。
「二人は、死んだ」
「……え?」
俺は思わず耳を疑う。黒上も目を丸くしている。
「あ……アナタ……今なんて言ったの?」
震える声で、黒上は小室さんに訊ねる。
「死んだ。二人は、死んだ。アナタは今、一人ぼっち」
「う……嘘よッ! 嘘をつかないで! 二人が……死ぬわけ無いでしょう!」
そういって、黒上は窓辺から立ち上がり、そのまま小室さんに銃の先を向ける。
自然と俺はその時、確実に黒上が引き金を引くことがわかっていた。
「小室さん!」
俺が小室さんの身体を瞬時に押し倒すと同時に、生徒会室にけたたましい銃声が響き渡ったのだった。




