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vol.11

いつも通りの時間に目覚める。

カーテンを開け、天気を確認するのもいつもといっしょ。

今日の仕事は昼から1本だけ。


洗濯物を回しながら久しぶりにコーヒーを落とす。

ちょっとした掃除をし、ベッドメイクをすると

なんだか少し落ち着いた。


久しぶりに飲んだコーヒーはやはり旨い。

彼女、真澄ちゃんをさそった店「Luce 」は

昔親に連れいってもらった店で、自分で稼ぐようになってからは

落ち着きたいときに行く店。

今まで誰も誘ったことはなかった俺だけの隠れ家。


彼女ならあの場に連れて行っても

雰囲気を壊さないだろう・・・そんな確信があったから。

予約の電話を入れたとき、マンマは何か言いたげなそぶりだったけれど

恩人を連れて行くからと言って納得して貰った。


うん、恩人には間違いない。

たとえそれが年下の女の子でも。


コーヒー片手にぼんやりしていると携帯のアラームが鳴る。

そろそろ出なければ。

流しにカップをおくと、荷物をチェックして車のキーを握った。











車は先に店の駐車場に止めさせてもらった。

ここから駅までは10分足らず。

静かな住宅街の中の店はいつもと変わらず

営業中であることを示す小さなランタンが店先に灯っていた。



駅に着くと辺りを見回す。

彼女なら時間より早く来る、そんな確信があったからだ。

券売機から少し離れたところにいた彼女をみつけ

近くまで歩いていくと彼女の目の前に男の姿。



「真澄!」



気がつけば大きな声で彼女の名前を呼んでいた。

俺に気がついたのか男が彼女の目の前から立ち去る。

俺は一安心しながら彼女の側に近寄った。


「遅れてごめん」


「いえ、時間大丈夫ですよ。私が少し早く着きすぎただけです」


「もう少し早く来れてたら、あんなのにも声かけられないですんだのに」


「何もなかったから大丈夫です」



にっこりと笑顔を浮かべる彼女。

いつもとは違うスカート姿に少しどきっとする。

ああ、やっぱり女の子だ。



「それならいいけど…じゃあ行こうか」


「はい…」



俺は何故か照れた顔を見せたくなくて

いつもより少しだけ歩く速度をあげていた。











駅から少し離れ、暗がりになると速度を落とし、彼女の歩く速度に合わせる。

お互い無言なんだけれど、圧迫されるような無言じゃなくて

心地の良い無言だった。


彼女を連れ、住宅地の一角へ入る。

大通りから少し離れただけなのに

辺りは静かで、虫の声すら聞こえてくる。


パッと見は普通の家に見れるそこ。

そんな家のドアを俺は躊躇なくあけ、彼女をを中へ招き入れた。



「ボンジョルノ、シニョール仁」


「こんばんは、お久しぶりです」


「いつぶりかね、この子は…おや?今日は可愛いシニョリーナ連れかい?」



マンマは相変わらず元気だ。

話しながら少し奥まったテーブルに案内される。

ここもいつもの指定席。


彼女も腰掛け、手渡されたメニューを眺めている。

決めかねているのか悩んでいるようなので

助け船を出すことにした。



「食べられないものある?」


「特にはないです」


「じゃあ任せてもらっていいかな?」


「はい」


「マンマ!ズッキーニとチーズのカナッペ、生ハムとトマトのサラダ

 魚介類のオリーブオイル煮込みにバケットを。

 食後にジェラートとカプチーノお願いします。」


「飲み物は何にするかい?

 ウィーノ(ワイン)それともビッラ(ビール)?」


「真澄ちゃん、何がいい?」


「あ~できればお酒はまだ慣れてないので…」


「そっか、じゃあミネラルウォーターにしとこうか

 炭酸入りと無しとどっちがいい?」


「ん~、無し…?」


「OK、じゃあそれでお願いします」


マンマはニッコリ笑って「すぐ持ってくるよ」と奥へと消えた。

あちこちで食事をしているも雰囲気のせいか、店の中は静かだ。

彼女もそんな空気を感じ取ったのか

そっとその身を俺の方に寄せてくる。



「よく来られるんですか?」



小声で訪ねられた問い。

いつもなら答えることなどしないのに

今夜は言葉がするっと口から滑り出る。



「しょっちゅうって訳でもないんだけどね

 子供の頃、両親に連れて来てもらってからかな…

 大人になって自分で稼ぐようになってからは

 時々ゆっくりしたいときに来てるよ」



料理がでてきた時、彼女は小さく感嘆の声をあげた。

ここに決めたのは正解だったらしい。

最近の女の子はあまり食べないのでどうかと思っていたけれど

彼女は気持ちの良いくらい笑顔で食事を進めていく。

いつしか自然、俺も笑顔が浮かんでいた。



「どう?満足してもらえた?」


「はい!とっても。あの魚介類のオリーブオイル煮込みなんか最高でした」



ほぅと思い出したかのようにつくため息が

すこし色っぽくてどきっとする。



「気に入ってもらったならよかったよ」



そんな気持ちを隠すように俺は言葉を紡いでいた。

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