12話:眠り病の正体と、本当の気持ち
九日目の朝。
俺は、執事長に呼び出された。
「神崎様。お話があります」
執事長——白髪の老紳士だ。白銀家に五十年以上仕えているらしい。
「お嬢様の眠り病について、お話しさせてください」
「眠り病について?」
「はい。あれは——ただの不眠症ではありません」
執事長が、真剣な目で俺を見た。
「お嬢様の眠り病は、『心を許した相手』——いえ、正確には」
「正確には?」
「『好きな人』と一緒でないと、眠れない体質なのです」
俺は——言葉を失った。
「好きな人……?」
「はい。お嬢様は、あなたのことが好きなのですよ」
頭が真っ白になった。
「で、でも——俺は——」
「使用人だから、身分が違う——そう思っておられるのでしょう」
執事長が微笑んだ。
「白銀家は、身分で人を見ません。お嬢様がお選びになった方を、私どもは尊重いたします」
「でも、俺は——小さい頃から、睡蓮さんに——」
「虐められていた。ですね」
執事長が頷いた。
「お嬢様は、そのことを後悔しておられます。でも、いまさら謝り方がわからない、と」
「謝り方が……」
「強がって、素直になれないのです。本当は——対等になりたいのに」
俺は——執事長の言葉を、噛み締めた。
「神崎様。お嬢様を——幸せにしてあげてください」




