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3話:「添い寝係」に任命されました

 午後十時。


 俺は睡蓮さんの部屋の前に立っていた。


 白銀家の本邸は、三十部屋以上ある大豪邸だ。

 その中でも、睡蓮さんの部屋は特別に広い。


 ノックをする。


「入りなさい」


 中から声がした。


 俺はドアを開けて——


 息を呑んだ。


 睡蓮さんが、ベッドに座っていた。


 シルクのネグリジェ姿。


 薄いピンク色の生地が、彼女の体のラインをはっきりと浮かび上がらせている。

 細い肩。華奢な鎖骨。その下には——形のいい胸の膨らみ。

 シルクの生地が胸の形に沿って、ふっくらとした曲線を描いている。

 その先端が——うっすらと浮き上がっているように見える。


 ネグリジェの裾は太ももの途中までしかなく、白くてすらりとした脚が惜しげもなく露出している。

 太ももの内側は、特に白くて柔らかそうで——その付け根まで、あと少しで見えそうな危うさ。


 艶やかな黒髪が、肩から胸元にかけて流れ落ちていて——谷間が、少しだけ見えている。

 いや、「少しだけ」じゃない。

 ネグリジェの胸元は思ったより大きく開いていて、谷間の奥まで——ふっくらとした膨らみの境界線が見えている。


 そして、背中から腰にかけてのライン。

 シルクがぴったりと張り付いて、くびれたウエストからお尻にかけての曲線が——


 (見るな! 見るな! 見るな!)


 心臓がうるさい。

 視線をどこに置けばいいかわからない。

 上を見ても胸元。下を見ても太もも。横を見ても——シルク越しの体のライン。


 ——綺麗だ。


 いや、違う。そんなことを考えてはいけない。


 (落ち着け。落ち着け。これは仕事だ)


 でも——体が、正直に反応しそうになっている。


 (駄目だ。駄目だ。駄目だ!)


「何ボーッとしてるの。入りなさい」


「し、失礼します」


 俺は慌てて部屋に入った。


 睡蓮さんの部屋に入るのは、掃除の時以外では初めてだ。

 広いベッドに、高級そうな家具。甘い香りが漂っている。

 ——睡蓮さんの香りだ。


「こっちに来なさい」


 睡蓮さんがベッドを叩いた。


 その動作で、ネグリジェがふわりと揺れた。

 胸が——弾むように動いた。


 (見るな!)


 俺は恐る恐る近づいて、ベッドの端に座った。


「翔真」


「はい」


「今日から、あなたが私の添い寝係をしなさい」


「……は?」


 俺は耳を疑った。


「添い寝係。聞こえなかった?」


「いえ、聞こえましたけど——」


「質問は許さないわ。命令よ」


 睡蓮さんの目が、真剣だった。


「あの——」


「私には『眠り病』があるの」


 睡蓮さんが、静かに言った。


「眠り病?」


「一人では、深く眠れない体質なの。誰かが側にいないと、浅い眠りしかできなくて。疲れが取れないの」


 確かに、睡蓮さんは時々、目の下にクマを作っていることがあった。


 それに——今日の授業中、睡蓮さんは居眠りをしていた。

 先生に起こされて、珍しく焦った顔をしていた。

 あの睡蓮さんが、授業中に居眠りするなんて——よほど眠れていないのだろう。


「今まではプロの添い寝係を雇っていたわ。でも——」


「でも?」


「最近、誰がいても効果がなくなってきたの」


 睡蓮さんが、俺を見た。


「でも——あなたが側にいる時だけ、少し眠れる気がする」


「俺が?」


「理由はわからないわ。でも、そうなの」


 睡蓮さんが、俺の手を取った。


 柔らかい。温かい。


「だから、今日からあなたが添い寝係をしなさい」


「で、でも——」


「命令よ」


 睡蓮さんの目が、俺を射抜いた。


 ——逆らえない。


 昔から、そうだった。

 睡蓮さんの命令には、逆らえない。


「……わかりました」


 俺は、頷くしかなかった。

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