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vol.15

キィー 小さく扉の開く音。

中に誰もいないとわかっているのについ言ってしまう「ただいま」

そんな当たり前の日常がなんだか今日はとてもむなしく思えた。











午前の仕事を終え、駿河さんのいるスタジオへと向かう。

時間はもう13時。いくらなんでも彼女も起きているだろう・・・たぶん

でもタイミングが取れず、家に電話をかけることができない。

メモには携帯番号も書いておいたから

何かあったら連絡が入るはず。

そう自分の心を落ち着かせて仕事へ望んだ。



「おはようございます 駿河さん」


「おはようございます 槇原さん」


「鞄・・・どうなりました?」


「ええ、少し前に取りに来られましたよ。

 体調の方も大丈夫だったようです」



受付での会話なのでどうしても他人行儀になってしまう。

それでもほしい情報は手に入った。



「そうですか、他に変わったことは?」


「私の目からは特に・・・」


「わかりました、ありがとうございました」


「いえ、お仕事がんばってくださいね」



駿河さんの言葉で彼女が無事鞄を手にしたことで安心する。

と、同時におこる1つの感情。


鞄を手にした彼女が家にいるはずがない。


そう思うだけでなんだか寂しいと思う自分がいた。

だけど仕事は待ってはくれない。

見えないところで気合いを入れると

本日最後の仕事の為に、いつもとは違うスタジオに向かった。











キィー 小さく扉の開く音。

中に誰もいないとわかっているのについ言ってしまう「ただいま」

そんな当たり前の日常がなんだか今日はとてもむなしい。


部屋の中は人の気配はまるでなく、

夕べ彼女がいたことも現実感を伴わない。

ただ所々違うのは出しっぱなしだった毛布が寝室に運ばれていたこと。

水籠のなかのマグボトル。

ゴミ箱の中のパン屋の袋。

そして寝室にわずかに漂う、いないはずの彼女の香り。

それを感じた瞬間、胸が締め付けられた気がした。


ああ、そうだ。

もうこれは自分をだませない。

俺は彼女に恋をしている。

自分より年下の彼女に。

まだ出会って間もない彼女に。



今思えば最初からだったのかもしれない。



見ず知らずの彼女のバイクに乗った。

ショコラのsorry

夜空を見上げていた彼女の横顔。

全てが今までになかった出来事。


そんな自分を認めるのがイヤで、ついいい人のフリをしてきた。

けれどそれじゃイヤだと言う自分が確かにここにいる。


俺は力なく笑うとベッドに座り込む。


部屋の隅にまとめられたリネン。

彼女の置き手紙にあったもの。

今はすぐ直す気力もなく、そのままベッドに倒れ込む。


ばさりという音とふわり漂う自分とは違う優しい彼女の移り香。



この子がほしい。

ぐちゃぐちゃだった感情が一本にまとめられた瞬間だった。


そうと決まれば行動は早い。

まずベッドから身体を起こし、新しいリネンでベッドメイク。

その後、彼女の使ったリネンを洗濯機へ。

コーヒーを落としながら今後の事を考える。



そして・・・

舌に熱いコーヒーを飲みながら、俺は彼女へと電話をかけていた。

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