最終話:対等になれる、その日まで
翌朝。
目を覚ますと、睡蓮さんがまた俺の上に乗っていた。
——デジャヴだ。
「……また馬乗りになってる」
「んん……」
睡蓮さんが、目を擦りながら起き上がった。
「おはよう」
「おはようございます」
「まだ敬語」
「……おはよう」
「よろしい」
睡蓮さんが、にっこり笑った。
「今日から、毎朝こうして起こしてあげる」
「毎朝馬乗りで?」
「ダメ?」
「ダメとは言ってないですけど——」
「じゃあ、決まりね」
睡蓮さんは、嬉しそうに俺の頬にキスした。
「これからよろしく。私の——恋人」
俺は——
「よろしくお願いします。睡蓮さん」
まだ、対等にはなれていない。
でも——これから、少しずつ。
睡蓮さんと一緒に——変わっていける。
そう思った。
翌日、学校に行くと——
空気が、違った。
「おはよう、白銀さん——って、ええ!?」
クラスメイトの女子が、俺たちを見て固まった。
無理もない。
俺と睡蓮さんは——手を繋いで登校していた。
「か、神崎くんと白銀さんが……手!?」
「繋いでる!?」
「ちょっと待って、夢!?」
教室中がざわついた。
「翔真、離しなさい」
「え?」
「……嘘。離さないで」
睡蓮さんが、俺の手をぎゅっと握った。
頬が少し赤い。
——可愛い。
「お、おいおいおい。神崎、お前——」
山田が、信じられないという顔で俺を見た。
「白銀さんと、付き合ってるのか!?」
「まあ、そういうことに——」
「いつから!?」
「昨日から」
「昨日!? 急すぎない!?」
クラスメイトたちが俺たちを囲む。
「白銀さん、本当なの!?」
「ええ」
睡蓮さんが、堂々と答えた。
「翔真は、私の恋人よ」
教室が——爆発した。
「マジかよ——!」
「白銀さんが!?」
「神崎くんと!?」
「嘘だろおい——!」
男子たちの悲鳴が響く。
そして、女子たちは——
「え……神崎くんと?」
「白銀さん、目悪いの……?」
「いや、ほら……幼馴染だし……」
「でも、神崎くんって地味じゃない?」
「顔は……まあ、普通だし……」
——ひどい言われようだ。
でも、否定できない。
俺は、どこにでもいる平凡な男子だ。
成績も普通、運動も普通、顔も普通。
唯一の取り柄は、睡蓮さんの幼馴染だということ——くらいだ。
「ねえ、白銀さん……本当にいいの? 神崎くんで」
女子の一人が、真剣な顔で睡蓮さんに聞いた。
「いいわよ。翔真がいいの」
睡蓮さんが、俺の腕を取った。
——え、その言い方だと俺がダメみたいじゃ……いや、実際ダメなのか?
「翔真は、見た目は地味だけど——」
睡蓮さんが、俺を見上げた。
「誠実で、優しくて、私のわがままを全部聞いてくれるの」
「へえ……」
「それは確かに……」
「神崎くんって、白銀さんの言いなりだもんね……」
——言いなり。
否定できない。
「いいの。私は——翔真がいいから」
睡蓮さんが、俺の手を握った。
女子たちが、ため息をついた。
「まあ……白銀さんがいいなら……」
「幼馴染だしね……」
「神崎くん、大事にしなよ?」
「こんなに可愛い彼女、他にいないから」
——最後のは脅迫だろうか。
「神崎、お前——ずっと一緒にいたのに、なんで今まで——」
「色々あったんだよ」
色々。
毎晩一緒に寝て、胸を押し付けられて、欲情を必死で隠して——
そんなこと、言えるわけがない。
「ねえ、翔真」
「なに」
「放課後、一緒に帰るわよ」
「わかった」
「あと、今夜も——添い寝、よろしくね」
睡蓮さんが、耳元で囁いた。
周りには聞こえていないはずだが——
俺の顔が、一気に赤くなる。
「睡蓮さん、学校で——」
「ふふ。可愛い」
睡蓮さんが、くすくす笑った。
——からかわれている。
恋人になっても、これは変わらないらしい。
「ねえ、神崎くん」
さっきの女子が、興味津々で聞いてきた。
「白銀さんと、どこまでいったの?」
「どこまで——って——」
毎晩一緒のベッドで寝てる。
胸を押し付けられた。
背中を流した。
馬乗りにされた。
「い、一緒に登校しただけだ!」
「嘘だー! 顔真っ赤じゃん!」
「お湯のせいだ!」
「お湯!? 今朝かよ!?」
墓穴を掘った気がする。
「翔真、余計なこと言わないで」
「す、すみません」
「敬語」
「ごめん」
「よろしい」
睡蓮さんが、満足そうに頷いた。
女子たちが、俺を見てため息をついた。
「やっぱり言いなりだ……」
「でも、なんか……お似合いかも」
「白銀さん、楽しそうだもんね」
俺は——これからも、振り回されるんだろう。
でも——それも悪くない。
恋人として、対等に——なれるまで。
俺たちの日常は、これからも続いていく。
お読みいただき、ありがとうございました。
予想をはるかに超える大勢の方にお読みいただき、大変嬉しく、また、恐縮しております。
財閥令嬢の添い寝係に任命された使用人兼幼馴染の物語でした。
毎晩お嬢様と同じベッドで眠りながら、「欲情してることがバレたら終わり」と必死で平静を装う主人公の苦悩——お楽しみいただけたでしょうか。
実は睡蓮さんも翔真のことが好きで、だからこそ添い寝係に任命した……という話でした。
幼い頃の虐めへの後悔、素直になれない性格、そして「対等になりたい」という願い。二人の関係はまだ完全に対等ではありませんが、これから少しずつ変わっていくのでしょう。
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