信じること
「……はぁ」
夕樹さんに説教された後、俺は、階段の踊り場に座って、一人でため息をついていた。
夕樹さんはああ言っていたけど……本当の所はどうなんだろう。
俺としては別に誰かを必ず守らなければいけないというか……みんなを守らねばならないと思っているのだが。
……って、そう思っている矢先に守られているのは俺なのだ。
そんな風に思っているこそ思い上がりなのかもしれない……
「あかい、くん」
と、背後から声が聞こえて来た。
見ると、小室さんがこちらを見て突っ立っていた。
「……小室さん」
「すこし、はなし、したい」
小室さんの言葉に、俺は小さく頷いた。
そして、小室さんは俺の隣にゆっくりと座った。
「ゆうきさん、つぎのいきさき、おしえてくれた」
「え……行き先?」
俺が訊ね返すと、小室さんは頷く。
「すこし、はなれてるけど、あるいていけない、きょり、じゃない。がっこう、いく」
「学校? なんで?」
「そこには、おとな、いる。このせかいのじょうきょう、わかる、おとな、いるらしい」
小室さんはそういって俺のことをジッと見る。
俺はなんだか試されているようで、少し緊張してしまった。
「どうする? いく? やめる?」
小室さんの問いに俺はすぐに答えられなかった。
少し考えこんでから、ゆっくりと口を開く。
「……俺、さっきからずっと思ってたんだ。その……俺、みんなにとって足手まといなんじゃないかな、って」
俺がそう言うと、小室さんは目を丸くして俺を見た。死んだ魚のような濁った目は不思議そうに俺を見ている。
「だって……俺、口では偉そうなこと言っているけど……みんなのことちゃんと守れてないし……今回の件だって、俺が招いたようなものだし……」
「ちがう」
俺がそう言うと、小室さんは即座に批判した。
「え……小室さん?」
「……わたし、あかいくん、まちがっていい、とおもっている。むしろ、まちがいするの、にんげんだって、しょうこ。だから、あかいくんがまちがっても、わたしは、あかいくん、しんじる」
思わずその言葉に俺は何も言えなくなってしまった。俺は心底、目の前の小室さんのことが本当に愛しく思えてしまったのである。
「あ……ありがとう。小室さん」
「だから、あかいくんも、わたしのこと、しんよう、してほしい」
「え? 当たり前じゃないか。そんなの……」
俺がそういうと、小室さんはゆっくりと首を横に振った。
「ちがう。これからさき、もっときびしいじょうきょう、くるかも。そのときでも、わたしのこと、しんじてほしい」
小室さんはいつになく力強い言葉でそう言った。
俺はその時何となく思った。俺ができることは、この眼の前の「ゾンビじゃない」彼女を信用することなのだ、と。




