vol.17
1本目の仕事を終えた後、移動までに少し時間があるので
この時間を使って彼女の予定を抑えられないか、電話してみることにした。
コール音数回。
つながった先は何か少し賑やかで・・・学校か?
『もしもし』
「もしもし?真澄ちゃん?」
『仁さん、こんにちは』
「今少しいい?」
学校にいるなら手短に話しをしないといけないので確認。
『少しなら大丈夫ですよ』
「・・・回りが騒がしいけど学校?」
『いいえ、これからみんなでツーリングに行くんです』
「へぇ~いいなぁ で、どこに?」
『北海道です』
「北海道!?えらくまたはりきったね」
ツーリングだけでも驚きなのに北海道!?
この間会ったときはそんな話ししてなかったはずだ。
そういや最近バイクにもご無沙汰だな・・・
今度はツーリングに誘ってみるのも良いかもしれない。
彼女と走らせるバイクはまた違った感覚で楽しそうだ。
もちろん北海道は無理なので、近場だけれど。
『ええ、なんだか急にバタバタって決まっちゃって』
「夕飯でも誘おうと思ったけど無理だな」
『ごめんなさい』
「いや、いいよ気にしないで。いつ戻ってくるの?」
『一応今日中に北海道に渡って、向こうで2泊の予定なんですけど
ツーリング初めての子がいるのでケースバイケースです』
今から出るってことはフェリー内で仮眠をとるパターンになる。
じゃあ実質彼女がこっちにいないのは4日ほどか。
少しだけそれを長く感じてる自分がいる。
俺、どんだけ落ちてんだよ。
「そっか、帰ってきたら連絡くれる?」
『もちろんです、おみやげ買ってきますね』
「ありがとう、でも無事で帰ってきてくれたらそれでいいから」
『・・・はい』
『真澄ぃー そろそろ出るぞー』
『あ、OK 仁さん、そういうことなので』
突然電話に割り込んできた男の声に自分でも驚くくらいビクッとする。
「真澄ちゃん、男の子もいるの!?」
『いますよ 学校の友達です。女の子だけじゃ危ないですから』
いや、確かに女の子だけじゃ危ないけど、危ないけど!
それ以上に何かを感じるのは何故だ!?
できることならついていきたい。
けれど仕事がつまってて、それを投げ出すにはいかない。
ジレンマで心がジリジリ動きだす。
『真澄ぃー』
『はぁい もうしつこいよ!じゃあ仁さん行ってきます』
「あ、ああ・・・くれぐれも気をつけてね!?」
こんなありきたりな注意しかできない自分に愕然とする。
彼女は自分の物じゃない。
それを思いっきり突きつけられた気がした。
*
『友達に写して貰いました 元気に走ってます♪』
時々彼女から届く途中の風景。
そんな中に1枚、彼女が写ってる写メがついたメールが届いた。
どうやら今のところは無事に進んでいるらしい。
ホッとすると同時に押さえ込んだはずのジリジリがむくりと顔を起こす。
女友達に写してもらったのかもしれないのに
何故かあの時聞こえてきた声の主がこの写メを写した気がして
笑顔で写る彼女、その視線の先に自分がいないことが
呆れるくらい腹立たしかった。
「槇ー、どしたの。ずいぶん荒れてんね」
どうしてこの人はそういう事に気がつくんだろう。
少なくとも他の連中は俺の気が立っていることには
まったく気がついてないというのに。
「自分の度量のなさに呆れてるだけです・・・」
「は?何、真澄ちゃんと喧嘩でもした?」
「喧嘩なんかしてませんよ、第一彼女とは会ってませんし」
「あれ?この前夕飯誘うって言ってなかったっけか?」
「・・・今、こっちにいませんから。」
「んあ?どっかお出かけしてんの?」
「北海道に行ってます」
「はぁ?北海道?なんてーか、あの子の行動力すげーな
で?お前さん、置いてかれてそれで拗ねてんの?」
「なっ!?拗ねてなんかないです!」
「俺からみたらそうとしか見えんけどねー」
ぐさぐさと刺さる誠さんの言葉に二の句が継げない。
「連絡来てないのか?」
「・・・メールが時々」
「なーら心配することないじゃん。
少なくともあの子はお前忘れてないって証拠なんだし」
それはそうなのかもしれないけれど
彼女の側に自分が知らない男がいて、
彼女がその男に笑いかけてるかと思うと・・・
「お前さん、意外に嫉妬心高いんだな。
いやー、意外意外。普段そんな風に表情に出さないくせに
あの子の事になると結構変わるね。ま、良い傾向じゃないか?」
「・・・何がですか」
「前から思ってたけど、お前他人との間に線引きしてるだろ?
今、それ良い感じに壊れてきてるからさ」
線引き・・・まいった、そこまで気がつかれてたのか。
俺がこの人を侮れないと思う最大の理由。
意外にこの人は人を見てないようで実はしっかり見ている所。
「良いこと・・・なんですかね」
「あー?俺はそう思うけど?少なくとも今のお前
表情コロコロかわって良い感じだと思うし。
俺は今のお前、結構好きだけどな」
そういうとニカっと笑う。
ああ、まだまだこの人にはかなわない・・・
そう思うと、この人を振り回している駿河さんが
なんだかとっても偉大に思えた。