ちぐはぐ会話寸劇「夏の炬燵」
「夏休みになったら何しようかな」
「夏休みはいろんなことができるね。例えば花火とか」
「そうだね花火もできるね。でも夏休みに花火をするなんて普通すぎて嫌だなあ」
「ゆうくんは普通のことが大嫌いだもんね。普通を嫌悪して個性を出そうとしすぎる悲しいくらい普通の人間だもんね」
「やっぱりたろうは俺のことをよく分かってるよ」
「じゃあそんなゆうくんには炬燵に入ることをお勧めするよ」
「おお、たしかに暑い夏にわざわざ炬燵に入るような人間はいない。それはいいアイデアだ」
「お気に召したようなら僕は嬉しいよ」
「俺も夏の有意義な過ごし方が分かって嬉しいよたろう。よし炬燵を買ってくるか」
「まってよゆうくん、この季節に炬燵なんて売ってるわけないよ」
「なるほどたしかに。でもなんとしても夏休み前に炬燵を手に入れなければならない」
「それならいっそ、炬燵を作ってみるとか」
「それは難しいんじゃないか?あんな人を虜にするような魅力的マシーンを俺みたいになんの魅力もない人間が作れるとは思わない」
「だよね。ゆうくんは悲しいくらい普通の人間だもんね」
「益子焼くらいなら作れるんだけど」
「それはなかなかのものを作れるね。見直したよ」
「だけど買うこともできない作ることもできないとなるとかくなる上は産むしかないか」
「どういうことなの」
「買えない物は作ることによって、作ることができない物は買うことによって、どちらもできない物は産むことによって、この世界の物資は手に入れることができる」
「ずいぶんと飛躍した思考を持っているね」
「しかしこれには一つ問題がある」
「問題は一つしかないんだ。なんだろう」
「俺は男だから産むことができない」
「ゆうくん、女の子だって炬燵を産んだりすることはできないよ」
「でも子供を産むことはできる」
「生物だからね」
「そしたらその赤ちゃんに炬燵って名前をつければいいだろ。それで代用品になる」
「ゆうくんは炬燵と呼ばれる存在があれば満足するのかな」
「よし、一刻もはやく子供を産んでくれる女の子を探さないと」
「今から子供作っても夏休みには間に合わないと思うよ」
「まあ来年の夏休みには間に合うだろ」
「それでいいのゆうくん」
「よし、一刻もはやく俺の子供を産んでくれる女の子を探さないと」
「今年の夏休みはどうなるの」
「今年の夏休みは俺の子供を産んでくれる女の子と仲睦まじくありきたりな青春でも送れればそれがこの上ない幸せな夏休みだろ」
「ゆうくんって結局のところそういう普通の幸せに心の底では憧れているけど自分では絶対手に入らないって分かっているから普通ではない自分を演出して普通の幸せを手に入れられない言い訳を体現している、そんな普通の人間だよね」
「やっぱりたろうは俺のことよく分かってるよ」