vol.2
工場への電話を切った後、今日入りのスタジオに連絡を入れる。
受付の女の子へ監督と制作会社スタッフへ伝言を頼むと
そのまま104へ電話をかけ、現住所を伝え
タクシー会社を探してもらう。
この辺りの会社は3件。
どれかが捕まるだろうと少し気が楽になり
聞いた番号を上からかけていった。
1件目、空車なし。
2件目、話し中。
3件目、今回せる車が近くにいないらしく
5分後にもう一度電話連絡してほしいと言われた。
仕方なく一度電話をきり、空車が走ってこないか
時間を見ながらも視線は車道に向けておく。
念の為、10分たってからかけ直すも…話し中!?
慌てて先の2件にもかけ直す。
が、通じない。
初めて心の中に焦りが浮かんできた。
*
何度もかけ直してもアウト。
そんな間に工場のトラックから電話が入り
近くに着たので現在位置の再確認してくる。
目印を伝えるとため息とともに携帯をきる。
もう一度電話しなくてはと携帯を握りなおすと
止めてある車の前に、1台のバイクが滑り込んできた。
が、気にしている暇はないのでもう一度1件目のタクシー会社に電話する。
やはりまだ話し中…どれだけ長電話だよっ!
半分イラついて電話をきると「大丈夫ですか?」
女性の声が耳に飛び込んできた。
俺の事か?と思い、顔を上げ、声の方に顔を向ける。
と、そこには長い髪が印象的な若い女の子の姿。
「え?ああ、僕の事?」
「車、平気ですか?」
その言葉に眉間に軽くしわが寄るのを感じる。
ハザードつけて路肩に車止めて、降りて携帯持ってたら
普通はトラブルがおきたってわかるだろう?
彼女は何を確認したいんだ?
「ちょっと拗ねちゃったみたいでね。知り合いがこっちに向かってくれてるんだ」
ほら、これでいいだろう?
「じゃあ お兄さんは?」
その言葉にもう一度顔を向ける。
パッと見たところ俺よりいくつくらい年下なのか
成人したてって所か?あ、待てよ
地元の子なら他の会社の電話番号知っているかもしれない。
「僕・・・・・う~ん大丈夫・・・じゃないかも
君さ。この辺りのタクシー会社の電話番号知らない?」
一縷の望みで聞いてみるも彼女からは「104は?」の返事。
そりゃそうだ、俺が同じ立場でもまず104をすすめる。
どこも話し中だと正直に伝えると大きな目を見開いて
驚きの表情になる。
俺だって驚いてるよ。
パッパーとクラクションの音がし
振り返ると工場のトラックが来ていた。
愛車を引き渡し、後日連絡を入れる事を約束して
ホッと一息つく。
これで愛車は安心だ。
その気持ちのまま再々度電話をいれるも
まだ、いや、また話し中。
思わず出てしまった言葉に彼女が反応する。
驚いた まだいたのか。
普通ならとっくに消えてるだろう。
彼女の発した言葉に肩を竦めることで
現状が何も変わっていない事を伝える。
ぽつりとつぶやかれた
「さっきの車に同乗させてもらえばよかったんじゃ?」に
瞬間、頭が真っ白になった。
「しまったあああ!」
その手があった。
あの車なら多少の無理は聞いてくれただろうから
近くの駅くらいまでなら乗せてくれたはずだ。
そんな事にすら気がつかなかった自分に唖然とする。
どうりで彼等が何かいいたげな顔をしていた訳だ。
呆然としていたら、くすくすと笑い声が聞こえ
「お兄さん」と呼ばれ、振り返った瞬間
声にのるようにピンク色の塊が飛んできた。
慌てて受け取るとヘルメット?
「これも何かの縁でしょう、私のバイクでよかったら送っててあげる」
初めて会った子の後ろに乗るのか!?
このピンク色のメットをかぶって!?
彼女は首を傾げ、どうする?と聞いてくる。
今からじゃ仮にタクシー会社に連絡がついても配車時間は不明。
間違いなく仕事は遅刻。
この先の渋滞ポイントに捕まってしまえば本当に時間は読めない。
でもバイクは小回りがきく。
みた感じ、彼女は免許をとって間もないって雰囲気はない。
なら後ろに乗っても大丈夫か…?
もし道を知らなければ、俺がハンドルを握らせてもらえばいい…
頭の中でこれだけを瞬時に計算すると
彼女の方に向き直り「お願いします」と声をかけた