4話:シルクのネグリジェと眠れない夜
その夜、俺は——
睡蓮さんと同じベッドで眠ることになった。
広いベッドだ。キングサイズ、いやそれ以上あるかもしれない。
端と端に寝れば、触れ合うことはない——はずだった。
「もっと近くに来なさい」
「これ以上は——」
「命令よ」
俺は、仕方なく睡蓮さんに近づいた。
一メートル——五十センチ——三十センチ——
睡蓮さんの香りが強くなる。
シャンプーの匂い。それと、なにか甘い香り。
「もっと」
「睡蓮さん——」
「まだ遠いわ」
俺は、さらに近づいた。
二十センチ——十センチ——
もう、手を伸ばせば触れる距離だ。
「これでいいわ」
睡蓮さんが、目を閉じた。
俺は——眠れなかった。
当たり前だ。
隣に、睡蓮さんがいる。
シルクのネグリジェ姿の、睡蓮さんが。
黒髪が枕に広がっている。
閉じた瞳。長い睫毛。薄く開いた唇。
ネグリジェの胸元から、白い肌がのぞいている。
シルクの生地は薄くて、ほとんど透けている。
その下の曲線が——うっすらと見える。
白い肌。ほんのり桃色がかった、柔らかそうな——
(見るな!)
寝返りを打つたびに、ネグリジェの裾がめくれ上がる。
太ももが——白くてすらりとした太ももが——露わになる。
その付け根近くまで見えそうで——ギリギリのところで、シルクの裾がかろうじて隠している。
そして——胸の膨らみ。
寄り添うように体を側へ向けた睡蓮さんの胸が、シルクの生地に押し付けられて、形が変わる。
柔らかそうだ。想像以上に大きい。
重力に従って、ふわりと横に流れる。その輪郭が、薄いシルク越しにはっきりと浮かび上がっている。
そして、その中心——薄いピンク色の箇所が、透けて見えそうで見えない絶妙なライン。
(——見るな。見てはいけない)
でも、目が吸い寄せられる。
心臓がうるさい。
体が熱い。
下半身が——反応しそうになる。
——駄目だ。絶対に駄目だ。
俺は必死で目を逸らした。
(落ち着け。これは仕事だ。仕事)
(睡蓮さんは俺の雇い主だ。幼馴染で、ずっと俺より上の人だ)
(そんな人に欲情するなんて——許されない)
(バレたら——終わりだ)
俺の頭の中で、最悪のシナリオが浮かぶ。
お嬢様に欲情していることがバレる。
「こんな不埒な使用人は要らない」と追放される。
神崎製作所は、白銀グループとの取引を全て失う。
親父が築いてきた信用は地に落ちる。
五十人の従業員——その家族を含めれば二百人以上の生活が、俺一人のせいで危うくなる。
そして——
睡蓮さんに「気持ち悪い」と思われる。
それが、一番怖い。
俺は、必死で自分に言い聞かせた。
(欲情なんて、していない)
(俺は平静だ)
(お嬢様の体に、何も感じていない)
——嘘だ。
隣の睡蓮さんが、寝返りを打った。
ネグリジェの裾が大きく乱れて、白い太ももが露わになった。
その内側の、柔らかそうな——
「んん……」
睡蓮さんが、無意識に足を少し開いた。
太ももの間に、ショーツの——淡いピンク色の布が——
(——っ!!)
俺は全力で視線を逸らした。
心臓が爆発しそうだ。
下半身が、正直に反応しようとしている。
(見るな。見るな。見るな!)
俺は天井を睨みつけた。
数学の公式を暗唱した。
元素記号を順番に唱えた。
歴代総理大臣の名前を思い出そうとした。
何をしても——睡蓮さんの姿が、頭から離れなかった。
体の熱が、収まらない。
その夜、俺は一睡もできなかった。
翌朝。
「おはよう」
睡蓮さんが、すっきりした顔で起き上がった。
「久しぶりにぐっすり眠れたわ。やっぱり、あなたが側にいると違うのね」
「それは——よかったです」
俺は、目の下に深いクマを作りながら答えた。
「あなた、眠れなかったの?」
「いえ、大丈夫です」
「嘘。顔に出てるわ」
睡蓮さんが、俺の顔を覗き込んだ。
近い。
顔が近い。
ネグリジェの胸元が——
「今日も、よろしくね」
睡蓮さんが微笑んだ。
「今日も?」
「当たり前でしょう。添い寝係は毎日よ」
俺は——絶望した。
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