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6話:欲情がバレたら、全部終わる

 三日目の朝、洗面所で鏡を見た。


 目の下に深いクマ。

 頬がこけている。

 明らかに不健康な顔だ。


 (このペースで行けば、俺は一週間持たない)


 でも、断るわけにはいかない。


 睡蓮さんの命令だから。

 主人の命令には逆らえない。


 そして何より——


 睡蓮さんの眠りが改善している。

 それは、使用人として、喜ぶべきことだ。


 (俺の苦労なんて、どうでもいい)


 (睡蓮さんが眠れるなら、それでいい)


 ——本当に?


 俺は、自分の気持ちがわからなくなっていた。




 三日目の放課後。


 スマホが鳴った。親父からだ。


「翔真、元気か?」


「ああ、まあな」


「なんだ、声が疲れてるぞ。ちゃんと寝てるか?」


 寝てない。全然寝てない。


 睡蓮さんの柔らかい体に悶絶して、毎晩一睡もできていない。


 ——そんなこと、言えるわけがない。


「大丈夫だよ。ちょっと勉強で忙しくて」


「そうか。無理するなよ」


「ああ」


「あ、そうだ。いい知らせがあるんだ」


 親父の声が、明るくなった。


「白銀さんとの取引、来月から二割増しになりそうだ」


「……本当か?」


「ああ。たぶん、お前のおかげだよ。この前、白銀家の執事長から連絡があってな。お前の話が出たらしい」


「俺の話?」


「ああ。『神崎さんのところの御子息は、誠実で素晴らしい方ですね』って」


 誠実——か。


 毎晩、お嬢様の体に欲情しながら、必死で平静を装っている俺が——誠実?


「お前がうまくやってくれてるおかげで、会社も安泰だ」


「……そうか」


「従業員もみんな、お前に感謝してるぞ」


 従業員。


 五十人の従業員。その家族を含めれば、二百人以上。


 俺がヘマをしたら——全員の生活に影響する。


「翔真、聞いてるか?」


「ああ、聞いてる」


「頑張ってくれよ。お前が頼りなんだから」


「……わかってる」


 俺は電話を切った。


 ——重い。


 プレッシャーが、ずっしりとのしかかってくる。


 (俺がお嬢様に欲情してることがバレたら——)


 (全部、終わりだ)


 (親父の努力も、従業員の生活も、全部俺が壊す)


 (だから——絶対に、バレてはいけない)


 俺は、自分に言い聞かせた。


---


 学校では、俺と睡蓮さんは「普通の幼馴染」として振る舞っている。


 でも最近——どうも調子がおかしい。


「神崎、顔色悪くないか?」


 クラスメイトの山田が、心配そうに俺を見た。


「大丈夫だ。ちょっと寝不足で」


「勉強か?」


「まあ、そんなところだ」


 嘘だ。

 睡蓮さんの体を意識しすぎて、眠れないだけだ。


「白銀さんとは相変わらず仲いいな」


「幼馴染だからな」


「お前、白銀さんのこと——どう思ってんの?」


 心臓が跳ねた。


「どう、って?」


「いや、ほら。美人だし、頭もいいし。惚れたりしないのかと思って」


「しないよ」


 嘘だ。


「そっか。もったいないな」


 山田が、離れていく。


 ——もったいない、か。


 俺だって、わかってる。


 睡蓮さんは美人だ。頭もいい。スタイルもいい。

 毎晩、あんな近くで寝ていて——何も思わないわけがない。


 でも——


 俺は使用人だ。

 格下だ。

 昔から、睡蓮さんには逆らえない。勝てない。


 そんな俺が、睡蓮さんに惚れるなんて——


 許されるわけがない。


「翔真」


 背後から声がかかった。


 睡蓮さんだ。


「はい」


「放課後、一緒に帰るわよ」


「はい」


「あと、今夜も——よろしくね」


 睡蓮さんが、意味ありげに微笑んだ。


 俺の心臓が、うるさく鳴った。


 ——今夜も。


 また、あのベッドで。

 睡蓮さんの隣で。

 柔らかい体を感じながら——


「なんで黙ってるの?」


「い、いえ。わかりました」


「変なの」


 睡蓮さんが、くすりと笑った。


 ——からかわれている。


 絶対に、からかわれている。

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