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vol.3

「で、お兄さんはどこに行きたいの?」


彼女の問いに少しだけ逡巡して目的地を告げる。



「渋谷の富ヶ谷ってわかる?」


「あーだいたいわかりますよ」



その言葉に瞬時に身体が反応する。

まさか・・・・



「知ってるのがおかしい?バイト先が渋谷の富ヶ谷なんです」


「バイト?」


「はい、カフェなんですけどね」



にこっと笑うと彼女は自分のヘルメットをかぶった。

追っかけ・・・じゃないんだ。

安堵感とホンのちょっとの複雑な気分。


なんだこの気持ち。



「そろそろ向かいましょうか」


「あ、うん」



借りたヘルメットをかぶると鞄をしっかり肩にかけ、バイクの後部シートに跨る。

相手は女の子だ、野郎同士の相乗りみたいに簡単に身体に触るわけにも行かない。

さてバイクのどこを持って身体を安定させようかと悩んでいると

「ちゃんと腰もってね」と言われた。


いいんだろうか・・・

いや、彼女が持てって言ったんだし、いいんだよな。


戸惑いながらも腰に両腕を回す。


ほっそ。

それに柔らかい・・・と何考えてる俺~。

彼女は恩人!



「じゃあ動きまーす」


「お願いします」



動き出すバイクに合わせて腕に少し力が入る。

イベントで握手する機会は多いけれど、

こうやって女の子の身体に触れるのはとんとご無沙汰。

何年ぶりになるっけ?とか考えていたら鼻腔に届く香り。


杏?グレープフルーツ?

よくわからないけど果物系の甘い香り。

イヤじゃない、むしろ好ましい香り。


メットのバイザー越しに流れる風景。

彼女の香り、ひさびさの感覚。


バイクもずいぶん動かしてない。

そろそろ動かしてやらないと拗ねるな

今度のオフはどこかへツーリングでもしようか・・・


そんなことを考えていたらふっと頭に浮かぶ情景。

走らせるバイクの後ろには彼女と彼女の操るバイク。


初めて会った子だぞ?

そういや名前まだ聞いてなかったな

ついたらお礼もしなきゃだし名前聞かなきゃだな。

まさか運転中に聞くわけにもいかないし。


てか、乗せてもらっておいてなんだけど

そう簡単に見ず知らずの男を信用しちゃいけないと言っておいた方がいいかもしれない。

何かするつもりは毛頭ないけれど、世の中そんな男ばっかりじゃないんだし

この子はもうすこし危機感を持っていたほうがいい気がする。


って、俺何考えてんだ。保護者でもないのに。

いやでも同じバイク乗りとしては気になったことは教えておいてあげた方がいい。

こんな良い子が何かに巻き込まれたりしたらかわいそうだし。


人を簡単に信用するってことは今まで悪い事に遭遇した事がないんだろう。

若くてかわいい子なんだから油断したらあっという間に何かの餌食だ。


実際今俺だってほんの少し得した気分なんだし。

あー、何考えてるんだよ、もういい年してんだからさ 俺。


自分の思考にうんざりしながら流れる風にため息を混ぜ込んだ。











「到着~!」



彼女の声と同時にバイクが停車する。


途中からメット越しに道順を教えながら目的地に到着した。

メットをはずして、無事到着したことにほっと一安心。



「ありがとう助かったよ」


「いえいえどういたしまして」



メットを返して名前を聞いてアドレス聞いてお礼しなきゃだな



「ねぇ時間大丈夫なの?」



投げかけられた言葉に反射的に腕時計に目をやる

やばい!時間押してる!!


頭は即座に仕事モード。

さっきまで考えてたことなんて遠くの彼方。



「時間押してる!ごめん、ありがとうこのお礼はまた今度!」



後でどうやってお礼するんだよと悩むことになるんだけど

このときは仕事の事で頭がいっぱいでそれどころじゃなく

彼女に片手をあげて挨拶すると、自動ドアが開くのももどかしく

俺は目の前のビルに駆け込む。


ふと視線を向けると受付の駿河さんが驚いたような顔をしてこちらを見ていた。




「やあ。連絡は伝えてくれた?」


「はい。お伝えしました」



よかった、電話に出てくれたが彼女だから安心してはいたけれど

こうやってちゃんと連絡されていたのを聞くと安堵する。

おっといけないエレベーターのボタン押さなくちゃ。



「なんとかギリギリセーフか・・・。みんなもう集まってるんだろ?」


「ええ。遠江さんはさきほど上がられたばかりですが」


「誠さんもう来てんのか・・・だよな」


「あの・・・」


「何?」


「そのヘルメット・・・」



ヘルメット・・・?

あ!!



「え?・・・・・ああっ~!しまったぁぁ!」



慌てて振り返って自動ドアから外を見る。

すでに彼女のバイクはそこにいなかった

やっばい、これは久々にミスった。



「よろしければお預かりしておきますが」



俺はすぐさま首を横に振る。

なんとなく手元に置いておきたい気分だったから。



「・・・いや、いいよ。荷物と一緒に持っとく」



ポンと軽い音がしてエレベーターのドアがひらく。

落とさないようにヘルメットを抱え直すと、閉のボタンを押した。



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